みほ「ごめんね、エリカさん。さようなら、逸見さん」【ガルパンSS】
- 2016年06月10日 23:40
- SS、ガールズ&パンツァー
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黒い森、闇の世の夢、峰に姫
地の文が入っているので、苦手な方はブラウザバック推奨です。
よろしければこちらを聴きながら読んでみてください。
これを書いている時の作業用BGMで、合ってると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=MWS1lRoGvH0&feature=youtu.be
■■■
冬の終わりは新しい季節を連れてきたが、同時に私の大事な人を奪って行った。
黒い森には雷雨、天空には彼女をあざ笑うかのような、どんよりとした雲。
私の目の前の女生徒は今日をもってこの学校の生徒ではなくなった。
女生徒は今まさにこの艦から降りるところで振り返ると一言。
「あぁ、逸見さん」
逸見さん。それが私の名前だ。
けれど、昨日まで呼んでくれていた名前ではなくて、その違和感に少し戸惑った。
「どうしたの? 傘も差さずに。もしかして見送りに来てくれたの?」
傘を差していないのは彼女の方でもあり、彼女は自分のことには無頓着なのだ。
無頓着というか、周りを気にしすぎた果ての自己犠牲の上にあるのが彼女なのだ。
今時そんなの流行らないのに、彼女はそういう性格だった。
そして私はその性格が嫌いだった。
これは見送り……なのだろうか。いや、違う。
連れ戻しにきた、というのは少々語弊があるように思えた。
「優しいんだね、逸見さんは」
にこりと、少し寂しげに笑う彼女に私が抱いたのは。
焦りと疑い、不安、後悔、それと少しの怒りだった。
ザアと視界いっぱいに冷たい雨が降り注ぐ。
とっくに制服も下着も靴もびしょびしょで、カラダも芯まで冷えてしまった。
それでも互いにそのまま無言で立ち続けている。
何を話せばいいのだろう。
どうして何も言ってくれなかったの?
どうして、こんな別れになってしまったの?
暗い影を地に落とした彼女のその影は、生憎の雨でよく見えなかった。
◇◇
「こっち、こっちよ」
周りを気にしながら手を少しあげ、彼女に気づいてもらおうとする。
幸い、喫茶店内には戦車道を選択している生徒はいないけど念には念を。
けれど一向に彼女は気づかないから、結局私は席から立ち上がって彼女を迎えに行くのだった。
「ほら、ここよ、ここ」
「あぁ、そこにいたんだ」
「どうしてあんなに手を振ったのに気づかないのよ。抜けてるわよね、ホント」
「あはは……。あの、ごめんね、いつもこんなので……」
こんなので、とはこうやって隠れて会っていることを指しているのだろう。
「はぁ? どうして」
「だって、堂々と会えないし……いつもこうしてこっそり会ってもらってるし……」
「ははぁん。なるほどね、アンタらしいわ」
彼女は席に着きながら顔を曇らせる。いつもこうだ。
だから私は私なりに精一杯の言葉を彼女に送る。
「……いいのよ、私はこれで」
赤くなる顔を隠すためにテーブルのメニューでも覗いてみながらそっけなく言ってみる。
彼女はまた一言、ごめんねと呟いた。私はそれを気にしないように話を進める。
「それで、今日はどこにいくのよ。まだ聞いてないんだけど。アンタが言い出したんだから」
「あ、うん。お昼前には寄航するでしょ? ほらここ」
そういって彼女は見覚えのある雑誌をピンクのカバンから取り出した。
いたるところに付箋が貼ってあるのを見ると、丸一日遊ぶつもりなんだと気づいた。
「なによ、これ」
「えと、今から行くところリスト」
「ふうん。水族館に、遊園地、動物園にプラネタリウム……って、子供趣味ね、まったく」
「嫌?」
「イヤなんて言ってないじゃない! いいわよ、そこで」
「もしかして行きたいところある? だったらそこも」
行きたいところは無いけれど。一緒に行けるところであれば、私はそこがいい。
絶対、こんなセリフを言うことはないだろうけど。
「ねえ、ショップに寄ってもいい? ボコの新作が出てるかもだからチェックしたくて」
「ホント好きね……時間足りるの? 寮の門限までに帰れる?」
「たぶん」
「はぁ……ちょっと寄越しなさい」
そう言って雑誌を受け取ると、彼女はにこやかに微笑んだ。
「まず午前は動物園で……そのあとは水族館でゆっくりして……あとは……」
「あ、ショップも」
「はいはい分かってるわよ。じゃあ昼にでも見に行きましょ」
こうして二人で出掛けるのは4度目だ。
うち2回は放課後に遊びに行って、今回は初めて朝から出掛ける、それも艦の外に。
夏に差しかかろうとする今日、初めての地元以外のデート、ということだ。
アンタは知ってるの?
いつもより私は気合をいれてオシャレしてきたこと。
つまり前日に服をあーでもないこーでもないと悩んでいたこと。
今日が楽しみすぎて中々寝付けなかったこと。
睡眠不足で目の下のクマを消すのにメイクが少し厚塗りになってしまったこと。
そして。
アンタが行きそうなところは既に調べがついていて、大体の予定を決めていること。
だから、さっきアンタが提案した、行けそうな場所はほとんど調べがついているということ。
というか同じ雑誌を買っていて、私も付箋をつけて目星をつけていたこと。
そしてなにより。
アンタよりも、私が楽しみにしていて。
アンタが私を好き以上に、私がアナタを好きなこと。
ねえ、知ってるの?
■■■■
「なんとか言ったらどうなの」
今日初めて口にするその言葉には、少なからず恨みの言葉も混じっていたと思う。
彼女は何も言わない。
いつもこうだ。都合が悪いと口を開かない。
それは私には言えないから、なのか。何を? きっと全部を。
私は、だからこの子のこういうところが嫌いだった。
本当の気持ちは隠すくせに、全然気にしていないフリをして。
気づいてほしいのに、気づいてほしくないフリをする。
それでいて、なぜか見過ごせない。
私はこの子が嫌いだった。
けれど、なぜだろう。この子には人を惹き付ける何かがあるのは間違いなかった。
これはもう病気だ。どれだけ面倒でも、私は彼女のことしか考えられなかった。
「あの……ごめんなさい……」
「それじゃわからないわよ。何に対して謝ってるのかさえも」
「逸見さんに……」
「私に? じゃあ何を謝っているの?」
「……転校を言わなかったこと」
「どうして、どうして教えてくれなかったのよ!」
「もし話したら、私に着いてきちゃうかもしれないって……。
だって、あの時ずっと一緒にいるって言ってたのが頭から離れなくて。
逸見さん、本気だったみたいだから。それは嬉しいけど、でもこれは違うと思うの。
私もずっと逸見さんと一緒にいたかった。でも私、これ以上ここに居られなくて……。
私、ずっと悩んで……悩んで……相談できなくて、本当に、ごめんね」
それは苦しみながらも胸の内を曝け出した、彼女の本心だった。
「あのね、アンタそんな……自惚れるんじゃないわよ」
「あの、本当にごめんなさい……」
「私が? アンタが転校するからって? その転校するアンタに着いていく?」
「ばかばかしいわ」
ホント、ばかばかしい。
「第一、私とアンタが抜けたら黒森峰はどうなるのよ」
きっと、投げ出していた。
「家族に転校の説得もしなきゃいけないし」
きっと、どんなに反対されようが納得させていた。
きっと、私は彼女の着いて行こうとしていただろうから。
「ばかじゃないの……」
彼女には、私の震えた声は聞こえないだろう。
けれど彼女は何かを察したのか、ただ一言。
「ごめんね」
そう一言、彼女はまた呟いた。
◇
「ねえ。本当に私でいいの?」
「どうして?」
彼女は本当に言ってることが分からないというような顔でこちらを見た。
新緑のある日の、夕暮れ、誰もいない教室に二人きり。
「だから。ほら、私たち、はたから見たら仲悪い感じだし……」
「じゃあこれは秘密ってことかな」
彼女は机に座って脚をぶらぶらさせながら窓を見ながら答えた。
「あと! 私たち女同士だし……」
「女の子同士でも関係ないよ。だってエリカさんは私が好きなんでしょ?」
「うん、まあ……」
「だったら、別に何もおかしいことはないと思う」
「でも……」
「大丈夫。きっとどんなことがあっても、エリカさんを悲しませるようなことはしないから」
彼女は振り向きながら笑う。その顔に、私は呆気に取られた。
「さっきも言ったよ? 私もエリカさんのこと、好きだもん。ちゃーんと、見ていてくれたから」
「でも、私はこんな性格だから、アンタも苦労すると思うわ。別れるなら早く言ってね」
時間を無駄にはしたくないし。アンタの。
「どうして? 私はそこが可愛いと思うよ。なんだか素直じゃない、閉じたお城のお姫様みたい」
「はぁ?」
こちらに向き直ると、ゆっくりと近づいてくる。足音をさせずに。
「だって、ほら。……こんなにドキドキしてる」
「んっ……ちょっと、何触って」
「口ではそう言っても、カラダは正直なんだね。エリカさんって」
妖しくわらう彼女に、私は少しドキリとした。いや、ゾクリとした。
「でもね、エリカさんと同じで、私もドキドキしてるから……ね?」
顔に似合わず、さっと私の左胸に触れる彼女は空いた手で私の手をその小ぶりな胸に寄せた。
トクントクンと心臓の鼓動を感じる。それは私の鼓動とも違う、彼女の音。
彼女はいつの間にか私の腰に手をあてていた。
「エリカさん……つかまえた」
気づくと彼女と私の距離は友達との距離ではなくなっていた。
鼻先がコスれる。彼女の吐息を首筋に感じる距離。
動いたのは彼女のほうだった。緊張気味に目を閉じる彼女が見て取れる。
次いで唇に柔らかな感触、シャンプーだろうか、良い香りもする。
触れたのか、触れていないのか分からない、ぎこちない初めてのキス。
「んっ……み、ほ……?」
「私、こういうのぜんぜん分からなくて。ごめんね」
「わ、私もよ。というか、アンタが初めてだし……」
顔が赤くなっていくのが分かる。あぁ、どうして私はこんなに恥ずかしがりやなのだろう。
唇はきっとカサついていただろう。こんなことならリップクリームを塗っておくべきだった。
でも、まさかそんなことするとは思わないじゃない。
それ
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