4月15日にバーチャルリアリティ(以下VR)アクティビティ施設「VR ZONE Project i Can」が開園しました。ナムコとバンダイナムコエンターテイメントが期間限定で運営するアミューズメント施設で、体験・体感するためにはネットからの事前予約が必要です。
新しいエンタテインメントの未来が見える「VR ZONE Project i Can」ですが、VRアクティビティがゲームセンターにどのようなイノベーションをもたらすのか、このコラムではそこを考えてみたいと思います。
やってみないとわからないその迫力
VR版スプラッターハウス「脱出病棟Ω(オメガ)」は廃院となった病院のなかで繰り広げられる惨殺劇の真っただ中に送り込まれるという恐怖の体験です。隣の体験者の悲鳴すら大きな演出効果をもたらします。「高所恐怖SHOW(ショウ)」はビル200メートルに取り残された子猫を救うアクティビティ。風圧、板のきしみ、揺れなど体験できないものが体験できます(下の写真は体験中の筆者。前方に見えるのは子猫をかたどったもの)
運転操作系VRは4種あります。
山手線を運転する「トレインマスター」は、その名の通り電車運転シミュレーター。「リアルドライブ」は、好みのクルマを選択してリアルなサーキットを半円形のドームで開放感あふれるVR体験が味わえます。
VRシネマティックアトラクション「アーガイルシフト」は「サマーレッスン」で得た女性キャラクターの活かし方を操縦方のコーチングというポジションでうまく反映させています。
パワダースノー・マウンテンを駆け下りる「スキーロデオ」は究極のVR体感コンテンツでしょう。スキーのシミュレーターで、左右にエッジを効かせてスピードをコントロールします(下の写真)。アクションがついつい大きくなる点もリアルな体感を味わえます。
VR体験は、体感してみないとその面白さやリアリティは理解できません。早めに体感することをお勧めします。
VRアクティビティは斜陽のゲームセンターの一筋の光明か......
この「VR ZONE Project i Can」を体験して思ったことがあります。それは、VRアクティビティは斜陽のゲームセンタービジネスの一筋の光明になる可能性があるということです。私がセガ(当時はセガエンタープライゼス)に在職した90年代前半は第二次格闘ゲームブームでセガの「バーチャファイター」を筆頭に、ゲームセンターはプレイする人と、それを観る人でにぎわっていました。
ちなみに1990年には全国で2万店舗を超えていたゲームセンターは2003年にはその半分の1万店舗に減り、現在は約5000店舗ほどと言われています。90年代にはシューティング、ドライブ、格闘、スポーツ系などバラエティに富んでいましたが、2006年を機にそのラインアップが大きく変わったと言われています。
大店立地法改定がメーカーとゲームセンターをダメにした?
その変化の要因の1つが「まちづくり3法」の大規模小売店舗立地法(大店立地法)の2006年における指針の改定が背景にあったと思います。この改定により、「市街化調整区域」などへの延べ床面積が1万平方メートルを超す大型小売店舗の出店が制限を受けました。一説によれば、この指針改定によってイオングループでは大型店舗の出店計画を大幅に見直したと言います。
指針の改定による出店見送りになった土地や撤退した店舗跡に「ラウンドワン」などの大型のアミューズメント施設が進出することになります(筆者注:ラウンドワンの店舗数は2016年4月末現在114店舗)。
その結果、ゲームセンター系開発メーカーはラウンドワンのような大店特需にわき、ファミリーで楽しめるメダルゲーム、クレーンゲーム(UFOキャッチャーなど)、プリクラ、キッズ用乗り物を中心にラインアップを組むようになってしまったという開発者の声もありました。コンテンツ・イノベーションの鈍化が始まったと言えそうです。
顧客単価の下落と廃業のダブルネガティブ
さらには顧客単価の大幅な下落も重なりました。かつては200〜300円ほどの設定にしていたゲーム単価が100円程度までに下落しました。また、家庭用ゲームの高品質化も重なり、ゲームセンターならではの特異性も失われ、コンテンツの開発費も削らざるを得ない状況に陥ったのです。
追い打ちをかけるようにゲームセンター経営者の高齢化や経営のスムーズな交代が行えず自主廃業というケースも続きました。つまり町のゲームセンターの廃業と大手ゲームセンターの集約を促進する結果になったのです。
できないことができる、やりたかったことができる! ファミリーからシルバー世代までカバー
一方、VRです。一般人では体験できないことができるアクティビティとして今回のProject i Canは素晴らしい演出と、想像を超えたVR体験を提供しています。現在のゲームセンターを支えるキッズからファミリー、そしてシニア、シルバー世代がゲームセンターを活用するという事例も増えています。
さまざまな年齢層へのVRアクティビティの研究と導入をすることで新たなゲームセンタービジネスの拡張の可能性を感じます。ただしそれが実現したときにはゲームセンターという名称ではなくVRアクトラクション、VRアクティビティなどの名称が一般化しているかもしれません。
VRデバイスはHTCが全面的にサポート
受け身のゲームセンタービジネスからホスピタリティビジネスに!
ゲームセンターが、VRアクティビティを導入し成功するためには、ゲームセンターのビジネスモデルそのものを根本から考え直すタイミングに来ています。VRアクティビティは「できないことができる」「やりかったけど今までやれなかったことができる」という貴重な体験を売り物にしています。同時に、それらを活かすためにはゲームセンター側もゲームを遊んでもらう受け身のビジネスではなく、顧客をいかに楽しませるかというおもてなしの心、ホスピタリティビジネスへの意識を変えてもらうことが必要でしょう。
バンダイナムコエンターテイメントでVRアクティビティの責任者を務め、Project i Canのコヤ所長こと小山順一朗エグゼクティブプロデューサー(AM事業部)はこう話します。「VRアクティビティのコンテンツ開発に際しては物理脳モデルを研究しました。子供は酔いやすくさめやすい、大人は酔いにくくという自律神経の作用を含めて、座って体験するものではなく、立って動けるVRアクティビティを目指して開発をしました」
21世紀のゲーム開発のイノベーションともいえるこのVRアクティビティはメーカー、ゲームセンター、そして我々顧客(プレイヤー)が一緒に育ててゆく必要があると思います。まずはVRアクティビティを体感してみてください。