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VAIOの里で見た謎の安曇野フィニッシュと億単位のテスト環境にVAIOの真髄を見た - Engadget Japanese


「わがVAIO Pro11やVAIO Phone Bizが出荷された故郷を見てみたい」という思いで、VAIO安曇野工場プレスツアーに参加した筆者は、安曇野フィニッシュって一体何をしているのかという謎とすぐに試験が行なえる開発環境を取材しました。

VAIOの里で安曇野フィニッシュとEMCを見た

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VAIOの里とは、長野県安曇野市にあるVAIOの工場のこと。VAIO好きの聖地です。そんな聖地巡礼を行なうには、電車だと新宿から特急あずさに乗ってガタンゴトンと2時間ほど揺られ松本へ。そこから大糸線に乗り換えて豊科までまったり向かうのですが、今回はプレスツアーということで、松本駅からバスで工場へ向かいました。クルマだと長野自動車道の安曇野インターを降りて5分ぐらいの位置にあります。


▲松本駅。神奈川の自宅よりここまで3時間半ほど。スーパーあずさに揺られてきた。

到着すると、まずは昼食休憩。工場2階にある食堂にてお弁当を食べました。テラス席があり、大糸線と北アルプスの山々を見ながらまったりと食事ができます。


▲VAIO安曇野本社工場に掲げられているロゴ。


▲VAIOの里の碑の前でお決まりの撮影会が繰り広げられた。工場の門前に設置されているので、行けば誰でも記念撮影できますよ。


▲到着したのが12時前。まずは腹ごしらえとお弁当が用意されていた。2階の社員食堂はテラス席完備で、アルプスの山並みを見ながら食べられる。


▲テラスからはのどかな田園風景が広がるなか、大糸線の列車が走る姿を拝められる。

食事でマッタリしたあとは、VAIO代表取締役社長の大田義実氏や安曇野市副市長の村上広志氏などの面々がお話。太田社長は「2年で黒字に転換した。今年度(7月1日から新年度)は、安定と発展、第三のコア事業を立ち上げる」と話し、ソニーから独立して黒字転換したことは、VAIOファンならずとも嬉しいニュースでした。


▲VAIOの代表取締役社長、大田義実氏。

また村上副市長が「VAIO Zをふるさと納税の返礼の品物としてご提供いただき、予想以上の大反響で昨年度は1591台も返礼しました。総務省から返礼品として換金性の高いものは望ましくないと通達がありましたが、VAIO Zは特産品なので今後もやっていきます」と、お神を無視してでもVAIO Zを広めると心強いお話が聞けました。


▲安曇野副市長の村上広志氏。ふるさと納税できるように頑張りたい。

この安曇野工場VAIOの本社でもあり、設計や開発、サービスの部隊とVAIO Zの製造、その他の製品に対する最終検査、いわゆる安曇野フィニッシュが行なわれています。VAIO Zの製造工程に関しては、

●基板までMade in Japan、VAIO Zの製造工程を長野・安曇野の地で目撃してきた!

こちらの記事を読まれると、細部にまでわたってこだわりぬいた製造工程の実態について感涙すること間違いないです。

ということで、筆者はVAIO Z以外の製品についてとほかの工場ではなかなか設備のないEMCサイトについて、この目で見てきたことをマルっとお伝えします。

安曇野フィニッシュの検品工程を目撃



▲工場内へ入る前に、VAIOの制服を着てご満悦のワタクシ。

まず、VAIO Phone Bizにカードが封入してあった「安曇野フィニッシュ」の工程について。VAIO Zは、基盤に各種チップを搭載するところから出荷まですべての工程をこの安曇野工場で行ないますが、そのほかの製品については、海外の工場で製造されたものを、そのまま出荷するのではなく一度、すべて検査やソフトの導入などをこの工場で行ないます。中国の工場でも検査をしたあと運ばれてきますが、輸送時に依るものも含めて、品質的に問題がある場合があるので、お客さんへ届ける前に自分たちの目で確認しているとしています。


▲VAIO Phone Bizに入っている「安曇野フィニッシュ」のカード。この工場でチェックしたあと封入される。

わがVAIO Phone Bizの安曇野フィニッシュ工程は、工場内のごく一角にありました。作業している人は4人から5人。届いた製品を開けて、外観検査をしたあとに基本的な機能を検査します。このとき、市場流出させたくない過去の実績を踏まえて、どこを検査すればいいか分析をしており、その上で検査項目を絞っているそうです。検査を通過した製品は、ソフトウェアのインストールをし、梱包して出荷します。


▲並べられているVAIO Phone Biz。

従業員の方が一台一台、しっかり外観を見て、検査をし、梱包までしていました。もちろん、ここで出てきた不具合は、工場の方へフィードバックし、品質をより向上させているようにしているそうです。こうした工程をへて、私の手元に届いたわけですね。


▲外観チェックや機能も検査。一台一台作業員がしっかりチェックしていた。


▲ソフトウェアのインストール作業。この後梱包されて出荷される。

その隣には、VAIO Z以外のPC製品の安曇野フィニッシュ工程があります。VAIO Phone Bizの作業場に比べ4倍以上の広さがあります。こちらでは、VAIO Phone Biz同様海外から届いた製品を、外観をチェックしたのち、メモリーやストレージのコンフィグをしOSをインストール。機能検査をします。パスした製品が梱包されて出荷されます。


▲外観検査。キズはもちろん、部品の間違えなどもチェックしている。


▲外観だけではなく、内部の点検も行なわれる。


▲点検とともにSSDなどの組み付けをここで行なう。

この日あった不具合は、ちょっとしたキズや、取り付け部品が違ったりと、パッと見だと見逃してしまうようなレベルのこと。単に工場から送られてきたものを出荷するより、この工程でしっかりチェックすることで、不具合品をお客さんへ届くようなことを未然に防いでいまます。安曇野フィニッシュにこだわるVAIOの意識の高さが伺えます。


▲キーボードは人の手で打ってフィーリングを確認していた。


▲エージングと呼ばれる工程。ソフトをインストールしバッテリーテストなどの試験も兼ねている。

こうして、同梱されている「安曇野フィニッシュ」のカードには、「日本でちゃんとしっかり確認し最高の製品をお手元にお届けしました」というVAIOの誇りが込められていたのでした。

設計と量産時に重要なテスト環境を工場内に完備

続いて、EMCサイトと呼ばれるテスト環境を見学しました。EMCとはElectromagnetic compatibilityの略で電磁両立性の意味です。たとえば、PCをラジオに近づけた時にラジオが聞けなくなったり、冬場の静電気でPCが壊れないようにするため、確認する作業場がこの施設になります。

PCは、不要な電波を発しています。CPUの動作周波数は2GHzが中心ですが、それによって不要な電波が発生しており、たとえば動作周波数に近い2.4GHz帯を使っている無線LANなどが、不要な電波によって通信が妨げられたら困ります。ちなみに、無線LANの出力は0.01W程度と非常に小さく、影響をとても受けやすいのです。ほかにもLTEやBluetoothといった電波を利用するものを多く搭載しているので、必要な電波は確保し、不要な電波を封じ込める対策はとても重要なことなのです。

まず通されたのが、どんな電波が出ているのか確認するための3m法電波暗室。密閉された空間で、電波が壁で反射しないようになっていて、声を発しても反射せずクリアに聞こえます。部屋には一方にテーブルがあり、その上にPCやディスプレーなどが置かれて、もう一方にアンテナが備わった柱が立っています。PCが発する電波を、アンテナが正確に読み取れます。


▲3m法電波暗室の中。テーブルが発泡スチロールに覆われているのは、電波が机で反射しないようにするため。正確に測定するにはかなり時間を掛けてやるとのこと。

測定時はテーブルは回転し、アンテナが上方へ移動するので、PCを中心に360度、3次元的に電波を観測できます。PCだけでなく周辺機器も付けた状態なのは、いろいろな製品から電波が出ているので合わせて観測しなければならないとのこと。


▲観測する機器は暗室の外に設置。内部の様子もテレビカメラで確認できる。

次にWWAN性能測定設備_内部へ案内されました。ここでは、LTEの性能を測るための設備で、擬似基地局の設備がシールドルームの横の部屋に備わっています。シールドルームの壁には、無数の尖った三角柱に覆われていて、その奥にアンテナが設置されています。中に入るとやはり音も反射されないので、無音に近い状態になります。

▲炭素系の素材をつかった三角柱の壁は電波を吸収するので、ノイズキャンセリングヘッドホンで無音にしている状態に近い感覚になる。

測定は、中に置いたPCが動き、あらゆる角度から基地局と通信して、電波の強弱や通信性能が落ちないか確認します。この設備があることで、各キャリアのフィールドテストを外でやる必要がなくなります。また、このテストをクリアすれば各キャリアでも認めてもらえ、測定結果はりんごのような形をしていて、色ムラのないことがベストとのことです。


▲PCだけでなくVAIO Phone Bizもここで試験を行なったとのこと。

このシールドルームは最終的な検査のため、設計段階では隣のアンテナ性能測定設備で作業をしています。最終段階で「やっぱアンテナの位置がダメだ」ということのないよう、MRIのように製品を中心に置いて輪切りにするような感じで360度電波の強さを測定できます。ここで性能確認をして、もし思ったような数値が出なければ、アンテナの位置を変えるなどの対応をしなければなりません。デザインと性能をマッチングさせる上で重要な設備となっています。


▲アンテナ性能測定室の入り口。WWAN性能測定の部屋と同様、吸収材で覆われている。


▲台が回転して360度どの方向からも測定できる。


▲外にある測定機器。ちなみにWWAN性能測定機器の写真はないが、擬似基地局の機材は億に手が届くぐらい高いそうだ。

最後に案内されたのは、電波ではなく静電気による故障を防ぐための静電耐量を測定する部屋。これまでのように、壁に電波を吸収するような部材はありませんが、帯電しないように工夫されています。今回は電動ドライバーのような形の機材で1万ボルト程度の電圧を製品に与える試験を見ていもらいました。CPUは最小0.8ボルト程度で動作していますが、この1万ボルトを与えることで誤動作やフリーズをしてはいけません。人間が静電気によってバチッとなるときは、だいたい7000~9000ボルトだそうですが、VAIOでは最大1万2000ボルトで検査をしているとのこと。この静電耐量を測定する部屋も設計用と量産前用と2つ用意されていました。


▲電波測定室に比べるとかなり地味だが、帯電しないよう工夫されている。左の電動ドライバーのような機械をPC本体に近づけて「バチッ」とさせて動作確認をする。

このようにEMCは設計する部署の近くにあることで、デザイン性と性能を両立するために設計段階で試験を重ね、工場横にあるため量産前にも確認でき、試験でのタイムロスを極力なくし、ギリギリまで調整できるメリットがあり、設備投資に億単位かかりますが、VAIO(前身のソニー時代から)は自前でもつことにしたそうです。

たとえば、設計側はここにアンテナがあるといいといっても、組み立てにくいとなるとどちらかが譲歩しなければなりません。またアンテナを貼り付けてしまうと、故障した際一体を交換しなければならず、ユーザーサービス的にはあまり良くありません。このように、設計と製造、サービスが一緒の場所で作業することで、より良い製品を作ることを目指しているというわけです。

今後、LTEがより高い周波数が利用されると、ますます設計が大変になり、このような施設を自前で持っている強みがでてきます。現在は、受動的で周波数に合わせて複数のエレメントを用意してきました。しかし、そのスペースにも限界があるため、これからはエレメントを複数用意するのではなく、そのエレメントに合わせて事前のチューニング回路を用意するという手法が、今後主流になるとのこと。どのメーカーも取り組んでいて、詳細は秘密だそうです。

ということで、初めて訪れたVAIOの里は、製品に対する思いとこだわりがとても強くて、やっぱVAIO Zが欲しくなりました。今回のプレスツアーは施行人数の関係で撮影はNGだったのですが、今度はもっとゆっくり工場内を見学してみたいですね。

▲安曇野市の製造業を支えているVAIO。のどかな田園風景が広がるが、これからもこの地で最先端の製品を作り続けててくことでしょう。
VAIOの里で見た謎の安曇野フィニッシュと億単位のテスト環境にVAIOの真髄を見た
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