モバP「遅く起きた日は」 ライラ「お出かけですよー」
モバP「遅く起きた朝は」
「準備できたか? ライラ」
「はいですよー」
「よし、行くか」
「おーらい、でございます」
2,3日続いた雨に洗濯物を溜めさせられたりもしたのだが、結局、今年はあまり雨は降らなかったな。短めの梅雨が明け、よく晴れた空、気持ちの良い風。絶好のお出かけ日和だ。
「荷物は……いらないか。財布と携帯だけ持ってこう」
近くと言うほどではないが、日帰りで行ける範囲には大型の水族館や、国内屈指の遊園地などもあるのだが。
どこに行こうか。なんて、まるで恋人のような会話だなあ。なんて思いながら、相談をして。
「人がたくさんだと目が回ってしまうですよー。ライラさんはのんびり歩きたいです」
との事で、近くを散歩する事になった。この辺りは住宅街と言うには少し寂しいが、その分公園や雑木林には歩けばすぐに突き当たる。
いつもは駅まで足早に進む道でも、のんびり歩くとまるで違う通りのように思え、何となく楽しくなってくるのは休みの日だからだろうか。それとも、並んで歩いてくれる可愛い子がいるからか。
「どこに向かっているですか?」
「少し歩いた所に大きな公園があるんだ。ボートはお金がかかるが、他はタダだぞー」
「おー、タダでございますですか。それはおトクでございますねー」
そんな他愛ない会話をしながら15分ほど歩き、目当ての公園に到着した。
比較的大きな自然公園で、ジョギングコース、ボートに乗れる池、動物ふれあいコーナー等様々なものがあり、知名度は有名どころには負けるが、お金をかけずに1日過ごせると人気のスポットだ。
「ふー……日差しが強いからか、これだけでも結構疲れるなあ。ライラは大丈夫か?」
「はいです、鍛えているですから」
額に少し汗が浮かんでいるが、息は切れてない。やっぱりダンスって凄い。
「今度一緒にやるですか? トレーナーさんも、プロデューサー殿は運動不足だと言っていたですよ」
余計なお世話だ。
「遠慮しとくよ。流石に若い女の子に混じってワチャワチャやるのは精神的にクるものがある」
それに、運動しないのではなく、する暇がないのだ。
まあ、取れてせいぜい10分かそこらの時間で何ができるとも思えないが。
「朝夕に10分ずつでも、散歩する事から始めましょう、との事ですよ」
おっと、いい読みしてやがる。
「ライラさんも一緒にお散歩、しますです?」
なんと甘美な誘惑か。だがしかし、良識ある大人としては屈するわけにはいかない。
「気持ちはありがたいけど、朝は早いし夜も遅いからな。帰れない時もあるし、日常的な運動ってのも結構難しいんだよ」
これは単なる言い訳であるが。
「とりあえず今日はのんびり過ごそう。と言うか、せっかくの休みなのにそんな疲れる事を考えるのはよそう」
「おー、そうでした」
ずっと入り口で突っ立ってるわけにもいかんしな。そう言って、並んで歩き出す。休日という事もあってか、親子連れ、ペットの散歩、ジョガー、実に様々の目的の人がいる。
子供たちの笑い声がよく通って聞こえてくる。賑やかなのは嫌いではない。
「かわいいなあ」
はしゃぐ子供達を見て、思わず声に出す。
「ありがとうございますです」
「えっ」
「えっ」
「……」
「……」
何の事かとライラを見る。視線が合うが、すぐにライラが何かに気づいたように目を反らす。
「すみません、ライラさんの事ではないのですね」
そう言って顔を伏せ、少し震えた声で続ける。
「お子様達の事でございますですよね」
おお、ライラが照れ……か? 照れてるのか? これ。珍しい事もあるものだ。
「いや、そうだな。ライラももちろん可愛いよ」
そう言うと、ライラが勢いよくこちらを向き、距離を詰めてくる。お前そんなに素早く動けたのか。
「本当でございますか?」
「俺がお前に嘘を言った事があるか?」
これも珍しく、ジトリとした目線をこちらに向けてくる。睨んでいるつもりだろうか。
「質問に質問で返してはダメでございますよ。それと、ウサミンさんは17歳でした」
あー、そう言えば。いつだったか、うっかり漏らした事があったっけ。
どうやら菜々の言葉の方が信頼性は高いらしい。これも緻密な設定の為せる業か。それとも、案外信用ないのだろうか。後者だったらお兄さん泣いちゃう。
「悪い悪い、そうだったな。でも、ライラが可愛いと思うのは本当だよ。でなけりゃ、アイドルになんて誘ってないさ」
これは紛れもない本心であるのだが。
「そうですか? ……えへへ、そうでございますかー」
先程とはうってかわって、ウヘヘと擬音が付きそうなほど、ゆるい笑顔を見せてくれている。
こんな一言でここまで喜んでくれると、男冥利に尽きると言うものだが――
――ワンッ!
思考が突然に打ち切られる。すぐ後ろから聞こえてきた鳴き声は、聞き覚えのあるものだった。
「ばっ、ハナコ、ダメだって! 待て、待って! ちょっと!」
直後に聞こえてきた声――これも聞き覚えのある声だった――と、茂みから飛び出して来た二つの影。どちらも知っている物だった。
「何してんだ、奈緒……と、ハナコ?」
「あ、あはは……おはよう、ライラ、プロデューサーさん。じゃ、私はこれで――」
「待てコラ」
慌てて去ろうとする襟首を掴んで引き戻す。
「いつから見てた? それと、何でここにハナコがいるんだ。気持ちはわかるが、誘拐はいかんぞ?」
「するか! 昨日から凛と加蓮がウチに泊まってるんだよ!」
顔をサッと赤くして、早口で捲したてる。
「凛の両親が旅行に行くとかで、ハナコと一緒に加蓮の家に泊まる予定だったんだよ。そしたら加蓮が、『あ、そう言えば私も両親が旅行にいくんだったー、うっかりー。という訳で、泊めて奈緒ー♪』とか言い出して押しかけてきてさー……いや、迷惑って訳じゃないんだけど、こっちにも準備ってものがあるし……」
どんどん声が小さくなっていって、後半は殆ど聞こえなかったが。
「随分と嬉しそうだな」
「は、はァ!? 何言ってんだよ、そんな訳ないだろ!? 凛も加蓮も年上を敬うって事を知らないんだよ! お母さんからあたしの小さい頃の話聞き出そうとするし、アルバムは勝手に見るし、ベッドに入ってくるし……今度プールでの撮影があるからって、み、水着まで引っ張り出して着せようとしてくるし……」
あー、うー、と、悶えるように絞り出す。
「まあ、嫌じゃないし……た、楽しいけどさ」
怒ったような、笑ってるような、そんな一人百面相。
「奈緒さんは可愛いですねー」
「ああ、可愛いな」
「ちょっ、ライラまで!? 何言ってるんだよ、あ、あたしが可愛いとか……もう、バカ」
お、沈んだ。耳まで真っ赤だ。
ワン!
「ほら、ハナコも可愛いってよ。」
「言ってないだろ!? あんた、犬語わかんのかよ!」
「え、お前わかんないの? アイドルなのに?」
「アイドルはそんな万能な言葉じゃない!」
凹んだりツッコんだり忙しいやっちゃなあ。ところで、だ。
「ハナコがこっちに来てる訳はわかったが、何で一人で散歩してるんだ? 凛と加蓮はどうした」
「昨日、かなり遅くまで騒いでたから、まだ寝てる。あたしは、ほら……日曜だしさ。ハナコもずっと籠に入ってて、遊びたそうにしてたから。勿論、凛に許可はもらったよ」
半分夢の中だったけどな、と苦笑しながら答える。
「ああ、なるほど。家はここから近いのか?」
「走って20分くらいかな? 休みの日にはたまに来るんだ。最初は家の周りをちょっと走るだけのつもりだったんだけど、ハナコが随分はしゃぐもんだからさ。あたしもちょっと、身体を動かしたくなっちゃって」
そう言って照れたように頬をかく。ウチのアイドルは真面目だなあ。
「で、ジョギングしてたら聞き覚えのある声がしてさ。面白そ……じゃなくて、真面目そうな話してたから、声掛け辛くて」
今更取り繕わんでもいい。
盗み聞きしてたってわけか。まあ、往来であんな話をした俺にも責任はあるが……。
「どの辺から聞いてた?」
「ライラももちろん可愛いよ」
キリッとした表情で声色を作る奈緒。物真似のつもりか。そんなだったか? 俺。
堪えきれずに、二人でプッと噴き出す。聞かれたのが奈緒だけでまだ良かったな。凛と加蓮に知られたらどうなってた事か。
「できればこの事は事務所の連中には……」
「わかってる!わかってるよ、誰にも言わないから。これでも口は堅い方だよ」
ただ、と付け足して。
「他の誰にも言わないから、友紀さんにだけは言わせて? もしくは恵磨さん」
ふざけんな、ウチの喧伝担当ツートップじゃねえか。五分で事務所全体に広がるわ。
「えー、じゃあ誰に言えばいいんだよ。休日にライラとプロデューサーさんが公園デートしてたって。あ、もしかして朝から一緒だったりする? まさか、お泊まり……」
「なわけないだろ。誰にも言わないでくれ、頼むから。ほら、今度飯でも奢ってやるから」
「ちぇー、つまんないの。まあいいや、そろそろ凛達も起きるだろうし。そろそろ帰ろうか、ハナコ……って、あれ、ハナコ?」
そう言って辺りをキョロキョロと見回す奈緒。預かり物だし、迷子になったら一大事だ。
「探すの手伝おうか。いいよな、ライラ――ライラ?」
気付くとライラも姿を消している。まさか一緒にどこか行ったか?
―――
予想に反し、一人と一匹はすぐに見つかった。
ワンッ!
わん、でございますか?ハナコさんの言葉は難しいですねー。
ワンワン!
おー、わんわん、でございますよー。ライラさんはわんわんわん、です
クゥーン
あはは、くすぐったいでございますですよ。ハナコさんはモフモフですねー。
ワン!
近くの広場で、天使が2人、戯れていた。
「あたしが言うのもなんだけど、
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