工藤D「幻想郷でもなぁ、俺たちコワすぎチームは不滅なんだよ!!」
白、金色、緑……あらゆる光に奇っ怪な幾何学模様の亜空。ここはどこでもない場所、永遠の時空の狭間だ。ある種の〈地獄〉と言えるかもしれない。
「俺は絶対に蘇る、俺は絶対に蘇る、俺は絶対に蘇る……」
世界を原初の混沌に還さんとする「先生」との戦いに勝利したコワすぎチーム。彼らは江野と共に運命を、因果を破壊して、世界は再編されるはずだった。しかし……コワすぎチームはここに囚われていた。
「奇麗になりたい、お腹すいた、メシ食わせろ! 美味いもの食わせろ!」
「撮影だ撮影だ……撮影、撮影……動くものは何でも撮ってやるぞこのやろー!! はぁはぁ、カメラ、カメラどこだ? 俺にカメラよこせ! カメラどこだ? 動くものは何でも撮ってるぞおい! 撮影だ撮影だ撮影だーー!」
狂気に対する人間離れした耐性を持つ田代・市川でさえ、無限と思われる亜空間の幽閉に、精神に異常をきたしている。
「うるせえんだよお前ら! 集中できねえだろ! そんなことだからなかなか蘇らねえんだよ」
その中で、工藤だけが正気を保っていた。彼の備える狂気は何ものにも侵されないらしい。
コワすぎシリーズに関してはネタバレ全開で行くので見たくない方はブラウザバックして下さい
「あーもうなんだようるせえな、静かにしろよバカ野郎。完全にキチガイだな、全然話が通じねえよこいつら。永遠にこんなことして疲れるよったくよ~」
「カメラ、カメラくれよ! カメラがねえと始まんねえよカメラ頂戴よ~カメラァ~」
「お腹すいたーー! うわああああああん」
二人に残っているのは、本質的な欲望だけであった。田代にとっては、撮影こそが何ものにも代えがたい価値なのである。それもまた一種の狂気だ。
「お前ら何万回繰り返してんだそれよぉ~少しは変化つけろよ~」
「あ、お? あ? なんだこれ? 今までこんなもんなかったぞ? あん? なんだこれ? なんか聞こえるゾ?」
永遠かと思われた無の世界に、何かが出現した。それがなんであれ、闇にさした光に三人の意識はぎゅっと集中する。
「あ! あ! あ! あ! コワすぎ! なんだ、俺たちが作るコワすぎをまた見たいって!? おお聞こえる! 聞こえるぞ! ここから大勢の声がよぉ! どうだ市川、田代! 聞こえるだろ!」
時間も空間も超えて、届くものがあった。それはコワすぎを愛するすべての人の声だ。コワすぎを求める人々の意志が集合して、亜空間を引き裂くのだ。
「はい、聞こえます!」
「お? なんだてめえら久々に正気に戻ったじゃねえか!」
「すいません、ちょっと取り乱しちゃってました」
「すいません、カメラがないと落ち着かなくて……」
いつもコワすぎチームに戻りつつある。あとは、現世に復帰して肉体を取り戻すだけだった。
「俺達の出口はここだ! ここを抜ければ絶対に蘇る! この向こうでよ、大勢の野郎どもがコワすぎを待ってんだよ! いいか! 俺についてこい!」
「「はい!」」
「よーし……用意はいいか野郎ども! そっちの世界に飛び出してやっからなぁ! 待ってろよぉ! 行くぞぉ! 突撃ィ! うおおおおおおおおおお!」
「「「うあああああああああ!」」」
三人の叫び声が、異界にこだました――。
東風谷早苗は守矢神社の倉庫をひっくり返して、何かを探し求めていた。現世から持ち込んだ漫画とかゲームとか、そういう雑多なものがダンボールの山の谷間にぶちまけられている。随分引っ掻き回したのだろう。早苗の白い巫女装束が大分ホコリで汚れている。
「あ! やっと見つけました! このビデオ、ここにあったんですねぇ! ほら! 『口裂け女捕獲作戦』に、『震える幽霊』! 『人喰い河童伝説』……あっ!『ノロイ』だ……おっ! 『憑依』も買ってましたね」
この日、守矢神社では何とはなしに現世にいた時の話しになり、そこで見たDVDを見たくなって捜索していたのであった。
外の世界の都市伝説や怪奇現象を扱ったオリジナル・ビデオ・シリーズ……『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』である。『ノロイ』というのも小林雅文なる人物の手によるホラードキュメンタリーだ。
「あーうー! 劇場版までは現世で見たね~!」
「ねえ、諏訪子様、あの後世界はどうなったんでしょうね」
劇場版では、工藤たちの奮闘もむなしく、東京の空に「鬼神兵」なる霊体兵器が浮かび、世界を混沌に還さんとしていた。
「あのままいけば、アレを媒体にして、黄泉比良坂が開く。それで開闢以前の混沌に戻るんだろうね。でもまあ、未だに外からたまぁに人がくるし、案外、田代が頑張ったのかもよ」
「開闢以前の混沌ねぇ。せっかくみんなして、作り固めたのに。昔の人らの苦労が水の泡だわ」
八坂神奈子は訳知り顔で、付け加えた。そして、三人は外の世界が原初の混沌に帰すかどうかよりも、重大な問題に気がついた。
「円盤だけあっても見れないなぁ~。電気が通ってればプレイヤーが使えるのに!」
「山の近代化にいっそう力をいれなきゃね」
八坂神奈子も何とも残念そうだ。諏訪子と一緒になって、薄気味悪いDVDを手にとっては眺め眇めつしている。
「でも懐かしいですねぇ。ノロイにコワすぎシリーズ……長野で、どんな生活してたか、思い出してきましたよ」
「あはは、じゃあ今日はオムライスだねぇ」
何がおかしいのか、諏訪子はケラケラと笑っている。
「ああでも、発見するとますます見たくなりますね。河童回、もう一回みたいなぁ……見る方法……河童……あ!」
早苗は何事か思いつたらしく、満面の笑みを浮かべて円盤とプレイヤーを抱えて、「ちょっと行ってきます!」と言って(文字通り)飛び出してしまった。
「あ、早苗! ちょっと! これ誰が片付ける
の!?」
神奈子の叫びは、むなしく冬空に散っていった。
「まあ適当に箱にいれときゃいいよ」
風祝なのに神に後片付けを押し付けるとはなかなか不忠な気がしないでもないが、諏訪子たちはこれ以上は何も言わず整理に入った。DVDの再生環境がやってくるのを楽しみに待ちながら。
森深い沢の、その奥の河童の住処。河童の里みたいなところに早苗は来ていた。そして、発明家河童・河城にとりのラボで、例の円盤と箱を広げている。
「そうですDVDです。これを再生できる機械の製造、これが今回の依頼です」
にとりが四角い黒い箱、現世でいうところのDVDプレイヤーを撫で回したり、ひっくり返したりして観察している。現世の技術には関心があるのか、今にも工具で箱を解体しそうだ。
「幻想郷に来てから、何やかやで慌ただしくって、のんびりDVD見ようって気にならなかったんですよねぇ。あ、もちろん『謝礼』の方も考えていますよ。ほら、手付金」
早苗の懐から、一枚の紙幣がにとりに渡された。にとりは思わずそれを受け取ってしまう。
「で、これがその記録が書き込まれる円盤、と。そういう技術の存在は聞いてましたけど、ブツをナマで見たのは初めてですねぇ」
口裂け女、震える幽霊、そして……にとりは「人喰い河童伝説」のパッケージを取って、訝しげに黙りこむ。沼から顔出す厳しい河童が、こちらを睨みつけている。人喰い河童の名にふさわしく、いかにも凶暴・凶悪そうだ。
「そうなんですよ! スゴイスピードを突っ込んできて、ガツーン!って人間を垂直にふっとばすんです! それに工藤さんたちも、呪術と陰陽道を組み合わせて河童と戦うんですよぉ!」
「ははぁ、なるほど……そんな風にして?」
早苗は弾幕で光の五芒星を作り出し、その中心に立ち、にとりを見据えていた。いつもとやっていることは変わりないのに、早苗は不思議な高翌揚感を覚えていた。コワすぎ!ごっこはいつやって楽しいものだ。
「そう! 五芒星の中心に立って、河童を迎え撃つんですよ! 私もやってみたくなっちゃって! 筑紫の~日向の~小渡の阿波岐原に立ち~!」
「つくらなきゃ、迎え撃たれる?」
早苗は御幣を持って、ボクシングのファイティングポーズでにとりに答えた。にとりはどうも逃れられないと悟り、ため息をつく。
「まあお金ももらっちゃいましたし、外界の技術に関心がないっちゃ嘘になりますし、やりますよ」
「ありがとうございます! 神奈子様、諏訪子様も喜ばれますよ!」
「モノづくりは河童の領分ですよ。人を襲うだけってんじゃないんですからね。左甚五郎の元で城を一夜にして作ったって話もあるでしょ? ま、その後は無情のリストラだったそーですけど」
「知ってますよ、陰陽道の式神なんですよね?」
どうもあまり話が噛み合っていないようで、にとりは早苗を放っておいて、作業にかかった。河童の特異な工具類をフル活用して、箱を解体し組成を知り、河童の技術体系に変換しなおしていく。ガンガン、カンカン、ギィギィと、心地良いリズムを刻んで一つの新しい機械が組み上がっていく。
また早苗を取り囲んでいた五芒星の輝きが強まっていく。何らかの気配を感じ取り、早苗は御幣を構えて、その何かに備えようとする。一方、作業に集中しきっているにとりは、さっぱり気づいていない。
「できた! 早速試し……って!」
早苗が幾何学模様の輝きに包まれていた。にとりは何が起こったのやらと観察していたが、すぐに光は収まり、そこには早苗ともう一人、ガラの悪そうな人間の男が倒れていた。
「うっく……一体……にとりさん、大丈夫ですか……? あ、ああ! あ! こ、この人は!」
そう、『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズのディレクター、工藤仁その人である。
「う……うあ? 新世界か? 蘇ったか!? お? 触れるぞ! うおおおおおおお! よっしゃぁ!! やっぱシャバは違えよなぁ!」
肉の身体は久々で、工藤は全身を叩いたり擦ったりして、この世にいる喜びをかみしめていた。
「やっぱ身体あった方がいいよなァ! なあ市川! 田代! あ? だ、誰だお前ら?」
「おお~! やっぱり! やっぱり工藤さんですね! 安心してください! 私はコワすぎ!シリーズのファンの東風谷早苗というものです。で、こっちの子は、信じられないかもしれませんけど、河童の河城にとりさんです。ほら、河童」
早苗は人喰い河童伝説のDVDを、比較するようににとりの横にやった。
「河童だァ? この小娘が? ただのガキじゃねえかよ」
工藤は訝しげににとりを眺めた。にとりは居心地が悪そうに、早苗に何とかせよの視線を送るが、早苗は意に介さない。
「あの河童と戦ったんなら無理ないですよね。でもこの幻想郷じゃあ
コメント一覧
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- 2016年08月21日 22:51
- 再現度高いな
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- 2016年08月21日 23:07
- >因みにコワすぎ!シリーズを一言で説明すると、口裂け女を捕獲するために深夜の住宅街を金属バット片手で徘徊してた男が最終的にウルトラマンになって世界を救うお話です
全く意味が分からんぞ!
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- 2016年08月21日 23:55
- 説明だいたい合ってるからしゃーないw
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- 2016年08月21日 23:58
- 再現高杉
>因みにコワすぎ!シリーズを一言で説明すると、口裂け女を捕獲するために深夜の住宅街を金属バット片手で徘徊してた男が最終的にウルトラマンになって世界を救うお話です
大体合ってて草
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