凛「店番、時々アイドル」
春の陽気ももうすぐ終わって、これから湿度の高い梅雨がやってくる。
奈緒なんかは髪がまとまらなくてほんと嫌になる!なんて、ぼやき始めるんだろうな。
話しは変わるけど、何気ない口約束っていつまで有効なんだろう。
1週間、1か月、1年以上、あるいは……そんなある夏の気配を感じ始めた日のこと。
凛「いらっしゃい。今日はひとり?」
奏「ええ、実はおつかい頼まれちゃったの」
凛「奏が、おつかい?」
奏「ふふ、意外そうな顔しちゃって」
凛「だっておつかいなんてキャラじゃないでしょ。誰から頼まれたの?」
凛「やる気のない物真似がちょっと面白くて」
奏「そう?けっこうフレちゃんの特徴つかめてると思わない?それより、何のことか巻き込まれた私に説明してくれないかしら」
凛「えっと、フレデリカから注文なんて……あ、今度はって言ってたってことは……」
奏「何か思いあたることがあったみたいね?」
凛「フレデリカの誕生日前だったかな、志希とふたりでお店に来てね。私が選んだ花を、志希がプレゼントしたことがあったんだ」
奏「それで次は志希にお返しってことね……ふぅん、楽しそうなことしてるじゃない?」
奏「あの子って適当そうで、そういう所はちゃんと覚えてたりするのよね」
凛「それを無関係な奏に頼む辺りも、フレデリカらしいというか」
奏「面白そうだし、私は構わないけどね。さて、忘れん坊の凛はどんな花を選ぶのかしら?」
凛「奏の悪戯っぽい笑顔が私に向くなんて……」
奏「凛って普段はつつけるような所を中々見せないんだもの。ふふ、その顔見れただけでも、おつかい頼まれて正解だったわ」
凛「もう、わかったから待ってて!志希にぴったりな花、選んでくるから」
奏「はいはい、ちゃんと待ってるからゆっくり選んできて」
奏「薄紫色……いえ、ソフトピンクの薔薇ね。花弁が多くて普通の薔薇より見た目がふわふわしてる……うん、良い香り」
凛「色合いも志希っぽいでしょ」
奏「そうね。名前はなんていうの?」
凛「このバラの名前は、スピリット・オブ・フリーダム。花言葉は“先駆者”」
奏「自由の魂、そして先駆者か……たしかに、何者にも縛られない彼女らしい名前ね」
奏「つるバラって、よく薔薇のアーチとかで見るあれのこと?」
凛「そう。バラは大まかに、木バラと半つるバラとつるバラの種類に分けられるの」
凛「成長も早くて、放っておいたら色んな方向に向かって伸びて花を咲かせる……名前はこんなところからきてるのかも」
奏「ふふ、ちょっと目を離したら放浪しちゃうところも、志希みたいでいいじゃない。お似合いね」
凛「少しは見直してくれた?」
奏「もう、別に馬鹿にしたわけじゃないから、許して?そうやって気にするとこも可愛いけどね」
凛「も、もう、またすぐそうやって……!」
奏「なんて、冗談よ。さすがね、凛。見直しちゃったわ」
奏「ありがとう。志希もそうだけど、フレちゃんも喜んでくれそうね」
凛「そうだと嬉しいんだけどね」
奏「きっとそうよ。あと、私の番も期待してるわ。素敵な花を選んでね?」
凛「奏への花か……実は、もう思いついてる」
奏「そうなの?」
凛「でも、考え直しだけど……」
奏「残念ね。ボツにしちゃうのも勿体ないし、その花のこと聞いてもいい?」
奏「ザクロって、あの果物の?」
凛「うん。奏は撮影の消え物としても使ったでしょ」
奏「そんなのもあったわねぇ……それだけだったら、理由としては単純すぎない?」
凛「もちろん違うから。ザクロの花言葉は“成熟した優雅さ”。まさに奏らしい言葉じゃない?」
奏「そんな意味があったの。でも、ボツってことは頂くことはできないみたいね」
凛「うちじゃザクロの果樹は扱ってないからね。残念だけど」
奏「なら、それに負けないくらいの花を選んでくれるんでしょ?だったら期待してるわ。それじゃ、帰るまでがおつかいだから、そろそろ戻るわね」
後日、志希の誕生日にフレデリカからバラの花束が贈られた。
志希本人はプレゼントの件をすっかり忘れてたみたいで、そういう意味ではサプライズと言えなくもない、かも。
奏は花の意味についてもしっかり教えてくれたみたいで、フレデリカも志希も喜んでくれた。伝えてくれたこと、感謝しないと。
彼女に似合う花、いろいろ探しておかないとな。私なりの感謝の気持ちも込めて。
それでもニュースの週間天気では、明日からまた暫く傘のマークが並ぶみたい。
家のベランダには待ってましたとばかりに、たくさんの洗濯物が風になびいていた。
お客さんもまばらな昼下がり、私も久しぶりの日光を体で受け止めようと、店先に出て商品の手入れをしている。
そんなある梅雨の晴れ間の日のこと。
肇「こんにちは。花屋さんとは聞いてましたが、ここだったんですね」
凛「あれ、ふたりともどうしたの?お店に用ってわけじゃなさそうだけど」
あやめ「わたくし達はレッスンが終わってこれから戻るところです!」
肇「今日はもう予定もないしゆっくり帰ろうと、いつもと違う道にしたんですが……偶然ですね」
凛「そうだったんだ。今日は久しぶりに晴れたし、歩きたくなる気持ちもわかるな」
肇「最近はずっと雨続きでしたからね」
あやめ「忍びとは影に住まうものですが、お天道様の下にも出たいですから!」
凛「あ、時間あるならお店の中見てく?ちょうどこの時間はお客さんもあまり来ないし」
肇「いいんですか?じゃあお言葉に甘えます」
あやめ「ではお邪魔します!」
あやめ「うむ、草花は癒されますなー」
肇「私は田舎育ちなので、こうやって緑に囲まれているのが好きですね」
凛「やっぱり都心は緑が少ない?」
肇「うーん、そうですね。ですが公園なども多いので、想像していたよりは多いですよ」
あやめ「もっとビルばかり立ち並ぶ大都会というイメージでしたが、意外とそうでもないんだなと思いました!」
凛「東京といっても地域によっては全然違うからね」
あやめ「わたくしの地元も自然豊かな地でしたので、草花の香るこのお店は落ち着きますね!」
あやめ「忍者に憧れ野山を駆け回ったことはあります!」
肇「おじいちゃんと一緒に渓流釣りに行ってましたね」
凛「ふーん、なんかいいね。私は山で遊ぶって全然ないから」
あやめ「凛殿のように都会に生まれ住んでいる、というのもある意味憧れではありますよ」
肇「この前、実家に帰省した時に、田舎も都会もそれぞれ違った良い部分があると思いました」
凛「そうなんだ。やっぱり隣の芝は蒼いってことなのかな」
肇「はい、育った土地に戻って羽を伸ばすのは気持ちがいいですね」
あやめ「あとは久しぶりに会う家族に近況を話したり、ですかね?」
肇「おじいちゃんは最初、私がアイドルのために上京するのを反対したんですけれど『やるからには完璧を目指せ』と認めてくれて……あのときは嬉しかったです」
あやめ「それは嬉しいですね!わたくしも祖父と一緒に時代劇を見た影響で忍者好きになったので、祖父はいまの忍ドル活動を応援してくれてます!」
凛「ふふ、ふたりともおじいちゃん子なんだね」
肇「あやめちゃんは帰省しないんですか?」
あやめ「スケジュールの都合でタイミングが中々……やはり、多少まとまった日数でないと出向くのも難しいですから」
凛「両親に連絡したりとかは?」
あやめ「父や母とは携帯でやり取りできるんですけど、祖父はそういった類を持っていないので……手紙も考えたんですけど、その」
凛「手紙は良い考えだと思うけど……何か問題あり?」
凛「たしかに、普段文字でやり取りしてない家族への手紙って、案外難しいかも……」
肇「おじいちゃんが好きだからこそ、伝えたいことがまとまらないって事なんでしょうか?なんとなくわかります……」
あやめ「って、しめっぽくなってしまいましたね!せっか
コメント一覧
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- 2016年07月20日 21:43
- アイドルとも臆すること無く飄々と自然体で会話するしぶりんの大物感
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- 2016年07月20日 22:24
- いいね
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- 2016年07月20日 22:26
- 浴衣は慎ましいお山の娘の方が似合う
浴衣のよしのんと花火してぇなー
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- 2016年07月20日 22:27
- 浴衣(世界レベル)
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- 2016年07月20日 22:31
- 「隣の芝生」から溢れ出るあの気持ち。
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- 2016年07月20日 22:45
- 文香が好きじゃあ!
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- 2016年07月20日 22:46
- 面白かった
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- 2016年07月20日 22:47
- 農家、時々アイドル
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- 2016年07月20日 22:56
- 拝金主義、時々事務員
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- 2016年07月20日 23:25
- 「隣の芝生は蒼い」の小ネタにワロタ。
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- 2016年07月20日 23:39
- やっぱりこのシリーズ最高やな
目指せ、全アイドル!!
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