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理想的な「立体Y字路」を探して - デイリーポータルZ:@nifty

 

ちしきの金曜日 2016年8月26日
 

理想的な「立体Y字路」を探して

東京で最も有名かつダイナミックな「立体Y字路」は渋谷のこれだと思う(場所はここ)。
東京で最も有名かつダイナミックな「立体Y字路」は渋谷のこれだと思う(場所はここ)。
Y字路って、なんかいいですよね。浅い角度で静かに分かれていく様に、なんとも言えないものを感じる。

なかでもぼくは左右で高低差のあるY字路に特に惹かれる。今回、ぼくにとって理想的な「立体Y字路」を求めて歩き回ったので、その成果をご覧いただきたい。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。
> 個人サイト 住宅都市整理公団

立体Y字路の愛おしいポイント

まずは今回見た中で最高の立体Y字路を。
これが暫定最高の立体Y字路。左の道は蛇行しながら下っていき、右はやんわり上っていく。すてきすぎる。
これが暫定最高の立体Y字路。左の道は蛇行しながら下っていき、右はやんわり上っていく。すてきすぎる。
上の写真がいまのところぼくにとって最高の立体Y字路です。

一番最初の渋谷の事例ももちろんいいが、ちょっと有名すぎる(有名ですよね?)ので、もっと知られざる名品を見つけたいと思ったしだいだ。

ともあれ、これ、いまこうして写真で見ていてもうっとりする。実際に出会った時は思わず声が出た。

何時間でもじっと見つめていたい。なんならここにテントでも張って三日三晩愛でていたい。

愛おしいポイントはいくつかある。

まずYの先の道が、それぞれ下りと上りである点だ。これ重要。重要なんです。なんせ"立体"Y字路だから。

片方は坂だが、もう一方は平坦、というのも悪くはないが、できれば両方とも坂であってほしい。
図で示すとこういうことです。
図で示すとこういうことです。
どういうことか文章だと分かりづらいので図にしてみたが、どうだろう。こういうことです。いずれにせよ分かりづらいか。説明の問題ではなく趣味の問題だという気もしますね。

分かってくれる方がいることを願いつつ、次のすてきポイントに移ろう。

「Y字が、より鋭角」という点だ。
こちらも素で示すとこういうことです。どうか分かってください。
こちらも素で示すとこういうことです。どうか分かってください。
これに関しては多くの方にご理解いただけるのではないか。立体にかぎらず、いかに"Y"であるか、つまり「Y字路度」とでもいうべき重要ポイントだ。

だって、極端な話、ここの角度が180度になってしまったら、それはT字路だろう。個人的には90度以上はY字路とは呼べないのではないかと思っている。

その点、この暫定最高事例はまことに理想的だ。左の下りの道が曲がり始める前まで、左右の道はほぼ並行している。つまり0度、Y字路度最大値。Y字路の究極の姿と言えるだろう。

細い道の方がいいと思うのだ

以上2点を抑えているだけでも本物件は希有なのだが、さらに「適度に細い道である」という点もすばらしい。

たとえば下の立体Y字路。もっと道路が細ければいいのにもったいない、と思う。
高低差はやんわりとしているものの、角度的には申し分ない。しかし、この道路の太さがいただけない。惜しい。
高低差はやんわりとしているものの、角度的には申し分ない。しかし、この道路の太さがいただけない。惜しい。
写真では分かりづらいが、右の道が下がっている。左は平坦なので、高低差的にも惜しいが、やはりこの車通りの多い太い道であるというのが残念でならない。

立体Y字路は細い道がいい。世の中には太いY字路が好きな人もいるかもしれない。それを否定はしないが、細い方が味わいがある。と思う。なんとなく分かっていただけるのではないか。

ただ、この惜しいY字路にも得難いポイントがある。それは「残余地」である。
「残余地」:Y字の股の部分の土地のこと。使いづらい土地の形ゆえ、他にはない魅力的なことになってたりする。左右で入口の高さが違う建物だったりするとベスト!
「残余地」:Y字の股の部分の土地のこと。使いづらい土地の形ゆえ、他にはない魅力的なことになってたりする。左右で入口の高さが違う建物だったりするとベスト!
Yの股の部分、これの場合は植栽が植えられ(というか、いろいろ生えちゃった状態かな?)、単純な歩道ともちがう、ちょっとしたスペースができあがっている。建っている建物は「角のタバコ屋」で、休憩の一服をしているビジネスマンを見かけた。
右の下っている道路から見た様子。ポストがいいテーブルになって、ちょっとした憩いの場になっている。いろいろものが置かれちゃってるのもいいし、なんといってもこのショートカット階段がすてきだ。
右の下っている道路から見た様子。ポストがいいテーブルになって、ちょっとした憩いの場になっている。いろいろものが置かれちゃってるのもいいし、なんといってもこのショートカット階段がすてきだ。
良いY字路であればあるほど、つまり鋭角であればあるほど股の部分の土地は使いづらい。しかもY字路となればなおのこと。結果としておもしろい「ほころび」が生まれる。「ペット・アーキテクチャー」と呼ばれる建築もそのひとつだ。

ぼくの尊敬するウェブサイト「THE 残余地」にはその事例がたくさん載っている(このサイト大好き。すばらしい)。

あと、最初の事例もこれも残余地にポストが置いてある。残余地の有効利用として最も代表的なのがポストなのだな、と思った。

実はY字路のロマンチックに興味はない

Y字路好きはとうにご存じかと思いますが、Y字路観賞には横尾忠則さんという偉大な先駆者がいて、魅力的な絵画と写真を多数残しておられる。

ぼくもそれら作品は大好きなのだが、その批評のいくつかにはしばしば「Y字路ロマンチシズム」とでもいうべきものが漂っている。これが見ていてむずむずする。分かれていく道を人生の岐路に喩えちゃったりするたぐいのものだ。