ペパロニ「アンチョビねぇさん」
- 2016年03月20日 19:40
- SS、ガールズ&パンツァー
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地の文ありまくり。
口調、設定などドラマCDスピンオフと異なる点がありますが、あくまでアニメからの想像ということでかんべんしてください。
今日は2対1だった。
体育の時間にクラスの嫌なやつと些細なことで言い合いになりそのまま喧嘩になった。
昨日は3対2だった。
廊下でぶつかった相手が喧嘩を売ってきたから買ってやった。
一昨日は5対4だった。
何が原因か忘れたがどこのクラスとも知らないやつと喧嘩した。
私が言っているのが何の数字か分かるか?
人数じゃない、勝敗の数でもない。
私が殴った回数と、相手が殴った回数だ。
今日は一発私の方が多く殴ってやった。
昨日も一昨日もそうだし、その前だってずっとそうだった。
私は負けるのが嫌いだ。
だからやられたら、絶対にやり返す。
同級生だろうが上級生だろうが関係ない。
私には友達もいないし、慕うべき先輩もいないんだ。
~~~
私が唯一全幅の信頼を寄せているのは、小さなオートバイだけだった。
ベスパという名前の小さなスクーターだ。
私のようながさつな人間には不釣合いな優雅なデザインのバイクだと思うやつもいるだろう。
私はオードリー・ヘップバーンじゃないからな。
だがベスパは私の大のお気に入りで、こいつの手入れだけは常に欠かさなかった。
たった一つの宝物と言ってもいいし、いつも宝石みたいにピカピカにした。
しかしある日私はとうとうこいつを「汚して」しまうことになる。
いつかの体育で喧嘩したやつが外の屋台で果物を売っていた。
その時点ではまだ私の心は平穏そのものだった。
やつが悪いんだ。
私は無視したかったのに、やつは真っ直ぐこっちを睨みつけてきた。
それはもう喧嘩を売られたってことだ。
すぐに口喧嘩が始まった。
通りを歩く生徒たちがにわかに騒ぎ出す。
やつは本当に腹の虫がムカムカとするような嫌な人間だった。
しかも商品ケースの反対側にいるのをいいことに、私がとっさに殴ることができないと思って前のときよりも言いたい放題言いやがって。
あまりにも頭にきた私は思わずそこに並んでいるりんごを一つわしと掴んだ。
そのときだ。
誰かが叫んだ。「泥棒!」
こんなことを言い訳しても意味ないと思うが、そんなつもりはなかった。
私は正気じゃなかったんだ。
ただ頭の中が真っ白になり、何も言葉が出なくなった。
周りの人間が私を見て、お互いに何かをささやき合っていた。
なんだよ?
私が悪いっていうのか?
そもそも喧嘩を売ってきたのはやつの方だぞ!
私はりんごを手に握ったまま、その場を駆け出した。
「こら待て!」
やつが追ってくるのを察し、ベスパに乗ってそのまま走り出した。
スロットルを全開にし、学校から飛び出し、そのまま逃げるように走り続けた。
校門を出たあたりからもう誰も追う者はなかった。
それでも私は止まることができず、とうとう今まで一度も来たことがなかった学園艦の船尾にまで到達した。
フェンスに道を阻まれた私はベスパを止めるしかなくなった。
ブレーキをかけた拍子に手に握っていたりんごがころっと滑って地面に転がった。
私はベスパに乗ったままうなだれて頭を抱えた。
このときほど自分のことを軽蔑した日はなかっただろう。
私は薄汚い泥棒だ。
そのために自分の体よりも大切にしていたベスパも利用してしまった。
これで私も「立派」な犯罪者になったのかな……。
今からでもりんごを返しに行こうか?
でもなんて言えばいいんだ?
私には謝るなんてことできっこないのに。
ふと、後ろから「おい」と呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとそこにはマントを羽織った上級生と思しき生徒が立っていた。
最初は両側に下げた派手なツインテールのウィッグに目を持っていかれた。
そしてもぐもぐと何かを食べるその手元にはりんごが握られていることに気がついた。
アンチョビ「お前、バイクの運転が相当速いみたいだな。見込みがあるぞ」
アンチョビ「ん?このりんごか?お前が捨てたからもったいないと思ってな。30秒ルールだ」
アンチョビ「細かいことは気にするな。3秒も30秒も変わらん」
アンチョビ「それよりもお前、戦車道をやってみないか?」
アンチョビ「そうそう私はドゥーチェ・アンチョビ。アンツィオ戦車道チームの隊長だ」
こいつは一体何を言っているんだ?
急に現れたと思ったら、返すべきりんごを食べられちまった。
しかも戦車道だなんて、どうしたらそんな話が出てくるんだ。
こいつは頭がおかしいんじゃないか?
アンチョビ「未経験を気にする必要はないぞ」
アンチョビ「お前はまだ一年生だろう?」
アンチョビ「これからならなんだって始められるぞ!」
アンチョビ「まぁ立ち話もなんだし、私たちの部室に行って一息つこうじゃないか」
アンチョビ「さあ、ほら!」
そう言って私の肩を掴んできたので、私はとっさにこいつの顔面にパンチをお見舞いしてやった。
パンチは簡単に顔の中心を捉え、言葉にならない悲鳴を上げて相手は倒れこむ。
この後の展開は二つに一つしかない。
立ち上がった相手がこちらに向かってくるか、それとも怖気づいて逃げ出すかだ。
しかしさっきのパンチで私には分かった。
こいつの体幹は全くなっていない、へなちょこだ。
きっと喧嘩もろくにしたことがない。
だから結果はもう見えている……はずだった。
アンチョビ「つー……いったぁ……」
痛みに耐える様子で相手が立ち上がる。
鼻を真っ赤に腫らし、目に涙を溜めていた。
そしてあろうことか、そのままの顔でマントをひるがえし、再び私の前に立ちはだかったのだ。
アンチョビ「そのパンチ、気に入ったぞ!」
アンチョビ「その有り余るエネルギーを戦車にぶつけてみないか?」
アンチョビ「お前のそのガッツがあれば、きっとどんな壁でも乗り越えられる」
アンチョビ「どうだ?」
「はぁ」と思わず間抜けな声を出してしまった。
こいつは確かに頭がおかしい。
しかし頭がおかしいのは店のものを盗む私も同じかもしれない。
だったら頭のおかしい人間同士で話を聞いてやるのもいいだろう。
このアンチョビという先輩をベスパの後ろに乗せて私たちは学校へと戻った。
学校で誰かと鉢合わせするのは嫌だったが、アンチョビが案内したルートは裏口だったので心配は空振りに終わった。
戦車道の教室というのはかなり古い校舎の中にあった。
私もこの辺りの建物には入ったことがなかった。
アンチョビ「それじゃあ、早速だが釜を暖め始めないとな!」
なんだって?
こいつは学校に戻って早々何を言い始めたんだ?
戦車道の話をするんじゃなかったのか?
アンチョビ「りんごのお礼にお前に特製のピザをご馳走してやるからな!」
アンチョビ「それじゃあまずはそこの薪を釜に投入してくれ」
ご馳走してくれるはずなのに私も手伝わされるらしい。
しかし私は料理というものは今まで全くやったことがなかった。
アンチョビ「なに?作り方が分からないって?」
アンチョビ「それなら丁度いい!アンツィオ流のピザの作り方を教えてやる」
アンチョビ「これさえマスターすればもう他のピザなんて食べられなくなるぞ!」
釜で作るピザはまず釜を温めるところに時間がかかるらしい。
中の様子を見ながら薪を投入し、一段落したら生地を伸ばしはじめ、ピザが焼き上がる頃には一時間以上が経過していた。
初めてのピザ作りに体力を使った私のお腹はすっかりいい具合に空いていた。
カッターで6等分に切ると、私もよく見たことがある本格的でおいしそうなペパロニピザとなった。
アンチョビ「さていただこう!」
アンチョビ「お前ペパロニは好きか?好きならたくさん乗ってるやつを取っていいぞ」
アンチョビ「ピリっと辛いのが美味いよな!」
アンチョビ「いや気にするな。これはお前のためのピザだ」
すっかり空腹の私はここに来た目的も忘れてピザに食らいついた。
初めての特製ピザは今までに食べたことがない感覚だった。
一切れ目はあっという間に胃袋に収まってしまい、私は二切れ目、三切れ目と次々とピザを口に運んだ。
そして最後にはアンチョビの分まで全てたいらげてしまった。
アンチョビ「どうだ?美味いだろう?」
彼女の顔は憎たらしいほどに得意満面だったが、これには私も反論の余地が全くなかった。
アンチョビ「そろそろ戦車道やりたくなってきたんじゃないか?」
アンチョビ「なんでって、腹が減ってはなんとやら」
アンチョビ「食事も大切な戦車道だからだ!」
アンチョビ「他の隊員?それなら去年の三年生が卒業して全員いなくなったぞ」
アンチョビ「だから私が今の隊長。よしペパロニ!お前を副隊長に任命しよう!」
アンチョビ「お前の名前だよ。ペパロニが好きだからペパロニでいいだろう?」
アンチョビ「お前のベスパの乗り方には見所がある」
アンチョビ「それにマシンを大切にすることも知っている」
アンチョビ「お前の才能は戦車道に絶対活きるだろう」
アンチョビ「いや私が活かしてやる!」
アンチョビ「だから私と一緒に――」
そこまで話を聞いて私は怖くなり外に飛び出した。
外に停めてあったベスパに乗り、一目散に寮の部屋まで走り帰った。
また私は逃げてしまった。
~~~
この一日はとにかく大変で、少なくともいい日ではなかった。
私は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
さすがに明日は学校に行ける気がしない……。
同じクラスの「やつ」と顔を合わせたらどうすればいいのか分からない。
夜、ベッドに深く潜ると、アンチョビが言っていたことが思い浮かんできた。
私に戦車道の才能なんてあるのだろうか?
彼女は普段の私の素行などしらないはずだ。
今日のことだってもし知られたら軽蔑するに決まっている。
認められ、副隊長に任命されたことは本当なら素直に喜ぶべきことなんだろうが、私には自信がなかった。
期待されるだけされておいて、結局は失望させてしまう未来しか考えられなかった。
私は今まで何かを壊したことはあっても、何かを成し遂げたことなんて一度もない。
そういう人間なんだ。
だから本当の自分を知られるのが怖くて、それで逃げ出した。
私に戦車道なんて高等なことはできないんだ。
そう結論付けて眠りにつこうとしても、どうしても脳裏に彼女の自信に満ちた顔が浮かんできた。
彼女は私のことを「ペパロニ」と呼び、語りかけてくるのだ。
「戦車道な
コメント一覧
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- 2016年03月20日 20:06
- 泣いた
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- 2016年03月20日 20:11
- 泣いた(2人目)
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- 2016年03月20日 20:15
- 泣いた(三人目)
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- 2016年03月20日 20:19
- 泣いた(4人目)
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- 2016年03月20日 20:22
- 泣いた(Ⅴ人目)
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- 2016年03月20日 20:24
- 途中から泣いてた。こういう卒業絡みは弱いんだよ……
ただでさえいい話なのに……
最高でした!
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- 2016年03月20日 20:26
- 泣いた(七人目)
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- 2016年03月20日 20:27
- 泣いた(8人目)
アンツィオ好きすぎる
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- 2016年03月20日 20:27
- そりゃ泣くわ(八人目)
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- 2016年03月20日 20:30
- 泣いた(十人目)
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- 2016年03月20日 20:32
- 泣きすぎて読むのに1時間かかったじゃないか
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- 2016年03月20日 20:39
- やっぱアンツィオ組は最高ッス!
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- 2016年03月20日 20:41
- 泣いた(十二人目)
全くアンツィオは最高だぜ!
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- 2016年03月20日 20:53
- 泣いた(13人目)
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- 2016年03月20日 21:03
- 泣いた(14人目)
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- 2016年03月20日 21:32
- 泣いた(15人目)
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- 2016年03月20日 22:14
- 泣いた(16人目)
アンツィオは本当にみんないいキャラしてる
あのトリオの可愛らしい事この上なさは本当に良い
弱小校でも腐る事なく頑張る諦めない姿が好きだ
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- 2016年03月20日 22:18
- 泣いた(17人目)
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- 2016年03月20日 22:20
- 泣いた(18人目)
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- 2016年03月20日 22:31
- ぺパロニ可愛すぎ。劇場版みたいなあ・・・レンタルしなきゃ!
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- 2016年03月20日 22:32
- 泣いた(19人目)
これみたら劇場版のED見るたび泣くじゃねえかどうしてくれる
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- 2016年03月20日 22:34
- アンツィオはいいぞ
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- 2016年03月20日 22:43
- 泣いた(19人目)
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- 2016年03月20日 22:46
- 鳴いた「ブヒ~」
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- 2016年03月20日 22:48
- 19人目二人居るぞ
ガルパンはどの学園もいいキャラしてるからこういう掘り返し系のSSは楽しめるわ
そして泣いた(二十人目)
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- 2016年03月20日 22:56
- 泣いてないし(21人目)
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- 2016年03月20日 23:04
- まほ姉とごっちゃになってたのかwww
プラウダは、カチューシャ・ノンナ後の世代交代に問題が有りそうかな?
グロリアーナ、黒森峰、チハタンあたりも同じ題材で読んでみたい。
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- 2016年03月20日 23:09
- cv33でどうやってルノー倒したのか気になって仕方なかった
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- 2016年03月20日 23:45
- これわ花粉症だから(22人目)
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- 2016年03月20日 23:47
- ※29
どんな装甲だろうと砲塔にぶち込んでやれば誘爆を引き起こしてBOMM!よBOMM!
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- 2016年03月20日 23:52
- 泣いた( ;∀;)(23人目)
アンツィオはいいぞ!
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- 2016年03月20日 23:57
- ただの液漏れだし(24人目)
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- 2016年03月21日 00:00
- これだけ地の文がしっかりしてるんだったらSSじゃなくて小説形式で書いたほうが読みやすかったんじゃないかな
内容は良かっただけにちょい読み辛さが目立った
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