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花陽 凛
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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:16:34.06 ID:DulE4xZb0
ラブライブ!の某アメコミ風二次創作です。
クロスオーバーではありません。

・りんぱな
・設定やキャラクターの改変が多いです
・地の文あり
・わりとシリアス

SSは昔一度しか書いたことがないので不慣れですが、ゆるゆると行きたいと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1459775793

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:17:35.99 ID:DulE4xZbo


 "This, like any story worth telling, is all about a girl."
    「これは、一人の女の子の物語だ」




花陽「お母さん、あの子天使?」

花陽母「あらあら、花陽ちゃん。じゃああの天使ちゃんと、今日から親愛なる隣人なのね」

花陽「隣人って?」

花陽母「あの子は今日お隣に引っ越してきた星空さんちの子なの。名前は――」


 ――凛ちゃん。



3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:18:47.33 ID:DulE4xZbo

Chapter.1




音ノ木坂学院 入学式


花陽(私は小泉花陽、どこにでもいる普通の中学生……だったんだけど、今日からちょっとだけ大人です)

花陽(私、高校生になりました。いままでは自分のことを「花陽」なんて言ってたけど、今日からは「私」なんです、えっへん!)

花陽(でも初日から遅刻しそう、花陽、いつもどんくさいから……はっ、また花陽って言っちゃってます!)

花陽(でも心の中のことだから良いですよね、って誰に言ってるんだろう……なんて)

凛「かっよちーん!」

花陽「あ、凛ちゃん、おはよう」

凛「かよちんそんなペースじゃ遅刻するよー、いっくにゃー!」

花陽「ちょ、速いよ、誰か……ダレカタスケテー!」

 私の手を掴んで風のように走るのは、星空凛ちゃん。

 私と同じ、音ノ木坂学院の新入生で、小さい時からの幼馴染。親愛なる隣人です。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:19:28.98 ID:DulE4xZbo
音ノ木坂学院 新一年生教室


凛「高校生になっても同じクラスになれてよかったね、またよろしくにゃー」

花陽「うん、よろしくね、凛ちゃん」

 今年は一クラスしかないんだけどな、なんて言葉は飲み込んだ。

 だって私も嬉しかったからです。凛ちゃんと一緒にいられることが。

モブ子A「あ、凛ちゃんだー、もう部活きめたー?」

モブ子B「うちらと一緒にテニス部はいろーよー」

凛「考えとくにゃ―」

モブ子A「楽しみにしとくよー」

モブ子B「凛が入ってくれたら百人力よ」

 音ノ木坂の子は地元の子が多いから、中学からの同級生ばかりです。

 だから前からずっと、凛ちゃんは人気者です。

 可愛くて、運動ができて、明るくて、面白くて、人から好かれて。

 私とは全然違います。人に誇れるものなんて全然ない、私とは。

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:20:42.40 ID:DulE4xZbo
凛「かよちんは部活何にするの―?」

花陽「うーん……私は。凛ちゃんは?」

凛「凛は陸上部にしようかなー」

花陽「凛ちゃん脚速いもんね」

凛「それほどでもないにゃー」

花陽「それでもすごいよ」

凛「かよちんはやっぱりヒーローだよね!」

 凛ちゃんの大きな声に、教室がすこしざわつきました。

花陽「ちょ、凛ちゃん、声が……」

凛「なんで? 凛知ってるよ。かよちんがずーっとヒーローに憧れてたこと」

花陽「でも……私なんかじゃ」

凛「さっきポスター見たにゃ、この高校でもスクールヒーロー始めたんだって!」

花陽「ええっ、スクールヒーローハジメチャッタノォ!?」

凛「二年生の先輩三人でオトノキの治安を守っていくにゃー、かっこいいにゃー」

花陽「でも……花陽じゃ」

 花陽、何の能力もない。ただの人間。それも、とびきりのろまで不器用な……。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:22:03.51 ID:DulE4xZbo
 スクールヒーロー。

 それは、近年増加傾向に有る若年層の「ライバー」の犯罪に対するカウンターカルチャーのことです。

 「ライバー」は思春期の女の子に多い「特殊な力を持った人間」のことです。

 特殊な力を使うために、高い知能や高い身体能力が付随していることも多く、「新時代の生存者」を意味して「ライバー」と名付けられたみたいです。

 だけどそんな力を悪用する人も多くて、ライバー犯罪が近年増加していました。

 そうすれば、世間の風あたりも強くなります。だから一部の女子高生たちが始めたのが、このスクールヒーロー。

 「ライバー」の力をつかって、犯罪者を捕まえる活動です。

 だけど――。

花陽「花陽、ライバーじゃないから……」

凛「え、何か言った?」

花陽「ううん、何でもないの。今日は先に帰るね、ばいばい、凛ちゃん」

 逃げるように飛び出した。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:23:38.63 ID:DulE4xZbo
小泉家


花陽「ただいま」

花陽母「おかえり、花陽ちゃん、学校どうだった?」

花陽「どうって……普通だったよ」

花陽母「お母さん小耳に挟んじゃったんだけどなー、オトノキでスクールヒーロー始まったのよね? 花陽ちゃん入ってみ――」

花陽「――いい」

花陽母「……そう」

花陽「ごめんね、お母さん。花陽、体調悪くて……部屋に行ってるね」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:24:30.32 ID:DulE4xZbo
花陽の部屋

花陽兄「よお、花陽。帰ってたのか」

花陽「お兄ちゃん……! 帰ってたのか、じゃないよぉ。お兄ちゃんこそ何年ぶり? 花陽の部屋勝手に入って……」

花陽兄「悪い悪い、俺が出て行くまでは俺の部屋だったからな。忘れ物を取りに来たんだ」

花陽「忘れ物?」

花陽兄「もう手に入れたよ、悪かったな。ああそれと、しばらくこのへんで生活するからよろしくな」

花陽「ええっ」

花陽兄「あーそうだ。母さんが言ってたな、花陽の学校って――」

花陽「――スクールヒーローでしょ、やめてよ。お兄ちゃんは花陽のことわかってるでしょ」

花陽兄「……そうだな。あんなの、母さんの夢だ。お前の夢じゃない。きっと俺の夢でもなかった……」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:25:18.64 ID:DulE4xZbo
数年前

花陽母「どうしてできないの、花陽ちゃん! お兄ちゃんを見習いなさい!」

花陽「でも……無理だよぉ」

花陽母「あなたたちはね、ヒーローになるの! いなくなったあの人と、戦えなくなったお母さんの代わりに!」

花陽兄「母さん、もうそのへんで……」

花陽母「妥協は悪よ。妥協なんてヒーローにいらない。妥協したら悪い子なの、悪い子か、ヒーローになりたいのか。あなたたちは――どっち?」

花陽兄「……!」

花陽「……なりたい……」

花陽母「何、聞こえないわ」

花陽「ヒーローに……なりたい」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:26:08.89 ID:DulE4xZbo
現在 小泉家 花陽の部屋


花陽兄「母さんは自分と死んだ親父の夢を俺たちのものだと思い込んだ。俺は『ライバー』だからよかったものの、普通人(ノーマル)の花陽は苦労したよな」

花陽「お兄ちゃんが出て行ってから、お母さんは少し眼が覚めて、私にも優しくなったよ……だけど今でも、きっと未練がある」

花陽兄「未練、か……お前はどうなんだ?」

花陽「花陽が?」

花陽兄「お前がヒーローになりたいって言ったあの言葉、全部嘘だったのか?」

花陽「……そんなの、嘘に決まってるよ」

花陽兄「嘘もつけない、いい子チャンのお前がか?」

花陽「からかわないでよぉ」

花陽兄「ははっ、悪かったよ。まあそんなに怒るな。可愛い顔が台無しだ」

花陽「もうっ、お兄ちゃんってば!」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:27:09.01 ID:DulE4xZbo
課外授業 西木野研究所


研究員「ここでは日本の主食であるお米の品種改良を研究しており、味が良く強く育つお米を日々――」

花陽「うわああああああああああああああああああああああああああ ううううわあああああああああああああああああああああああ」

凛「かよちん眼が輝いてるにゃー」

 理科の課外授業で、私たちは西木野研究所に来ています。

 そこでは植物の品種改良が研究されていて、特に実用的な技術として注目されているのがお米。

 この新たな品種「プランタン」はそこからとれる白米がとってもおいしくて長持ちするだけじゃなく、稲全部が衣服の素材やエネルギーとして転用できるらしい。

 まさに日本を支える未来の技術でした。一口くらい……食べてみたい。

凛「そういえば西木野研究所って西木野さんと関係あるのかな?」

花陽「ちょっと、凛ちゃん!」

凛「ヘ?」

真姫 ムスッ……プイッ

 隅っこで退屈そうに見ている西木野さんは私達を一瞥すると、すぐに目をそらした。

花陽「西木野さんはお金持ちの人だって噂になってるよ、だけどそれで近寄られるのを嫌うって」

凛「えー、いい家に生まれたんだから、なにもヤなことないと思うけどなー。凛は素直にうらやましいにゃー」

花陽「一人ひとり、触れられたくないことってあるんじゃないかな。特に――家族のことは」

凛「そういうもんかにゃー」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:27:36.33 ID:DulE4xZbo
 そうこうしているうちに、私達のクラスは次のブースに移動になりました。

花陽「……あれ、これ、西木野さんの」

 私が未練がましくお米を眺めていたところ、さっさと言ってしまった西木野さんの立っていたところに、IDカードが落ちていました。

 私達は研究所に入るとき、ゲスト用の半日IDを発行してもらっています。だけどそれとは明らかに違う、もっと特別な感じのカード……。

 きっと、西木野さんが最初から持ってたものだと思いました。

花陽「返しにいかなきゃ」

 クラスから遅れた私はIDカードを持って走り始めます。

花陽「あっ!」

 倒れそうになった私は研究所の壁を、カードを持った方の手で支えてなんとか耐えました。

 すると壁だと思っていた部分がいきなり開き、私は中に倒れこみました。

花陽「いったたたた……ここは……どこ?」

 見回すと、薄暗い研究室のような部屋でした。

 そこにはたくさんの稲があり、そして。

花陽「お、お米だぁー!」

花陽「すごいよ、このツヤ、見ただけでわかる、最高のお米だよぉー! 写真とっとかなきゃ!」パシャパシャ

花陽「ゴクリ」

 それが、あまりに美味しそうだったから。

花陽「一口、味見してもいいよね……?」

 炊いてもいないのに、私はその白米を口に運んだ。

花陽「はわあああああああああああああ、しゅ、しゅごいですうううううううううううう」

 頬がとろけすぎて落ちるんじゃないか。そんな至福の時間。

 それをひとしきり過ごした後、私は。

花陽「はっ、ダメだよ、ちゃんと西木野さんに返さなきゃ!」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:28:33.85 ID:DulE4xZbo
西木野研究所 出口

研究員「では、今日の見学コースはこれで終わりです、お疲れ様でした」

花陽「あの……西木野さん」

真姫「ナニヨ」

花陽「これ……落としてたから」

真姫「っ……あ、ありがとう、わざわざ」///

花陽「ううん。あ、西木野さんって……」

真姫「な、なによ」

花陽「笑顔がとっても素敵」

真姫「ナニソレイミワカンナイ」///

花陽「へ、へんなこと言っちゃってごめんなさい! つい口に出ちゃって!」

真姫「別に、いいわよ。……それにこっちこそ。私の事、変な子だって思ったでしょ」

花陽「どうして?」

真姫「こんなカード持ってて……研究所とか、大企業とか、変なつながりがあって。私、知ってるのよ、みんな噂してたって」

花陽「……それは、西木野さんのこと、みんなまだ知らないからだと思います」

真姫「どういうこと?」

花陽「西木野さんは笑顔がとっても素敵な人、私、今日知りました。ご家族のことじゃなくて、西木野さん自身のことを」

真姫「あなた……名前は? いいえ、聞くまでもないわね、同じクラスなんだから。小泉花陽さん、私、西木野真姫よ」

花陽「うん、よろしくね、西木野さん」

真姫「今日はありがと、明日からもよろしくね」

花陽「……いろいろあるんだなぁ」

凛「かーよちん!」

花陽「ピャァ!」

凛「西木野さんと何話してたの?」

花陽「うん……ナイショ」

凛「えーずるいにゃー! よしっ、家まで競争にゃー! 負けたほうがラーメンおごり!」

花陽「えー! ダレカタスケテー!」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:29:00.82 ID:DulE4xZbo
小泉家・星空家前

花陽「はぁ……はぁ……勝っちゃった」

凛「すごいにゃ、かよちん凛にかけっこで勝っちゃったよ!」

花陽「でも凛ちゃん手加減してくれてたよね、息上がってないし……」

凛「それでもすごいよ! 脚、早くなったね! これなら凛と一緒に陸上部に入れるかもしれないよ!」

花陽「考えとこうかな……」

凛「じゃーねかよちーん。ラーメンはまた今度おごるにゃー」

花陽「ばいばい、凛ちゃん」

 なにかがおかしい。

 体が熱い。

花陽母「まあ、花陽ちゃん、どうしたの!?」

花陽「ごめ……ちょっと、ねる」

花陽母「花陽ちゃん、花陽ちゃん!」

 花陽ちゃん! 花陽ちゃん!

   はな・・・  は・・・・

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:29:29.44 ID:DulE4xZbo
数年前

凛「かよちん何読んでるのー。漫画?」

花陽「ヒーローコミックだよ、凛ちゃん」

凛「すごい、ムキムキのオジサンがくんずほぐれつしてる!」

花陽「いかがわしい言い方はやめようよぉ」

凛「でもカッコイイね。敵をバーっとやっつけて」

花陽「うん。でもね、敵をやっつけるだけじゃないんだよ。ヒーローはね、とっても優しいの」

凛「優しい? 情け無用の男なのに?」

花陽「それは日本のドラマ版だよぉ。そうじゃなくて、例えばこのヒーローは、親愛なる隣人って呼ばれてて」

凛「地獄からの使者じゃないんだね」

花陽「そうだよ。身近にいて、ずっとよりそってくれるみたいな。そんなヒーロー。花陽はそんなヒーローに――」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:30:07.10 ID:DulE4xZbo
現在 小泉家 花陽の部屋

花陽「――はっ!」

花陽「……昔のこと、思い出しちゃったな」

 最近妙なことばかりです。ふらっと家を出て何年も戻らなかったお兄ちゃんがこの街に帰ってきたり。

 西木野さんのIDを拾ったり、オトノキにスクールヒーローができたり。

花陽「お母さん、着替えさせてくれたんだ……」

 いつのまにかパジャマ姿だった。

花陽「えっと、メガネメガネ……あれ?」

 何かおかしい。私はメガネを外す。

花陽「よくみえる」

 メガネをかける。

花陽「視界が曇り空……りんちゃん」

 略してくもりん。

 「ちょっと寒くないかにゃ―?」とツッコむ凛ちゃんの幻聴が聞こえた。

花陽「電気をつけてもっとよく見て……」パチッ「あ、ありがとうございます――って、勝手にスイッチが入ってるぅ! だれか、誰か助けてー!」

 よく見ると、電気のスイッチのほうに伸びる謎の「ツル」のようなものがある。

 それをたどっていくと、私の手首から伸びていた。

花陽「……もしかして」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/04(月) 22:30:56.84 ID:DulE4xZbo
花陽「あー、本でも読もうかな」

 「ツル」はしゅるしゅると向きを変え、本棚から本をとってきて、ご丁寧に目の前で開いた。

花陽「やっぱり……私の意思で動いてるんだ」

花陽母「花陽ちゃん、起きたの? 入るわね」

花陽「っ!」

花陽母「あれ、いないわね。トイレかしら」

 セーフです。

 ツルを利用して天井に張り付いてお母さんの眼を逃れたことで、手から生えたツルは見られませんでした。

花陽「ふぅ……危なかったぁ」

花陽「でもこれ……やっぱり『能力』だよね。『ライバー』の」

 ということは花陽――「ライバー」になっちゃったのぉ!?

花陽「だけど」

花陽「今なら……」

 ――そんなヒーローに。

花陽「なれるかもしれない」

花陽「なんでこうなったかなんて考えても仕方ないよ。この力を正しいことのために――人助けのために使わなきゃ!」

 それで、花陽が特別になれば。

 普通じゃなくなれば。

 ダメダメな自分が変われたら、その時は――


花陽「凛ちゃんは、花陽のことを好きになってくれるかな」





 Chapter.1 END

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 00:55:18.78 ID:10tniaoNo
Chapter.2


薄暗い部屋


薄暗い部屋の中央に、一人の男が立っている。男は西木野博士と呼ばれる元医師の研究者であった。

西木野父「――という原理により、ライバーを解析し開発された新薬『ワンダフルラッシュ』はあらゆる生物の身体能力を向上します」

男1「話だけならば素晴らしい。しかし実用化のメドは立っているのかね」

西木野博士の周囲に出現した黒い石版(モノリス)から、機械で加工された男の声で話し始めた。

西木野父「知っての通り、植物ではすでに実用化されており、稲の新品種『プランタン』は国内の農産物流通を根本から変えるでしょう」

西木野父「また、栄養価と保存性も高く、加工すれば戦場における兵士の携行食料として最適でしょう」

男2「所詮植物……食用目的ではな。西木野博士、我々が求めているのは人造ライバーだ。わかっているだろう」

男1「我々"UTX"が君に莫大な出資しているのは、君の言う平和の実現のためではないのだよ」

西木野父「現在マウスによる動物実験を進めています。身体能力の大幅な強化は確認されましたが、ライバーの持つ特殊能力の再現には至っていません。残る大きな問題は――」

男1「なんだね」

西木野父「強化したマウスは凶暴化し、他のマウスを皆殺しにしました。12回の試行で9回……動物に対しては精神変容効果が強く、問題の解決には最低でも後一年を要するかと」

男3「それでは遅いのだ!」

男2「我々に残された時間はそう長くない」

男1「西木野博士、"UTX"の目的はあくまで"モーメント・リング"に到達することだ。君のくだらない理想に付き合う暇はないのだよ」

西木野父「……」

男1「あと一ヶ月だ。一ヶ月以内に人体実験で成功例を出したまえ。そうしなければ資金提供は打ち切る」

西木野父「一ヶ月……! そんな無茶を……!」

男1「話は以上だ、"時間"は有限で不可逆である。君の成功を祈っているよ」

ブゥン、という音とともにモノリスは消失した。

西木野父「くっ……俗物どもめ」

西木野父「小泉……お前がいてくれたら」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 01:19:13.65 ID:10tniaoNo
西木野研究所

西木野父「こんなところで立ち止まっている暇はない。世界平和を実現するために。私の理想のために――」

研究員「博士、こんな夜中にどうなさったのですか?」

西木野父「やあ、動物実験用の"ワンダフル・ラッシュ"、どれくらい残りが有る?」

研究員「マウス30体分のストックです」

西木野父「では濃縮しろ、人間一人分くらいにはなる」

研究員「! 博士、人体実験をなさるおつもりですか!?」

西木野父「スポンサーがうるさくてな。安心しろ、道義的問題は解決済みだ。被験者は――私自身だからな」

研究員「……しかしあの薬はまだ問題が……それにこの濃度では性格変容のリスク以外にも身体的問題まで考慮して――」

西木野父「――かまわん、はやくしろ!!」

研究員「は、はいい!」

 西木野博士は十字架のような装置に自身の肉体を固定した。

 そして研究員は西木野に対し、濃縮した"ワンダフルラッシュ"を注射する。

研究員「バイタルは正常。遺伝子変異がすでに始まっています――すごい数値だ、これなら!」

西木野父「ぐっ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

研究員「博士!?」

西木野父(なんだっ、これは……イメージが流れ込んでくる!)

 それは走馬灯のように。圧縮された記憶情報が目の前に津波のような勢いで押し寄せてきた。

 過去の記憶。心の傷。トラウマ。恐怖心。隠されていたあらゆる弱みを掘り起こしてくるような――

西木野父(こういうことだったのか……! 動物ならば誰しもがもつ恐怖感に強力にアクセスすることで精神の変容が――!)

研究者「博士! 大丈夫ですか、博士! バイタル異常、全数値が想定を振り切れています! 精神と肉体が耐えられません、内部から破裂します!」

西木野父「ぐおおお!」バキン

研究者「じ、自力で拘束具を引きちぎった!?」

西木野父(このままでは死ぬ――だめだ、なんとかして生き残らなければ、私の世界平和が――)

 自由になった博士は研究所の一区画、武器開発エリアへと駆け込んだ。

西木野父(宇宙開発用の軽量スーツ……あらゆる外圧に耐えられる設計のこいつならば内圧を抑えられる……)

 朱色のスーツ。開発コード「ダイヤモンドプリンス」。

 強度が必要な部分は主にカーボンファイバー、関節部は新植物「プランタン」から生成したバイオナノファイバーで作られている。

 最大の特徴は表面コーティングが世界最強の物質、六方晶ダイヤモンドであることだ。

 宇宙開発の名目で作られていたが、出資者からすれば兵器でしかない。しかし今はこれにすがるしか無い。

西木野父「う、うおおおおぉ!」

 急いでスーツを着こんだ。バイオナノファイバー部が可変し自動でフィットする。

 異常に盛り上がった筋肉の内圧を抑えむ。

西木野父「うっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

研究者「博士、ご無事でしたか!」

西木野父「ああ、実験は――」

研究者「博士、何を!?」

 博士は研究者の頸を掴み、簡単に片手で持ち上げる。

西木野父「実験は――成功だ」ゴキン

西木野父「くくく……ふははははははははは! すばらしい、この力があれば"UTX"ごときに頭を下げる必要などないじゃないか!」

 自信が湧いてくる。力を得た。そのことで、急激に万能感を感じられる。今ならなんでもできる。

 ――時を巻き戻すことだって、きっと。

西木野父「"モーメント・リング"計画だと? くだらんな……世界を変えるのは、この私だ」

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 01:34:19.98 ID:10tniaoNo
翌日 西木野家


花陽「お、おじゃましまーす」

真姫「遠慮せず入って。前のお礼なんだから」

花陽(ふええー、おっきいなー。テレビもおっきい)

真姫「そこ座ってて、お茶いれてくるから」

花陽「は、はいぃ」

真姫ママ「あら、真姫ちゃんのお友達?」

花陽「あ、私、小泉花陽っていいます!」

真姫ママ「うふふ、真姫ちゃんがお友達を連れてくるなんて珍しいわね」

花陽「そうなんですか?」

真姫ママ「あの子はちょっと"特別"だから。知ってるわよね、うちがちょっと変わった家だってこと」

花陽「はい、総合病院を経営してるとか」

真姫ママ「家業はそうね。でも夫が――真姫ちゃんのお父さんが会社を大きくして大企業になったの。だから色眼鏡で見てくる子も多くて、あの子も気丈に振る舞ってるけど、本当は寂しいと思うから。仲良くしてあげて」

花陽「は……はい!」

真姫「ちょっとママ、勝手になに話してるのよ!」

真姫ママ「あら、聞かれちゃったかしら」

真姫「ママはあっち行ってて!」

真姫ママ「はいはい、花陽ちゃん、ごゆっくり」

真姫「はぁ……うちの親ってどうも過保護なところがあって」

花陽「そうかな、西木野さんのお母さん、きっと西木野さんのこと大事だからそういったんだよ。私、すごくあったかいと思った」

真姫「ウェェ……/// そうね、私だって親の愛情がわからないほど子どもじゃないわよ。あ、あと、その呼び方……」

花陽「呼び方?」

真姫「『西木野さんのお母さん』と『西木野さん』じゃ紛らわしいでしょ。だから……その、名前で呼んでいいわよ。真姫って。私も、花陽って呼ぶから」///

花陽「うん……真姫ちゃん!」

真姫 カミノケクルクル

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 01:52:14.85 ID:10tniaoNo
数時間後 西木野家

花陽「ああ、もうこんな時間!」

真姫「もう暗いわね……運転手に送らせるわ」

花陽「そんな、いいよぉ」

真姫「遠慮しないで。そうだ、せっかくだから夕飯食べていかない?」

花陽「え、そんな……いいの?」

真姫「今日はカツ丼なのよ、パパが大事な実験をする日の前はいつもそうで。お米もうちで作った良いものを使ってるわ」

花陽「ごちそうになります!」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 02:07:56.01 ID:10tniaoNo
西木野家 食卓

シェフ「奥様、お嬢様、小泉様、カツ丼でございます」

花陽「ふわあああああああああああああああすごい、お米が輝いてるよぉ~」

真姫「喜んでくれたみたいで良かった。そういえば、パパは?」

真姫ママ「昨日ふらっと研究所に行ってからまだ帰ってきてないわ。あの人ならよくあることよ」

真姫「そうね」

花陽「そうなの?」

真姫「ええ、パパは世界平和のために研究してるのよ。このお米だって食糧問題解決のためにパパが作ったんだから」

花陽「それはすごいです!」

真姫「ま、まあね」カミノケクルクル

真姫ママ「パパはね、最初は普通のお医者さんだったけど真姫ちゃんが生まれてからは、世界中の子どもたちが健やかに育つようにって平和のために活動してるのよ」

真姫「一時期病院をほっぽり出して戦場をめぐったんだって。傷ついた人を分け隔てなく治療したりして、医者も大事だけど病気や戦争、貧困や飢餓そのものと戦うことも大事だって気づいたのよ」

真姫ママ「真姫ちゃんってばそんなパパのこと大好きなのよね」

真姫「ちょっとママ、何言ってんのよ! わ、私は別に、一人の人間として尊敬してるだけよ!」

花陽「すごい人なんですね。ちょっと、憧れちゃうなぁ」

 ガタッ

西木野父「遅くなってすまなかった」ハァ ハァ

真姫「パパ!」

 真姫ちゃんが嬉しそうに駆け寄ってお父さんの頬にキスをした。

 私の視線に気づくと、顔を赤くして目をそらした。

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 02:08:28.86 ID:10tniaoNo
西木野父「すこし研究が長引いてね。でも成果が出たんだ。夢の実現まで、あと少し……」ハァ ハァ

真姫「パパ、なんだか疲れてない? ご飯たべてもう休んで」

西木野父「ああ……そちらのお嬢さんは?」

真姫「この子は、私の友だちよ」

花陽「はじめまして、小泉花陽です」

西木野父「よろしく」

 私は真姫ちゃんのお父さんと握手した。その時――

花陽「――っ!」

西木野父「――!?」

 バチッと何かが弾けるような感触がして、手を離す。

西木野父(なんだこの感触、それに小泉とは……いや、考え過ぎか)


34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 02:09:00.72 ID:10tniaoNo
西木野父「真姫、こんな時間まで引き止めては悪いだろう。そろそろ帰ってもらいなさい」

真姫「え?」

西木野父「どうせ、金目当てだろう」

真姫「パパ、何言って……」

西木野父「真姫、お前は特別だ。お前に普通の友だちができるはずがない。小泉花陽さん、申し訳ないが、これで手を切ってくれないか」ドサッ

花陽(お金!? しかも百万円くらいある!)

真姫ママ「ちょっとあなた、真姫ちゃんの友達になんてこと」

西木野父「真姫、私はお前をそんな学習能力のない娘に育てた覚えはない。中学生のとき、尾崎という"友だち"がどうなったのか、もう忘れたのか?」

真姫「――そ、それは……!」

花陽「……」

 やっぱり。いろいろあるんだな。

 家族って。

花陽「ごめんなさい。このお金は受け取れません」

西木野父「……」

花陽「ごはん、美味しかったです。今日は自分であるいて帰れます、おじゃましました」

真姫「花陽、まって、私――!」

花陽「大丈夫だよ、真姫ちゃん」

真姫「ちがうの、わたし、こんなつもりじゃ……」

花陽「生きてれば、こんなつもりじゃないことなんてたくさんあるよ。だからいいの。また明日、学校で」

真姫「……ごめんなさい」

 私は真姫ちゃんの家を出た。冷たい風が吹く夜だった。

 鞄の中から、緑色のパーカーを取り出して着る。フードを目深にかぶる。これでだいたい顔は隠せる。

 私は人気のない道を走り始めた。加速、加速、まだ加速する。

 数日前から能力を試していた。強化された身体能力はすでに100Mを12秒で走る凛ちゃんよりも速く走ることを可能としていた。

 私は、ライバーになったのだ。身体は強靭になって、何より特殊能力を得た。

 身体から植物を出す能力。特に、ツルを長く伸ばしていろいろな場所にひっかけることで、建物を登ったり壁に張り付いたりできる。

 怖かったけど、自分で自分をナイフで切ってみた。すると傷口を植物の繊維が塞いですぐに元に戻った。再生能力もあるみたいだった。

 能力をさらに試すため、私は夜の秋葉原へと向かった。




 Chapter.2 END

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 19:16:41.91 ID:10tniaoNo
Chapter.3

秋葉原 高層ビル 屋上


花陽「……」

 人が蟻さんみたいに小さく見えた。だけどいまの私には、一人ひとりの動きがはっきりと見える。

 視力は眼が悪くなる前よりずっと良くなった。手もずっと器用になって、今の私はお米に字だって書ける。

花陽「すうううううううううううううう」

 息を大きく吸い込んで。

花陽「飛び降り日和、です!」

 飛んだ。

 夜の街。ネオンの海に吸い込まれていくような、身体が溶け落ちていきそうな感覚。

花陽(気持ちいい……)

 このままだと地面に激突して、私の身体は潰れたトマトみたいにぐちゃぐちゃの赤い果肉になっちゃうだろう。

 だけど今なら――

花陽「そこっ!」

 手首から伸びた植物のツルをビル街の出っ張りにひっかけて半円を描くような軌道で再び上昇する。

 不要になったツルを切り離して、私は再び空中に身を投げだした。

花陽「テンションあがるにゃあああああああああああああああああ!」

 テンションが上がって叫びたかったけど、大きな声を出すのに慣れていないので凛ちゃんの真似をしてみた。

 ここなら誰にも聞かれないし、恥ずかしくない。

 地上のみんなは空なんて見て歩かない。みんなうつむいて、地面を見てる。現代人はみんなそうだ。

 転ばないように足元を見るのに必死で、見上げれば星空があることになんて、誰も気づかないんだ。

花陽「はっ!」バシュン

 ツルを何度も切り替えて、ビル街上空を拭きあげる上昇気流に乗りながら、私は空を翔けた。

花陽「ビールのー谷間のくらやーみにー きらりとー ひーかる怒りーの眼ー

 気持よくて歌を歌ってみた。音楽の時間に真姫ちゃんが「花陽は案外歌唱力あるわね」と言ってくれたから少し自信があります。

花陽「安らぎ捨てて 全てを捨てて 悪を追ぉってー 空翔ける――あれは……?」

女性「誰か助けて! ひったくりよー!」

ひったくり「へへっ、誰も助けにこねえよ!」

花陽(ひったくり犯が鞄をもって逃げてる! け、警察……いや、間に合わないよ!)

 ――私なら。

花陽(今の私なら、いけるかも)

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 19:18:17.36 ID:10tniaoNo
花陽「……ちょっと待ってて!」

 走って逃げる男に上空から追いつく。

花陽「待ってください!」スタッ

ひったくり「なんだてめえは! どこから現れやがった!」

花陽「ピィ!」

 だ、だめだ。怖いよぉ……。

 ううん、今の花陽はライバーなんだ。脚だって凛ちゃんより速いんだ。

 飛べるよ。

花陽「その鞄、あの女の人に返してあげてください」

ひったくり「はっ、誰が……不用心だから悪いのさ。ドン臭い奴は損するだけなんだよ、この世界はなぁ」チャキ

花陽(折りたたみナイフ……でも!)

ひったくり「おらっ、そこどけや! ――っな……ナイフが無い……!」

花陽「くすくす」

ひったくり「何をした……」

花陽「"ナイフが無いフ"なんて、いまどき小学生でも使わないよ。お兄さん、小卒なの?」チャキン

ひったくり「それは……俺のナイフ、いつの間に……!」

 なんだか。

 楽しくなってきた。

花陽「あの女の人にあやまろっか」

ひったくり「ざけんな、誰が――ググッ!」フガフガ

花陽「助けを求めてもいいんだよ? もうしゃべれないだろうけど」

ひったくり「フガフガ(ふざけんな、殺す、殺してやる)」

花陽 バシュバシュバシュバシュバシュ

 粘性の繊維を手首から射出して、ひったくり犯は身動きをとれなくなった。

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 19:19:32.89 ID:10tniaoNo
花陽「謝る気になった? そっか、今のままじゃしゃべれないよね。じゃあ、謝罪以外口にしないって約束するなら外してあげるよ。約束破ったら鼻にワサビを突っ込むからね」

ひったくり コクコク

花陽「いい心がけだね」バリッ

 顔に張り付いた繊維を剥がす。

ひったくり「てめえ! ぶっこ――」ブスッ

花陽「約束、やぶっちゃったね?」

ひったくり「があああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 鼻にワサビを突っ込まれたひったくり犯はその苦痛に身を捩らせた。

 だけど手足が繊維で拘束されているからぬぐうこともできない。

 犯人のポケットから携帯電話を引っ張り出す。

花陽「あとは警察に通報してっと」ピポパ

花陽「あの、ひったくり犯が――はい、秋葉原の――はい、お願いします」ブチッ

 電話を地面に置き、鞄を持ってもがきつづける犯人を背に私はその場を後にした。

女性「どうしよう、あれがないと私……!」

花陽「これのことですか?」

女性「うわっ! あなた、どこから」

花陽「そんなことはどうでもいいんです。はい、鞄」

女性「あ、ありがとう。あなた一体何者なの」

花陽「私は……私はヒーローです、名前はまだありません!」バシュ

女性「消えた……あれは一体。ライバーだというの……いいえ、それはともかく」ピポパ

女性「はい、私です。ええ、"アレ"は予定通り"UTX"に搬入します。少しトラブルがあり遅れましたが――」

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/08(金) 23:57:46.14 ID:10tniaoNo
数日後 音ノ木坂学院 一年生教室


凛「かよちんかよちーん、これみて!」

花陽「雑誌?」

凛「緑のフードの謎のヒーロー、お手柄! 秋葉原で連日犯罪者をやっつける! すごいにゃー」

花陽「! ……へ、へぇー」

凛「あれ、かよちんの好みじゃないの?」

花陽「う、ううん。すごいよねぇー」

真姫「くだらないわね、ヒーローなんて」

花陽「真姫ちゃん!?」

凛「ちょっと、どうして西木野さんが凛とかよちんの会話に割り込んで来るの!?」

真姫「べつにいいでしょ、私は花陽と話してるの」

凛「よ、よびすてぇー! いつのまにそんな仲良くなったのぉ―!」

花陽「ちょっといろいろあって。でも真姫ちゃん、ヒーロー嫌いなの?」

真姫「嫌いってわけじゃないけど。平和のために活動するっていいつつ自己満足の世界じゃない。世界を平和にするためにできることって、もっとあるはずよ」

凛「むー、でも悪い人に立ち向かっていくのってすごい勇気がいると思うよ! 凛は応援したいな」

花陽「私は……」

真姫「花陽はどう思うの?」

凛「かよちんはどう思うの!?」

花陽「ちょ、ふたりとも……」

まきりん「「どっち!?」」

花陽「だ、ダレカタスケテー!」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/09(土) 00:13:03.98 ID:rxs9tI9bo

ガラッ

穂乃果「こんにちは! スクールヒーローの高坂穂乃果です!」

 ・・・・・・シーン

穂乃果「あれ?」

ことり「穂乃果ちゃん、いきなりすぎ」

海未「はぁ……」

穂乃果「えーっと……一年生の皆さん。音ノ木坂学院でスクールヒーローを始めました、二年生の高坂穂乃果です」

花陽(あれが噂の……)

穂乃果「これから正式に活動するためには、部員を五人集めなければなりません。なのでみなさん、是非スクールヒーローに入ってください!」

ガラガラ

凛「嵐みたいに去っていったにゃー」

花陽「やっぱりあの人達も"ライバー"なのかな」

真姫「そりゃそうでしょ。能力もなしにヒーロー始める酔狂な人なんていないわよ」

花陽「そうだよね……」

凛「で、かよちんはスクールヒーローはじめないの?」

真姫「なによ花陽、ヒーローに興味あったの?」

花陽「私は……その……なにもできないから……」

 ちがう。

 本当は違う。

 なにもないわけじゃない。ただそれでも……あの人たちの中に入っていけない。

 一歩が踏み出せない。

 強くなったはずなのに。

 ……また、秋葉原に行こう。パーカーを着て、フードを被って、ヒーローになろう。

 別の私に変身しよう。強い私になろう。

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/09(土) 00:30:03.97 ID:rxs9tI9bo

秋葉原 ビルの屋上


 きばらしをしよう。そう思って高い場所から街を見下ろした。

 適当な犯罪者を傷めつけて、逮捕して、賞賛されよう。そうすればきっと満たされる。

 今の私は、誰よりも強い。力があるんだから。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ

花陽「お兄ちゃんから着信……うるさいなぁ。留守電にしよう」

 そして、

花陽「見つけた」

 コンビニの中に、ナイフを店員につきつけレジのお金を奪っている男を見つけた。

 ちょろい相手だと思った。

 飛び降り、コンビニの中に突入する。

花陽「ハァーイお兄さん、今夜は私と遊んでかない?」

 自分でも気づき始めたけど、こうして活動している時、私は口調が変わる。

 なんだか変な高揚感があって、口数が増える。

強盗「なんだてめえ……まさか、最近噂の……!」

花陽「知ってるの? じゃあ話は速いね、お金とナイフを置いておとなしく捕まったらひどい目には合わないと思うけど?」

強盗「……ククク」

花陽「なにがおかしいの? まさかコワすぎてお漏らししちゃった?」

強盗「俺を舐めたこと――後悔しろや」ジャキ

 ――銃。

 日本社会にはそぐわないその異物の存在に、反応した時にはすでに……遅すぎた。

 BANG!

 死――

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/09(土) 00:30:35.10 ID:rxs9tI9bo
花陽兄「……ガハッ」

花陽「あ……」

 何が、起こったの?

花陽兄「……」ドサッ

花陽「う、うそ……お兄ちゃん」

 私の目の前で倒れたのは、お兄ちゃんだった。

 何がおこったのかわからない私に、強盗は再び銃を向ける。

 二度は通用しない。

花陽「――!」ビュ

 ツルを伸ばし、銃を奪い取った。

強盗「ちっ!」ダッ

 強盗は走り去る。だけどそんなのどうでもいい。

花陽「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」

花陽兄「はな、よ……はは、よかった。間に合ったのか」

花陽「しゃべっちゃだめ、救急車呼ぶから!」

花陽兄「もう、遅い。わかるんだ。自分のことだからな……だから最後に、花陽」

花陽「だめ、だめだよ……」

花陽兄「お前に謝らなきゃな。兄ちゃんらしいこと、何もしてやれなかった。それが心残りで……戻ってきたんだ。忘れ物、取りに来たって言っただろ……」

花陽「そんなこと言わないで……もう最期みたいなこと……言っちゃダメだよぉ……」

花陽兄「いいか花陽、大いなる力には、大いなる責任が伴う。お前だけの強さを見つけるんだ、与えられた運命に惑わされるな」

花陽「うん……うん……だからどこにもいかないで、もう独りはいやだよ、お兄ちゃん……」

花陽兄「お前のそばにずっといてくれたんだろ……友だちが……それに母さんのことも……守ってやって……く……」

 お兄ちゃんはそれきり目を閉じて。

 息をしなかった。

花陽「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



Chapter.3 END

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/09(土) 19:42:56.46 ID:rxs9tI9bo
>>43-44の間に入ります




夜中 小泉家

花陽兄「よお、花陽。こんな時間にどこいくんだ?」

花陽「お兄ちゃん」

花陽兄「あんま母さんを心配させんな。こっそり出て行っても気づいてる」

花陽「……ほっといてよ、アルバイトだよ」

花陽兄「ほっとけるかよ。俺はお前の――兄貴だからな」

花陽「やめてよ! いまさらお兄ちゃんぶらないでよ! 花陽が苦しんでる時、一番そばに居て欲しかったとき、いてくれなかったくせに!」

花陽兄「……」

花陽「一番悲しくてつらいときにお父さんもお母さんも助けてくれなかった、お兄ちゃんは逃げた! 私は……花陽には、もう凛ちゃんしかいなかったんだよ!?」

花陽兄「花陽、お前……」

花陽「だから邪魔しないで」

花陽兄「……花陽。お前、強くなったんだな」

花陽「……!」

花陽兄「妹のことだからな、わかるさ。だけど花陽、それはお前の強さじゃない。借り物だ。だから覚悟も責任もない」

花陽「……」

花陽兄「スクールヒーローとして活動することにも負い目を感じている。だから輪に入っていけない。それはお前の力じゃないから。本当は自分は弱いままだって、もう気づいてるんだろ」

花陽「……うるさい、もう花陽にかまわないでよ」ヒュ

花陽兄「っ、花陽! ……窓から出て行ったか。なんてスピードだ……ったく」


52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 17:39:12.84 ID:gHXUVDCfo
Chapter.4


葬儀場

凛「……かよちん」

花陽「どうして」

凛「……」

花陽「どうしてみんないなくなっちゃうの。花陽の大事な人はみんな……お父さんも、お兄ちゃんもいなくなっちゃったよ……」

凛「かよちん、凛はずっとそばにいるよ」

花陽「凛ちゃん……いなくならないで……どこにもいかないで……花陽を独りにしないで……」

真姫(私は花陽に……掛ける言葉がない)

真姫(彼女の気持ちを気遣ってるとか、見守ってあげるだとか。綺麗な言葉で飾ることはできるけど)

真姫(ただ怖がってるだけ。カッコ悪いわね、パパの後をついで、世界平和を実現したいだなんて。大層な夢を掲げてるくせに)

真姫(花陽と凛は幼馴染で、私はただのよそ者。今更割り込んでいくなんて……友だちだなんて……傲慢よ)

真姫(結局私に本当の友だちなんて……できないんだわ)

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 17:39:43.59 ID:gHXUVDCfo
警察官「この男の顔を知っていますか?」

花陽母「……いいえ」

警察官「でしょうね。他の街からきた流れ者ですよ、我々が必ず捕まえます」

花陽母「お願いします」

花陽「あの」

警察官「どうしました?」

花陽「その手配書、ください」

警察官「どうぞ。――それと、犯人は腕に星形のタトゥーをしています。ご参考までに」

花陽「ありがとうございました」

花陽母「花陽ちゃん、そんなの捨てて。息子を殺した男の顔なんて……二度と見たくないの」

花陽「捨てないよ」

花陽母「花陽ちゃん!」

花陽「お母さんはお父さんがいなくなった時も逃げた。私達に苦しみをぶつけた。だけど私は逃げないよ」

花陽母「……花陽ちゃん……」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 17:40:36.32 ID:gHXUVDCfo
秋葉原 高層ビルの屋上


花陽「大いなる力には、大いなる責任が伴う、か……」

 私の責任。それは逃げないこと。この力を使って、正しいことをするんだ。

花陽「気晴らしのためなんかじゃない、悪い人を捕まえるんだ」

 フードを目深にかぶる。

 そして空に身体を投げ出した。

女「た、助けてぇ!」

ゴツい男「へっへへ、もう逃げられねえぜ」

花陽「ねえ、お兄さん。遊ぶなら私にシない?」

ゴツい男「なんだてめえ、俺はチンチクリンには――ゴァ!」バキッ

女「キャー!!!」

花陽「あなたは逃げてください」

女 コクコク

ゴツい男「いきなりなんだてめぇ!」ジャキ

花陽「拳銃……それで私のことも殺すの?」

ゴツい男「何言ってやが――」

花陽「――遅いよ。弾は全部抜いちゃった」チャリンチャリンチャリン

 私は手から"硬化"を地面に落とした。

 地面と激突して生じる金属音。薄暗く視界が悪い状態だと、銃弾が落ちる音と心理的には同じに感じる。

ゴツい男「いつの間に……!」

花陽「嘘だよ――単純だね」ヒュ

 残弾を確認しようとする男の懐に一瞬で飛び込み、顎を殴りつけた。

 下から顎を殴られた場合、簡単に人は脳震盪になる。

 男は倒れこんだ。

花陽「腕に星のマークは……ない、か」

 ハズレだった。だけど悪い人をやっつけた。

 私は間違ってない。これがお兄ちゃんの望み……そうなんだよね?

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 17:44:09.55 ID:gHXUVDCfo
>>54

>私は手から"硬化"を地面に落とした。

のところ、

私は手から"硬貨"を地面に落とした。

です。

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 17:53:29.94 ID:gHXUVDCfo
数日後 音ノ木坂学院


凛「かよちーん、今朝のニュースみた?」

花陽「え……何の?」

凛「かよちん最近眠そうだね。眠れないの?」

花陽「ううん。大丈夫だよ」

真姫「前に話したフードのヒーロー、最近秋葉原で通り魔やってるんだって」

花陽「っ……通り魔?」

凛「前は人助けだったのに、最近は人相の似た人を毎晩襲ってるみたいだよ」

真姫「きっと個人的な恨みによる犯行ね。やっぱりヒーローなんて、ロクなもんじゃなかったのよ」

凛「ちょっと真姫ちゃん!」

真姫「なによ、本当のことじゃない!」

真姫「そのヒーロー、人助けなんて全然してないじゃない! 確かに被害者は悪人だったかもしれない、だけどそんな人を傷めつけて楽しんでるだけよ!」

真姫「その人がそんなに強いのなら、花陽のお兄さんだって――」ハッ

真姫「――ごめんなさい、私……」

花陽「ううん、いいよ。そうだよね、その人がもっとしっかりしてたら……」

花陽(私がもっと強ければ、もっとしっかりしてたら。あの男を捕まえてたのに)

花陽(真姫ちゃんの言うとおりだ、もっと私が強くならないと)

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 18:20:52.87 ID:gHXUVDCfo


夜 秋葉原


チンピラ「ブクブクブク」

花陽「この人もハズれ……もう、秋葉原からいなくなっちゃったのかなぁ」ピポパ

 スマートフォンに便利なアプリを入れた。

 イヤホンジャックにさせる小型の外部アンテナを利用して、警察無線を傍受数する機能がある。

花陽「西のほうでコンビニ強盗……犯人は銃を所持して逃走中……これだ!」

 私はビル街を飛び、すぐに急行した。

花陽「いた、車で逃げてる。あの中に、お兄ちゃんを殺した男が……!」

 車の上に飛び乗った。パンチで屋根を突き破り、男を中から引きずり出す。

強盗「なんだ、これは……てめえ、前の!」

 星のタトゥーを確認するまでもない。

 こいつだ。

花陽「なんで殺した……!」

強盗「なんの話だよ。ああ、あの若い兄ちゃんか、あいつが死んだのは自業自得だろ。お前をかばってしんだ。自分で死んだんだ」

花陽「ふざけないで!」

強盗「ふざけてなんかいねえよ。そうじゃなけりゃてめえのせいだろ。てめえが油断したから撃たれたんだ。あいつを殺したのは、お前だよ」

花陽「……!」

強盗「それに――また油断したな」

花陽「――!」

 BANG!

 男の銃撃に反応して身を捩った。だけど銃弾は脚をえぐる。血が吹き出す。

花陽「あ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 痛いよぉ……こんなに痛いなんて。こんなものがお兄ちゃんの生命を奪ったなんて……!

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 18:21:19.85 ID:gHXUVDCfo

強盗「そんなに後悔してんなら、今すぐあの兄ちゃんのもとへ送ってやるよ。それが本望だろ?」

花陽「くぅ……!」

 私は手首からツルを伸ばし、強盗の銃を弾き飛ばした。

花陽「うわあああああああああああ!!!」

 がむしゃらにつこんで頭突きを食らわせる。体勢を崩した強盗の上に馬乗りになる。

花陽「絶対に許さない!」バキッバキッ

 そのまま顔面を何度も殴った。ライバーになって強化された力で強盗の顔面は変形していく。

 鼻血は吹き出し、歯が折れる。

花陽「はぁ……はぁ……」

 ツルを伸ばして、弾き飛ばされて落ちた拳銃を拾い上げた。男の額に、それをつきつける。

花陽「選ばせてあげるよ……」

花陽「額は頭蓋骨の一番厚い部分だから、こんな小さな拳銃じゃ即死しないかもね。だけど生き残ってもひどい苦痛があなたを襲う」

花陽「だったらこめかみはどう? でもこめかみは貫通しやすいから、脳に障害が残っても死なないかもしれないね。不自由な身体と頭で生きていきたいならそれでもいいよ」

花陽「口の中からなら――確実に、死ねる。さあ、どれが良いの?」

花陽「――選んで」

強盗「ヒィ……」ガクガク

 男は涙目で失禁していた。

花陽「答えてよ!!!!」

 私は引き金に指をかけた。

???「させません!」

 拳銃が弾き飛ばされる。どこかから飛んできた攻撃――それは、弓矢!?

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 18:28:52.59 ID:gHXUVDCfo

海未「あなたが連続通り魔事件の犯人ですね! この私、スクールヒーロー"ラブアロー"が相手になります!」

花陽(うそっ、同じ学校の園田先輩……!)

海未「数日前から穂乃果たちと分担で張り込んでいた成果が出たようですね。あなたは能力を悪用している、危険な存在です。穂乃果たちと鉢合わせ無くてよかった」

海未「私が――成敗します」

花陽(逃げなきゃ――でも、ここで逃げたらこの男は――)

 ――逃げない。

 そう決めたんだ。

 お兄ちゃんの敵をとる。悪い人をやっつける。この力を、正しいことに使う。そのために。

 この人と、戦うんだ。

海未「逃しませんよ!」バシュバシュ

 園田先輩が矢を連続で放ってくる。正確無比な攻撃。私はギリギリで交わすので精一杯だった。

花陽(脚が……)

 銃弾が中に入ったままだと再生しづらい。

花陽「こうなったら……うっ、ぐぐぐ具うううううううううううううううううううう!」

海未「あなた、何を――!」

海未(銃弾を自分で取り出している……、銃創に繊維をねじ込んで……)

花陽「はぁ……はぁ……とれた!」

 急いで脚にあいた穴を縫い付け、応急処置をする。

 大丈夫、冷静になるんだ。私はツルを使って移動できる、脚が片方使えなくても機動力は失わない。

 この人は弓矢使いだ。得意な中遠距離戦を封じて懐まで飛び込めば私のスピードで……!

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 18:35:29.96 ID:gHXUVDCfo
海未 バシュバシュバシュバシュ

花陽(来た! 一瞬で正確な矢の四連発、すごい技術、だけど……!)

 私は繊維を射出して2本の矢を撃ち落とし、残り二本をかわした。

花陽「まだっ!」バシュ

 通り過ぎた矢を繊維で絡めとり、

花陽「いっけぇ!」

 園田先輩こと"ラブアロー"に向かって投げ返した。

海未「っ!」

 園田先輩は反応してかわした。

花陽(今の反応速度、たぶん私のほうが速い――接近戦なら勝てる!)

 怯んだ隙にツルを伸ばして、一気に接近した。

海未「――甘いのですね」

花陽「え――っ」

 くるん。

 私の視界が反転していた。

 いつのまにか、私の身体はアスファルトの地面にたたきつけられていた。何がおこったのかわからなかった。

海未「武芸百般――弓矢は武器の一つでしかありません。目の前の相手を侮りましたね」

 そうか、いまのは合気か柔術の技。

 知っていたはずなのに。園田先輩は武芸百般と言われるほどの達人。弓道だけじゃない、実家で古武術も修めてるんだって。

 一年生には園田先輩のファンがいて、その人達に聴いたことがあった。なのに……私は冷静さを失っていた。

 負けたんだ……。

海未「そのフード、あなたの顔を見てあげましょう」

 園田先輩が私のフードに手をかけ、そして――

海未「あなたは――!」



海未「――小泉、花陽……?」



Chapter.4 END

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 00:47:20.64 ID:qPJJ4wEgo
Chapter.5


数年前 雪の日

凛「かよちん、どうしたのこんな時間に」

花陽「り、りんちゃん……どうしよう」

花陽「うちの物置の床下で……猫の赤ちゃんが生まれたみたいなの」

 あの冬の日。

 私と凛ちゃんは5匹の子猫を見つけた。

 出会った小さな生命を守ろうと思った。打算とか、先のこととか、何も考えてなかった。

 だけど――

 助かったのは3匹だけだった。

医師「猫アレルギーです」

 しかも、凛ちゃんはアレルギーで猫を飼うことができなくなった。

 うちの家も、おばあちゃんが文鳥を飼ってるから飼えなかった。

凛「かよちん、りんね……ヒーローになりたかったんだ。かよちんがいつも言ってるみたいな。優しくて、小さな生命を守れる人に」

花陽「凛ちゃん……」

凛「でもダメだったよ。えへへ、難しいね。マンガみたいにうまくいかないな」ぐすぐす

花陽「あのね、凛ちゃん。猫ちゃんの飼い主になってくれる人、一緒に探そう?」

凛「飼い主さん?」

花陽「私たちは飼えなかったけど……他のおうちなら猫ちゃんをもらってくれるかも」

花陽「近くで飼ってくれたら、きっとまた会いに行けるよ」

凛「っ……かよちん!」

 凛ちゃんは私にとびついてきた。

凛「よーし、かよちんと凛がママとパパになっていいおうちをさがしてあげよう!」

花陽「うん!」

凛「いっくにゃー!」

 それから凛ちゃんは、猫ちゃんみたいにしゃべるようになりました。

凛「……ねえ、かよちん。ありがとね。凛を守ってくれて」

花陽「そんな、花陽なんて」

凛「ううん、誰がなんて言おうと、やっぱりかよちんは凛にとっての――」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 01:09:56.88 ID:qPJJ4wEgo
現在 穂乃果の部屋


花陽「――あれ、ここは……?」

ことり「あ、眼が覚めたんだ。穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん!」

ガチャ

穂乃果「おー、花陽ちゃん! よかった、ちゃんと起きて安心したよー。また海未ちゃんがやりすぎたのかと」

海未「穂乃果、私は加減を誤るほど未熟ではありません」

穂乃果「冗談だよぉー冗談」アハハ

花陽「あの、私……どうして」

穂乃果「あ、ごめんね。びっくりしたよね、ここは私の部屋だよ。よく三人で集まってるんだー」

海未「あなたを気絶させてから、一番近場だったのでここに運びました」

花陽「そっか、私……負けたんだ」

海未「……」

穂乃果「ねえ、花陽ちゃん! スクールヒーローに入らない!?」

花陽「えっ」

穂乃果「花陽ちゃん、ライバーだったんだね。だったら一緒にやろうよ!」

花陽「え、ええ……!」

ことり「ふふっ、穂乃果ちゃん。花陽ちゃん困ってるよ。ごめんね、いつもいきなりだから」

ことり「だけど私も花陽ちゃんに仲間になってほしいな」

花陽「……いいんですか。私、ヒーローなんて向いてないと思います」

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 01:10:23.52 ID:qPJJ4wEgo
花陽「捕まえなきゃいけなかった犯人を取り逃がして、園田先輩には完敗して……そんなのヒーローじゃないです」

穂乃果「……ねえ、花陽ちゃん。話してくれないかな。どうしてあの人を探してたのか。どうして毎晩悪い人をやっつけてたのか」

花陽「……はい」

 私はいままでの経緯を話した。ここまできて、隠しておく意味なんてなかった。

 研究所で新種のお米を食べたら後天性のライバーになったこと。

 能力を試しているなかで、私の失敗でお兄ちゃんを死なせてしまったこと。

 お兄ちゃんを殺した人を探していたのに関係ない人に暴力をふるって、やっと見つけた犯人まで取り逃がしたこと。

穂乃果「……辛かったね、花陽ちゃん」

花陽「高坂先輩……?」

 高坂先輩は私を抱きしめてくれた。

 なんだかあたたかかった。それは、ずっと忘れていたあたたかさだった。辛い時、苦しい時、お母さんは私を抱きしめてくれなかった。

 誰かの胸の中で泣くこともできなかった。

花陽「うっ、うう……うあああああああああああああああああああああああああ」ポロポロ

穂乃果「もう一人じゃないよ……大丈夫」

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 01:19:53.59 ID:qPJJ4wEgo
花陽「ありがとうございました。今日はこれで失礼します」

穂乃果「花陽ちゃん。スクールヒーローの話、本気で考えといて」

ことり「花陽ちゃんは自分じゃダメだって言ったけど。本物のヒーローなら私達もきっと失格。だけどスクールヒーローなら、やりたいって気持ちがあればできる!」

海未「小泉さん。私は二人みたいに優しくはありません。ですが、拒むこともしません。あなたの意思に任せます」

花陽「はい。私、考えてみます。これまでのこと、これからのこと」

穂乃果「私達、朝は神社の前で練習してるからね! 放課後は屋上だから、気が向いたら来てよ!」

ことり「花陽ちゃんの衣装、すぐに着られるようちゃんと用意しておくからね」

花陽「……はい、失礼します」

 ひとりじゃない。か。

 ずっと私はひとりだった。となりには凛ちゃんがいてくれた。だけど今の私は、凛ちゃんに隠し事をしている。

 きっと私は、自分から一人になったんだ。そんな私が、あの人達と一緒にいていいのかな。

 誰かと仲間になっていいのかな。

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 01:27:07.60 ID:qPJJ4wEgo
音ノ木坂学院


真姫「ねえ、花陽。あなた週末暇?」クルクル

花陽「え、うん。暇だよ」

真姫「じゃ、じゃあ……その……」///

凛「あー、真姫ちゃんズルいにゃー。かよちんとデートしにいこうとしてるでしょー!」

真姫「ヴェェ! 違うわよ! ただうちの会社の新製品完成披露パーティがアキバであるから一緒にいこうと思って!」

花陽「いいの?」

真姫「いいのよ。重役のオジサンたちと話しててもつまらないもの。それと……凛、あなたも……よかったら……」///

凛「凛もいいの!?」

真姫「べ、べつに来たくないならこなくても」

凛「行く行く、いくよ! 真姫ちゃーん、赤くなってかわいいにゃー!」

真姫「ちょっと凛!」テレテレ

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 01:52:29.48 ID:qPJJ4wEgo
秋葉原 西木野コープ 会議室


重役1「よく来たね、西木野社長」

西木野父「こんな時に私を呼び出して、何の用ですか」

重役2「簡単なことだよ。週末の新製品完成披露イベント。その相談だ」

西木野父「その件に関してはすでに決定したはずですが。私の"ワンダフル・ラッシュ"の成果をご覧にいれると」

重役1「それでは遅すぎたのだよ、社長」

重役2「スポンサーはすでに君への信頼を失った。我々も君の秘密主義にはうんざりしていてね、そこで君の"後任"を用意した。入りたまえ、統堂くん、入りたまえ」

統堂「はじめまして、統堂と申します」

重役2「彼は遺伝子工学とロボティクス分野の天才でね。君の研究と平行して我々と"UTX"で共同して進めていたプランがあるのだよ」

西木野父「プランだと……私に黙ってですか。"UTX"……まさか」

統堂「お察しのとおりですよ、西木野先生。"モーメント・リング"計画の一貫として進行していたプロジェクトA-RISE――入りなさい、英玲奈」

英玲奈「ハイ」ツカツカ

統堂「ご紹介します。皆さん、これが私の"娘"にして"最高傑作"。人造ライバー"統堂英玲奈"です」

西木野父(プロジェクトA-RISEだと……完成していたのか)

統堂「あなたのように後天的に進化させる手法では個人因子が大きすぎる。特に精神への影響は抑制できない。だからライバー因子に適合する人間を一から作ってしまえばいいのです」

統堂「この統堂は私の遺伝子を元にライバー因子に適合するよう改良し、さらにライバーのパワーに肉体が耐えられるよう一部機械化しています」

統堂「脳に埋め込んだ制御チップにより行動は完全に抑制されています、あなたの理論と違い、100%安全です」

統堂「あなたの時代は終わったんですよ、西木野先生」

重役2「統堂くんが説明したとおりだ。次の発表会では統堂英玲奈の発表を中心に行う」

重役1「この発明が世界を変える――鈍い君にでももう理解できるな。彼女の遺伝子サンプルと内蔵兵器は再現性があり量産可能。これは戦争を根本から変えるのだ」

西木野父「私は世界平和のために研究を続けてきた……そんな使いみちを認めるわけにはいかない」

重役2「君がどう言おうと無駄だよ。言ったはずだ、統堂くんが君の後任だと」

重役1「役員会議により今日付けで君はクビになった。これからの西木野コープは"UTX"傘下となり、統堂社長の新体制下で再スタートをとげる」

統堂「さようなら西木野先生、もう会うこともないでしょう」

 バタン

西木野父「……クッ」

西木野父(俗物どもめ。どいつもこいつも……目先のこと、金のこと。くだらんことにこだわって魂を汚し続ける)

西木野父(小泉だけは、あの男だけは違った。だがもう小泉はいない。私の過ちのせいで……私がやらなければならないんだ。奴の理想を……世界平和を――)

 ――私が成し遂げる。

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:23:58.93 ID:qPJJ4wEgo

週末 秋葉原 西木野コープ新製品発表イベント会場


花陽「はむっ、はふっはふっ!」

凛「かよちん嬉しそうだにゃー」

真姫「花陽ってけっこういっぱい食べるのね……」

凛「凛はそんなかよちんも好きにゃー」

 能力を得てから、私は前よりもずっとエネルギー消費が激しくなって、お腹がすくようになっていた。

 ツルのをはじめとして手からだから植物を出したり、傷を再生したりするとそれ相応のエネルギーを消費する。

 その分は食べて回復しないといけないらしい。

凛「あれ、何か始まるみたいだよ」

真姫「パパの研究発表よ!」

凛「真姫ちゃんが目を輝かせてるにゃー」

凛「凛はそういう真姫ちゃんもかわいいと思うよ」

真姫「カラカワナイデ!」

会場ナレーション【では、本日のメインイベント。西木野コープの新たな技術を発表いたします!】

真姫「パパ――えっ……?」

統堂【本日の発表は、新社長となった私からさせていだたきたいと思います】

真姫「どういうこと……?」

凛「真姫ちゃんのお父さんはどこ?」

真姫「新社長って……私聞いてない。パパ、パパはどこ……」

統堂【ではご覧にいれましょう、私の娘にして世界初の後天的"ライバー"統堂英玲奈!!】

 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

英玲奈【ヨロシクオネガイシマス】

統堂【英玲奈、力を見せてあげなさい】

英玲奈 コクリ

 英玲奈さんは目の前に置かれた分厚い鉄板を、パンチ一発で砕いた。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

統堂【ライバーの能力はすべての人に平等に分け与えられることになる。我々西木野コープが世界の未来を変えるのです!】

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 会場が湧いた。

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:26:45.34 ID:qPJJ4wEgo
真姫「嘘……そんなことが……」

花陽(あれ、何か違和感が……)バチッ

凛「あそこ、見て、飛行機!」

 凛ちゃんの指差した先を見る。天井が開いているイベント会場からは、空がよく見えた。

花陽「あれは飛行機じゃない――人だよ!」

凛「何言ってるにゃかよちん、人があんなスピードで飛んで来るはずが……」

???「ハーッハッハッハッハ!!!!」

 ミテヨ アレナニ ナニカトンデクルゾ

???「ふはははははははは!!! 統堂、貴様の新体制も一日で終わりにしてやろう!」

 高速で飛来した人――人造の翼を広げ、ブースターで推進してくる謎の人物。

 それが手から何かを投げてきた。球体の物質。それをコーポの重要人物が集まる壇上に――

 私はピンときた。

花陽(ば――爆弾!?)

花陽「にげ――!」

 チュドオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

 だけど――間に合わなかった。

 強烈に圧縮されたエネルギーが壇上の人たちを一瞬で消し炭に変えてしまった。



73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:27:32.66 ID:qPJJ4wEgo
統堂「くっ……何だアレは」

英玲奈「ゴブジデシタカ」

統堂「英玲奈……フォースフィールドで防いだか。さすが私の最高傑作」

???「最高傑作だとぉ?」

統堂「何者だ貴様……そのマスクとスーツ、西木野研究所で試作されていた……!」

???「俺は"ダイヤモンドプリンス"! 貴様の傑作とやらをブチこわしに来た!」

統堂「英玲奈、やれ!」

英玲奈「ハイ」

ダイヤモンドプリンス「俗物が」

 ダイヤモンドプリンスと名乗った人物は英玲奈さんの攻撃を軽々とかわした。

ダイヤモンドプリンス「さっきの爆撃でダメージがあったんだろぉ? 動きがにぶいぞ、お人形さん?」ブシュ

 すれ違いざまに英玲奈さんの首に何かを撃ち込んだ。

英玲奈「ッ! ……ガ、ガガガガ」バチバチ

ダイヤモンドプリンス「制御チップを破壊した。これでただのお人形だなぁ……ククク」

統堂「くそっ、くそっ……私は死ぬわけにはいかない。私は天才だぞ、世界の損失だ……!」

ダイヤモンドプリンス「そうやって命乞いをしてきた奴らを、あんたは何人地獄に落としてきた?」

ダイヤモンドプリンス「終わりだ」

花陽「やめてええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 私はダイヤモンドプリンスの身体に飛び込んだ。

 タックルをくらわせてもビクともしない。

花陽「くっ……!」

 凛ちゃんと真姫ちゃんは先に避難してもらった。パーカーを着て、今の私は――

 ううん。もういいんだ。ヒーローになんてなれなくてもいい。

 ただ、ここには凛ちゃんがいる。真姫ちゃんがいる。

 目の前で倒れている統堂さんという人がどんな人なのかは知らない。

 だけど、守りたいと思った。傷ついてほしくなかった。

 ただ、そこにいて欲しいと思った。いなくなってほしくなかった。

 そう思ったら、自然と身体が動いたんだ。

 だから私――もう逃げない!

花陽「私が……私がみんなを守る!」

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:28:16.31 ID:qPJJ4wEgo
Chapter.5 END