漣「ちゃんと、素直にお話したかった」
鏡の写る自分を確認する。今日一日提督――ご主人様の傍にいるとなれば、一片たりと
も妥協するつもりになれなかった。出来うる限りカワイイ自分を見てほしいという小さな
願いである。
「漣ちゃん、おはよ」
「ん、おは潮っちゃん」
二段ベッドの下からのそのそと同室の潮が起きてきた。寝起きの眠たげな目が妙に艶っ
ぽい。コレが戦力の差なのか、と目線を下げて思う。イヤイヤ、曙にはまだ勝ってるし。
「ザッツライ、潮ちんもさっさと支度しなよー?」
「んー……頑張ってね漣ちゃん」
ふぁい、おーと可愛らしく手を上げる潮に手を振って返し部屋を出る。秘書艦も朝食を食べて
から執務室へ行く手はずとなっている。早めに行かなければ夜の遠征帰りの子や演習のメンバー他
で埋め尽くされて食べるどころでなくなってしまう。朝の光が溢れる廊下を小走りに急ぐ。
と、その中に仏頂面で味噌汁をすする曙の姿を見つけた。たとえ彼女が不機嫌だろうと声を
かけるのに躊躇いは無い。
「へーぃぼのちゃーんおっはよー!」
「……おはよ」
「なーに死にそうな目してんのさーうりうり」
受け取った食事トレーを曙の隣に滑らせて、真横に座る。曙の皿の上にはちょこんとしか
食べ物が無い。信じられないほど小食な姉の食事風景は見る度に心配になる。だからあんなに
骨ばかり目立つ体なのだ。もう少し肉をつけたほうが良いと真剣に思う。
「はぁ……遠征帰りで眠いのよ……あんたは元気ね」
といわれて目の前の自分の皿を見る。焼き鮭二切れに山盛りご飯に味噌汁、野菜も沢山。
まぁ普段よりも多めである。
「そりゃー今日は一日秘書ですからね! 一杯食べて元気出さないと!」
「あぁクソ提督の……ま、がんばんなさいよ」
「ふふふ、ばっちりやってやりますよ!」
食堂で曙と別れ執務室の前に立つ。入室する前に手鏡で最後のチェックを済ませて、
一息ついて扉を叩く。いつもこの瞬間は息が詰まるような緊張感を覚える。
「ご主人様、漣ですー」
「はい、どうぞー」
執務室に入ると、提督は既に机に座って仕事を始めていた。温和な顔に横の大きな窓から
日差しが当たってなおさら穏やかな風貌に見える。思わず自分の表情も緩んでしまう。
「はいお早う、今日もよろしくお願いするね」
「ふふん、この漣にお任せください。さて、今日は何から始めますか?」
「そうだね……あ、そうそう、先に言っておかないといけない事があるんだ」
そういって提督は目の前の書類をめくり始める。何の話だろうか? 大規模作戦はついこの間
終わったばかりだし大型建造の予定も無い、改まって何か話すようなことに心当たりはなかった。
「…………へ?」
書類の題字には異動命令とある。脳みそが文字を認識するまでに暫らく時間がかかった。
余りにも受け入れがたい話である。
一心不乱に、何度も、何度も書類を読み返す。何かの間違いなのではないか、四月バカは
もう二ヶ月前にやったばかりだぞ、等とめまぐるしく思考が動き、嘘でしょと心が喚きたてる。
困ったように頬をかきながら言う。漣はその声に釣られるように書類から顔を上げた。
「実家の親がね、もういい年なんだから嫁でももらってこっちで暮らせって言うのも
あってね、ちょうど良いタイミングだろうって事で受けることにしたんだ」
「なんだか顔も知らない許婚も出来たらしいよ、困ったものだね。あはは……」
「い、許婚?」
「うん、ケッコンもしてないのに結婚するとはねー」
漣が執務室から逃亡した時、偶々近くにいた朧が事情を聞き、探すことを請け負った。
面倒事だとは思うが、姉として見過ごす訳には行かなかった。幸いなことに心当たりはあった。
「……」
人気の無い資料室の隅っこの、棚と棚の隙間に漣は収まっていた。7駆でケンカした時も
漣はここにいた。人気がなくて狭いのがお気に入りなのだろう。体育座りをして顔を伏せて
いる。一応、肩は震えていないようだった。
「温かいお茶とお菓子持って来たよ、とりあえず甘いもの食べな?」
「……ん」
水筒のカップにたぱたぱとお茶が流れ、辺りに香りが立つ。包みを開くとクッキーの甘い
バターの香りが漂ってくる。
「ん……」
「お、やっぱ焼きたては美味しいね、うん」
もそもそと二人で菓子をほお張り、お茶で流し込む。胃からじんわりと熱が広がり、
四肢の先へ広がっていく。黙々と食べている内にクッキーはなくなっていた。
「……ぅん」
「どうする、話す?」
「だいじょうぶ……」
「そっか、適当に言っておくから。あ、お茶残ってるのは飲んじゃっても大丈夫だから」
「ん」
「それじゃ、後でね」
お話しながらお茶でも飲んでいたのだろうと思うと胸が締め付けられた。
最初、漣は自分が想像していた以上に、ショックを受けている事に驚いた。ご主人様
がいなくなると言うのもさる事ながら、許婚と結婚するというのが心を大きく乱した。
しかし、今になってみれば納得の行くことだった。ご主人様と二人でいるのは楽しいし、
一緒にご飯を食べるのは幸せだったし、あーんとかしてふざけるのも楽しかった。まだ艦隊
の規模が小さかった時に港に二人で座ってくだらない事でずっとお話したのは良い思い出である。
まだまだお話したいことが一杯ある。朧がこの間また膝をすりむいたとか曙がこっそり
少女マンガを集めてたとか潮っおぱいがまた成長してたニクラシヤアアア……昨日の夜から
楽しみにしていた。
一つ口に出すと、あとは止まらなかった。
一緒に散歩して、ご飯を食べて、できれば手をつないで。自分の中でわだかまっていた
気持ちが解れて、溢れていく。
ふと、体の底から何かが湧き上がるのを感じる。漏れ出さないように口を硬く閉じる。
肩が震えだすのを止められない。もっとお話したかった、まだ言っていないことが一杯ある。
噛み締めた口の隙間から声が漏れ出す。雪崩るように、次々に思い出が蘇る。この思い出は
もう、増えることが無いのだ。
嗚咽が部屋に響く。今はただ、思い出に浸りながら泣くことしか出来なかった。
・
・
・
・
漣「うぐ、ひぐ…え、な、何?」
エラー娘「ふふふ、私は通称猫吊るし! 今はあなたの味方です!」
漣「へ? ん?」
エラー娘「今からあなたに魔法をかけます」
漣「ま、魔法」
あ、別に坂を全力疾走して川に飛び込む必要は無いですよ? 回数制限も今回の一回きりですし」
漣「は、はぁ……?」
エラー娘「さーてちゃっちゃといきますよ、あ、練度とかも初期化されるのでがんばって
練度99目指してくださいね?」
エラー娘「それーっ!」
猫<にゃーん!
漣「グワーッ!!」
エラー娘「クロコダイーン! なんちゃって」エヘヘ
・
・
・
・
・
漣「ほ、ほんとに一年前だ、しかも練度も1になってるし……うっわ今の漣、弱過ぎ?」
漣「……ナニコレ、脳みそアイタタタなネット小説じゃないんだから」
漣「……mjd? マジで、本当に戻ってるのこれ……!」
漣「や、やってやろうじゃないの」(震え声)
漣「全力で! ご主人様のハートを! この手に!」
漣「まずは執務室をピッカピカにしてやりましょうか。時間に余裕があればご飯の準備とかもだね」
漣「やるぞ、おーっ!」
コメント一覧
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- 2016年06月06日 19:32
- おい、何でまとめたのか説明してもらいましょうか
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- 2016年06月06日 19:36
- 漣かわえーーー
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- 2016年06月06日 19:38
- 相変わらず起だけのSS多いなぁ…。
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- 2016年06月06日 19:44
- ここからなんだよなぁ…
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- 2016年06月06日 20:06
- は・・・?
は?
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- 2016年06月06日 20:13
- ページ数2で、え?次で終わる量なの?
って思ってたらいきなり終わった
これまとめる必要ある?
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- 2016年06月06日 20:25
- こんなのまとめんなよ。面白いとでも思ったの?
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- 2016年06月06日 20:25
- 先にコメント欄を見た俺、余裕のS勝利
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- 2016年06月06日 21:07
- 逆転大勝利の結末まであるように見えるんだけど……。一桁※ニキと俺は違うSSを読んでいるのかな。
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- 2016年06月06日 22:02
- いきなり問答無用で過去に飛ばされたのは斜め上すぎたが、そっちで幸せそうなのでまぁいい……のかな?
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- 2016年06月06日 22:33
- 31: ◆4WVeGluzCUIA 2016/06/06(月) 19:27:27.14 ID:U19rEcSe0
延長戦入ります
1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします 2016年06月06日 19:28
異動をどうにかするんじゃなくて全てなかったことにするのか・・・
そんな軽々しく今までの思い出全てを捨てていいのかよ
いくらなんでも無理やりすぎ
一桁※ニキは延長戦の前に読み終わったからと思うんですけど(精一杯の推理)
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- 2016年06月06日 23:00
- ※12
つまり続きが始まる前にまとめた早漏な管理人のせいだな(強引なまとめ)
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- 2016年06月06日 23:10
- よかった
最後に田舎に帰る提督はいなかった
愉悦部はいなかった
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- 2016年06月06日 23:55
- 初期艦とケッコンカッコカリした提督達が『うちの嫁艦自慢』してるかとおもったらそんなことはなかった
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- 2016年06月07日 00:03
- 時間巻き戻すので台無し
ご都合展開でもいいから続けて書いて欲しかった
そんな軽々しく今までの思い出全てを捨てていいのかよ
いくらなんでも無理やりすぎ