【MGSV:TPP】 Last Episode:骸骨家族の歌/未来の伝説
[回想]未来の伝説
1 「鏡」
――――――――――
――ありふれた戦いのある日。
「はあっ、はあっ……くそっ」
豊かに生い茂った草花をかき分けて、一人の男が走ってゆく。
樹々に手を突いて体を支え、乱れる息をなんとか整えながら、彼は辛うじて前へ進んでいく。
「はあ……はあ……ああ……」
額を拭った左の袖は、鮮やかな赤に染まっている。
彼はそれを見た途端、なぜだか急に力が抜けたようになって、その場にへたりこんでしまった。
慌てて周囲に気を配るが、追手の足音は聞こえてこない。
どうやら、何とか撒くことができたようだ。
彼はそのことを確認すると、腰のポーチから小さな鏡を取り出した。
ヒビの入った鏡面に顔を映し、額の傷を確認する。
なんということはない、小さな切り傷だ。 細菌や寄生虫さえ入り込まなければ、治療も必要ない。
それでも、彼は自分の傷を、小さな肉の裂け目を、しばらく眺め続けた。
「…………」
彼にとって、それは一種の精神安定剤だった。
左手の紅の出所が、自分の傷なら安心できる。 彼自身も不思議なほどに。
――怖いのか? ジョージ。
彼の眼前に、かつて仲間に言われた言葉がフラッシュバックする。
――だからお前は、兵士には向いてないと言ってるんだ。
「そんなことは……」
彼は鏡を閉じ、ポーチへ押し込みながら空を見上げた。
本来なら満天の星空が見えるはずだが、今は濃い霧に覆われている。
心は癒やされないが、彼にとっては好都合だ。
あの恐るべき”髑髏”から、彼の姿を隠してくれる。
たった一人で彼の部隊を壊滅させた、怪物に……報復する機会を与えてくれる。
「……ああ、やってやるさ……あの骸骨野郎め」
沈む気持ちをなんとか奮い立たせ、彼は再び銃把を握る。
その先に、どんな道が待ち受けているかも知らないままに――
彼は、長い戦いへと足を踏み入れていった。
――――――――――
Last Episode
骸骨家族の歌
Skeletal Family
.
1 「鏡」
――――――――――
もう、十年以上も前のことだ。
美しい花に囲まれた、真っ白で清潔な病院の一室。
そこで、ある男が昏睡状態から目覚めた。
男は世界中から命を狙われ、世界中を敵に回した。
数えきれないほどの敵を屠り、仲間を失った。
それでも彼は、戦い続けた。
どれほど失っても、失ったからこそ、銃を手放すことはなかった。
そして、今。
護衛の兵士たちに囲まれた、真っ黒で薄汚い廃墟の一室。
ここで、彼は再び目覚めようとしていた。
「……ボス」
ベッドの傍らに腰掛けていた男が、杖に縋って立ち上がる。
その視線の先に横たわる”患者”は、彼に顔を向けて弱々しく声を発した。
「……今度は何年だ? カズ」
「ふん……一年も経っちゃいない。 だいたい半年ってところだ」
カズと呼ばれた男――カズヒラ・ミラーは、ほんの少しだけ頬を綻ばせて答えた。
しかしその小さな綻びは笑顔となる前に消え去り、再び無表情が彼の顔を支配する。
「半年……たった半年だ、ボス。 ……だが短くはなかった」
「…………」
「……あまりにも、長すぎた」
「……そうか……」
感情を押し殺したミラーの声、そして周囲の静けさから――
――歓声も、銃声も、まるで聞こえない静けさから――横たわる男は全てを察したようだ。
「……カズ」
「何だ」
アウターヘブン
「……俺たちの家は、どうなった」
そう聞かれた時、ミラーは息を飲んで、しばらく押し黙っていた。
ベッドに横たわる男は答えを急かそうとはせず、残酷な沈黙は容赦なく二人を包み込む。
数分後、静寂に耐え切れなくなったかのように、ミラーが口を開いた。
「……燃えた」
男が予想していた通りの、単純な答えだ。
「サイファー……いや、”愛国者たち”だ。 爆撃を……」
「生存者は?」
「……わからん……俺はFOXHOUNDで教練中だった。 あんたを運びだしてきた奴ら以外は……」
「…………」
男は俯いたままのミラーから視線を逸らし、少しの間考えこんだ後、静かに言った。
「……”あいつら”は?」
静かな部屋に、奥歯が砕けんばかりの歯軋りが響き渡る。
「……すまん……すまん、ボス。 みんな……炎の中を走ってきたんだ」
「…………」
ダイヤモンド
「部隊章は全て……焼かれてしまった」
ダイヤモンドドッグス――その全てがアウターヘブンへと置き換わった後でも、未だ彼らの心に残り続けるファントム。
捨てることも、忘れることも拒んだ彼の最後の幻肢が、炎に包まれて消えた。
かつてダイヤモンドドッグスの創設者であり、副官でもあった男は、そう言ったのだ。
「……そうか」
それを聞いたベッドの上の男は、まぶたを閉じて静かにうなずいた。
嘆くことも、怒ることもせず、ただ静かに――空虚に、男は問いかける。
「それで、カズ。 ……俺の方は、どうなってる?」
「……あの若造……ソリッド・スネークに、殺されかけたんだ」
「それは覚えてる。 ロケットランチャーを数発、まともにもらった……あそこまでやるとはな」
「……生き残るには、寄生虫補完しかなかった。 サイバネティクスですらどうにもならない状態だった」
「パラサイトセラピー……コードトーカーの遺産か」
「ああ。 それも”負の遺産”だ。 あんたの場合は、俺の眼のようにはいかなかったんだ」
そう言いながら、ミラーはサングラスを外してみせた。
光の下へ晒された彼の両眼は白く濁り、かつての失明を物語っている。
それでも彼が光を取り戻し、特殊部隊の教官へ就任できたのは、その眼球の代わりをとある虫が務めているからだ。
コードトーカーと名乗る老人が生み出し、この世に遺した寄生虫。
そのうちの一種が、ミラーの眼にも宿っていた。
アウターヘブン
「奴は、多くの虫と技術を俺たちに遺していってくれた。 だが、全ての器官を補完できるわけじゃない」
コードトーカーは自身も数々の虫に寄生されていたが、自前で済んでいた器官も当然ある。
そのような部分を補完することができる虫は、彼の体には無い。 つまり、サンプルが存在しないのだ。
虫をゼロから生み出すことはできない。 よって、そういった器官のパラサイトセラピーを行うのは難しい。
「あんたの場合……爆発の衝撃と炎で、全身の骨を酷く損傷していた。 脊椎もだ」
「…………」
「骨を代行する寄生虫のサンプルは、俺たちの手元にはなかった。 ……だが、前例が無いわけじゃなかった」
「……髑髏顔の男……それで”負の遺産”か」
ス カ ル フ ェ イ ク
「”髑髏に擬態するもの”……コードトーカーはそう呼んでいたようだ」
人間の骨は、多くの者が思っているよりも動的な器官だ。 決して不変のものではない。
その表面には骨芽細胞と破骨細胞、すなわち骨を作るものと壊すものが常に這いずり回り、再生と破壊を繰り返している。
かの虫はこれらの細胞の代わりを果たし、宿主に強靭な骨格を与え、代わりに幾ばくかの栄養を受け取る。
そしてさらに、神経や造血細胞の代役を務める虫との”共生”を行い、宿主を失血や痛みに対しても強く造り替えるのだ。
「奴にとって、あの”ビラガアナ”に協力した過去は消し去りたいものだったはずだ。 ……だから、探すのには苦労した」
「ここは?」
「かつてサイファー、と言うより、XOFが所有していた研究施設だ。 ここに虫の予備が隠されていた」
「それを俺に?」
「……ああ、それでなんとか、命を繋ぎ止めることができた」
「……それで……」
男はベッドの上に身を起こし、ミラーに話しかけようとして、ふと口をつぐんだ。
その目線はミラーではなく、自分が寝ているベッドの端の方に向けられている。
「……カズ。 これは?」
「……あんたの左腕だ。 虫が、造ったんだ」
男が昏睡状態に陥る前、彼の左肘から先には機械の義手が嵌められていた。
しかし今、そこにあるのは”虫の義手”だった。
むき出しの骨と血肉だけで組み上げられた腕。 寄生虫がつくりあげた構造物。
皮膚や脂肪は存在せず、遠目には真っ赤に染められてい
コメント一覧
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- 2016年04月04日 23:54
- ハハ! 僕を島流しにしたバチが当たったんだ!
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- 2016年04月04日 23:57
- ボーt
-
- 2016年04月05日 00:00
- もうボートはない!!!
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