あの辛すぎた越前おろしそばはいったいなんだったのか
福井県に「越前おろしそば」という郷土料理がある。そばに、大根おろしをのせて、だし汁や鰹節などをかけてたべるそばだ。
以前たべた越前おろしそばが、鼻が壊れそうなほどの辛味があり、いまだに忘れられない。あれはいったいなんだったのか?
はなしは2年前にさかのぼる
2年前の2014年8月。石川県と福井県の県境にある吉崎という町に行った。
蓮如上人の聖地、吉崎
吉崎は、そのむかし、京都を追われてやってきた蓮如が、ここを拠点として布教を行った場所で、浄土真宗の聖地でもあり、吉崎御坊跡の史跡や寺院のある町である。
そこにあった立ち食いそば屋に「越前おろしそば」というものがあったので、もの珍しさから頼んでみた。コンビニの「おろしなめこそば」とか、もちろん大好物だからという、それぐらいの軽い気持ちで頼んだのだ。
吉崎別院門前のそば屋
越前おろしそばください
かつおぶしのまんなかあたりに大根おろしのってます
そばは、そば粉の存在感がある、いわゆる「いなかそば」という黒くてソバのあじがこいやつだ。
いただきまーす
うーっ……
表情をみていただきたい。
鼻の奥から目頭にかけて、大根の辛味が突き抜けているシーンをカメラはとらえていた。
大根おろしがこれほど辛いものだったということを改めて認識するほどの辛味だった。
そば自体はとてもうまい。そばの風味がきいたしっかりした味のそばなのだが、大根おろしが、親の敵(かたき)かってほどに辛い。
コンビニのおろしなめこそばなんかを想定して勢い良く口の中にいれると痛い目にあう。というか、物理的にほんとに目が痛くなった。おろしそばのヒヤリハット事例である。
越前おろしそばってそもそもこんなに辛いものなのだろうか? それとも、この店のおろしそばがたまたま辛すぎる大根おろしを使っていただけなのか?
真相はなぞのまま、というかそのままわすれて2年が経過した。
あの辛味はいったいなんだったのか
福井にやってまいりました
2016年、ふたたび福井にやってきた。
2年前、吉崎で食べた越前おろしそばの辛味は、あのそば屋独自のものだったのか、それとも福井の越前おろしそばは全般的に辛味が過剰なのか?
恐竜とおろしそばとソースかつ丼とめがねが名物
福井では、ソースかつ丼とともにおろしそばを提供する店がいくつかあるらしいので、こんかいはそんな店をまわっておろしそばの味をたしかめたい。
まず最初に行ったのは「小川家」。
ソースかつ丼とおろしそばをいっぺんに食べられる
小川家は、福井のB級グルメといわれるソースかつ丼を手軽に食べられる店だが、おろしそばも一緒に頼むことができるのだ。
ソースかつ丼のミニとおろしそばのセット
2年前の記憶がよみがえってきた
2年前、吉崎でみたおろしそばそっくりだ。濃い色のそばに、うすけずりでおおきめの鰹節。
さて、このおろしそばは、何の敵ほど辛いのか?
ズルー
かたきじゃないな
事前にAEDの場所を確認しとくぐらいの、かなりの覚悟でもってそばと大根おろしを口にいれたものの、大根おろしはとてもやさしい味の大根おろしだった。
となると、吉崎のあの越前おろしそばは、やはりあの店だけの、特殊な辛すぎるおろしそばだったのだろうか……。
それにしても、ソースかつ丼の油っこさを適度にリフレッシュしてくれるおろしそばのくみあわせは絶妙である。
ちなみに、ソースかつ丼とは、揚げたてのカツを玉子でとじず、たっぷりのソースにくぐらせてご飯にのせて食べる「それぜったいうまいやつだー」と、絶叫してしまう福井県の名物B級グルメのひとつである。
ミニ丼を頼んだので量はちょっとすくない
トンカツを、玉子でとじずにソースをかけただけで丼にのせて提供する料理は日本各地いくつかあるが、福井のソースかつ丼は、その中でも元祖ともいわれている。
「ソースかつ丼」という名前の地味さで、全国的な認知度が今ひとつのような気もするが、福井市内にはこのソースかつ丼を提供する店舗がたくさんある。
ちょっとだけ薄め
トンカツは、きめの細かいパン粉で揚げてあるので、ソースも油もしっかり染みこんでおり、とてもやわらかく、サックサクでうまい。
ちょっとだけ辛味があった
つづいて向かったのは「福そば」。
福井駅からあるいて数分
ここにもソースかつ丼とおろしそばのセットがある
きたー
うまそう
いただきまーす
ズルー
あ。
おろしそば、くちにいれた瞬間はなんともないが、あとから辛味がすこしづつおそってきた。あ、これはちょっと辛い。
しかし、2年前に吉崎で食べた親の敵のような辛味のおろしそばに比べると、飼ってたサワガニの敵ぐらいの辛味だ。
やはり、越前おろしそばの大根は辛味が利いているのが普通なのだろうか?
さっきの小川家よりもこちらのほうが辛味が強いのはたしかだが、やはり吉崎の過剰なまでの辛味には程遠い。
いくつか食べ歩けば、理解できるのではとおもっていた越前おろしそばだが、よけいわからなくなってきた。
そしてやはりおろしそばはソースかつ丼との相性がいい
うまいなあ
油とソースと肉という、どうかすると暴力的になりがちなソースかつ丼を、大根おろしのそばが「まぁ、まぁ」となだめる。
おろしそばとソースかつ丼、いがいとよいコンビなのだ。
おろしそばについてはよくわからなくなったけれど、ソースかつ丼とおろしそばの相性がよいことはわかった。
吉崎のおろしそばは今どうなのか
さて、福井市内のおろしそばを二箇所食べ比べた。しかし、気になるのがあの吉崎のおろしそばだ。
あれから2年。あの辛すぎるおろしそばは、いまでも辛すぎるのか。確かめるべく、吉崎を再訪した。が……、月曜定休だったのか。そば屋はその扉をかたく閉ざしていた。
あまりもショックで、写真を撮り忘れている。
その代わり、前回訪問時にはなかった「越前加賀県境の館」という施設ではしゃいでいる写真は撮った。(すみません、県境マニアなんです)
階段の色が違っているところが県境なんです
こんかい、吉崎のあの辛すぎるおろしそばの味をもう一度確かめることはできなかったのだが、県境は堪能できた。
ショックなのかうれしいのかよくわからない、このないまぜの感情のやりばにこまる。
誰か、吉崎に行くことがあったら、あそこのそば屋のおろしそばがいまでも鼻が壊れるほど辛いかどうか、ぼくの代わりに確かめていただきたい。
辛味がつよい越前おろしそば
ウィキペディアの越前おろしそばの項目を見ると「辛味大根を使用しており、辛味大根特有のピリリとした辛さが特徴である」とあるので、やはり越前おろしそばの大根おろしは普通のおろしそばとはちょっと違うのかもしれない。
ただ、こんかい福井市内でたべたおろしそばは、いずれも常識の範囲内の辛味であり、2年前に吉崎の立ち食いそば屋で食べたおろしそばの大根おろしは、常軌を逸するほどの辛味があったのはたしかだ。
そして、越前おろしそばは、ソースかつ丼との相性がとてもいいということがわかったのは収穫だった。