凛「店番してたらアイドルがやってきた」
花たちによって店内が少しずつ色鮮やかに塗られていく様子が、私は好きだった。
長かった冬も過ぎようとしていて、今年も店内に彩りが増えていく。そんなある冬の終わりの日のこと。
凛「いらっしゃい、アーニャ。珍しいね、どうしたの?」
アーニャ「はい、今日はミナミの部屋でお茶会をします。なので、お土産を持っていこうと思いました」
凛「ちょうど春の花も入荷し始めたから、色々揃ってるよ。もう決まってる?」
アーニャ「いえ、まだ決まってません。見て決めても、いいですか?」
凛「もちろん好きに見てくれていいよ、聞きたいこととかあったら声かけて」
アーニャ「スパシーバ。では、見てまわりますね」
凛「うん、そうだよ。これから春にかけての花だね」
アーニャ「白くて可愛いです。それに、この香り……子供のころを思い出します」
凛「それってロシアにいたころ?」
アーニャ「はい。カモミールはロシアの国花、ですから」
凛「そうなんだ……知らなかった」
アーニャ「マトゥリョーシカにも、よく描かれますよ」
凛「理由があるってわかると面白いね」
凛「ひまわりもなんだ。ロシアってイメージないかも」
アーニャ「日本では珍しいですが、ロシアでは食用ヒマワリの生産量が世界一です」
凛「えっと、ひまわりの種を食べるの?」
アーニャ「ダー、炒ったり油で揚げたりします。日本でいうと、柿の種くらいポピュラーです」
凛「あれは本当の柿の種じゃないけど……花も国によって扱いが違うんだね」
アーニャ「日本は、四季があっていろいろな花が見られますね。とても素敵です」
凛「うん、そうだね、ってごめん脱線しちゃった。カモミールにする?」
アーニャ「そうですね、これにします」
凛「そういえば今日のお茶会は何を飲むの?」
アーニャ「はい、ロシアンティーを飲みます」
凛「これはジャーマンカモミールだからカモミールティーしてもいいんじゃないかな?」
アーニャ「すぐ摘んでしまうのはなんだか可哀想です。香りを楽しみます」
凛「ふふ、わかった。じゃあすぐ包むから待ってて」
アーニャ「スパシーバ、ありがとうございました。次は、リンも一緒にお茶会しましょう」
凛「うん、ありがとう。楽しみにしてる。また事務所でね」
アーニャ「ダー、ミナミもきっと喜んでくれますね……それでは」
花を選ぶ時に真剣な顔をする人は多い。そういう人は大抵、贈り物として買うから。
そして、私はそんな真剣な表情を見るのが嫌いじゃない。送る相手のことを考えてるんだろうなって思うから。
渡した時にどんなリアクションを取るだろうって、想像してるのが伝わってくる。
去り際のアーニャの顔を見て、美波の喜ぶ顔が、私にも浮かんだ。
出入り口から外の様子を伺っても通行人は普段よりずっと少なく、逆に店内の湿度計の針は普段よりずっと高くを指していた。
わざわざ雨の日に花を買いに来る人なんて、そう滅多にいないもんね。これなら配達の手伝いについて行った方がよかったかなぁ、雨の中で積み降ろすの大変そうだし。
レジカウンターで本日何度目かのため息をついたとき、その滅多にいないお客さんがやってきた。そんなある梅雨の日のこと。
小梅「あ、あんまり大声出したら、迷惑かもしれないよ……」
輝子「こ、ここが凛さんの家、か……」
凛「えっと、3人ともいらっしゃい。こんな雨の日に買い物?」
幸子「はい、今日は久しぶりに3人揃ってのオフなので」
小梅「雨だからDVD見ようって言ったのに、幸子ちゃん聞かなくて……」
幸子「だって絶対ホラー映画じゃないですか!あ、雨でも外に出ましょう!」
輝子「わ、私はジメジメしたこの季節……嫌いじゃない」
小梅「うん、せっかく近くまで来たから、凛さんのお店に行ってみようって……えへへ」
幸子「自室に花があるのもレディーの嗜みですからね!」
凛「そう、どんな花がいい?」
幸子「カワイイボクに相応しい可憐な花をください!」
小梅「どれも綺麗だから、迷っちゃうな……凛さんにお任せしても、いい、かな?」
輝子「私はキノコが欲しい……新しいトモダチを……」
凛「私でよければ選ぶよ。あと輝子、うちにキノコはないから普通の花で我慢して」
凛「そうだね……3人とも好みもバラバラみたいだし、いっそ同じ種類で色違いとかどう?」
幸子「ユニットっぽいですね!ボクはいいですよ!」
小梅「私も、いいかな……」
輝子「うん……お、お願いします」
輝子「ア、アジサイだね」
小梅「これなら、色もたくさんある、ね……綺麗」
幸子「こんなに小さいのもあるんですね」
凛「道に咲いてるくらい大きいのもあるけどね。部屋に置くならこれくらいの方がいいんじゃない?」
小梅「色や種類も……こ、こんなにあるんだ……どれにしよっか?」
凛「迷うならそれぞれのイメージ色に合わせたり?」
幸子「うーん、この中なら小梅さんは青色で、輝子さんは白でしょうか」
小梅「幸子ちゃんは紫、かな……?」
輝子「ま、待って……!薄紫色の花もあるから、こっちの方が幸子ちゃんっぽいかも……フフ」
幸子「これだけ他と形が違いますね。凛さん、これもアジサイなんですか?」
凛「それはガクアジサイ。ほら、真ん中の花が小さくて、その周りを大きい花が取り囲んで額縁みたいでしょ?」
幸子「こんなアジサイもあるんですね!個性的で魅力的なボクにピッタリじゃないですか♪」
凛「じゃあ小梅が青で輝子が白、幸子は薄紫のガクアジサイでいい?」
3人「はい、これください!」
輝子「り、凛さんが敬語だ……!」
凛「そ、そりゃお店だし、みんなお客さんだもん」
小梅「凛さん、かわいい……」
凛「もう、茶化さない。ほら、雨軽くなってきてるから今のうちに帰りなって」
幸子「そういえば、アジサイの花言葉って何なんですか?」
輝子「確かに、ちょっと……気になる」
凛「アジサイの花言葉は“移り気”“冷淡”だね」
小梅「あ、あんまりいい意味じゃないんだ……」
幸子「凛さん!意味を知ってて選んだんですか?」
凛「話は最後まで聞く。アジサイはたくさん花言葉があるの」
凛「“移り気”は色の変わるさまを、“冷淡”は花色の印象から」
凛「でも悪い意味ばかりじゃなくて、小さい花が寄り集まって咲くことから“友情”“一家団欒”“強い愛情”なんて花言葉もある」
凛「小柄で、ユニット組んでる3人にとってはぴったりじゃないかな」
3人「わぁ……」
凛「そのキラキラした瞳は素直に恥ずかしいな……」
凛「うん、同じ花でも反対の意味の花言葉だってあるくらい」
輝子「ち、ちなみにキノコにも、花言葉があるよ……」
凛「そうなの?それは私も知らなかったな。例えば?」
輝子「秋の味覚、マツタケの花言葉は“控えめ”……フヒヒ」
幸子「いや、どこが控えめなんですか!そもそも花じゃなく菌です!」
輝子「事実なんだから、私に言われても……困る」
幸子「何ですか?きっとボクを象徴するような素敵な花言葉なんでしょうね!」
凛「ガクアジサイ固有の花言葉は“謙虚”」
しょうこうめ「謙虚……?」
幸子「な、なぜみなさん無言でボクを見るんですか!ボクは謙虚でカワイイですから!」
ふと外に目をやると、雨はいつの間にかあがっていた。
店の前にできた水たまりには、雲の切れ間から覗く青空が映っている。
アジサイを抱えた小さな3人組の笑い声が、少し明るくなった店内に響く。
明日は久しぶりに晴れるかも、と少し微笑んだ
遠くの空に入道雲ひとつ、本日は晴天なり。今日はこの夏最高の暑さらしい。
蝉の大合唱があちこちで聞こえ、熱したアスファルトからの照り返しは陽炎を生んで先の景色をゆがませていた。
店先に打ち水をして少しでも涼しくしようとするけど、文字通り焼石に水。
そんなとき、揺らめく道の先から猛ダッシュしてくる人影が一人。そんな真夏日のこと。
凛「おはよう茜。うん、今日も暑いのに元気だね」
茜「はいっ!夏が暑いのは当たり前です!そして私が元気なのも当然ですっ!」
凛「今日はオフだったよね、また走り込み?」
茜「そうです!こんなに天気が良いのに走ら
コメント一覧
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- 2016年06月15日 23:20
- きっと凛はたとえ店番でもタメ口
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- 2016年06月15日 23:26
- ※1
デレステやってないのか?
店で加蓮に敬語使ってたぞ。
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- 2016年06月15日 23:30
- 無知って情けないとか思わないけど、見ててこっちが恥ずかしくなるからやめて
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- 2016年06月15日 23:31
- いい話だった。
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- 2016年06月15日 23:33
- 純粋な疑問なんだが、
どうやってロシアでひまわりが育つんだろ?
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- 2016年06月15日 23:39
- ん?ロシアじゃ向日葵咲かないから事務所で向日葵見せてやろうって話じゃないの?
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- 2016年06月15日 23:40
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いい話は読んでるほうもいい気分になるな
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- 2016年06月15日 23:45
- アイドルが店番やってたらファンでうめつくされるのでは
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- 2016年06月15日 23:49
- こういう雰囲気のいいな
第2弾希望!!
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