暁「加賀さん加賀さん」 加賀「?」
加賀「誰?」
暁「暁よ!」
声で解ってはいたけれど
振り向き、あえて聞くと
暁型一番艦の自称レディは元気良く名乗りを上げた
加賀「貴女、レディじゃなかったかしら?」
暁「違うわ、あかつ…」
加賀「ふふっ」
暁「もうっ!」
暁「暁でレディよ!」
ちょっぴりむくれた駆逐艦、暁に笑い返す
あまりこういうことは得意ではなかったのだけれど
いつの間にか
そう、あの五航戦がきてから
少し上手くなった、ような気がする
加賀「それで、何か用かしら?」
暁「加賀さんはレディだと、赤城さんから聞いたわ」
暁「暁にレデ…」
加賀「他を当たって頂戴」
一蹴する。
意地悪ではなく、教えられることがないからだ
弓を教えてと言うのなら
少し考えてあげないこともないのだけれど
残念ながら、レディとやらは教えられない
加賀「貴女がレディなら教える側だと思うのだけど」
暁「それはそうだけど」
暁「暁のレディと加賀さんのレディは違うかもしれないわ!」
暁「だから、えっと」
言い訳すら最後まで言えずに
自称レディはうつ向いてしまった
泣くか、逃げるか
心の投票箱には白紙を一枚
きっと、その両方だから
加賀「……………」
常日頃戦いに明け暮れる私達にとっての日常とは戦場であり
目の前で駆逐艦が悔し涙を浮かべているのは
私達にとっての非日常である
加賀「まずは、泣かないことね」
ポンッっと頭に手を置く
暁「!」
これは非日常だ
けれど
いや、だからこそ私達は非日常に安寧を求め
享受し、安らぎを得る
それを与えてくれる一因である幼き駆逐艦には
言葉にはしないけれど、感謝している
だから、少しだけ
そう思ったのがいけなかったのかもしれない
暁「………」
潤んだ瞳が私を見上げる
ちょっぴりむくれた、顔が見えた
暁「…泣かないわ」
暁「レディだから、泣かないわ」
加賀「……………」
もう泣いているようなものだけれど
それはあえて、言わずにおく
五航戦の子相手だったら…とも考えるのは止めた
加賀「それが正しいわ」
加賀「レディ、なら」
暁「うんっ」
泣かせた私に同意して頷く自称レディ
端から見ればきっと笑い話
けれど、私はもう一度頭をポフポフする
その感触、その非日常が好きだったから
暁「加賀さん」
暁「暁は、レディになれる?」
加賀「………」
自称レディはそう言った
子供っぽさを残しながら
戦いに赴くような、真面目な瞳で
加賀「そうね…」
幼い駆逐艦の言葉は
普段から口にしているレディではなく
年齢…あるいは経過年数が届くかどうかだと
すぐにわかった
この子が不安になっているであろうことは
すぐに気づくことかできた
私の触れる頭が、小刻みに震えていたから
加賀「……」
この幼い駆逐艦は戦場を生き抜けるのかどうか
不安になっていて、恐れている
私でさえ慣れたわけではないことなのだから
自称レディが平気なわけがなかった
加賀「なれ…」
暁「?」
加賀「……なれるわ」
無責任に言っていいのか不安はあった
けれど私はこの場を取り繕うために
目の前で駆逐艦が泣かないために
哀愁の漂う背中を見送らないために
そう言った
暁「そ、そうよね!」
加賀「っ」
一番艦暁のその笑みは
いつぞやの《無事に帰ってくるよね》という言葉への返しと
その言葉を向けた結果を思い出させた
暁「加賀さん、ありがとう!」
加賀「気にしなくていいわ」
加賀「何も、していないから」
私がそういうと、自称レディはそんなことないわ。と
嬉しそうに笑う
幼い駆逐艦のこの笑みは
普段の私たちをいやしてくれる貴重な存在
けれど
今だけは、胸に痛かった
暁「やっぱり、加賀さんはレディだったわ」
暁「また、お願いしてもいい?」
加賀「……気が向いたら」
暁「ありがとう!」
そういって走り去っていく
元気な暁型駆逐艦の一番艦を見送る
姿が見えなくなると
すぐに、ため息がこぼれた
加賀「……また」
加賀「その約束、貴女は守れるのかしら」
自称レディに問いかけるように
自分自身に問いかけるように
私はそう言って、自室へと戻った
翔鶴「先輩、お疲れ様です」
加賀「貴女……」
自室といっても
艦隊の中でさらに二人一組とかで部屋割りされているため
相方がいる
私の相方は、翔鶴さん
正規空母、翔鶴型の……確か、3番艦
加賀「どこかに出かけなかったの?」
翔鶴「いえ、瑞鶴と少し」
加賀「そう……向こうの部屋にいても構わないわ」
翔鶴「その……」
翔鶴さんは暗い表情で口ごもると
誤魔化すように笑って、お茶はいかがですか? と、言う
断るのも失礼かと考えて
一杯だけ、もらう
翔鶴「…………」
加賀「…………」
空気が重い
あの五航戦と同じように、私も苦手なのか
それとも、ただ
私の最初の会話がまずかったのか
とにかく、空気がよどんでいるように思えた
翔鶴「瑞鶴は」
翔鶴「瑞鶴は…私が嫌いみたいです」
加賀「………」
あの五航戦は脳味噌まで七面鳥なのかしら
ついこの前、話したばかりだというのに
内心、怒りを覚えつつ翔鶴さんを見る
加賀「そう言われたの?」
翔鶴「…いえ」
寂しそうな様子で翔鶴さんは首を振る
言葉にされてはいないけれど、態度で示されたのかもしれない
いずれにしても…
加賀「戸惑っているのよ」
翔鶴「え?」
加賀「どう接したら良いのか」
加賀「…色々と、複雑だから」
五航戦を庇うわけではないけれど
そんなつもりは毛頭無いけれど
けれど、五航戦の気持ちは分からなくもない
それに目の前の翔鶴さんを慰めるには不可欠だと思った
加賀「だから、瑞鶴を嫌いにはならないであげて」
翔鶴「それは、もちろんそのつもりです…」
悲しげな姿は良く似ている
落ち込んだ姿も浮かべた笑みも彼女に良く似ている
それはそうだ。彼女とこの翔鶴さんは
全く同じで全く違う存在なのだから
加賀「…もう少し、出てきます」
加賀「好きに、していていいわ」
私がそう言うと、翔鶴さんは頷く
やはり、彼女は彼女であって彼女ではなかった
加賀「加賀です」
執務室の扉を叩いて名乗る
電「入っても平気なのです」
いつもの声が聞こえてから、失礼します。と、一言
扉を開けてなかに入ると
真っ正面に空席一つと書類を抱えた秘書艦の電さんが見えた
加賀「提督は外出?」
電「はい」
電「先ほど、如月型四番艦を迎えに」
加賀「また、なのね」
電「駆逐艦は盾なのです」
電「低コストで量産ができ、欠けても戦力的に影響はないのです」
冷めた口調の初期艦であり秘書艦である電さんの表情は
裏腹に、悲しさが滲み出ていた
私もまだ一番艦だけれど
ここに来てからの年月は当然ながら彼女よりも短い
つまり、この駆逐艦は精神的には私よりもずっと、大人だ
電「なので、加賀さんはあまり駆逐艦に関わらないことをおすすめするのです」
加賀「暁さんのこと?」
電「なのです」
電「明日には、二番艦になっているかもしれません」
電「同じ言葉を繰り返す」
電「その辛さは、瑞鶴さんを見ているのなら」
電「よく知っているはずなのです」
瑞鶴、五航戦、瑞鶴型航空…いや
今は瑞鶴型装甲空母一番艦だったか
電「瑞鶴さんはもう一人前なのです」
電「だから…」
加賀「一人前では足りないわ」
電さんの言葉に割り込み、頭を振る
彼女は少し躊躇し、
もう一度言い直そうとしていたけれど、息を呑むだけで止まった
加賀「それに、私は託されました」
加賀「だから、譲れません」
電「翔鶴さんとの相部屋も、ですか?」
加賀「…私なら、平気よ」
加賀「あの人の優しさは、人の心に残りやすい」
加賀「なのに、あの人の魂は消えやすい」
だから、私が適任だ
私は別に辛くはないから
電「…電よりも、加賀さんは強いのです」
加賀「いいえ、貴女の方がずっと強いわ」
加賀「貴女は数多くの入れ替わりを見て、繰り返してきた」
加賀「それも親しい駆逐艦から、慕っていた戦艦や空母まで」
加賀「それでも、ここにいられるのだから」
空母である私が駆逐艦であるこの子を。というのは
周りから見ればおかしな話かもしれないけれど
加賀「私は、貴女に憧れているわ」
電「そんなことを言われても困るのです」
照れ臭そうに頬を染めて笑う
その姿だけは、駆逐艦らしい愛らしさを感じた
電「解ったのです」
電「暁お姉ちゃんとのことに口出しはしないのです」
電「ただ、これだけはとどめておいて欲しいのです」
電「あまり強く想わないように。と」
電さんはそう言うと
駆逐艦らしからぬ表情で私を見る
電「駆逐艦が壊れただけで」
電「空母の加賀さんまで壊れるのは問題なので」
冷たい言葉、冷酷な瞳
けれど、それがこの子の本心ではないと分かっている
でも、だからこそ私は羨望の目を向ける
偽りとはいえ
そう言うことが出来る強さを、この子は持っているからだ
元スレ
暁「加賀さん加賀さん」 加賀「?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467458921/
暁「加賀さん加賀さん」 加賀「?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467458921/
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