NECは、"漆器の黒"を再現したバイオプラスチックを発表しました。
バイオプラスチックは、化学的もしくは生物的に合成した有機資源由来のプラスチック。化石資源を原料とする従来のプラスチックと置き換えが可能な一方、安価に量産するために必要な技術が確立していません。また、価格が従来のプラスチックよりも高価であり、また広く原材料として使われているトウモロコシやサトウキビが食料と競合する点などが課題となっています。
今回NECが発表したバイオプラスチックは、ワラなどの非可食植物を原料とし、同時に漆器が持つ質感の再現を試みている点が特徴。NECでは今回のバイオプラスチックが目指した漆の黒を"漆ブラック"と表現しています。
▲"漆ブラック"バイオプラスチック板(左)と、通常のバイオプラスチック板(右)。写真では微妙な違いであるが、肉眼で見ると、はっきり黒の深みが異なる
▲整形前のバイオプラスチックペレット
▲非可食のバイオマス原料となるワラ
製造の過程で、主原料となるセルロース樹脂中に着色成分を分散することで、成形時に漆器の持つ高光沢と低明度(=深い黒、漆黒)の再現を試みており、従来のバイオプラスチックにない"装飾性"の実現を目指す方針。
人間が漆器を手にとった時に感じる"温かみ"や"深み"といった質感を定量的に評価する指標は定められていません。そこで、漆芸家の下出祐太郎氏の協力を得て、同氏の手がけた漆器の黒を基準に、開発を進めています。
NECの発表によれば、光学特性としては本来、低明度と高光沢性は両立が難しいとのこと。漆ブラックでは、これを独自の添加剤の配合技術によって解決したといいます。
なお下出氏の言葉を伝え聞くところによれば、基準とした漆器モデルの漆黒を「100」とするなら、本発表時点の漆ブラックは「80」。漆黒を追求する余地はまだありそうです。
漆ブラックバイオプラスチックの活用領域としては、高級志向の家電や日用品、自動車の内装材、高級建材が挙げられており、これらに用いられるだけの強度や耐久性も確保する予定であると発表しています。
NECは今後について、さらなる強度や成形性、光学的な特性の向上を目指すとともに、新色として"朱色"の研究も進めていく意向を明らかにしていました。
現在、バイオプラスチックの原料として用いられている植物由来のセルロース(炭水化物)は、家畜飼料用のトウモロコシやサトウキビが元になっているため、直接人間の食料に影響をおよぼすおそれは低いものの、バイオプラスチックの需要が高まるにつれて影響が出始める可能性は否定できません。
またバイオプラスチックの原料を確保する手段としては、酒類製造時の余剰材を用いた方法や、ラン藻類の改変による有機酸の増産など様々な方法が研究されており、将来的に従来型プラスチックからの置き換えが起こる可能性が高まってきています。
"漆ブラック"バイオプラスチックの存在意義のひとつは、従来型プラスチックからの置き換えが現実的に進む将来において、高い装飾性により原材料としての活用の幅を拡げる点にあります。
とはいえ、現在バイオプラスチックの価格は通常のプラスチックの約2倍であり、コストの壁はまだまだ高く、引き続き量産技術の確立に期待がかかるところです。