コミックナタリー Power Push - 「ベルセルク」
“マンガに生きる” 三浦建太郎と鳥嶋和彦が大放談
三浦建太郎の「ベルセルク」が、この夏大きく動き出した。約3年ぶりの新刊となる38巻が発売され、ヤングアニマル(白泉社)で本編も連載再開。さらに新アニメ「ベルセルク」が7月よりオンエアされている。
これを記念し、白泉社は三浦と、彼のマンガ家人生に影響を与えた人物との対談を連続で実施している。1人目に指名されたのは、鳥山明や桂正和らの担当編集として活躍し、「Dr.スランプ」に登場するDr.マシリトのモデルにもなった鬼の編集者・鳥嶋和彦。2015年に白泉社の代表取締役社長に就任した鳥嶋と、三浦との対談はヤングアニマル13、14号に掲載されたが、コミックナタリーでは1万4000字のボリュームで、その完全版をお届けする。まず鳥嶋の生い立ちをじっくりと聞きたがる三浦だが、その真意とは……。2人の語りはやがて、27年にわたり描かれ続けてきた「ベルセルク」の核となる部分をあぶり出していく。
取材・文 / 中嶋竜(樹想社)
僕のマンガ家人生に影響を与えた方と対談したい(三浦)
──今回の対談は三浦先生がご希望されたとのことですが、まずその理由を教えて下さい。
三浦 いろいろあるのですが、今回の企画で、僕のマンガ家人生に影響を与えた方と対談させていただきたいと思ったんです。僕が一番影響されたマンガは「北斗の拳」(武論尊・原哲夫)なのですが、それが連載されていた週刊少年ジャンプ(集英社)はその頃ほかに「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」(ともに鳥山明)も「聖闘士星矢」(車田正美)もやっていましたよね。そして鳥嶋さんは僕が中学・高校の多感な時期にジャンプを手がけられていた方なので、ぜひお話を伺いたいと。まずは、鳥嶋さんのご家族や子供時代、青春時代についてお聞かせ願いたいのですが……。
鳥嶋 そんなことに興味があるんですか? 確かにあまり話したことないなあ。あのね、まず友達はいないです(笑)。
三浦 それは何か理由があって? それとも作らない主義とか?
鳥嶋 子供の頃から周りと話が合わなかったから。家族だと、親父にはあまりいい思い出がないですね。父親はおそらく、祖父が貧しくて不自由していたのでしょう。でも頭は良くて、商売をしながら僕ら兄弟を大学に行かせてくれた。ただ「自分がきちんと教育を受けていたらどうなっていたのか」という考えはあったんじゃないかな。そんな親父が言った言葉はいくつか僕の中に残っていて、選ぶなら「金がないのは首がないよりつらい」と。生きていくリアルはそこにあると、僕は小さい頃から言われ続けてきた。もうひとつは「先生と言われる程の馬鹿じゃなし」(笑)。「先生」と付けられる職業は聖職と言われているけれど、そこにストレスもあれば裏表もある。「人を肩書きではなく人間としてちゃんと見なさい」ということなんでしょうね。
三浦 それはインテリなお父さんですね。
鳥嶋 お袋はものすごいポジティブな人間で、思い出す言葉は「馬鹿を構えば共馬鹿だ」。馬鹿が寄ってきてちょっかいをかけてきても、構ってはいけない、と。そういう両親ですね。
三浦 なるほど。少年時代はずっと新潟だったのですか?
鳥嶋 ええ。郷里ですが……新潟の人間が嫌いなんです(笑)。それに田舎だと幼稚園、小学校、中学校までほとんど同じメンバーで通うでしょう。それが嫌いだった。その後、大学受験に失敗して、浪人生のときに予備校に入るために東京に出てきたんです。
三浦 やはり東京に来たときは、故郷より開けた印象でしたか?
鳥嶋 東京は大体毎日晴れているけど、新潟の私のいたところは11月から3月にかけてほとんどが曇天になる。もうそれだけで「東京はいいなあ」って思いましたね。そして予備校に入って、初めて話が合う人間や、自分よりも頭がいい人間がいると思って解放感もあった。
三浦 それでも新潟で、高校という青春時代のかなり大きな時間を過ごされていたんですよね。印象に残っていることは?
鳥嶋 ありません。ずっと本を読んでいた。中学生の頃は1日1冊本を読もうと思っていたんです。
三浦 すごいですね。どんな本を読んでたんですか?
鳥嶋 とにかくなんでも。学校の図書館や市立図書館とか、複数の図書館に毎日通って、興味がある本は全部読んでいました。
なんだかモンスターのような子供ですよ(三浦)
三浦 鳥嶋さんが大学生の頃は、学生運動の時代でしょうか?
鳥嶋 ちょうど終盤の頃で、学生運動に参加していたお調子者が「授業なんてやってる場合じゃない」と乱入してきたことがあった。で、僕はそいつに「僕は授業を受けるために入学金を払って大学に入ったんだ。先生には授業をする義務があり、僕には授業を受ける権利がある。お前にそれを邪魔する権利はない」って言ったんです。それでも結局先生が出て行ってしまい、授業は潰れた。だから僕はそいつに「もしお前が人生を懸けて学生運動をするのなら仕方ないが、中途半端な流行病でやっているのならお前を絶対許さない」って言ってやった。案の定、そいつは学生運動が廃れたら就職活動していましたけどね(笑)。
三浦 その頃の大学はまだ暴力的な雰囲気が残っていたのですか?
鳥嶋 多少残ってましたね。いずれにしろ学生運動をしている奴は大抵想像力がない。「この先、何が待っているのか」ということの想像ができないんです。本当に頭がいい奴は学生運動なんてしない。僕が父親と折り合いが悪くても大学に行ったのは、経済的自立のための最良のパスポートだと考えたから。けれどもオイルショックがあって、ほとんどの企業が新規採用を中止してしまった。それが大きな誤算でしたね。
三浦 そればかりは読みようがないですね……。
鳥嶋 そしてもうひとつ痛かったのは、競争率の高いゼミを受けて落ちてしまったこと。というのも面接官がゼミの上級生で、しかも意地悪だった。僕はその人の言葉にとことん突っ込んでしまって、生意気な印象を持たれたんでしょうね。
三浦 それは何を研究をするゼミだったんですか?
鳥嶋 犯罪心理学。犯罪と法律についてのゼミでした。
三浦 友達がいなかったり大学でぶつかったり、鳥嶋さんのエピソードは誰かとバトルした話のほうが多いのでしょうか?
鳥嶋 そうですね。一番嫌だったのは、なんの考えもなしに人にレッテルを貼る人間。自分の考えや思想を、自分の言葉で語れない人間は貧しいと幼い頃から思っていた。
三浦 本を読みだす以前から、そういった考えを持っていたんですか?
鳥嶋 うーん。どっちが先だったかわからない。幼稚園の頃も、同じ園の子に喧嘩を売られたことがありました。そのとき明らかに向こうが悪いのに、保母さんはその子の味方をした。僕はその子のお父さんと保母さんが仲がいいことを知っていたから、「ああ、えこひいきをしたな」と1人で納得していました。そうしたらその保母さんと相手のお父さんは、僕が小学校に上がるときに結婚したんです(笑)。
三浦 そういった洞察力はどのようにして身に着けたんですか?
鳥嶋 身に着けたというか、じっと見ていればわかるんですよね。
三浦 稀に幼稚園の頃から信じられないほど考えている人はいますが、鳥嶋さんもそのタイプなんですね。
鳥嶋 人と話をするとかえってトラブルになるから、僕は「お願いだから、僕の邪魔をしないで」と思っていた。
三浦 なんだかモンスターのような子供ですよ(笑)。
次のページ » ネームの原点は父親の絵コンテ(三浦)
- 三浦建太郎「ベルセルク(38)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
- 「ベルセルク(38)」
- コミック
- Kindle版
変貌を遂げた世界で、安全な土地を求め旅に出たリッケルトとエリカは魔物に襲撃されたところを新生鷹の団に救われた!導かれるがままに辿り着いたのは白き鷹グリフィスが君臨する都ファルコニアだった。グリフィスと鷹の団への複雑な想いを胸に秘めたリッケルトは…。一方、海神の危機を脱したガッツ一行はキャスカの身の安全と、精神の回復の望みをかけパックの故郷、妖精島へ向かうのだった。
「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル!
白泉社のジェッツコミックスが、ヤングアニマルコミックスとレーベル名を改めた。これに合わせ、「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル。1巻の表紙イラストは旧版から変更され、三浦が物語初期のガッツを38巻と同じ構図で描き下ろした。
- 三浦建太郎「ベルセルク(1)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
- 「ベルセルク(38)」
- コミック
- Kindle版