八幡「バック・トゥ・ザ・フューチャー?」
- 2016年06月18日 23:40
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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空を見上げたら太陽が2つあった――と言えば過去の人達は果たして信じたでしょうか。
2つめの太陽ができるという予言じみた観測結果は、すでに数十年前に報告が出されていましたが、
世間は半信半疑で、実際に見るまでは誰もがジョークだと考えていました。
しかし、実際に太陽ができてしまった、つまり超新星爆発が起きてしまった後は大変な騒ぎでした。
多くのテレビ局で連日特番が組まれました。
それでも、しばらくすると空に太陽が2つあることは当たり前で、いまや面白いことではなくなってしまいました。
そして気づけば、世間の関心はべつの話題へと移っていきました。
皆さんはお気づきでしょうか。今朝方、人知れずに2つめの太陽の輝き――厳密には超新星爆発の光り――は失われていたのです。
おそらく、皆さんは気にも留めないかもしれません。
しかし科学の歴史は、今日という日を後々まで忘れることはないでしょう……。
プツン――
とある夏休みの一日。何度寝かの後、ふと目が覚め、私は起き上がりました。
長い髪をかき上げ、頭をぽりぽりとかいて時計を見ると、朝の11時。ちょうどいい時間です。
遅い朝食をとりにリビングへと下りていきます。センサーが反応して扉が開くと、奥の方からテレビの音が聞こえてきました。
どうやらつけっぱなしのようです。恐らくお父さんのせいだな。
テレビではご意見番らしき専門家が、超新星なんたらが輝きを失い、ブラックホールへ変わるだろうと説明しています。太陽が一つに戻ったとのことでした。
――そういえば、確かに暑くないかも。ためしに家のカーテンを開けてみます。
嘘です、めっちゃ暑いです。昨日と変わらない暑さに辟易して、私はカーテンを閉めて熱気が入ってくるのを防ぎます。
これはしょうがないですね。こう暑い日は、家でごろごろしてるに限ります。
超新星なんたらを観測する科学者だって、クーラーの効いた研究室でディスプレイ越しに観測している時代です。
つまり、朝から涼しい部屋にこもる私は、研究者たる素質を十二分に兼ね備えた金の卵、エリート女子高生なのです!
現れしは私のお父さんです。起床してからだいぶ経つというのに、まだ眠そうな、腐った目をしています。これでも全盛期よりは輝きを取り戻しているらしいのですが。
比企谷娘(以下娘)「おはよー」
八幡父「……こんにちは。お前は相変わらずの起床時間だな」
娘「たっぷりと寝た結果です。寝不足はお肌の大敵ですから」
八幡父「夜更かしもな」
娘「してしまったものは仕方ないのです。だから弥縫策として遅起きでカバーしたのです」
八幡父「この減らず口、やはり育て方を間違えたか」
娘「お父さん譲りです。葉山のお父さんからそう言われたりしますし」
私がそういうと、お父さんは「またあいつか……」とぶつぶつと愚痴っています。相変わらず仲は良くないようです。
ふと、お父さんが思い出したかのように顔をあげました。
八幡父「そうだ。なぁ娘よ、今日こそお父さんとデートに――」
娘「いきません」
娘「それだったらお父さんよりアマゾンで頼むし」
八幡父「はぅっ……」
お父さんががっくりとうなだれる。
昔ならいざ知らず、娘の買い物に荷物持ちでついていこうなど考えが甘いです。今なら買ったその場で配送してくれるので、男手などいらんのです。おとといきやがれです。
娘「というよりも、今日は陽乃さんと会う約束をしてるのです」
八幡父「うげっ……」
娘「まぁたそんな反応する。お父さんほんとあの人が苦手ですね」
八幡父「学生時代、あの人にはよくおもちゃにされたからなぁ……。まぁ今となっちゃ懐かしい思い出だけど」
八幡父「いかねぇ」
娘「なんでそんな食い気味に」
八幡父「いいか。自然界には食物連鎖というのがあってだな。その最底辺にいるお父さんがあの人に会ったら命がヤバい。なんかもう超ヤバい」
娘「お父さん、焦りすぎて語彙力が小学生レベルになってるよ」
八幡父「まじかよ。これでもお父さん、高校時代は国語学年3位だったんだぞ」
娘「もう何十年も前の話でしょ。その自慢聞き飽きたし」
八幡父「おい聞き飽きたとか言うなよ。お父さんそれしか誇るとこないんだから」
娘「この数十年間なにしてたのさ……」
ピンポーン
娘「あ、陽乃さん来たみたい」
八幡父「え、うちに来るの? お父さん聞いてないぜ。まだ逃げる準備が――」
娘「はーい、今いきまーす」
八幡父「いいか娘よ、お父さんはいないことにしてくれ。あと玄関あたりで追い返す水際作戦を求む」
陽乃「ぜんぶ聞こえてるんだけど」
八幡父「げっ」
娘「ひゃっはろー陽乃さん」
陽乃「ひゃっはろー娘ちゃん」
八幡父「どうも……。あと、うちの娘に間違ったあいさつを覚えさせないでください」
陽乃「相変わらず固いなぁ君は。日本語だって日々進化してるんだよ。やっはろーだって広辞苑に載ったし」
八幡父「まじかよ……。日本語乱れすぎだろ」
陽乃「ふふん。それは研究室にきてからのお楽しみということで」
娘「すっごい楽しみです!」
私が手を叩いてはしゃぐと、陽乃さんが目を細めた。それから、いたずらっぽく笑う。
陽乃「しっかし、まさか君の娘が理系になるなんてねぇ。とても血がつながってるとは思えないね」
八幡父「なにを言ってるんですか。けっこう似てますよ。男っ気がないとことか」
娘「いやいや、ぜんぜん違いますし。わたしお父さんと違ってハイスペックですから」
八幡父「ふっ、バカにするなよ。お父さんは家事にテニスに勉強、何でもできるんだぜ、友達はできないけど」
娘「お父さんだって、私のこと舐めちゃいけませんよ。私は小町おばさんから受け継いだ可愛い顔に炊事能力、そして勉強も理系科目なら学年3位です。友達がいないことと干物であることを除けばハイスペックなのです!」
陽乃「あ、これ八幡くんの娘だね」
八幡父「いやお恥ずかしい」
娘「えへへ」
陽乃「褒めてないからね?」
陽乃「でもごめんね。キミも招待してあげたいんだけど、今日は娘ちゃんとの女子会だから、男の子は呼べないんだ」
八幡父「いや、その歳で女子とか――」
陽乃「あっ?」
八幡父「――いつまでも若々しくていいなぁ」
娘「お父さん……」
八幡父「何も言うな……」
陽乃「じゃあ娘ちゃん、いこっか」
娘「はい!」
八幡父「いってらっしゃい。陽乃さんに迷惑かけるなよ。お父さんの身のためにも」
娘「はーい。いってきまーす」
陽乃「じゃあねー」
陽乃「実は以前からアメリカの科学者と私的に共同研究をしていてね。その研究がついに実を結んだんだよ」
娘「へぇ。どんな研究してたんですか?」
陽乃「ふっふん。それはね、時間遡行だよ。簡単に言えばタイムマシンを発明したの」
娘「本当ですか! すごいじゃないですか!」
陽乃「いやいや、もっと褒めてもいいんだよ」
娘「でも、タイムマシンには1.21ジゴワットもの電力が必要だというのが定説じゃなかったですか? いったいどこから調達できたんですか」
陽乃「宇宙だよ、この大いなる宇宙」
娘「……さすが陽乃さん、電波な発言もお手の物ですね」
陽乃「はっ倒すよ?」
娘「すいません、比企谷ジョークです」
娘「私的に……」
陽乃「それで今日、タイムマシンが完成したから早速実験してみたの。その結果、成功したってわけ」
娘「おお、すごい! それで、そのタイムマシンというのは?」
陽乃「向こうの実験室においてあるよ。じゃ、ちょっとついてきて」
娘「はい」
私は陽乃さんの後ろをついていき、階段を下りる。なんかさっき、陽乃さんが悪い笑みを浮かべてた気がします。
やばい、これはまた変な発明の実験台にされる可能性が。
この前は考えていることを当てる機械だとかを被せられました。
結局、考えていることは読めず、吸盤が髪の毛にひっついて大変だったのは記憶に新しいです。
そんなことを不安要素を考えていると、どうやらついたらしく、入口で陽乃さんがカードをかざしています。
ピッという機械音と同時に、実験室の扉が開きました。
実験室の中はタテに長く、真ん中には空港の発着場のような細長い道路が敷いてありました。
陽乃「ここにある車が、いわゆるタイムマシンになるんだ」
娘「この車なんですか。見た目はだいぶ古臭いですね」
陽乃「共同研究者の趣味で選ばれたからね。今はなきデ口リアン社の車らしいよ。愛称はそのまんまデ口リアンね」
娘「へぇ」
陽乃「で、娘ちゃんを呼んだのは他でもない。この車に乗って、実際に時間遡行を体験してもらいたいんだ」
娘「え、わたしがですか?」
陽乃「そうそう。なんせ人間ではまだ試してないからね」
娘「えっ」
私が不安そうな顔をすると、陽乃さんは逃がさんとばかりに私の腕をつかんできました。
娘「いやいやちょっと待ってください。これ安全性クリアしてるんですか?」
陽乃「んっ? 安全基準なんてあるわけないないじゃん? 国には黙って作ってるんだし」キョトン
娘「え、なんで不思議そうな顔してるんですか!?」
あ、今日はトンデモ発明の日ですね。トンデモ発明品のときは、ほんとうに訳がわからないことになってしまうから避けるのが吉です。
これさえなければ、できるカッコいい女性なのに。
娘「とにかく、そんなへんてこな車に乗りませんよ」
陽乃「まぁまぁ、さっき犬で試したら成功したしいけるって。自信持とうよ」
娘「え、犬の次わたしなんです?」
陽乃「飛び級ってやつだよ。やったね娘ちゃん!」
娘「いやいや、もっと過程を踏んでからにしてくださいよ……」
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- 2016年06月18日 23:53
- 指原強すぎ
つまんな