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真姫
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1: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:34:02.53 ID:fqYuj6vR.net
真姫パパ「真姫、ちょっといいか」

真姫「なに?」

真姫パパ「いや、何でもよその研究所から持ち掛けられたんだが~カクカクシカジカ」


真姫「頭が良くなるって……本気なの?」

真姫パパ「実際に鼠で試した所、迷路実験のタイムが飛躍的に縮んだそうだ」


真姫「ふぅん」

真姫パパ「成人男性で出来たらその、それ程頭が良くなさそうな被験者を探してるらしくてな」

真姫「そんな都合のいい人いるワケ……」

患者「まきちゃん」

真姫「貴方……でも、いいの?」

患者「まきちゃん」

真姫パパ「おお、引き受けてくれるかい。いやぁ助かるよ」



その次の日、研究所の人達が来てパパと患者に話をしていった。
私も立ち会いたかったけれど、生憎パパがいない間は病院の事で手が離せなかった。

手術は数日後に行われ、暫くは手術前と同じ環境、つまりはうちの病院で安静にさせて様子を見るらしい。

8: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:36:51.03 ID:fqYuj6vR.net
真姫パパ「あぁ、真姫、明日は例の手術だが患者くんにも確認の為伝えといてくれ」

真姫「分かったわ」





真姫「あ、いたわね患者」

患者「まきちゃん」

真姫「貴方って本当にそればかりね」

看護士「いいじゃないですか先生。患者さん、真姫ちゃんに会えるのが幸せなんですよ」

真姫「手術が終わったら貴方と色んなお話が出来るようになったりするのかしら」

患者「まきちゃん」

真姫「またそれ?せめて先生をつけなさいよ」

看護士「フフッ、それで?西木野先生?どうされましたか」

真姫「あぁ、そうよ。手術の日と段取りを伝えに来たのよ」






真姫「患者~?調子は……」

真姫「あ、ついいつもの習慣で、今日は手術だったわね」

真姫「『まきちゃん』だなんて単調な返事だけど、返ってこないと寂しかったりするのね……」

10: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:39:01.60 ID:fqYuj6vR.net
真姫パパ「真姫、患者が昨日の夜戻ってきてな」

真姫「あら、本当?」

真姫パパ「あぁ、元の病室にいるからたまに様子を見に行ってやってくれ」




真姫「~♪」

真姫(患者、また私に会えたら嬉しさで泣いちゃうんじゃないかしら?)


真姫「患者~?」


患者「あぁ、お久しぶりです。西木野先生」

真姫「え?え?ヴェエエェ!?」

患者「やだなぁ、どうしたんですかそんな取り乱して」

真姫「だっ、だって貴方……」

患者「そっか 僕、手術前は精神的な問題で言語能力が低下していたんでしたっけ」

患者「なんだか手術を受けた実感もあまりないんですけど」

患者「気分は今の所悪くないですよ、西木野先生」

真姫「そう、それならよかったわ」

11: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:41:06.53 ID:fqYuj6vR.net
なんだか変な気分だった。毎日毎日私が問いかけても『まきちゃん』としか答えなかった患者と、普通に会話をした。

話してみれば彼は意外にも普通の青年といった印象で、それからというものの、病室内の他の人達や看護士達ともよく話すようになった。

どうも実験の経過報告として日記のような物を研究所に提出しなければいけないらしいが、暫くは病室で安静にということで日記のネタにも困っているらしい。
そうして他人と会話する中で自分の考え方を確認しているのだという。




【経過報告6】

手術を受けて戻ってきてからもうすぐで一週間だ。手術後に受けた浮遊感や脳が冴えていく感覚も段々落ち着いてきた。

西木野病院の居心地は悪くない。経営してる院長は周りの看護士や入院者からも慕われている。

私も手術後に会話したのは数回だが、神経質そうでありながら何処か隙のようなものが窺え、妙な安心感を覚える。

手術前もよく面倒を見てくれた院長の娘さん(彼女も私にとっては西木野先生)が暫くは様子を見に来てくれるらしい…………

14: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:43:45.46 ID:fqYuj6vR.net
患者「……ラフマキノフのこの曲は良いですね」

主婦「そうでしょ~?この曲はちょうど、ラフマキノフがホノヴィッツと親交を持ち始めた時に作られた曲なんですよ」

真姫「クラシックなんか聞いちゃってどうしたの?」クスッ

患者「西木野先生、響いてましたか?」

真姫「いいわよ、これ位なら。ラフマキノフは私も好きなのよ」

主婦「先生、音楽の話が出来る人がいるならもっと早く同室にしてほしかったわ。前の部屋のアル中のオジさんとは大違い」


どうやらCDは今日部屋を移ったこの主婦のもののようだ。
それにしても患者がクラシックを聴くとは思わなかった。
今の患者にスクールアイドルだった頃の私(達)の曲を聞いたら……駄目ね。ここでも内緒にしてるんだから。

でも、患者としてはいい兆候よね。

15: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:46:58.31 ID:fqYuj6vR.net
【経過報告11】
退院を数日後に控えた主婦が私の部屋に移ってきた。簡素なラジカセとCDを数枚携えて。

少し挨拶を交わすとすぐ、私の隣で控え目にCDをかけ始めた。
チカーホフでしたっけ、と尋ねると、同類でも見つけたと思ったのか長々と蘊蓄を聞かされる羽目になった。

作曲家や演奏家の話などを徳井げに語っていたが、私としては静かに曲を楽しみたかった



【経過報告16】
流石に病院の生活というものにも飽きてきた。

私の部屋には頻繁に人が移されてくる。それも、料理研究家だとか哲学かぶれの大学生やら、経済学者やら統一感がなかった。

研究所側で何か意図があるのかと、私は敢えて彼らと積極的にコミュニケーションを取ろうとした。

しかし、暫く話してみると、会話をしていながら彼等の思考の稚拙さを見下す別の自分がいるのに気付く。人の頭を良くするという実験自体は成功なのだろう。


唯一ここで会話を楽しめるレベルの西木野親娘も、いまではそれ程私を気に掛ける必要がないと判断して行動しているようで…………

16: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:49:13.77 ID:fqYuj6vR.net
【経過報告21】
明日、漸く退院出来ることになった。今日は胡散臭い宗教家のような女性と話した。

思えば最近私と話すべく入院してくる者は、顔色や皮膚の様相を観察するに、入院する必要がない者もいるようだ。


宗教家「貴方は今、幸せですか?」

患者「病院で変わらない毎日を送ってるだけだ。幸せとは言えないな」

患者「だが、気分は悪くない。私にはこの頭脳がある。大学で教鞭を取っている教授とやらも私には殆どが赤子同然だ」

宗教家「貴方は少し前に大きな手術をしたと聞きました。では、手術を受ける前と後、どっちが幸せですか」

患者「至上の幸福とは高度に発達した脳が興奮を覚えることだ。比較するべくも無い」

患者「詳しくは知らされてないが手術前の私はある一言しか喋らなかったらしい。とても幸福などとは言えないさ」



その後、アッサリと宗教家は出て行った。病院なのに如何にもというほどの格好で、宗教家というよりは占い師のようだと思った。

仮に手術前の私に『幸せとは何か』と問いかけたらどんな答えを思い浮かべるのだろうか。

17: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:52:08.63 ID:fqYuj6vR.net
真姫パパ「ふざけるな!!あんた達が絶対に安全だと言ったから患者を紹介したんだぞ!?」

真姫「パ、お父さん?どうしたのよ……その人達、患者の実験の研究所の?」

真姫パパ「例の患者くんの実験で不備があったらしい」

真姫「どういうことよ?」

真姫パパ「手術の反動で一定期間後には知能が手術前よりも衰え、末には脳に障害を起こして死に至る」

真姫パパ「一定期間が経たなくとも脳に強い衝撃を与えられるとそれがきっかけで……」

真姫「副作用ってこと!?ナニヨソレ!イミワカンナイ!強い衝撃!?どういうこと!?」

真姫パパ「引き金となるのは手術以前の原体験や感情の揺さぶり。恐らく、何かしら感覚器官を通して……」

真姫「あぁ、もう!手短に言ってよ!」

真姫パパ「つまり、患者くんが手術前に気に入っていた映像を見たり、音楽を聞いたりすることで脳に衝撃を与えると、マズいんだ!」

真姫「患者っ!」ダッ!

真姫父「真姫!待ちなさい!」

19: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:55:28.27 ID:fqYuj6vR.net
(三分前)


女性「あっ、患者さん。荷物纏めて、もう退院ですか?」

患者「あぁ、漸く出られるようだ。西木野先生を知らないか?出来れば挨拶をとね」

女性「この時間帯はいつもならこの辺を見て回ってるんですけどね、あっ、そう言えば患者さん知ってました?」

患者「ん?何をだ?」

女性「西木野先生、あの真姫ちゃん先生って、高校時代にスクールアイドルやってたんですよ!」

患者「スクールアイドル?西木野先生が?」

女性「えぇ!実は~私も今聞いてたんですけど、すっごくいい曲なんですよ!プレーヤー貸しますから退院祝いに一曲聴いていきません?」

患者「……そうだな、先生もその内来るだろうし。あぁ、ありがとう」ピッ





『アイシテルバンザーイ…………』


患者「………………ゃん」


女性「えーっと、聞き掛けになってたの愛してるばんざーいですね。私も好きで…………患者さん?」


患者「……ぃ……出し、た…………」ポロポロ



患者「……ちゃん…………まき、ちゃん…………」ドサッ

女性「患者さんっ!」

22: 名無しで叶える物語(大酒)@\(^o^)/ 2015/07/01(水) 22:58:54.92 ID:fqYuj6vR.net
真姫「患者っ!」

女性「先生!患者さんが!患者さんが!」

真姫「うそっ……イヤよ!患者ぁぁあああ!!」

真姫父「遅かったか……」

真姫「こんなのって、こんなのってあんまりよ…………」


希「彼を患者にしたきっかけが『愛してるばんざーい』やったんやろうね。たった一曲でも深層心理に刻み込まれていた真姫ちゃんの歌声が、水面に落ちた水のように患者の全身に波紋を伝わらせたんやろう」


希「でも、時間が経って何も考えられなくなって自我が消えていくより、最後に真姫ちゃんのことを思い出せたんやったら、患者は幸せやったんやないかな」





女性「先生……これ、患者さんが倒れる前に書かれたものです」






【けーかほーこく】
まきちゃん