安部菜々「ウサミン星、大爆発」
※ このssにはオリジナル設定やキャラ崩壊が含まれます。
===「衝撃、ザ・ベストテン」
何ともはや、びっくりであります。
その驚きたるや、これまでの私の人生の中で順位づけした場合、間違いなくトップ3に入るであろう程の。
三位は、長年の憧れであった、アイドルとしてデビューすることが決まったとき。二位が、今回の出来事。
そして、栄えある第一位は――おっと、これについては、今の状況と何の関係もありませんでしたね。
――コホンっ。話を元に戻しましょう。
その日、声優アイドルウサミンことわたくし安部菜々は、大きなお仕事が決定した喜びから、行きつけのスーパーで
ちょっと豪勢な夕飯の材料を買い込むと、るんるん気分で駅から出ている電……こ、高速宇宙艇に乗って、
この星での活動拠点であるウサミン星……もとい、ウサミンベースへと戻ったワケなんですが。
『ウサミン星、大爆発!!』
そんな見出しがデカデカと躍る新聞記事のイメージが、私の頭に浮かび、思考の宇宙をぐるぐると回っていました。
目の前に広がる光景といったら、それはもう酷い有り様でして。
「あ、菜々ちゃんじゃない……!」
ウサミンベース管理長……ではなく、アパートの前に立っていた、
顔見知りの大家さんが私の姿に気づき、こちらへと近づいてきます。
「こ、これは一体……どうしちゃったんですかっ!?」
「それが、菜々ちゃんがいない間にアパートで火事が起きちゃって……」
遠く離れた故郷から都会に出てきて早数年。
その頃からずっとお世話になっている、お豆腐のような形をした、どこにでもあるような二階建てのアパート。
今朝だってここからお仕事へ向かったんです。でも、今やその姿も記憶の中の物に。
お豆腐は真っ黒に焼け落ちて、生々しい火災の跡が残る、何もない空間がそこに広がっているだけ。
「火事になったのが昼間で、住んでる人達のほとんどが外出中だったから、怪我人はでなかったんだけど」
大家さんが頬に手をやりながら、深いため息をつきます。
「ウチとしても大損害……現場を調べた警察の話じゃ、放火の疑いもあるって……最近多いらしいのよねぇ」
「ほ、放火ですか……」
「それでね、アパートがこうなると、今夜からは菜々ちゃんにも別の場所で――」
茫然自失とは、まさにこんな時のためにある言葉なんですね。私は、大家さんの話もろくに耳に入らなくって。
彼女が帰った後もしばらくの間、ただ一人、その場にぼぉっと立ち尽くしていたのでした。
さてさて。まだまだ人生の上り坂、その真っ只中にいる私ですが、
これまでだって辛い経験や苦しい逆境には、何度も立たされてきたものでして。
たかが……たかが、住んでいた場所が火事によってなくなる。それがなんだ! と。
多くはありませんが、貯えならあります。お仕事をクビになったわけでもありませんし、怪我も病気もしておらず、五体満足。
新しく住む場所なら、探そうと思えばいくらでも探してみせる! ……そう、探せます……けど。
「……はぁ~」
焼け跡を見て湧き上がる、何ともいえないこの気持ち。喪失感とでも、言うのでしょうか?
とにかく、今すぐ理由もなく叫び出したくなるような、この気持ちを抑えるのは中々に難しい話でありました。
もはや元の姿が想像できない程に熱で変形した家具。
真っ黒なすすになってしまっている、服や本といった荷物の燃え残り。
そういった残骸が敷き詰められた現場を見ていると、時間の経過と共にこれが夢ではなく、
現実なのだということを、嫌というほど思い知らされます。
その中には当然、私の私物も混ざっているわけです。
大事にのけていたファンレターの束や、これまでのライブで着た衣装。本格的にデビューするずっと前、
自主活動時代に使っていたあれやこれや……そうした沢山の思い出の品も、何もかも真っ黒になっちゃって。
そのことを理解すると、今度はまるで自分の半身を失ったかのような思いに襲われて……
心の力とでも言いましょうか、漠然と人を動かしているエネルギーのような物が、
体の中から外へと漏れ出してしまう……そんな感覚に。
とはいえ、いつまでもこの場所でじっとしていることで、なくなってしまった物が元に戻るわけではありません。
辺りはすっかり暗くなり、焼け跡に入るのも危ないという事で、
無事な荷物――到底、あるとは思えませんでしたが――その確認もできなくて。
私は着の身着のまま、夜の街に放り出された迷いうさぎ。
財布を開いて中を見るも、入っているのは電車の定期とテレフォンカード。そしてじゃらじゃらとした小銭だけ。
あぁ、こんな事になるならばと、私は手に持っていたスーパーの袋を恨めしげに見つめました。
「――しかたないですね」
気は進みませんでしたが、こうなってしまった以上、私が頼れる場所は一つしかありません。
両手を胸の前に持ってきて、よしっ! と気合を入れるポーズ。
そうしてそのまま振り返ると、私は再び宇宙艇に乗り込むため、駅へと続く道を急いで引き返したのです。
「それで、今夜は事務所に泊まりたいと」
夜遅く、突然事務所に戻って来た私の話を聞き終わると、
彼は咥えていたタバコを灰皿に押し付け、なんとも困った顔をして言いました。
彼の眉間に、小さく皺が寄ります。それは、考え事をしているときの、お馴染みのサイン。
「……安部、お前はアホか」
そうして、今までも何度となく言われてきた、聞きなれたセリフ。
うぅ、やっぱりそういう反応をする……だから、ここに来るのは気が進まなかったんですよぉ!
「お、お言葉ですけど、アホってなんですか、アホって! それが家を焼け出された人にたいして言うセリフですか!?」
私の反論に、今度は呆れた表情になるPさん。
「いやな、話はわかったよ。家が火事になって、泊まるあてもなければ金も持ってない。だから事務所に泊まれないか……うん、わかるわかる」
「で、ですよね? わかりますよね!」
「問題なのは、だ。この事務所には既に俺が住んでいるってこったな」
それを言われて、私はうぐっ、と言葉を詰まらせます。
私の所属するアイドル事務所。小さくて二階建ての、まさに事務所らしい事務所。
そこに、Pさんは住み込みで働いていたのです。
いえ、住み込みというと語弊がありますね。正確には、この事務所の社長であるPさんの家が、
建物の中に一緒に併設されていると言うべきでしょう。
そんな事を考えていると、Pさんが自分の財布から一枚のお札を取り出して、私の目の前に差し出します。
「な、なんですか、これ?」
「何って、ホテル代だよ。まさかこのまま、事務所に泊めて貰えるとでも思ってたんじゃないだろうな」
「えぇ……泊まっちゃ、ダメなんですか?」
きょとんとした様子の私を見て、Pさんがますます顔をしかめます。そうして、がっくりと肩をおとしてからの――。
「安部ぇっ!!」
「は、はいぃっ!」
急な大声に、びびくんと返事。
「お前な、いい加減自分がどれだけの注目を集めてるのか……今一度、自覚しなおした方がいいぞ!?」
そう言ってPさんが机の上にあった、一冊の雑誌を投げてよこします。その表紙には、
「トップアイドルウサミン。その変わらぬ姿の秘密」「実は本当に宇宙人!? 謎を暴くべく極秘取材を敢行!」の文字が。
雑誌のタイトルは、「NU<ヌー>」。確か、オカルト専門の情報雑誌だったっけ。
「お前……今年でいくつになった?」
「お、女の子に年齢を聞くなんて……セクハラですよっ!」
一応、誤魔化せないかと言ってみましたが、そんな私を見る彼の目は、至って真剣そのもので。
「じ、十七……菜々は、永遠の十七歳です」
「そうだな。ウサミン星人安部菜々は、永遠の十七歳……だったな」
『だった』の部分に、やけに力を込めるPさん。もちろん私も、彼がどうしてそうするのか……理由は、分かってはいます。
「安部。お前が本格的にメジャーデビューしてから、世間では六年が経ってる」
「……はい」
「先輩や同期、後輩のアイドルが引退したり、俳優や歌手に転向したり……色々あったよな」
「そ、そうですね」
するとPさんが、私の頭のてっぺんからつま先までを一瞥した後、理解しがたい物を見る顔になって。
「……ほんっとうにお前は、初めて会った時から何一つとして変わんねぇな」
Pさんのいう事は、もっともでした。
事務所に所属している他の子達は、この六年で大なり小なり成長し、
見た目や印象がデビュー時と比べて随分と変わった子だっています。
でも、肝心の私はというと。
「とにかく、お前の見た目があんまりにも変わらないから、
どんな方法でその若さを保ってるのかって、女性雑誌からは取材のオファーがしつこいぐらいにやって来るし」
「そ、そうなんですか?」
「以前ならスキャンダルを追うだけだった記者の連中も、今じゃホントに宇宙人扱いだからな。
この雑誌みたいに、お前がボロを出すのを狙ってる、ストーカーまがいのオカルト愛好者だっているんだぞ!?」
「ぜ、全然知りませんでした……な、菜々って実は、意外と注目を集めてたんですねぇ」
まさか、本当に気づいてなかったのか? と続ける彼の言葉を、私は笑って誤魔化して。
私のそんな反応に、無言で頭を抱えるPさん。
それはまるで、出来の悪い生徒にたいして、どうやって物事の重大さを説明しようかと悩む先生のようで。
「そんな連中をお前から遠ざけたり、記事が出る前に事前に差し止めたり……今まで俺がどれだけ苦労して来たかなんて……」
「あ、あははは……」
「なぁーんにもわかっちゃねぇんだからな! この能天気なウサミン星人さんはよぉっ!」
コメント一覧
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- 2016年03月18日 21:43
- ウサミン星なんてありません
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- 2016年03月18日 21:46
- 本当に俺が望んでいることは菜々さんの夢が叶いシンデレラガールとして幸せになってくれること、それだけなんだ!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ…
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- 2016年03月18日 22:13
- モバP「ウサミン星人の侵略」
ここでもウサミン焼け出されてるなw
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- 2016年03月18日 22:15
- ウサミンまだテレフォンカード持ってんのな
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- 2016年03月18日 22:38
- ミンミンミミミン
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- 2016年03月18日 22:40
- とりあえずこの絵本1冊…いや3冊ください
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- 2016年03月18日 22:42
- とてもおもしろかった。そうぞうりょくでもそうだけどなんでウサミンのssは外れがないのでしょうね
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- 2016年03月18日 22:49
- ウサミン愛を感じる
敏腕Pの話は見てて気持ちいい
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- 2016年03月18日 22:53
- 皆下がれ!ウサミン星が爆発する!!
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- 2016年03月18日 23:05
- 千葉だよ(小倉優子感)
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- 2016年03月18日 23:25
- なんちゅうもん書いてんだ森久保ォ!
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- 2016年03月18日 23:31
- 今まで読んできた中でも最高のデレマスSS
スマホに機種変更したらデレマス始めて菜々さんプロデュースしたいな。
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- 2016年03月18日 23:32
- まーた奈々さんが人生に勝利する作品か
いいぞもっとやれ
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