【ガルパン】優花里「ENDLESS SUMMER NUDE」
- 2016年09月10日 21:40
- SS、ガールズ&パンツァー
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・微エ口有りです。
・シリアス系で雰囲気は暗いです。
それでもいいというかたは、読んでいただけたら嬉しく思います。
砂浜にはまだ、昼間の熱が残っているでしょう。
でも海沿いの道を車で飛ばす私たちは、二人とも風に髪をなびかせています。
夏の陽射しが残した熱さとは、無縁。
この道には電灯がほとんどなく、私たちが乗る車の前照灯だけが路面を明るく照らし続けています。
隣でハンドルを握る西住殿へ少し視線を向けました。
明るく照らされている道路とは反対に、その姿は暗く、まるで影のようです。
西住殿の横顔はその輪郭が見えるだけ。
表情なんて全然分かりません。
声をかけてみました。
「西住殿」
「私たちが乗ってる、このシュビムワーゲン」
「うん」
「“シュビムワーゲン”って、どういう意味か知ってますか?」
「うん、もちろん」
「ドイツ語で…」
「シュビムが“泳ぐ”。ワーゲンが“車”」
「だから訳すと…」
「“泳ぐ車”」
「はい。何だかそのまんまですね」
「そうだね。ふふふ」
あ。笑ってくれました。
でも、本当は笑っていないのかもしれません。
目は笑っていないのかもしれません。
私には、その表情は分かりません。
でもその種類の多さは想像以上で、昼間、格納庫の中を見学させてもらった私は興奮しっぱなし。
しかし、このシュビムワーゲンがあることは完全に予想外でした。
キューベルワーゲンを基に開発された水陸両用の四輪駆動車。
丸っこい車体へ四つのタイヤが付いていて、まるで走るボート、走るバスタブです。
私はこの車両を実際に見るのが初めて。その可愛い姿を前にして興奮が頂点でした。
でも御実家でこの車を使うことはほとんどないそうです。
西住殿は格納庫でこう話していました。
シフトレバーの動かし方とか、アクセルペダルの踏み加減とか。
微妙にクセがあって、それが合わない人は乗ってるとイライラしちゃうみたい。
それに元々、使う機会がそんなに多い車じゃないし。
みんな自然と、もっと簡単に扱えるほかの車両ばっかり乗るようになっちゃった。
そのうち私が一番、この車のクセをよく分かって、うまく乗るようになっちゃったの。
この子に乗るのは私だけになっちゃったの」
シュビムワーゲンはキューベルワーゲンより操作が難しい、という話は聞いたことがありました。
でもどんな車両にだってみんな個性というか、特徴があります。
このシュビムワーゲンはそれがちょっと強かったのでしょう。
西住殿は黙ってこの車を運転し続けています。
もう一度、横顔へ視線を向けてみました。
やっぱり表情は何も分かりません。
~~~~~~~~~~
「優花里さん、私の実家へ遊びに来ない?」
数日前、西住殿からいきなりこう言われた時、私は心臓が止まるかと思うほど驚きました。
まさか、本当に御実家へ招待してくれるとは。
「いっ、いいいいんですか?」
「優花里さん、“い”が多過ぎ」
「あ。すみません……」
西住殿はあの時の言葉を憶えていてくれたのでした。
学園艦を下ろされて共同生活をした時の言葉、「また今度、遊びに来てね」。
西住殿はあの言葉を憶えていて、ちゃんと約束を守ってくれたのでした。
感激でした。こういうのが天にも昇る気持ちっていうんだと思いました。
でもどうして今なのでしょう。理由を訊くと、西住殿はこう答えました。
「はあ」
「それで、優花里さんに一緒に来てほしくて……」
「それって、家族会議が開かれるってことですか?」
「うん」
「そんな大事な時に私なんかが行っていいんでしょうか。私なんか連れて行ったら…」
「ううん」
西住殿が首をかすかに横へ振りました。
「優花里さんに一緒に来てほしいの」
私の目をまっすぐに見ています。
「うちには言っておくから、大丈夫」
「そうですか……」
私を御実家へ連れて行きたい理由。
結局、それが何なのか西住殿は言いませんでした。
私もそれ以上、訊きませんでした。
私は自分なりに気を遣って、できる限りはしゃがないようにしていました。
本当は期待と興奮でずっとハイになっていたのですが。
西住殿はそんな私の様子に気付いて「気を遣わせてごめんね」と何度も謝っていました。
御実家と一番近い駅との間は、ちょっと距離があるということでした。
駅に、やはり家族会議のために帰省した姉上殿の西住まほ殿が迎えに来てくれるそうです。
私たちが着いたのは午後、一日で最も暑い時間を過ぎた頃でした。
それでもまだ陽射しは強く、駅舎を出た途端にそれが一斉に襲いかかってきます。
少しクラクラしながら駅前の広場を見ると、変わった形のオートバイが停まっていました。
私は一目でそれが何か分かりました。
BMW R75。ドイツのサイドカーです。
その姿とサイドカーとの組合せは惚れ惚れするようなカッコ良さ。女の私でもグッときます。
西住殿が女性に近づき、私も後に続きました。
「お姉ちゃん」
女性がサングラスを外しました。
「みほ。お帰り」
姉上殿の西住まほ殿です。
「うん、迎えに来てくれてありがとう」
「お安い御用だ」
「でもお姉ちゃん」
「何だ」
「R75なんかで来て……」
西住殿がサイドカーを見て言いました。
「これで来たってことは、側車に乗るのは優花里さんで…」
「ああ。みほは後ろに乗れ」
「これの後部シートって座りにくいの」
「だがお前が側車で、お客様が後ろというわけにはいかないだろう」
「そうだけど……」
「私だってたまにはこういう物を乗り回したくなるんだ」
姉上殿はそう言うと、私の方を見ました。
「ようこそ。みほの姉の西住まほだ」
「は、初めまして、秋山優花里です! 西住みほ殿の車両で装填手を務めさせていただいてます!」
姉上殿にはこれまで試合の時に会ったことがありますが、直接話をするのは初めてです。
「君のことは聞いている。妹が世話になっているな」
「とっ、とんでもありません! 私こそいつも御指導いただいてます!」
「ここまで来るのに疲れたと思う。暑いし早速うちへ行こう」
「はいッ! ありがとうございます!」
「そんなに硬くならないでくれ。ずっとその調子だと疲れてしまうぞ」
「はッ。しかし西住みほ殿の姉上殿に対して失礼があっては…!」
「姉上殿? ずいぶん馬鹿丁寧だな」
「は…」
「お姉さん、くらいでどうだ」
「それも妙な言い方だな。もっと普通に喋ってくれないか」
「はあ」
「そういう場合は“いいんですか?”と言うんだ」
「優花里さん。うちのお姉ちゃん、別に怖くないから」
西住殿がこう言うと、姉上殿がそれへ答えました。
「みほ。お前も、そういう場合は言い方が違うだろう」
「え? 言い方が違う?」
「そういう場合は…」
「うん」
「“うちのお姉ちゃん、噛みませんよ?”と言うんだ」
この日、初めて見た笑顔でした。
「お姉ちゃんがそんなこと言うの、初めて聞いた」
「この子はお前の友達で、うちの大事なお客様だ」
「うん」
「その子の前なんだからこれくらいのサービスは当然だ」
私は、ものすごく驚いていました。
姉上殿は西住流の後継者であるとともに、我が国の戦車道界でその未来を担う最重要人物の一人です。
そんな人でもこういう冗談を言ったりするとは。
私はそれまでの緊張が解けて、何だか体が軽くなるような気がしました。
サングラスをかけた姉上殿が運転。
私が側車。これの後部にはトランクがあり、西住殿と私の荷物はそこへ入れました。
そして西住殿は後部シートにちょこんと横座り。座りにくいと言っていたのに、慣れた感じでした。
ふと見ると西住殿は車体ではなく、姉上殿の服の裾に掴まっています。
その様子から姉妹の仲の良さが分かるような気がしました。
周りは見渡す限り田んぼで、一面の緑。
遠くの空に入道雲が沸き立っています。
街なかにしか住んだことのない私には、とてもまぶしい景色でした。
自分の部屋へ行く西住殿と別れて、私は建物の中をお手伝いさんに付いて行きました。
泊りがけで来るお客さん専用の部屋があるそうで、そこを使わせてもらうのです。
「秋山様、こちらでございます。ごゆっくりお寛ぎください」
そう言われて入った部屋の中を見て再び、ものすごく驚きました。
まるで高級ホテルです。
いえ、高級ホテルなんて泊まったことありませんが、多分それと同じです。
広い部屋にあるのは巨大なベッド、大画面テレビ、冷蔵庫、エアコン、専用のバス・トイレ。
窓を開けると庭を眺めることができて、池にたくさんの錦鯉が泳いでいます。
私なんかがこの部屋を使っていいんで
コメント一覧
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- 2016年09月10日 22:05
- 運命だのなんだのと、安い陶酔だ。寝醒めが悪くなるぞ
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- 2016年09月10日 22:17
- 運命などない、決められた偶然だ!
-
- 2016年09月10日 23:00
- そうだな、終わらなければいいのにな
ほら続きは?
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- 2016年09月10日 23:01
- 定められた愛になんの価値がある
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心配するほど衰退していなかったな