戻る

このページは以下URLのキャッシュです
http://elephant.2chblog.jp/archives/52167257.html


モバP「春家秋冬」|エレファント速報:SSまとめブログ

TOP

モバP「春家秋冬」

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 21:57:32.82 ID:zg1sdwvFo

住めば都という言葉がある。
何らかの事情により不本意ながらも辺境の地に住まうことになった人間が
「大丈夫。住めば都なんだ」と自分に言い聞かせて慰める言葉だ。
私、双葉杏にとっての女子寮はまさしくそれであった。

六畳のワンルームとキッチン、ユニットバス。一人暮らしをするには十分であっても
以前私が親から与えられた家よりかは狭い。しかも部屋から一歩出ればいつアイドルが襲ってくるか
もわからない。それどころか部屋にいても襲ってくる可能性がある。あの時はここに来たことを後悔した。

しかし時が流れ、気づけばこの寮に住み続けるためにアイドルを続けている自分がつくづく甘いと思う。
大きなお風呂だってあるし、美味しいご飯の出る食堂もある。暇つぶしの相手にも困らない。
そう考えればここは都よりもよっぽどいいものじゃないか。いつの間にかそう考えるようになっていた。

実のところ今でも女子寮脱出もといアイドル引退を諦めたわけではない。
夢の印税生活で遊んで暮らすという当初の夢は思ったよりも印税が少ないという現実に
打ち砕かれたのが事実だ。それもこれもあのプロデューサーが悪いのだ。
あの男は詐欺師が天職に違いないと幾度となく思ったし、今でも思っている。



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 21:58:25.33 ID:zg1sdwvFo

今日も日がな一日ベッドに転がりゲームを楽しもうと考え、ポテチをかじっていると
ノックと共にきらりが部屋に入ってきた。鍵は言うまでもなくかけている。
なぜきらりが私の部屋の鍵を持っているのかはわからない。プロデューサーも持っているから
おそらくはこの男が怪しい。碌な事をしない人間だ。

起き抜けの格好、というよりもいつもの服を着てポテチをかじっている私を見るや否や

「杏ちゃん!」

と語気を強めて迫ってくるので思わず体を起こして姿勢を正す。ゲームはセーブして、脇に置いた。
きらりは両手を腰に当てて、口を尖らせて私に質問をした。

「杏ちゃん、今の季節わかる!?」
「え、うん。春、だよね?」

確かに私は引きこもりの出無精ではあるがそれがわからないほどではない。
一応アイドルだから季節物の仕事をこなすこともあるし、これでも花、があるかわからないが
女子高生なのだ。外に出ざるを得ない機会などいくらでもある。

「桜は見たの!?」
「桜? うーん……事務所前にあったような……」

事務所の正門に桜が生えていたような気がするがはっきりとは思い出せない。
普段通る道であっても注意を払わなければ意外にも記憶に残らないものだ。

「春なのに桜見てないなんて杏ちゃんだめだめになっちゃうよ!」
「きらりってそんなに桜好きだっけ」
「きらりは春なのに桜も見てない杏ちゃんのお部屋閉じこもりに怒ってるの!」

なるほど。きらりはどうやら部屋から出ろと言いたいようだ。楽を捨てよ外へ出よう。
そして桜を見て来い、と。だが全く乗る気にならない。そもそも桜を見ても腹の足しにもならんのだ。
四季折々のものに触れるというのは良いことだと思うが私には不要だ。
そう説きたいのだが、目の前にいるきらりは言って聞くものではない。

「もー、仕方ないな。じゃあコンビニのついでに見てこようかな」
「今なら女子寮の裏にある桜が綺麗だにぃ」

言われて思い出す。そういえばそんなものが生えていた。外では人の目があって羽目を外せない
アイドルが花見をしているとたまに聞く。そこならコンビニに行かずに済むので楽だ。
きらりを満足させるためにもそこへ行っておこう。素直に従う振りをして、私は部屋を出る事にした。



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 21:58:56.54 ID:zg1sdwvFo

「きらりはこれからお仕事だから杏ちゃんもサボっちゃだめだゆ?」

玄関まで行くときらりは事務所のほうへと向かって行った。
どうやらきらりは同行しないようだ。これならそのまま引き返せば桜など見に行かずに済む。
だが相手はきらりだ。おそらく何かしらの仕掛けがあるのだ。そして見に行ってないことがバレたら
大変な事になる。お仕置きと称した何かが待っている。

仕方ないので女子寮の裏手に回る。道は無く、芝生を踏んで歩いて行く。女子寮の周りは芝生と
桜の木が一本生えているだけだ。その周りをぐるりと塀が囲っている。女子寮自体広大な事務所の
敷地内部にあるので外部の人間の目に触れることはないが一応の配慮なのだろう。
最近では少々寂しいと思ったのか、アイドルが花を植えたりしているが、許可を貰っているかはわからない。

桜の木は今が見頃だと言わんばかりの満開で思わず感嘆の声が口から漏れた。
女子寮建設の際にどこかから持ってきた物だと思っていたが、元から生えていたのを
そのまま残したに違いない。枝は広く伸び、それを埋め尽くすように桜の花を纏っている。

が、花見をしている人がひどい。ブルーシートを敷いて、飲み食いをしているようだが明らかに
酒が入っている。あちらも私に気付いたらしくそのうちの一人が猛スピードで近寄って来た。
逃げようとしたがあっけなく捕まってしまった。

「杏ちゃんどうしたのぉ? お酒飲むぅ?」
「ちょっと友紀離れて酒くさい」

べろんべろんに酔っている姫川友紀は何がおかしいのかゲラゲラ笑いながら私に絡み付いてくる。
その度に酒臭い吐息が顔にかかる。笑い声と相まってダメージが大きい。
おそらくきらりはここで花見という名の酒盛りをしているのを知っていたのだ。だから私を送ったのだ。
きらりをうらめしく思いながらどうにか友紀を引き剥がす。友紀は芝生を転がりながら笑っている。
酒ではなく何かクスリでもやっているんじゃないかと疑いながら酒盛り集団に近づく。

アイドルとは少なからず人に夢を見せる仕事だと思っている。私だって仕事はマジメにやる。時もある。
だがこの様はひどすぎる。あの友紀から察していたがおそらく唯一のストッパーになりえただろう
常識人の三船美優は既に柊志乃の膝の上で撃沈していて、高橋礼子と二人に顔をいじられたりしている。
元警察官だったはずの片桐早苗は歌姫と言われている高垣楓と調子外れの北の海峡の冬の様子を歌い
それを川島瑞樹が笑いながら見ている。とてもじゃないがアイドルには見えないし、ファンにも
見せられない光景だ。所詮アイドルも人間ということだ。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 21:59:23.97 ID:zg1sdwvFo

このままここにいれば私は間違いなくひどい目に合う。しかし三船さんの顔をいじっていた二人が
私をじっと見つめている。背後からは小さく笑いながら確実に迫ってきている友紀。どうすれば逃げられる。
走って逃げようものなら友紀にタックルを食らって連行される。
かと言って目の前の地獄に足は踏み込めない。

「杏さん、こちらへどうぞ」

そのとき、天の声が響いた。
しかし声は天ではなく、近くから聞こえる。目線を移すと、そこには優雅にお花見をしている
三人のアイドルがいた。目の前の惨状と桜に意識が行き過ぎて気づかなかったのだ。
そのうちの一人、相原雪乃が手招きをしている。私は蜘蛛の糸を辿るようにその席へと向かった。

手すりの付いた白い椅子と同じく白の丸テーブル。上には金と青の模様の施された西洋の茶器。
四段重ねになったケーキスタンドは美味しそうなお菓子が並んでいるが、二段ほど空になっている。
雪乃さんに勧められて空いていた席に座る。すると櫻井桃華がティーカップにお茶を注いでくれた。
紅色よりも黄金色に似た紅茶が湯気を立て、芳しい匂いを出している。

「お待ちしておりましたわ」

桃華が私に目配せする。四つ目の席とカップ。そうか、きらりは彼女たちに私のことを話していたのだ。
先ほどは疑ってすまないと心の中で謝りつつも注いでもらった紅茶を飲む。品種はわからないが
味がすっきりしていて飲みやすい。甘いお菓子との組み合わせなので風味が強すぎないものを
選んだのだろう。美味しそうにマカロンを頬張っている三人目の参加者、三村かな子を見ながら推察する。

「助かったよ。あのまま居たらどうなっていたか」
「杏さんは未成年ですもの。ひどいことにはなりませんわ」
「でも後処理はすることになりますわね」

雪乃さんと桃華の両サイドから聞こえてくるお嬢様口調に自分も実はどこかのお嬢様でこれも日課の
優雅なお茶会ではないかと錯覚してしまいそうだが、正面でひたすらお菓子を食べるかな子と後ろから
聞こえる下卑た笑い声のおかげでどうにか現実が保てている。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 22:00:06.61 ID:zg1sdwvFo

「雪乃さんと桃華はわかるけど……かな子が参加してるのは意外だね」
「前にお菓子を差し入れしたたときにお誘いされたの~」

かな子の趣味はお菓子作りだ。たまに食べるのでその腕前は良く知っている。
今、かな子がおいしそうに頬張っているマカロンももしかしたら手製かもしれない。

「かな子さんのお菓子は本当に美味しいですわ」
「でも食べすぎには気をつけませんと」
「……お」
「美味しくてもダメなものはダメだよ」
「ぶー。ほら、杏ちゃんも食べて食べて」

差し出されたクッキーを口に含む。甘いバターの香りが口に溶けだす。確かに食べすぎになりそうな味だ。
紅茶を飲めばさらに甘さが引き立つ。口の中を一度流し、ほっと一息を付く。
見上げれば暖かな日差しが花の隙間から花と共に降り注ぐ。
春が来たのだ。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 22:00:45.81 ID:zg1sdwvFo

昨日から続いている雨は今日も降り止むことなく、しとしとと降り続いている。
窓から見える鼠色の空を見上げて、最後に見た青空はいつのことだろうかと漠然と考える。
天候というのは人の心に大きく影響を与える。雨の日は多くの人間が少しばかしの憂鬱を感じるのだ。

しかし目の前にいる前川みくは既に憂鬱を通り越して失意の中にいる。
いつものネコミミは専用のスタンドに安置し、見慣れぬ眼鏡をかけているが
その奥にある瞳は光を失っていた。生気のない目線の先には山積みになったテキストが置かれている。
なんてことはない。ただ勉強をしているだけなのだ。
問題はみくが想像以上に勉強が出来ないことにある。

「もうだめにゃあ……。おしまいにゃあ……」

今日何度目かの絶望の声に私は溜息で答えて、持っていたマンガをベッドに放る。

「どれ、何がわからないの?」
「この数式……この数字……数字ってなに……?」
「これは確か……ほら、このページに公式載ってるから。頑張ってね」
「うぅ……」

恨みがましげな目つきで私を見る。アイドルと学業の両立に苦労している人はみくだけはない。
私だって一応は女子高生なので一応は勉強しておかないといけない立場なのだ。一応。
だがみくと違って卒業出来ればどうでもいい程度にしか思っていないので最低限の勉強しかしていない。
どれだけ成績が低空飛行でも面と向かって両親に面倒な説教をされなくて済むのは遠く離れた地から
上京してきた学生に与えられた権利なのだ。存分に堪能したい。
みくも上京組だが成績は気にしているので、マジメに勉強しているのだがあまり成績が振るわない。

「杏チャーン。東京タワーからなんか落として地面に落ちるまでのなんかわかるんでしょー?
 みくにもっとわかりやすく勉強教えてー」
「あんなのアニメの台本に決まってるじゃん」



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/22(日) 22:01:13.87 ID:zg1sdwvFo

みくが言っているのは少し前に放送した現実のアイドルをアニメ化させて本人が吹き替えをするという
ドキュメンタリーだかなんだかよくわからないアニメの事だ。私としてはとても楽な仕事だったので
ぜひとも続きを希望したいのだがその予定はないらしい。アニメの中では私は『普段はだらけているけど
いざとなると頼りになる頭脳明晰な縁の下の力持ち』というとんでもない設定がされてしまったため
今でも私と他者の間に認識のずれが発生している。アニメと現実をごちゃ混ぜにしてはならない。

「夢も希望もないよ……もうだめにゃあ。おしまいにゃあ」
「別に諦めるなら杏はそれでいいんだけどさ。あんまりだと親からアイドル禁止令とか出るんじゃない?」
「うーそれは良くない……。良くないよ!」

そう言
このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
    • 月間ランキング
    • はてぶ新着
    • アクセスランキング

    SSをツイートする

    SSをはてブする

    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2016年05月22日 23:13
      • >『普段はだらけているけどいざとなると頼りになる頭脳明晰な縁の下の力持ち』というとんでもない設定がされてしまった

        でもあれが公式w
        ハハッ、ワロス
        アイマスはマクロスが如くこの作品みたいに全部劇中劇ってことにした方がいいんじゃないの

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

    カテゴリ別アーカイブ
    月別アーカイブ
    記事検索
    スポンサードリンク
    最新記事
    新着コメント
    LINE読者登録QRコード
    LINE読者登録QRコード
    解析タグ
    ブログパーツ
    ツヴァイ料金
    スポンサードリンク

    • ライブドアブログ

    ページトップへ

    © 2011 エレファント速報:SSまとめブログ. Customize by yoshihira Powered by ライブドアブログ