三船美優「遥かな旋律、琥珀の夢」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】
(プロローグ)
何度も見る夢がある。
薄ぼけた視界。遠ざかっていく琥珀色の影。
耳朶を打つ雨音。鼓膜を震わせる哀しげな旋律。
そして、幾重もの膜を通したような遠い声。
「――…………くの」
「――…………ないで……」
摩耗しているようで焼き付けられている、その記憶。その夢。
これは私の、そんな記憶にまつわるお話です――
※ウルトラマンオーブ×アイドルマスターシンデレラガールズのSSです
※地の文がやたらに多いです
※過去怪獣のリメイクという形でオリジナル怪獣がいます
※捏造設定や独自の解釈などがかなり多めです
※時系列的には、オーブ側は本編より二、三年ほど前、デレマス側は三船さんのデビュー前という設定です
※遅ればせながら、三船さん総選挙三位、ボイス決定おめでとう!
※登場アイドル
三船美優(26) 相葉夕美(19) 高森藍子(16)
(1)
夕美「それじゃあ、お疲れさま~」
美優「ええ。また明日」
午後八時。美優は駅前で夕美と別れ、自宅への帰路についていた。
夜でも活気あふれる東京の中とは思えないほどの閑静な住宅街。
人の姿も他に見えない夜道を、美優はひとりで歩いていた。
美優(あと、二週間……)
西の空に傾いている小舟のような月を見上げて、ほうと息を吐く。
しばらくすると薄い雲の後ろに隠れてしまったので、いつものうつむき加減に戻って歩き出した。
いつまで経っても――アイドルの卵になっても、美優のその癖は変わらなかった。
デビューして本格的にアイドルになればそれも変わるのだろうか。しかしそれが二週間後に迫っている今でも、彼女には実感が湧かないのだった。
短大卒業後の冴えない会社時代。その時から比べれば、歌やダンスのレッスンで忙殺されている今はある種の充足感がある。
だがそれでも、自分がアイドルとしてやっていくという図に現実感が伴わない。
事務所には他にアイドルたちがいて参考にはなるが、自分にも当てはまるとはどうしてか考え得なかった。
それは、自分が26歳という年齢だからかもしれない。
プロデューサーには「もっと年上のアイドルもいる」と聞かされていたが、彼の部署にいるのは年下の子ばかりだった。
若くて溌剌としていて、将来に希望を持っていて――そんな眩しさに、美優はどこか気後れを感じずにはいられなかったのだった。
美優「はあ……」
――ひとりになると変な方向に思考が深まっていって、自然に溜め息が漏れる。
それも習い性になってしまった悪い癖だと、美優は自嘲気味に微笑した。
美優(……早く帰ろう……)
今日は七月七日の七夕、なのだから。憂鬱に浸りながら独り歩くような日ではない。
美優(織姫と彦星は……会えたのかしら)
梅雨真っ盛りだが今夜は雨が降らなかった。
夜空に流れる薄い雲の裏には、そのような待ちわびた再会があったのだろうか。
『――…………くの』
離れ離れにされて、一年に一日だけ会うことを許された二人。
果たして「恋人」と別れさせられるというのはどういう気持ちなのだろうか。
『――…………ないで……』
美優はふいと足を止めた。
美優「…………」
声が聞こえた気がした。
美優「…………」
音が聞こえた気がした。
美優「…………」
頭の中のどこかの神経に触れて、変な、もやもやした感情を呼び起こす声。そして音。
美優「…………」
静かな住宅街。
美優以外には誰の姿も見えない。道路の両脇に並ぶブロック塀、垣根、家々の門。
顔を上げれば、背の高いマンションが視界に入る。
何も変わらない、いつもの静謐な夜。
それなのに――
美優(……)
目の前の道路に――
美優(……ラバー)
琥珀色の毛皮の大型犬が、こちらに背を向けて走っていた。
美優(…………)
美優は呆然として、立ち尽くしていた。
思考が凍ったように働かない。やっと働いた時には無意識に足が動き出していた。
美優(――そんなわけ)
ない、と分かっているのに。
だってあの子は――
――たっ、たっ、たたたっ。
いつの間にか、雨が降り始めていた。
――たたたっ、たたたっ、だだだだだっ。
だって、あの子は……。
――だだだだだっ、だだだだだっ、だだだだだだだっ。
あの子は、あの日に……。
――どおおおおおおおん!!
突然の雷鳴に驚いて足が止まった。
さあっと、全身に感覚が蘇る。
腕に、頬に、叩きつけられる雨粒。
肌に張り付くブラウスの生地。
冷たい。五月蠅い。寒い。煩わしい。
怖い。孤独感。恐ろしい。喪失感。
美優(ラバー……)
美優が立ち止まっている間に犬との距離は大きくなっていた。
ハッとして駆け出す。犬が前方の十字路で曲がる。姿が見えなくなる。
美優「待って――」
『――…………ないで……』
「――おい姉ちゃん!」
びくりと背筋が吊り上がった。
犬が曲がっていったのとは逆の角に、その影が立っていた。
暗くてよくわからないが、見た目20代後半くらいの男だった。
焦げ茶色のジャケットとブルーのジーンズ。好青年そうな顔立ちだが、今は険しい表情を浮かべている。
美優「…………」
突然のことに驚いて美優は声も出ない。
そんな彼女を見詰めながら、彼は不思議なことを言った。
男「もうやめときな。ここから先は――引き返せなくなる」
美優「…………」
絶句している美優を置いて男は反転し、夜道を歩き始める。
ジャケットの内ポケットを探って何かを取り出すと、それを口元に当てた。
美優「…………」
ハーモニカのような音が流れ、哀しげな旋律が閑静な街に響き出した。
男はそのまま去っていこうとする。我に返った美優は咄嗟に声を掛けた。
美優「ま、待ってください!」
男が立ち止まり、旋律が止む。
男「……何だい」
美優「あの……」
言い淀んでいると、彼は背を向けたまま、
男「――どうせ地球は丸いんだ。いつかまた会えるだろ」
そんなことを言い捨ててまた去っていこうとする。
美優「あ――そうじゃなくて」
また立ち止まる。
男「……そうじゃなくて?」
美優「あの……。……」
美優が言いにくそうにしているからか、ようやく男は振り返った。
二、三歩こちらに近づきながら、困ったような微笑を浮かべる。
男「黙ってたらわかんないだろ?」
その、人の良さそうな笑みに多少安堵して、美優は口を開いた。
美優「夜にハーモニカ吹いてたら……近所迷惑だと思います……」
男「…………」
男は浮かべていた微笑を固めて、……おもむろにハーモニカらしきものを内ポケットにしまって、
男「……あばよ!」
そう言って、心なし足早に去っていった。
美優(……何だったのかしら……)
取り残された美優は首を傾げていたが、ふと犬のことを思い出した。
慌てて十字路の先に首を向けるが、猫の子一匹いない。溜め息が漏れた。
美優(……あれ……)
すると美優はあることに気が付いた。
服がもう乾いているのだ。髪も肌も乾いている。まるで濡れた事実などなかったかのように。
周りを見渡してみる。塀にも道路の上にも水溜りどころか雨粒の跡さえなかった。
美優(……夢……?)
もしかすると白昼夢というやつだろうか(夜だが)。
ただ、現実感は強く覚えた。犬の後ろ姿、にわか雨、そして――あの男の人。
美優(あの音……)
彼が吹いていたハーモニカらしき楽器の音。
美優はそれに何かしらの引っ掛かりを覚えた。脳の中に張り巡らされている線が一本、爪弾かれたかのような……。
美優(…………)
しかし考え込んでも何の手掛かりも思い浮かばなかった。
結局最初よりも重い蟠りを胸に飼いながら、美優は帰路についたのだった。
(2)
翌日。美優が事務所への道を歩いていると、後ろから軽快な足音が聞こえてきた。
夕美「美優さーん!」
振り返るとライトグリーンの傘を差した夕美がいた。
美優「夕美ちゃん。おはよう」
夕美「はいっ、おはようございます!」
今日は梅雨らしく雨がしとしとと降りしきっていて、朝でも雲のせいで薄暗い。
しかしそんな中でも花のような夕美の笑顔は眩しかった。
夕美「そういえば美優さん、知ってる? 例の噂」
傘を並べて歩くかたわら、夕美が口を開いた。
夕美「清水が丘の辺りに奇妙な現象が起きてるっていう」
美優「あぁ……あの」
夕美「やっぱり知ってるよね。何か見える?」
美優「私の部屋からは……古い感じの船? とかかしら。変な話よね」
夕美「そうだよね~……」
夕美は思案投げ首で眉間に皺を寄せていたが、すぐ元に戻ってにこにこし始めた。
こんな陰鬱な雨模様でも素直に笑えるのは若さのおかげなのかな、なんて思ってみたりする。
そんなことを考えていたからか、
美優「……夕美ちゃんは綺麗ね」
……と、変なことを口走ってしまった。
夕美「……えっ? あ、ありがとう……?」
案の定、不意を突かれたように夕美は狼狽えている。
美優は慌てて取り繕った。
美優「ご、ごめんなさい。急に変なこと言っちゃって」
夕美「い、いえっ。美優さんみたいな綺麗な人に褒めてもらえると素直に嬉しいかな……えへへ」
はにかみながら笑顔を見せる夕美。
やっぱり綺麗だな、と改めて思った。
夕美「でも、どうして急に?」
美優「……雨の日でもそんなふうに笑えるのって、とても素敵だと思うから……」
夕美「――あぁ」
納得した風な声を出すと、夕美は歩道の脇の生垣を指さした。
夕美「紫陽花が綺麗だったから。ほら、雨と紫陽花ってよく似合うから」
彼女が指した先には、毬のような薄青色の紫陽花が華やかに咲き誇っていた。
もう事務所に近いのだ。二人が属する346プロダクション外縁の生垣には紫陽花が何本も植えられている。
美優「……確かに綺麗ね……」
そう言いつつ、美優は内心、心の底の泥をかき混ぜられたような感覚に陥っていた。
それは、ひょんなことから知ったこの花の花言葉に起因している。
紫陽花の花言葉――「
コメント一覧
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- 2016年08月13日 23:17
- 素直に楽しめたよ。
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- 2016年08月13日 23:32
- オーブの名前が知られてないってことは本編より前の話か
魔王獣絡んでるのにジャグジャグ出てないくらいしか違和感無かったな
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- 2016年08月13日 23:45
- レッドキング二代目って、やたら人間臭かった記憶がある。
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- 2016年08月13日 23:57
- 面白かった
ウルトラマン要素と心情描写が上手くリンクしてて素晴らしい
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何気に役名:スーツアクターというクレジットってコスモスの二話以来だよな?
最後のオリ怪獣、ディケイドとモバマスのクロスでもいたけど、解説は流し読みするか、「クソ寒い真似するな」と暴れる奴がいるからあまり書かん方がいいかも