李衣菜「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビぃ…?」
きっかけは、えっと。
母さんの車のラジオから流れた曲にビビッときたからとか、そんな感じだったと思う、タブン。
その曲は英詩だったから、メロディしかわからなかった。あ、“LOVE”とか“NEED”とかだけはわかったけど。
だからCDショップの店員さんに鼻歌を披露して、どのアーティストか教えてもらったんだっけ。
いやぁ~、いま思えば、恥ずかしいことしたかなぁ。お客さん、みぃんな陰でクスクス笑ってたし。
でもね、そのときは洋楽のCDを買うってのが、カッコイイ!ってとにかく心の底から思ったんだ。なんかクラスの他の子よりちょっと背伸びしたみたいでさ。
次の日、学校での開口一番のことば。
ねぇねぇ、ロックっていいよねぇ~! いや~もうフワフワしたポップソングとか聴いてらんないよ~。
……あ、笑うな~! い、いいじゃん、いいじゃん! 私らしいじゃん!
それから、ロックミュージックの雑誌を参考に、ロックっぽい服に袖を通したのが3日後。
お小遣いを溜めてぴかぴかのヘッドホンを買ったのは3ヵ月後。
お年玉と誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントをいっしょくたにさせて、水道橋のお店で「とにかくイカすギターください!」って叫んでギターを買ったのが1年後。
コード抑えらんなくて投げ出したのが1年ぷらす1ヶ月後。ベースとギターは別モノってのに気付いたのがそれから更に3ヵ月後。
それからそれから……。
『346プロ新人アイドルオーディション』の広告をネットで見かけたのが2年後のこと。
17歳、つまり、今年のことっ!
……。
それじゃ、まずは自己紹介してもらえるかな。私と長机を挟んで、どまんなかに座る白髪のおじさんは言った。
私は勢いよく返事してから、パイプ椅子から立ち上がって叫んだ。
「スーパーロックアイドル目指してます、多田李衣菜です!」
ざわ、どよめき。書類に目を落としていたおじさんたちの視線が私に集中した。注目されてる。
おっ、なんかいい感じ♪ ノってきた!
「わたくし、多田李衣菜は、ロックな衣装を着て、身も心もロックなアイドルとしてやっていくと、ここに誓いますっ!」
カンペキにキマった……。目をつむって、感傷に浸る、フリ。顔の角度はばっちり斜め下45度。
いやぁ、ロックだねぇ! 君のような型破りなアイドルをウチは欲しかったんだよ、なんて言葉をまつ。
「……」
あれ、反応がない。かりかりとボールペンが、無機質に書類をひっかく音だけがする。
ひそひそと、小声が耳に届く。ルックスはいいね、キュートな路線だったら案外……、歌唱力次第かな。
れ、れれれ、冷静すぎない!?
わ、私もしかして、おもいっきり空振った?!
途端に恥ずかしさで、身体がかっかと火照ってきた。ど、どどどうしよ、目ぇ開けらんないよ~!
──ずっと黙っているが、君はどう思う? もしかしたら、君の担当になる可能性もあるんだ。
白髪のおじさんの声。その呼びかけに、野太い声が応えた。
「はい、その、多田李衣菜さん、でしたでしょうか」
不意に名前を呼ばれた。おっかなびっくり瞼をもちあげる。
よくよくみれば、おじさんと呼べるほどおじさんじゃない、男の人が私をじっと見つめて、こう言った。
「いい、笑顔です」
これはまだ、346プロが夢と希望に包まれていたころのはなしだ。
・お待たせしてすいませんでした 宣言通りCu→Pa→Co
・1作目 卯月「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですか?」
2作目 心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」
・タイトルと前作から察して、そういう要素があります 苦手な方、むーりぃーな方は気を付けてください
・超ゆっくり進行 長さはたぶん前作前々作と同じくらい あまり期待せず楽しんでいただければ…
・雑談ご自由に
しみひとつないまっさらな純白の封筒。
手にとると、さらさらした粉が指にぺったり貼りついた。光にあてられると、きれいな七色に輝く粉。
なんだかその封筒は、フクロウかなにかによって魔法の世界から届けられたような、そんな印象を含んでいた。
宙返りする心臓を、なだめながら、おそるおそる閉じられた便箋をひらく。
そこには……。
──あなたは、当社が本年度実施した表記のオーディションに合格したので通知します。なお、これからの手続きについては……。
……。
う……。
「うっひょー!!!」
受かった! 合格した!
居ても立ってもいられなくなって、跳びまわる。心臓の鼓動はさらに高まって、ばくんばくんとバク転を決めつづける。
あぁ、もう私自身がバク転したい気分! できないけど! 学校の友達に手当たり次第に電話をかける。
「これから私はアイドルになるんだよ、スーパーロックなアイドルに! 音楽番組にでて、ギターをかきならして、海外のなんかすっごい有名なミュージシャンと共演するんだよ!」
反応は様々だった。おめでとうって泣いて喜ぶ友達もいれば、まさかみんな冗談でけしかけたのに本当にオーディション受けるなんてって驚く友達もいる。
はやる気持ちを抑えきれずに、スマートホンに向けてまくしたてる。
「それから自分のロックのルーツについてのインタビューなんて受けちゃってさっ、ステージでリーナコールが湧き上がってさっ、あっ、そうだ、武道館でソロライブやりたい、武道館!」
ロックミュージシャンはみんな武道館が夢だっていってた! だから私も夢は武道館! きめた!
ちなみに、武道館は東京にふたつあるっていうのはずっとずっと後に知った。
友達の一人が心配そうに言った。
あ、あの、李衣菜ちゃん、アイドルってどんなものかわかってて受けたんだよね?
「えっ、わかんないけど! でもみんなロックなアイドルって斬新でカッコイイんじゃないのって言ったよね! 李衣菜ならなれるよーって笑ってたよね!」
前例がないことをする、んー、それって最高にロックな気がする!
「あ、歌うのは大丈夫、大丈夫、私けっこう音感良いねって音楽の先生に褒められるし! カラオケ好きだし! ギターだってこれからじゃんじゃんばりばり巧くなるよ!」
電話越しに深いふかい溜息がきこえたのは、きっと気のせいだ!
「納得できませぇ~ん!」
コワモテのプロデューサーは、おっきな掌を首にあてて「はぁ」と困ったように呻いた。
そうはいっても、方針ですので。バインダーに留められた書類の文字を目で追って、業務的な口調で話すプロデューサー。
まるでレールの上をひたすら進むことが正しいとでもいうような態度をたまに見せる人だった。
「なんで、なんでですかぁ~!」
ホコリかぶったギターも部屋の奥から引っ張り出してきたのに!
雑誌に載ってるロックな衣装にぜぇ~んぶ赤マルつけてきたのに!
最近クルマのCMで流れてるブ、ブリティッシュソング?をカラオケでいっぱい練習してきたのに!
私にいの一番に与えられた衣装は、ひらひらの水色のワンピースだった。
なんでも部署に回す宣伝用の写真を試しに撮影する、らしい。
「こ、こんなの全然ロックじゃないですよぉ~」
駄々をこねる私に、ほとほと困り果てた様子でプロデューサーは首をかしげる。
そりゃカワイイ衣装だって嫌いじゃないけど……それとこれとは話がべーつー!
「プロデューサー、私オーディションで宣言した通りロックなアイドル目指してるんですっ」
「ロックなアイドル、でしょうか……」
「はい、まずはーイケイケなアッパーチューンを歌っちゃってーステージでイェーイとかノってるかーいとか言っちゃってー」
「いぇーい、でしょうか……」
「それからそれから……」
自分が想い描く、好きなことを指を折りながら、ありったけ吐き出す。
全部まるっと私の願望を聞き終えたプロデューサーは、表情を変えずに言った。
「……検討はしてみますが、まずはデビューを目指して着実に階段を昇っていきませんか、それからでも遅くないかと」
うぐ、ぐうの音もでない正論……。
アイドルになれば即ステージにあがって、好きな歌を好きなだけ歌えるんだと思ってた。
でも違った。ファンの目には届かない部分で、ひたすら下積みをしなきゃいけない。
レッスンに営業回り、オーディション、ときには他の娘のヘルプ。握手会なんて仕事もあることだって初めて知った。
私は、アイドルのことをほとんど何も知らずにアイドルになっちゃったんだなぁと、今更ながら呑気に思った。
──ふっ、うぐ……やった……やったよぉ……。
ふと、廊下のほうからすすり泣きが聞こえた。ドアは閉まってるから、誰かはわからない。
ま、事務所に知り合いなんてまだ一人もいないんだけどさ。
扉越しの誰か、声からして女の子は、嗚咽を隠すこともなくえづきながら必死に言葉をつなげる。
──オーディション、合格だって……その場で言わ、れた……な、なんかあまりに突然で、ぶわっときちゃって……。
どうやら女の子は電話をしてるみたいだった。
──何度も何度も受けて、落ちて、たまに、ひどいことも言われて、それでも受け続けてやっと、やっとだよ……やっと夢見たアイドルになれる……。
ずず、と鼻水をすする音がきこえる。
元の声色を判別できないほどに涙でしわがれた声は、ひどく不格好だったけれど、私の感情をたしかに揺さぶった。
──346プロ受けて、本当によ、かった。
──大、阪から上京してきて、ほんまによかった……。
泣き声がだんだんと遠ざかっていって、やがて聞こえなくなった。
「……」
そっか、ああいう子もいるんだ。アイドルになりたくてなりたくてなった子。私とはまるで正反対。
……頑張ってほしいな。私とは目指す場所は違っても、いつかあの子がきらめくステージに立てるように、なぁんて。
うん、私だって頑張らなきゃ、いけないよね。
こころの奥で暴れるきかんぼうをなんとか鎮める。
ぐっと拳をにぎって、プロデューサーの顔をまっすぐ見据えて言った。
ロックなアイドルは諦めないけど……。
「……わかりました、まずは着実に、ですね」
はじめて挑戦した撮影は、案外たのしかった。
なんでも、「女の子の輝く夢を叶えるためのプロジェクト」だそうで、アイドルの卵たちを幅広いジャンルで活躍できるアイドルに育て上げる事を目標とする。
なんて名目がひっさげられていた。くわえて、14人の枠のメンバーがいるらしい。
莉嘉ちゃんに、なんでいままで知らなかったの~!信じらんな~い!なんて散々ツッコまれたけど。
だってさ、ロックなアイドルっていいよねって思ったとき、もう身体がウズウズしちゃって止まんなかったんだ。
私はいつだってそうだった。
まずは自分がイケてると思ったものに向かって突っ走る! こころは数歩うしろから追いついてくる。
山積みになったヘッドホンのコレクションや、買ったのに一回も聴いてなかったりする音楽CDのタワーはその性格の表れともいえる。
……たはは。
ちなみに2人に「ねぇねぇ、それじゃ早速ユニット組んじゃう? ユニット名はそうだなぁ、ロッキングガールなんてどう?」
なんて提案してみたら、かな子ちゃんにクッキーみっつと引き換えにやんわりと否定された。
それから蘭子ちゃんが日傘をさしながら部屋に入ってきて、杏ちゃんがきらりちゃんに引きずられてきて……。
メンバーが着々と増えていくにつれて、私の心はどうしようもなくワクワクした。
未体験だったダンスのレッスンはとっても新鮮だったし、売り込みで色々な現場に連れていかれるのも嫌いじゃなかった。
あたらしいなにかに挑戦するのは、痛快だ。
しらないなにかに触れるのは、愉快だ。
ギターのあたらしいコードを覚えたとき。自分の世界がちょっと広がった感覚がする。
……まだCコードとGコードしか覚えてないけどさ、えへへ。
兎にも角にも、そんな感覚がまいにち、ばんばんと私におしよせてくる。
今まで学校という枠組みでしか生きてこなかった私にとって、アイドル業界はなによりも刺激的だったんだ!
うっひょー!
多田李衣菜、ロックなアイドル目指して日々前進中ですっ。
346プロダクションの敷地を、あらためて見学することになった。
専属のスタッフがいるエステルーム、最近の機器が揃ったトレーニングルーム、大きなおおきな噴水、はずれにある誰かの温もりが残ってた木製のベンチ、。
どれもこれも、目に焼き付けながら、ときには手でぺたぺたと触りながら見て回った。
なんだか本当にシンデレラのお城にきちゃったみたいだ。ついこの間まではフツーのちょっとロックな女子高生だったのに。
あはは、李衣菜ちゃんすっごい目ぇキラキラさせてるー、なんて莉嘉ちゃんに何度もからかわれた。
お昼どきのカフェにも立ち寄った。
満員御礼の席。あたたかい陽だまりに包まれてみんなたのしげに談笑してた。
多分、私が名前を知らないアイドルもたくさんそこにいたと思う。
どれどれ私とロックの話ができそうな子いないかな~なんて探してみる。
まずひときわ目をひいたのが、ちいさな背丈のメイド服の店員さんと、金髪のツインテールの女の子……ん?
いや、前言撤回、よくみれば、うん、金髪のツインテールのお姉さんが視界に入った。
会話が自然と耳にとびこんでくる。
「ナーナちゃんっ♪ 今日も例のヤツ、よろしくぅ」
「だーからー満員のときに居座らないでくださいって言ってるじゃないですかっ」
「ままっ、そう言わずにナナ先輩♪ 昔のユニットのよしみのスウィーティーな後輩のためにひと肌脱いで、あ、肌見せたらやばいか☆」
「ぜんっぜん笑えないですよぉっ! 心ちゃんもちゃんと、お仕事してくださいっ」
「だぁって仕事ないんだからしゃーないだろ☆」
「はぁ、もう……」
「ダーイジョーブ、346プロだって新プロジェクトいくつも立ち上がって調子いいみたいだし、いつか必ずしゅがははブレイクするって☆」
「まぁ
コメント一覧
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- 2016年05月11日 21:29
- まーたコイツか
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- 2016年05月11日 21:35
- もういいわ(嫌悪)
いつになったらジサツしてくれるんだ
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- 2016年05月11日 21:40
- 半年も前なのか
続き読みたかったんだよな
-
- 2016年05月11日 21:47
- 待ってた
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- 2016年05月11日 21:47
- >次回Paアイドル 上位のお話になると思います
>おそらく一番ハードモード
だそうだぞ
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- 2016年05月11日 21:48
- りーな編は一番爽やかに終わったな
けどPa上位編やるらしいがそれが卯月編よりヘビーになるってどういうこっちゃ…
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- 2016年05月11日 21:48
- この人がこれの合間に書いてたってSSどれだろ。読みたい
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- 2016年05月11日 21:50
- これ書いてる途中に気晴らしに書いたのがフレ鬱だったらしいな
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- 2016年05月11日 21:52
- Pにハゲつけろやモッバ
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- 2016年05月11日 21:56
- まさかの青春ストーリーで驚いた
だりーなでしかできない話だと思った
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- 2016年05月11日 21:57
- 面白かったよ
俺は好きだな
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- 2016年05月11日 22:02
- >>1での文量、>>4での前置き
まあ、予想通りですわ
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- 2016年05月11日 22:04
- こんな不人気アイドルじゃなくてブッチ切りで一位のキャラ編とかみたい
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- 2016年05月11日 22:05
- ものすごい愛を感じる
だりなつで終わるかと思ったらみくがちゃんとキーになってる展開はさすがだと思った
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- 2016年05月11日 22:09
- ※8見つけた。サンクス
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- 2016年05月11日 22:10
- なお実際の総選挙では中間発表の時点でだりーは圏外のもよう
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- 2016年05月11日 22:22
- 今年も書くのか…
いや内容自体は去年のも含めて面白かったし好きではあるけど
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- 2016年05月11日 22:24
- ってこれ去年から書いてたのか
すいませんでした
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- 2016年05月11日 22:32
- なんだかんだアイドルの株は上げていくから憎らしい
前川は美味しい役もらったな
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- 2016年05月11日 22:34
- はい
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- 2016年05月11日 22:34
- このシリーズで判明している順位は
4位幸子・5位志希・7位菜々・10位卯月
14位文香・ 28位凛 ・繰り上げ50位未央
暫定30位前後 みく・李衣菜
トップ10入り確定 瑞樹
次のPa上位編ってトップスリーの誰かなのか・・・
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- 2016年05月11日 22:57
- この時期にこれはキツい
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- 2016年05月11日 23:02
- 実際の総選挙と微妙にリンクさせやがって…!
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- 2016年05月11日 23:36
- クソSS
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- 2016年05月11日 23:40
- 今回もハッピーエンドではなかったが、後味はそれほど悪くなかった
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- 2016年05月11日 23:47
- 読み辛い
改行は大事
話は爽やかで良かったぜ
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