女「夢の中のお嫁さんごっこ」
「…………それじゃあ、例のプロジェクトも終わったことだし! 今夜はみんなで飲みにでも行くか!?」
「おっ、係長! いいですねえ」「俺、渋谷でうまい焼肉の店知ってますよ!」
「そうは言うがな、お前の言う店は薄汚すぎるんだよ!」「そーそー……ね、あたしオイスターバーとか行きたいです!」
「牡蠣か、いいな! この時期は岩牡蠣がうまいからなあ――」
男「――女ちゃんも、一緒にどう?」
女「……いえ、私は遠慮させていただきます。ちょっと今夜は、用事があって」
男「……そ、っか。ごめんね。それじゃ、また」
女「ええ、また明日。…………」
「女さん来ないの?」「ああ、用事があるらしくて――」「なあんだ、残念だなー」
「ねえねえ男くん、この間の話の続き、聞かせてよ!」「ああ、栃木の話? そういや言いそびれてたな、あれは――」
女「…………………ふー…………………」
女「………………」
女「…………」
女「…………………………はあ」
プシュー……オオリノオキャクサマハ…………
女「………………」カツカツ
女「……………………」
……ピッ……ピンポーン……………
女「…………」
女「……………」カツカツ
女「……すみません。入場した時、ちょっとうまく行かなかったみたいで」
「――かしこまりました。ええっと……どちらからお乗りになられましたか?」
女「大久保からです。定期の圏内です」
「かしこまりました。……はい、これで問題ありません」
女「すみません、ありがとうございました。……」
女「…………」テクテク
――……メグマレナイ……ドウカ……アルキスマホニ…………
女「………………」テクテク
女「……………………」テクテク
「今夜のお店はお決まりですか!?もしよろしければ――」
女「いえ。……結構です」
女「………………………」テクテク
女「……………………………」テクテク
女「……………………………………」テクテク
女「…………」
女「ここ、か」
女「…………電話、忘れてた」
女「…………馬鹿だな、私」
女「……はい。はい。……ええっと……120分で」
女「場所は……新宿の、――――ってホテルで」
女「はい。それじゃあ、この……チアキ、って人で」
女「……そうですね……初めてなんですけれど、気をつけておくことって、ありますか」
女「…………わかりました。ありがとうございました、よろしくお願いします。はい、はい……失礼します」
女「……………」テク、テク
女「……」ピッ
「このお部屋でよろしければ――かしこまりました。フロントカウンターまでお越しください」
女「…………」
フロント「はい、いらっしゃいませ。ご宿泊ですか、ご休憩ですか?」
女「ええっと、休憩で」
フロント「かしこまりました。このお時間ですと、12時以降は宿泊となり、延長料金となってしまいますので、お気をつけ下さい」
女「はい、わかりました」
フロント「――お連れの方は、後ほどいらっしゃいますか?」
女「はい」
フロント「それでしたら、扉の方はオートロックとなっております。お気をつけ下さい」
女「わかりました。ありがとうございます」
フロント「ご利用ありがとうございます、ごゆっくりどうぞ」
女「…………」ガチャ
女「…………………」
女「……………」ポスッ
女「……何して、待ってよう」
女「…………身体とか、洗っといたほうが、いいのかな」
女「………………」
女「…………こういうところで脱ぐのって、何だか恥ずかしいな」
女「………………………」
女「……いいつでもー、さーがしているよー……どっかにー、きーみーのすがたをー……」
女「むかいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのにー……」
女「……………」
女「…………………」
女「…………」キュッ
女「……」ガチャ
女「…………あと、5分くらいか」
女「本当に、来るのかな」
女「……来るよね。お仕事だもんね」
カチッ、ブォーン…………
女「……テレビなんて、見るもんないしな」
女「…………」
女「………………」
女「……」
女「…………」
――――――こん、こん
女「!」
「お待たせしましたー……。――――のチアキです、申し訳ないんですけれども、開けていただけませんかー……?」
女「…………はっ、はい!」
女「…………」ドクン、ドクン
女「……………」ドクン、ドクン、ドクン
女「…………!」ガチャッ
女「――――――え」
女「……あー、ちゃん……?」
風俗嬢「…………さな、ちゃん?」
……バタン
女「……何年ぶり、くらいかな」
風俗嬢「……高校以来、だから。もう、8年くらいにはなるかな」
女「………………」
風俗嬢「そんな、気ぃ使わなくてもいいよ。もっとさ、気楽にさ、ね?」
女「……無茶言わないでよ」
女「……ホームページの写真、モザイクかかってたから、分かんなかったよ」
風俗嬢「ふふふ。これでも結構人気なんだよ? あたし」
女「……ドア越しに聞いた時、まさかとは思ったけど」
風俗嬢「まさかまさかが罷り通っちゃうんだもんなあ。不思議だよね」
女「…………そう、だね」
女「………………」
風俗嬢「…………ねえ」「……あたしが言うのも、なんかさ、アレだけどさ」
風俗嬢「………………さなちゃん、奥手だよね。昔っから、変わってない」
女「……うん。そうかも、ね」
女「……覚えてる? 琢磨くんのこと」
女「いいの。……二人とも、同じ人が好きだって知った時は、驚いたし」
女「あーちゃんのことが、わかんなくなった」
風俗嬢「どんな風に?」
女「全部。いつもニコニコのあーちゃんが、急に怖くなったし」「わざと意地悪なことされてるんじゃないか、って」
女「あーちゃんがたっくんと話してる時、凄く憎らしかったような気もするし」「でもそれがたっくんの幸せなら、それを許すべきだとも思ったし」
女「……そうして、ふっと気付くの。好きな人のために友達を蹴落とそうとする私って、こんなにも汚かったんだって」
女「毎晩、ベッドで泣いてた。もっと私は綺麗だと思ってたのに、って」「人並みに私は綺麗なはずだったのに、って」
女「……だから結局、全部嫌になった。何より、あーちゃんとまた、友達でいたいと思ってたから」
風俗嬢「うー、ありがたいなー、ホント……でも人間って、そんなもんだよねえ」
風俗嬢「嫉妬ってさ、気づくのが一番遅い感情だと思うんだよね。自分が嫉妬してる、って思いたくないから」
風俗嬢「やーやー、んなことないって。部活の引退間際だったじゃん? 結局、最後の大会の前にさなちゃん辞めちゃったし」
風俗嬢「多分さなちゃんあの後勉強漬けだったから、知らないと思うけどさ」
風俗嬢「たっくんとあたし、あの後すぐ別れちゃったんだよねえ」
女「……え、っ……?」
風俗嬢「や、取らぬ狸の皮算用って奴? 幻滅しちゃったのよ。イメージ清らかすぎたのね、きっと」
風俗嬢「向こうも同じらしくてさー。もう何から何まで全ッゼン噛み合わないの」
風俗嬢「やあでもあれは向こうにも問題あるって。昼ごはんのお弁当二人分作って持ってくるんだよ!? しかも毎日!」
女「…………羨ましいなー」
風俗嬢「えー!? もっとあたしは適度な距離感が良かったのよ。愛重すぎよ、ホント」
風俗嬢「……そういえば、女ちゃんはどこの大学行ったの?」
女「……一浪して、早稲田の商学部」
風俗嬢「わ、すっごいじゃん! 今はどこで働いてるの?」
女「普通のOLだよ。システム系の仕事やってる」
風俗嬢「かっこいいじゃん!! え、プログラミングとかできるの!?」
女「……ふふ。まあ、少しだけどね」
女「…………あーちゃんは?」
風俗嬢「や、気にしないで気にしないで! あの流れならあたしだって聞いちゃうって」
女「でも……」
風俗嬢「……いいのいいの。」
風俗嬢「なまじっか成績だけは良かったからさ、推薦で立教の観光学部行ったのよ」
風俗嬢「でも、正直あたし優等生ではあったけど、勉強とか嫌いなタイプでさ」
風俗嬢「……単位落としまくりで、大学もサボりがちになって」
風俗嬢「アキバ歩いてたら、悪い男にひっかかったのが運の尽き。そのまま地下アイドルデビューよ」
女「…………」
風俗嬢「大学も留年して、推薦だからそのまま退学になって。怒られたなー、タナTからお叱りの電話まで貰っちゃって」
風俗嬢「でもライブはそこそこ上手くいってて、調子に乗って出したCDシングルもそこそこ売れてさ」
風俗嬢「……それで、おしまい。後はもう鳴かず飛ばず。事務所からも、家からも勘当されちゃった」
風俗嬢「見た目だけは良かったからさ。逆ヒモって奴かな、駄目な男どもの間を渡り歩いて」
風俗嬢「……このままじゃ駄目だって、真人間にならなきゃって。普通の仕事も頑張ろうとしたけど、続かなくて」
風俗嬢「5人目
コメント一覧
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- 2016年08月29日 19:51
- この距離感だとどちらかが恋しないわけにはいかないと思う
-
- 2016年08月29日 20:52
- おたがい生きづらそうな人生送ってるんだろうな
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