596 名前:1/3[sage] 投稿日:04/07/29(木) 04:21 ID:eCoBJSET [1/3]
一年前の今頃、妹が突然電話をかけてきた。家を出てからあまり交流がなかったので少し驚いた。
「病院に行って検査をしたら、家族を呼べって言われたから来て。両親には内緒で」
嫌な話だということは簡単に想像できた。
妹は胃癌だった。初期の段階だが、すぐ手術をしなければいけないということだった。
「お父さんとお母さんに言ったら、びっくりすると思うからお兄ちゃんを呼んだ。迷惑かけてゴメン」
親父は二ヶ月前に胃潰瘍を患っている。
お袋は神経が細かいので、こういった話には耐えられないだろう。
だから妹は俺を呼んだのだと言う。

妹は少し優秀なプログラマーで、手術の費用などは心配するなと笑っていた。
高額医療保障制度もあるし、大丈夫。
でも、お父さんとお母さんにだけは内緒にしておいて。
手術が終わったら言うから。
迷惑かけてゴメンね。
迷惑かけてゴメンね、と、何回も繰り返す妹に、俺は「迷惑じゃないよ」としか言えなかった。

医者に話を聞いたら、本当は初期じゃなかった。
だいぶ進行していて既に末期だという。
手術中に死ぬかもしれないとも言われた。
手術しても助からないかもしれないとも言われた。

俺は両親に言ってしまった。

親父は絶句して、お袋は精神的なショックで一時的に左耳が聴こえなくなった。
でも、二人ともすぐに入院した妹に会いに行った。



597 名前:2/3[sage] 投稿日:04/07/29(木) 04:21 ID:eCoBJSET [2/3]
妹が俺を責めた。
「何で言ったの。言わないでって言ったじゃない」
俺は「ゴメン」しか言えなかった。
死ぬかもしれない妹に、とにかく両親を会わせてやりたかった。

でも本当は、妹の死を一人で背負う事が辛かったんだと思う。
俺は弱い卑怯者だと思う。

手術の日、手術室に移される前に、妹が俺に言った。
「迷惑かけてゴメンね」
俺はやっぱり、「迷惑じゃないよ」としか言えなかった。

手術は腹を開いただけだった。
検査で分かっていたが、手術をしても無駄なほど癌が進行していた。

それから二ヵ月後、妹は死んだ。27歳だった。
死ぬまで、俺は毎日病院に通った。仕事の合間にも顔を出した。周囲にはいい兄貴に見えたと思う。
そんなに仲がいい兄妹じゃなかったと思うが、それでも毎日病院に通った。
妹は何度も、「迷惑かけてゴメンね」と謝った。

意識がなくなる二日前、俺に
「お父さんとお母さんに教えたって、責めてゴメンね。
迷惑かけてゴメンね」
と言った。
俺は「迷惑じゃないよ」としか言えなくて、自分が死にたくなった。


598 名前:3/3[sage] 投稿日:04/07/29(木) 04:22 ID:eCoBJSET [3/3]
もうすぐ妹の命日だが、今でも後悔している事がたくさんある。
もっと気の利いたことを言ってやりたかった。
調べればもっといい病院があったかもしれない。探してやりたかった。
今まで全然甘えなかった妹が最後に俺を頼ったのに、俺は何もしてやれなかった。

27年間、もしやり直せるんだったら、俺はもっと強くていい兄貴になりたい。
でもそれはできない。
立ち直るまでまだもう少し時間がかかりそうだが(一年も経ってまだ立ち直ってないのかと自分でも思うが)、
妹の分までしっかり生きていってやろうと思ってる。
もっと強くていい兄貴になって、天国の妹が自慢に思ってくれるような人間になりたい。


長文すまない。
ここまで読んでくれてありがとう。誰にも言えなかったのですっきりしました。