少女「『わがまま王様と悪い魔女』」
むかしむかしあるところにわがままな王様がいました。
わがままな王様はとにかく気まぐれで、いつも自分勝手なことばかり言ってはみんなを困らせていました。
例えばある時は……
王様「騎士長! 騎士長はおらんか!」
騎士長「は、ここに」
王様「ワシは退屈じゃ。国一番を決める武術大会を開け!」
騎士長「御意。さっそく手配します」
王様「いやそれでは面白くない」
騎士長「では?」
王様「東の国との合同大会……いや戦争じゃ! 東の国に戦争を仕掛けよ!」
騎士長「……」
王様「急がんかノロマ! さっさと行って滅ぼしてこい!」
騎士長「御意……」
またある時は……
王様「料理長よ! どこにおる!」
料理長「はいはいここにおりますよ」
王様「ワシは腹ペコじゃ。何かおいしいものを出せ」
料理長「では雄鶏の香草焼きを作ってまいりましょう」
王様「この大ばか者! 雄鶏の香草焼きなんて珍しくもなんともない!」
料理長「で、では?」
王様「クジラ」
料理長「クジラ……」
王様「の、でっかい卵焼きが食べてみたい! すぐに用意に取り掛かれぇぇい!」
料理長「クジラの卵!? そんな阿呆な……」
王様「阿呆?」
料理長「いえ何でもございませーん!」
とにかく毎日がこんな具合。
みんなはうんざりを通り越してこれが普通ぐらいになっちゃって。
わがままさえなければいい王様なんですけどね。
王様の優しい顔を見られる人はそう多くはありません。
というよりこの国では一人だけ。
王様の孫娘一人だけでした。
侍女「姫様、王様がいらっしゃいましたよ」
姫「本当だどうしよう……」
侍女「どうしようも何も普通にしてればいいと思いますが」
姫「気構えが必要なんだよおじいさま相手には」
王様「おおーい孫娘ー! 孫娘やーい!」
侍女「さ、姫様、深呼吸」
姫「いや別にそこまでは。……はーい、こちらですー!」
王様「やあやあ花のように愛らしく太陽のように美しいワシの孫娘や」
姫「会うたび会うたび同じ言葉で私を誉めそやしてくださるおじいさま、ごきげんよう」
王様「やだなワシの可愛い孫娘、美しいものはしっかり美しいと言わなくては」
姫「過剰なくらいにありがとうございますおじいさま」
王様「なにをしておったね?」
姫「みんなでお茶を」
王様「うむうむ、よきことじゃ。ワシは散歩をしておったよ」
姫「いい天気ですものね」
王様「しかし少し日差しが強すぎるきらいがある。おいそこの、少し太陽を遮れ」
侍女「無理です、飛べませんので」
王様「ワシに逆らうかっ!」
姫「わたしの侍女に無茶言わないでくださいませおじいさま」
王様「ふん、命拾いしたな下仕え」
侍女「価値あるものは生き延びますゆえ」
王様「ぐぅぅっ……」
姫「お、おじいさま、またあの話してくださらない? わたしのお気に入りのあの話」
王様「おや、また聞きたいのかい孫娘や」
姫「ええ、だってとても素敵な話だもの」
姫(あとこの空気に堪えられないもの)
王様「ううむ、しかしなあ」
姫「お願いお願い」
王様「わかったわかった仕方ないな。では始めるぞ。むかしむかしあるところに……」
王様の話はこう始まります。
むかしむかしあるところに優しい王子様がいました。
優しい王子さまは思いやりと勇気に満ち溢れ、まわりのみんなに慕われていました。
「あ、王子様こんにちは!」
「ごきげんよう!」
「今日もいい天気ですね!」
「転んで怪我などなさらぬよう!」
実際は転んで怪我なんてドジはしません。
でもお城の中しか知らないフリをした王子は、真剣に「わかったよ!」とうなずいてみせました。
本当はお城を抜け出すことなんて日常茶飯事だったんですけどね。
さて今日も外へと繰り出した王子様、森の方へと向かいます。
木々の間を歩いていくと突然視界が開けて、お花畑が広がりました。
そこにいたのは花のように愛らしく太陽のように美しい女の子。
顔を上げて王子の方に目を向けました。
娘「あら、また来たのね」
王子「いやあお城は窮屈で」
娘「王子さまは大変ねえ」
王子「ここに来ると気が休まるよ」
娘「こんなに綺麗なところだものね」
君も綺麗だよ。
いや君の方が綺麗だよ。
僕は君に会いに来たんだ。
王子はそれが言えません。
ほんの短い一言二言なのに。
娘「なあに、変な顔しちゃって」
王子「べ、別に」
娘「座ったら?」
王子「そうだね」
娘「なんでそんなに離れるの?」
王子「じゃあこれくらい?」
娘「じゃあって?」
王子「さあ……」
娘「変なの」
王子「わ、笑うなよ!」
王子はこの時間が好きでした。
お城にいるときはお行儀良くしていなければなりませんが、ここでは子供らしくしていてもよかったからです。
二人は一緒に長い時間を過ごしました。
川に行ったり、ごっこ遊びをしたり。
夜はお城にいなければなりませんが、いつか一緒に星を見ようとも約束しました。
王子「絶対だよ」
娘「うん。いいよ」
王子「よぅし、そうと決まったら計画を立てないと!」
娘「……」
王子「爺やはちょっとボケが入ってるし見回りは怠け者が多いから…………どうかした?」
娘「あ……ううん。何でもないよ」
王子「じゃあまた明日!」
娘「うん」
でもその明日は訪れませんでした。
女の子が消えてしまったからです。
お花畑には誰の姿もありませんでした。
次の日も、その次の日も。
人をさらう魔女が出たと聞いたのは、それからしばらく後のことでした。
王様「……孫娘は眠ってしまったか」
姫「ううん……」
侍女「仕方ありませんよつまりませんもの」
王様「首をはねられたいか?」
侍女「滅相もない。それにしてもその話、いつもそこで途切れますよね。続きはあるのですか?」
王様「どう思う?」
侍女「ないのでしょうね」
王様「……」
侍女「とても中途半端な話です。物語として完結していない。作った人は三流作家なのでしょう」
王様「我が孫娘を部屋に連れていけ。今すぐにだ」
侍女「承知いたしました」
王様「中途半端。物語として完結していない。三流作家」
王様「ふん。その通りだろうさ」
王様「なぜならこれはワシの話なのだから」
その夜、王様の孫娘がさらわれました。
悲鳴を聞いた者もなく、ただ窓だけが開け放たれて。
誰もが魔女の仕業と言っています。
王様は当然激怒します。
早く姫様を助けなければ。
物語はここから始まるわけです。
王様「騎士長! 騎士ちょおおぉぉう!」
騎士長「は、ここに」
王様「魔女の討伐命令は出したか!?」
騎士長「今朝の時点で」
王様「そうかならいい!」
騎士長「よいので?」
王様「いやよくない! それならばなぜまだ孫娘が戻ってきておらんのだ!」
騎士長「は……それが少々問題が起きておりまして」
王様「問題? 申してみよ!」
騎士長「こちらをお取りくださいませ」
王様「剣? うちの軍のか」
騎士長「はい」
騎士長「どうぞ抜いてみてください」
王様「っ……抜けぬ!? 抜けぬぞ!」
騎士長「は。このようなことが軍全体で起こっているのです」
王様「何だとぉ……?」
騎士長「我
コメント一覧
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- 2016年07月10日 22:58
- よかった
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あの童話好きだった………