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「ガラス妄想」とは、自分の体はガラスでできていると信じ込み、壊れやすく粉々に砕け散ってしまうことを極端に恐れる精神障害の一種である。15世紀から17世紀のヨーロッパで顕著にみられたが、現在でもまだこの症状を持った人が存在する。
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中世におけるガラス妄想
ガラス妄想のもっとも有名な例は、中世後期のフランス王シャルル6世だろう。彼は毛布に身を包み、自分の臀部が壊れないようにしたと言われている。
ガラス妄想の例は、ヨーロッパの中世の百科事典に突然現れる。フィクションでの文献もいくつかあるが、もっとも知られているのは、セルバンテスによる1613年の短編集の中の『ガラスの学士』。主人公が催淫剤のつもりで摂取したマルメロ(バラ科の落葉高木)が、ガラス妄想の引き金になってしまったという話だ。
患者は、自分はガラスになったと信じている以外は一見正常で、日常生活もちゃんと機能している。人が近寄りすぎて、壊れやすい手足が粉々になる危険を心配しているだけだ。
しかし、1830年代には、この妄想の記録は消えてしまう。それは、社会や文化が劇的に変化した影響もあるだろう。この特殊な妄想の症状が表立って現れることはなかった。
近代におけるガラス妄想
しかし、オランダ、ライデンのエンデギースト精神病院の理事である精神科医アンディ・ラメイジンは、現代のケースも公表している。患者らのカルテを調べていくうちに、この謎めいた妄想の意味を突き止めるチャンスとなった。これはまぎれもないガラス妄想のケースだった。
ラメイジンは1830年以降の患者の記録を調べあげた。エジンバラの精神病院の歴史文書にある1883年の講義では、300人の女性患者の症状をとりあげている。そのうちのひとりは自分の足がガラスでできていると信じていたという。
1880年代の別の例は、セルバンテスの『ガラスの学士』の脚注に出てくる。パリの精神病院で当時あったケースについてふれているが、それ以上の詳細はわからない。
ラメイジンはこの現象について講義を行ったり、論文を書いているが、仲間の精神科医が自分のオランダの病院の1930年代にさかのぼる文書の中で、あるケースを発見した。精神病院に入院したその女性は、自分の足と背中がガラスでできていると思い込んでいて、人と接触すると壊れてしまうと怖れ、看護婦も近づくことができなかったという。
女性は治療を受けて回復したようだ。また別の医者が、1964年からの違う病院のケースを、ラメイジンのところに持ち込んだ。その一方で、ある若者がライデンの大学病院に現れて、自分はガラスでできていると主張した。ラメイジンは、長期に渡ってガラス妄想の症状を示している、現代の生の患者と話すチャンスを逃すまいとした。
患者からのヒアリング
ラメイジンはこの若者と数時間に渡って会見した。話を歪めないように、壊れやすいとか、透明といった言葉は出さずに、自分がガラスであるということはどういう感じなのかを訊ねた。若者は最初は渋っていたが、そのうち口を開き始めた。
若者は部屋の窓を指さして、ラメイジンになにが見えるかを訊いた。ラメイジンは外の通りや車やビル、歩く人が見えると答えた。すると、若者は「先生は窓ガラスを見ていない。ガラスがそこにあるのに、先生は見なかった」と言った。そして、「あれはぼく。ぼくはあそこにいるのに、いない。まるで窓のガラスみたいなんだ」
会話は続き、若者はガラスでできているという感覚をさらに詳しく説明した。スイッチを入れたり切ったりするように、そこにいる、いないという感覚を心の中で自由に変えることができるのだという。消えたり、また現われたりできるらしい。
何故現代にガラス妄想が起きるのか?
話を進めるうち、彼は最近事故にあっていたことが明らかになった。ラメイジンはなぜ現代の人間がガラス妄想の症状を示すのか、ひとつの仮説を考え出した。
問題の若者は、ガラス妄想を通して、事故後の人間関係の距離の調整をしているという。事故の後、若者の家族は彼に対してやたら過保護になってしまったため、ガラス妄想は自分のプライバシーを取り戻し、やたらと干渉する家族から逃げるための手段だというのだ。
中世期、特に17世紀には、精神疾患をもつ人にガラス妄想の症状があらわれる理由はたくさんあった。当時は、透明なガラスは珍しい素材だったため、まるで魔法か錬金術のような感覚で見られていたのだ。
しかし、もうガラスが珍しいものではない現代に、なぜ、再びガラス妄想はあらわれたのか?ガラス妄想を呼び起こす、現代の引き金はなんなのだろうか?
精神分析医のアダム・フィリップスは、ガラス妄想は、同じ時代の社会と共鳴する力がかなり大きく、壊れやすいこと、透明性、個人の空間に関するさまざまな不安が、現代社会で生きる多くの人々の体験や心配ごとと直接関係しているという。
自分がガラスでできているという感覚は、ますます人があふれ、テクノロジーの進歩に孤立させられる、境界線のない共同体である社会との折り合い方を理解する上で、有効な方法かもしれない。
『ガラスの足をもつ少女』の著者アリ・ショーは、ガラス妄想はわたしたちのほとんどが多かれ少なかれ体験する、社会不安の極端な結果ではないかと言う。社会でへまをしたり、なにかを破壊してしまう恐怖は、本当は社会的な屈辱の恐怖が誇張されたものだという。
トロント大学の精神医学の歴史家エドワード・ショーター教授は、17世紀のヨーロッパでは、透明ガラスが比較的新しい素材だったことが、この障害を理解する鍵を握っていると言う。歴史を通して、創造力豊かな潜在意識が、こうした妄想を新しい素材や時代の技術進歩と結びつけてきたと主張する。
19世紀には、セメント妄想なるものもあらわれた。ちょうどこの頃は新たな建築材料として、セメントが登場したころだ。最近の妄想は、CIAやその他の警備サービスがマイクロ送信機で、人々の考えをダウンロードしているとか、人の心が読めるといった誤まった思い込みがある。
19世紀にはセメント妄想もあらわれた。
現代では、ガラスは特に目新しいものではないが、人の心を奪う力はまだあり、現代社会とうまくやっていく際の、人々の恐怖や希望を反映しているのかもしれない。
via:io9・neatorama.・bbc.など
日本でも心が壊れやすいガラスの少年という歌があるように、思春期はとかくガラスのように壊れやすいイメージがある。壊れそうなものばかり集めてしまうのも思春期における特徴だ。でまあ、中には本当に自分をガラスと信じ込んでいる場合もあるわけで、日本におけるガラス妄想の研究ってどの程度進んでいるのだろう?
私が中学生時代、常に背後に何かの気配をビンビン感じて、いきなり刺されるのが怖すぎて人に背中を見せられず壁に背中を押し付けながらカニ歩きしていたあれも、もしかしたらちゃんとした名前とかあるんだろうか?いや中二病以外で。
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コメント
1. 匿名処理班
いつも心はガラスの十代
2. 匿名処理班
体がガラスでも心はすりガラス
3. 匿名処理班
心はガラスだけど体は剣で出来ています
4. 匿名処理班
人間の心は昔よりも繊細になってると思う。
だから精神疾患も増えている。
もっと人間の心に優しい世の中にならないと、自殺は減らないよ。
5.
6. 匿名処理班
自分の体が不思議なのは理解できるなあ
自分のなかには血や肉が詰まっているのを、理解はしているけど実感が伴っていないというか
その延長線上でこんな考えに行き着くのかな
7. 匿名処理班
ハート・オブ・グラス / ブロンディー
8. 匿名処理班
俺はガラスのハートの持ち主
9. 匿名処理班
※1
よう。おっさん。俺は硝子の少年だわ
10. 匿名処理班
伊藤潤二先生の漫画の世界観
11. 匿名処理班
精神科で20年以上、心理士してるけど
こういう妄想には会ったことがないな。
自分が蝶々だって人には会ったけど。
12. 匿名処理班
グラスボーン / 映画『アンブレイカブル』
13. 匿名処理班
ガラス妄想の人はうっかり足の小指をぶつけた時に「俺の小指割れてねぇじゃん!」とはならないのかな…?
14. 匿名処理班
※6
胃カメラ飲んでその映像リアルタイムで見てたら、なんとなく実感したわ
15. 匿名処理班
涙も硝子かな
16. 匿名処理班
クーロンズゲートというPSのゲームに、妄人(ワンニン)という存在がいたのを思い出しました。
偏執的にモノに執着することによって、モノと人のハザマの存在に化けてしまったのが妄人。妄人になってしまったら、逆に自分がそのモノであると妄想し続けなければ、自我も失い本当にモノになってしまう、という。
元ネタがあるのかわかりませんが、創作でなく中国のタオイズムとか民間伝承で実際に伝えられてたのだとしたら、ガラス妄想のようなものだったのかも。