勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」【前半】
少女A「」エグッ、エグッ
少年B「とうとうお別れの日が来ちまったか……」ゴシゴシ
少女C「勇者! 向こうに行っても元気でやるのよ!」グスッ
少年D「僕たちの事、絶対忘れないでね!」グスッ
少女E「約束だからね! 十五年後の今日、またこの木の下に来て、それでみんなで魔王を倒しに行くんだから!」
子供勇者「わかってる! 俺、その時は絶対勇者になってるから! 絶対に! 絶対に!」ポロポロ
少女A「わたしは立派な……僧侶に……」グシュッ
少年B「俺は戦士だ!」グスッ
少女C「あたしは武闘家に!」エグッ
少年D「僕は魔法使いに……!」グスッ
少女E「私は商人に……!」グシュッ
全員「十五年後に、またこの木の下で!!」
国王「騎士隊長、いや、今や女神の加護を受けた勇者よ」
勇者「はっ」
国王「女神の神託通り、そなたを魔王討伐の旅へと出す事をここに宣言する」
勇者「ははっ。慎んでその任、お受け致します」
国王「思えば、そなたは一介の兵士から、最年少で騎士団の一員となり、そして更にまた最年少で騎士隊長へと就いた男」
国王「その素晴らしき剣と魔法の才能には驚いておったが、勇者となれば納得だ。そなたを失うのは魔王軍との戦いにおいて不安が残るが、しかし、勇者の旅立ちを妨げる様な事を余がする訳にはならぬ」
国王「こちらの事は気にせず、自由に旅するが良い。そなたが選び進む道こそが、それ即ち勇者の道だ」
国王「迷わず進め。そして、必ずや魔王を倒し、この世界を救うのだ」
国王「魔王を倒した暁には、我が娘である姫との婚姻をも認めよう。そなたの進む道に女神の加護があらん事を」
勇者「もったいないお言葉、ありがとうございます。不肖、この勇者、魔王討伐に全力を尽くす所存です!」
騎士団長「……そうか。遂に、勇者として旅立つのか」
勇者「はい。明日、出発します。それで最後の御挨拶に伺いました」
勇者「騎士団長様には、幼い頃から目をかけて頂き、言葉では表せない程感謝しております。長い間、本当にお世話になりました」ペコッ
騎士団長「よしてくれ。そんな堅苦しい挨拶は私は苦手だ」
騎士団長「それに、これで最後と言う訳でもあるまい。魔王を倒せば、君もここに戻ってくるのだろう? 私はその時をずっと待っているよ」ニコッ
勇者「……っ、ありがとうございます」グスッ
騎士団長「ふふっ。旅立ちの前に涙は縁起が良くない。これで拭きたまえ」スッ
勇者「はい……」ゴシゴシ
勇者「いえ、それは……ないです。俺が次期国王とか、想像もつかないですし。それに姫だって俺と結婚など……」
騎士団長「したくはないと?」
勇者「はい。姫はあれだけお美しい方ですから……」
騎士団長「君も、十分美男子だよ。自信と誇りを持ちたまえ」ニコッ
勇者「そんな……。やめて下さい」
騎士団長「やれやれ。これまで何人も女を泣かしている男の台詞ではないな。まったく、お前というやつは……」(軽く頭に手を置く)
勇者「団長……」
勇者「…………」
騎士団長「だが、私からすれば、貴族のボンクラ息子や、他所の国のバカ王子の元に嫁がされるよりは、お前の方が遥かに良いと思うぞ」
勇者「誰かに聞かれたら、不敬罪で捕まりますよ……」
騎士団長「まあ、それはいつも通り秘密だ。とにかく、今はあまり深く考えるなという事だ」
勇者「ですが、それは……」
騎士団長「魔王討伐の旅がどれだけかかるかは私にはわからない。だが、どれだけ少なく見積もっても一年か二年ぐらいはかかるだろう」
騎士団長「その間に、お前はお前で様々な体験をするはずだ。その体験が、きっと帰って来たお前に色々と教えてくれるだろう」
騎士団長「これからどうすればいいのか、何が正しい選択なのか、という事をな」
騎士団長「世界を見て、そして一回りも二回りも大きな男になって、無事にここに帰ってこい」
騎士団長「考えるのは、それからでも遅くはないぞ。未来の事に今思いを馳せるよりも、今やらなければならない事に対して精一杯努力しろ」
騎士団長「これが、私からの最後のアドバイスだ。頑張れよ」
勇者「……団長。……ありがとうございます!」
隊員A「それでは、隊長殿の栄誉ある旅立ちを祝って……」
隊員A「かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」カチンッ、カチンッ
隊員B「いやー、しっかし、本当に隊長殿が勇者様とは!」グビッ
隊員C「子供の時から、散々聞かされてきた伝説! いつか女神様からの神託が降りて、魔王を倒す勇者様が現れるとは聞いておりましたが!」
隊員D「この国から勇者様が出るなら、多分、隊長か騎士団長様なんじゃないかって俺たち噂してたんすよ! でも、本当にそれが当たるとはなあ!」グビビッ
隊員E「…………」グビッ
隊員A「もう何回も言いましたが、おめでとうございます、隊長殿!」
勇者「ああ、ありがとう。俺も子供の時からの夢が叶って嬉しいよ」グビッ
隊員B「あ、あまり飲みすぎないで下さいよ、隊長。明日は旅立ちの日だってのに、二日酔いじゃ洒落にならないんで」
勇者「わかってる。この一杯だけにしとくから」
隊員E「」グビッ
隊員A「それにしても、俺らが一緒に旅に行けないのが、本当に残念です」グビッ
隊員B「だよな。団長様も残念がってたからな」グビッ
勇者「仕方ないさ。最近は比較的平和とは言え、防衛を疎かにする訳にはいかない。首都のここから、兵士を割く余裕はないよ」
隊員C「だからといって、隊長殿お一人で旅に出るってのもきつい話だと思うんですけど」グビッ
隊員D「せめて、直属の俺らだけでもついて行きたかったですよ」
勇者「今はどこの都市も兵士数に余裕がないんだよ。人員補充して調整したとしても、旅立ちが三ヶ月近くは延びる事になるし」
隊員A「っても、一人はねーっすよ、一人は。中隊全部とは言わないですけど、小隊の一つぐらいお供につけてもいいと思うのに」グビッ
勇者「危険な旅だし、何よりその間、給料が出ないからな。希望を募っても、どうせ誰も立候補しないさ」
隊員B「見損なわないで下さいよ、隊長殿! 自分はそれでも立候補しましたとも!」グビッ
隊員C「そうっす! それに、上手く無事で帰ってくりゃ、英雄扱いでしょうし!」グビッ
勇者「酔いすぎだぞ、お前ら」ハハッ
隊員E「ちっ……」グビッ
勇者「……?」
勇者「…………」
隊員A「ちょっ、隊員Eさん、また酔ってんすか。今日は絡むのはなしにしましょーよ」
隊員B「そうそう。今日は穏便にいきましょうって。壮行会ですし……」
隊員E「うっさい。あんな適当な事言われて黙ってられっかよ!」ダンッ
隊員C「落ち着いて下さいって。まあまあ」
隊員E「お前らだって嘘つかれてんだぞ!」
隊員D「嘘?」
隊員E「隊長さん、あんた、本当は陛下から兵士を一緒に連れていけって言われたのを断ったそうじゃないか」
隊員A「え!」
隊員B「隊長……!?」
隊員C「そうなんですか!?」
勇者「…………ああ」グビッ
隊員E「なのに、こいつらときたら簡単に騙されて。情けないったらありゃしねえ」ヒック
隊員A「隊長……どうして?」
隊員B「何で断ったんすか! 味方は多い方がいいのに!」
勇者「…………」
勇者「一つは、武装した兵士を何百人も引き連れて行ったら旅に支障が出る」
勇者「行くのはこの国だけじゃないからな。兵士を引き連れて旅してたら国際問題になる。それに宿や食費がその分加算されるから、戦争と同じぐらいの負担がかかる。国としても養いきれない」
勇者「だから、三十名程の少数精鋭でって事を陛下は言われたんだが、それも断った」
勇者「本当に今は兵士の数に余裕がないからな。うちの国は貧しい国だ。軍隊も他国に比べて多いわけじゃない」
勇者「陛下は新たにその分、兵士を募って補充すると仰ってたが、そこから精鋭を何人も引き抜いたらその補充した新兵の訓練を誰がするかって話になる」
勇者「兵士が使い物になるまで最低でも二年はかかる。精鋭となると年数や人数の問題じゃなくなる。数は同じでも内部が弱体化したら、結局、同じ事だ。この国を危うくするような事は避けたかった」
勇者「それと、さっきも言ったけど、危険な上に給料も出ないんだ。一度旅に出たら、もうそれっきりなんだぞ。魔王を討伐するまで何年かかるかもわからないしな」
勇者「そんな危険で得にもならない目に、他の誰かを無理矢理遇わしたくはなかったんだよ。それなら、一人の方がよっぽど気が楽だし、旅しやすい」
勇者「そして、最後の理由。俺にはもう仲間がいる」
勇者「昔、約束した仲間がいるんだ。だから、他の仲間を連れてく訳にはいかない。それだけだよ」グビッ
隊員たち「…………」
隊員B「いや……やめとけ。お前、この前、結婚したばかりだろ……? 隊長の気持ち、考えろよ」
隊員A「う……」
隊員C「俺も……子供いるな……」
隊員D「だけど、こうして騎士団でいる以上、死ぬ事も覚悟してるぞ……!」
隊員C「それは全員がそうだろ……。それもわかった上で、隊長は一人で行く事を選んだって話だ。……そういう事ですよね?」
勇者「……悪いな。だけど、俺だって本音を言えば少しは怖いし、こんな何年かかるかもわからないような旅をしたくないって気持ちもあるんだよ」
勇者「勇者として選ばれた以上、断れないし断ってはいけない種類の話だから、やらなきゃならないって義務感もあるしな」
勇者「だけど、魔王を倒して平和な世界にしたいって気持ちもあるんだ。俺しかやれないってんなら尚更そう思う」
勇者「だから、俺が自分から行くのはいいさ。自分のしたい事をやってるんだから」
勇者「でも、その為に無理矢理誰かを巻き込