化学兵器は燃やして埋めればOKに、DARPAの出資で開発中
火と土の力で、化学兵器を破壊。
化学兵器の除去は、軍の仕事の中でももっとも気が進まないもののひとつです。でもいつか、それはただ普通のゴミを捨てるのと同じくらい簡単になるかもしれません。アメリカのDARPA(国防高等研究計画局)の出資を受けている研究チームが「有毒物質を無害な土に変えられる技術」を研究しているんです。
神経ガスやマスタードガスなどの化学兵器は国際法で使用禁止となっていますが、多くの国にまだまだたくさん残っています。2013年にはシリアのグータで化学兵器が使われ、民間人も数百人が巻き込まれました。シリアから化学兵器をなくすべく国連などが介入し、2014年8月までには化学兵器600トンが米海軍の船「MV Cape Ray」上で破壊(軍事用語では「非武装化」)されました。
これによって、化学兵器処理の難しさが改めて課題となりました。「Cape Rayはシリアの化学兵器の非武装化において素晴らしい働きをしました」とDARPAの防衛科学研究所プログラムマネジャー、Tyler McQuade博士はいいます。「ただ問題は、化学兵器を長距離輸送して、非武装化を地中海で行なう必要があったことです。万が一なにか問題が起きていたら、地域環境にひどいことになっていたでしょう」
化学兵器を運んだり処理したりが危険なだけでなく、破壊のための「加水分解」といわれる手法では強烈な酸が発生し、それを廃棄するのにまた安全な方法が必要です。そこでMcQuadeさんには、よりクリーンで安全かつシンプルなアイデアがあります。それは、化学兵器を燃やして、残った副産物を土に混ぜてしまうというものです。
ただでさえ危ないガスを燃やすなんて大丈夫なのかと心配になりますが、大丈夫な方法があるようです。「何かを十分高い温度で燃やすと、それはその物質を生成する要素に分解されます」と彼はDARPAの技術展で米Gizmodoに対し語りました。「そこで出るガスを取り出して、土に還せばいいのです」
土壌には鉱物や粘土、有機物などが複雑に混ざり合っていて、天然のスポンジとして周りの空気を吸収し、環境から隔離する作用があります。McQuadeさんの研究によれば、化学兵器と同じような物質でも、十分な高温で燃やされればほとんどは破壊され、シンプルなガスになってしまいます。このガスの中には、たとえば塩化水素やフッ化水素酸のように、空気中に流れ出せば非常に危険なものもあります。でもそれも土の中に入れれば、鉱物にすぐ吸収されてしまいます。
この「Agnostic Compact Demilitarization of Chemical Agents(ACDC、直訳:化学兵器の不可知論的コンパクトな非武装化)」と名付けられた手法では、有毒な廃棄物も出ず、必要な道具はすべてポータブルです。McQuadeさんらが開発した装置のひとつ、不要物をエネルギーに換えるエンジンは、物を燃やすことで発生する電力だけで電気システムを動かすことができます。
「現在、我々は分子のうち最大99.9999%を破壊できます」とMcQuade氏。「つまりこのシステムからは、何も出ていきません」
現在McQuadeさんのチームでは、土壌に隔離された危険物質がどの程度安定しているのかを判定するための研究を進めています。「最終的には、水に浸出していかないものはありません。(中略)でも我々としては、それを自然のプロセスと同様のタイムフレームにしたいと考えています」とのこと。
ACDCの手法を使った最初のフィールド実験は来年春に予定されています。この技術で、世界から化学兵器がなくなっていくことを期待したいです。
source: DARPA
Maddie Stone - Gizmodo US[原文]
(miho)