東京理科大学とNTTは、火災現場などの煙霧環境における視認性確保を目的として『テラヘルツ波』を照射する照明器を開発しました。実験では、肉眼では見通しのきかない濃い煙の中であっても、1.4m先にある被写体の撮影に成功したといいます。
テラヘルツ波は、1THz前後の周波数帯に属する電磁波のこと。電波と光の中間にある電磁波として、電波の物質透過性と光の空間分解能を併せ持つ特性が知られています。また、塵や煙、炎の中を通過してもほとんど減衰せず、また四方に広がりにくい特徴があることから、物体の形状を調べる用途に活用できます。
9個の光電変換素子からなる『テラヘルツ波照明器』
テラヘルツ波を利用して、煙の影響を受けずに現場の状況を調べるイメージング用途においては、これまで被写体からの熱放射を計測するパッシブイメージングが試みられてきました。しかし火災現場には無数の高温物体が存在するので、パッシブイメージングでは十分な効果が得られませんでした。
今回、東京理科大学国際火災科学研究科の松山賢 准教授とNTTが開発したテラヘルツ波照明器の構成技術では、9つの光電変換素子から発生するテラヘルツ波を束ねて強度を高めることで、ちょうどカメラのフラッシュのように被写体を照らし、反射から得られた像を画像化するアクティブイメージングに成功しています。
テラヘルツ波で撮影したイメージ(上段)と赤外線で撮影したイメージ(下段)。Csの値が大きくなるほど煙の濃度が高い
今後は見通せる距離の延伸とシステムの小型化を目指して、さらなる研究開発に取り組むとのことです。
視界がほとんど取れない煙霧環境において、わずかでも視界を確保する方法論が確立しつつあるということは、人命救助の観点からも、非常に大きな進歩ではないでしょうか。実運用上ではARとも相性の良さそうな技術であり、一日も早い実用化に期待したいところです。