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男「とある街の小さな店」|エレファント速報:SSまとめブログ

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男「とある街の小さな店」

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 23:17:40.30 ID:37z1Sb6x0

人が忙しなく動く街の一角に、ひっそりと立つ小さな店がある。

「あれ、今日もここ閉まってるよね」

「あ、この前開いてる所見たよ。良い匂いだったな」

「ふーん」

開店時間は不定期。ドアには【Closed】の文字。

「これって何て読むんだっけ? し、しえん……?」

「しおんだよ、紫苑」

「そうそう、それそれ。いつか行ってみたいなぁ」

「そうだな。……急ごう、バスに遅れる」

「あっ、うん!」


これは、人知れず営業する店、【紫苑】のお話。



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 23:22:39.73 ID:37z1Sb6x0

【春の嵐とクラムチャウダーの話】



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 23:56:05.23 ID:37z1Sb6x0

ザアアァアアァァ……

青年(……寒い)

青年(最近暖かくなったと聞いたが……今日はなんて寒いんだ)

青年(……)

青年(……こんな所に店が……開いてる。お金は……ある)

青年(入ってみようかな)ガチャ

少女「!」

男「いらっしゃいませ」ニコ

青年(へえ、中はこじんまりとしてるな。でも狭いってわけじゃない)

青年(アンティークな感じで統一されてるな。とにかく座ろう)

青年(今日のメニューは……悩むな……)

青年「……珈琲を一つ。とりあえずそれで」

男「かしこまりました」ニコ

コポポ……カチャカチャ……

青年(……はぁ)

少女「……」スッ

青年「ん……温かいおしぼりか。ありがとう」

少女「……」コク

青年(静かな子だな)

男「ああ、その子は口がきけないんですよ。申し訳ありません」

青年「へえ、そうなんですか」

男「お待たせしました。今日の珈琲です」コト

青年(……良い香りだ、鼻をすーっと通っていく)ゴク

青年「……あ、うまい」

男「それは良かった」ニコ

青年(何だろう……苦みと酸味のバランスが絶妙だ。舌にじんわりと広がる……)

青年(喉を通った瞬間、香ばしい香りが口内を満たしていく)

青年「……」

男「今日は寒いですね。ですが、この調子だと、もう春は目の前ですね」

青年「春、ですか」

男「……おや、春は嫌いでしたか?」

青年「……僕は田舎出身ですが」

青年「故郷の小さな村には、毎年綺麗な桜が咲くんです。僕はそれを見るのが大好きでした」

青年「……でも、巨大な嵐が直撃して……村が壊滅したんです」

青年「……随分前の話ですが。毎年この季節になると……どうしても、思い出すんです……」

青年「だから、春は嫌いです……桜がすぐ散ってしまうのも、故郷を思い出してしまうから」

男「そうでしたか……」

青年「……」

男「お客様、少しお時間を頂けますか?」

青年「? はい」

男「ありがとうございます」



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 00:22:17.06 ID:zYmr7NGw0

男「お待たせしました」

青年「これは……」

青年(白い器に、スプーン。そして、大きく膨らんだ……パイ生地?)

男「私からのサービスです、冷めないうちにどうぞ」

青年「あ、ありがとうございます」

青年(この匂いの正体は……一体)サクッ

ホワッ!

青年(……これは、シチュー……いや、あさりが入ってる。クラムチャウダーか!)

青年(すごい熱気だ……)スッ

青年「! うまい……!」

青年(とろみがある熱々のスープは、バターのコクが良く出ていて)

青年(とろとろに煮込まれた玉ねぎ、ほくほくのじゃがいも、そしてあさりの旨みが溶けこんで)

青年「……暖かい……」

男「……形あるものは、いつか壊れてしまいます」

男「しかし、別れとは同時に「思い出」が芽吹く瞬間でもあります」

男「桜が咲くのは一瞬です……しかし、それは散った後、生き生きとした葉桜になります」

男「人生の移ろい、そして成長……桜はそれらを教えてくれます」

男「私は、そんな桜が好きです」ニコ

青年「……」

男「……差し出がましい事をしてしまいましたね、お代は結構ですから――」

青年「……いえ、そうですよね」

青年「過去に縛られてるだけじゃ、何も変わらない」

青年「このクラムチャウダーだって、パイ生地が壊れても、中から暖かいスープが見えてくる」

青年「そう言いたくて、これを出してくれたんですよね」

男「……」ニコ

青年「すみません。どうもこの季節はセンチメンタルになっていけないや」

青年「ずっと籠ってた思いが出てすっきりしました……今度、故郷に行ってみようと思います。もう何年も戻ってないし」

男「ええ、それが良いかと」

青年「……ごちそう様でした、また来ます!」

男「ありがとうございました」ニコ

少女「……」ガチャ

青年「ああ、ありがとうね」

少女「……」フリフリ

青年「ばいばい」フリフリ

青年(……雨も止んだな)

青年「よし、頑張ろう!」


少女「……」

男「ああ、元気になったようで良かったよ」

少女「……」

男「はは、彼が気に入ったのか……きっと、また来るよ」

少女「!」ニコ

男「……雨も止んだようだしね」クス



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 10:01:36.40 ID:zYmr7NGw0

【母の思い出と香ばしいプリンの話】



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 10:29:41.27 ID:zYmr7NGw0

男「ふむ……今日はあまりお客様が来ないね」

若者「良い事じゃないですかー」

男「……ほう、なかなか言うようになったね。今日の賄いは楽しみだ」

若者「ちょ、ちょっとタイム! 今の無しで!」アセアセ

少女「……」クスクス

若者「お、おい、少女も何とか言ってくれよ!」

若者(お師匠さん、一度賄いに目を付けたら、死ぬほど長いアドバイスしてくるんだよなぁ)ブルブル

男「昨日風邪で休んでた分、しっかり働きなさい」

若者「うぃーっす……」

ガチャ

男「いらっしゃいませ」

老人「……ふむ、この店はプリンを出すのですかな?」

男「ええ」

老人「それを一つ、後は紅茶を頂きます」

男「かしこまりました」ニコ

若者「はいよー、持ってってね」

少女「……」コク

少女「……」コト

老人「どうもありがとう、では――」スッ

老人「……ふむ」

男(! あまり良く無いリアクションだ)チラ

老人「……ううむ……」

男「……お客様、何か至らぬ点がありましたか?」

老人「! いえいえ、とんでもない。ただ……」

男「ただ?」

老人「私の探しているプリンでは無かったようなので……」

男「探している、プリン」

老人「亡くなった母が、子供の頃よく作ってくれたものなのですが……最近になって、また食べたいと思いましてな」

老人「なにやら香ばしかった記憶があるのですが……覚えているのはそれだけで」

老人「焼きプリンなるものも買ってみたのですが、何か違う気がして……」

若者「!」

男「……お客様、少しお時間を頂けますか?」

老人「はい、構いませんが」

男「ありがとうございます」ニコ

男「若者、卵と――」

若者「そう来ると思ってました。準備済んでますよー」

男「おお、やるじゃないか」

若者「オーブンっすか? それとも鍋で?」

男「……鍋だね」

若者「了解っすー」



11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 11:03:26.07 ID:zYmr7NGw0

男「……よし、綺麗に蒸せたね」

若者「……どうします? さっさと冷ました方が良いですよね」

男「そうだね、器を氷水につけて、それから冷凍庫で一気に冷たくしてしまおう」

若者「了解っす」パタン

老人「……あれは、プリンですかな?」

男「ええ、お客様のお母様は、料理がご上手だったのですか?」

老人「そうでしたな、昔外国にも行っていたようなので、特に洋食に詳しかったです」

男「なるほど、それはすごいですね……料理上手な家庭が羨ましいです」ハハ

老人「おや、それではご主人のお母様は?」

男「随分昔に亡くなりまして、私が料理を担当していました」

老人「ああ、これは失礼を……まだお若いのに」

男「気にしていませんよ。しかし、思い出の味ですか……」

老人「はい、私も、もう長くないですし……死ぬ前に一度、と思っていまして」

男「ふむ……表面の色は、黄色でしたか?」

老人「ううむ……確か……焼きプリンのような……?」

若者(さすがはお師匠さんだな、時間を感じさせないトーク……ああ言うのも必要になってくるんだろうな)

若者(よし、冷えたな。グラニュー糖を敷き詰めてと)サラララ

若者(3……2……1……ファイア!!)ボッ

ヂヂヂヂ……ヂヂ……

老人「……!」

若者(よっし、こんがり焼けたな)ドヤァ

老人「この甘い香り……」

男「おそらく、お母様が作っていたのは、「クレームブリュレ」だと思われます」

老人「クレーム、ブリュレ……?」

男「フランス語で「焦がしたクリーム」と言う意味でして、普通のプリンと比べると、生クリームなどを使っているので、とろけるような舌触りとコクがあります」

男「そして、表面にお砂糖を敷き、バーナーなどで香ばしくカリカリに仕上げるのが特徴です」

老人「お、おお……」スッ

パリッ!

老人「この香り、この感触……」スッ

老人「……!」



12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 11:19:37.70 ID:zYmr7NGw0

『お母さん、お腹すいたー、おやつ何かない?』

『仕方ないね、作ってあげるから、しばらく外で遊んできな』

『はーい!』

老人「……こ、これだ!」

老人「この甘さ、舌に絡む濃厚なコク、香ばしいカラメルの風味……母さんの味だ!!」

男「良かった」ニコ

老人「実にうまい! ああ、満足です!! 大満足です!! もう死んでも構いません!」

若者(いやそれは駄目だろ)

男「ご満足いただけたようで」ニコニコ

老人「ご主人、ありがとうございます! 心なしか十年若返ったようだ!」バッ

男「あはは」

老人「この店、ご贔屓にさせていただきます!」ペコ

男「ありがとうございます」ニコ

老人「では御会計を……」

男「少女」

少女【640円です】カキカキ スッ

老人「はいはい」チャリン

少女「……」コク

老人「はは、これは可愛いお嬢さんだ」

老人「では、失礼します」

男「ありがとうございました!」


若者「良かったっすね、思い出の味が分かって」

男「ああ、そうだね」

少女「……?」

男「……うん、やっぱり、人にとって一番の味は「思い出の味」なんだなぁって」

少女「……」

男「ありがとう」

若者(どうやって意思疎通取ってんだよこの人……)

若者「さて、そろそろお昼にしたい所っすねー」グー

男「ああ、君の賄いが楽しみで仕方ないよ」

若者「げっ……覚えてやがった……」

少女【ふぁいと】スッ

若者「クソ、他人事だと思いや
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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2016年03月19日 23:53
      • いいね!お腹空いたわ

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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