卯月「シンデレラプロジェクトが無くなっちゃうんですか...?」
美城常務「なにか言いたいことはあるか?」
美城常務の問いに武内Pは苦悶の表情を浮かべた。
彼がプロデュースしているプロジェクト、シンデレラプロジェクト(以下CP)は存続の危機に立たされていた。
美城常務が346プロダクションのアイドル部門統括重役に就任してから既存のアイドルプロジェクトの刷新が進められてきた。
CPもその例にもれず刷新の対象となっていたが、武内Pの必死の懇願によりある条件と引き換えに存続が認められることになっていた。
その条件とは冬のライブである《シンデレラの舞踏会》の成功である。
このライブの成功を条件にCPの存続および武内Pが目指す「アイドルの個性を伸ばすプロデュース」を認めさせることができる。
そのために武内PはもちろんCPのアイドル達は全霊を込めて頑張ってきた。
が、それは叶わなかった。
結論から言えば《シンデレラの舞踏会》は失敗に終わったのである。
武内P「…私はあのライブが失敗したとは思ってはいません…!」
美城常務をぐっと見据えて鬼気迫る表情で訴えた。
武内P「会場に来てくれたファンのみなさんは笑顔でいてくれました。アイドルのみなさんも笑顔でとてもよいステージをしてくれました。
あれが失敗などとは到底思えません!」
普段無口な彼がこれほどまで語気を強める事はあっただろうか。
美城常務が切れ長な目で武内Pを一瞥して口を開く。
美城常務「君はアイドル活動を学芸会と勘違いしているのではないのか?」
ぎょっとした武内Pを冷ややかに見つめながら続ける。
美城常務「アイドル活動は遊びではない。それくらいは君も承知しているだろう?」
武内P「…」
美城常務「我々は企業だ。利益の伴わないものに時間と金を割いている暇はないのだよ。」
武内P「しかし!あれは不可抗力です!それにCPのこれまでの活動の実績を顧みて頂ければCPの解散はプロダクションの不利益となります!」
夏以降CPの活動はプロダクション内でも一定の評価を受けており、将来を期待されていた。
が、時の運に見放された。
シンデレラの舞踏会は当日に数十年に1度の大雪に見舞われたのである。
そのため主要な交通機関はストップし、熱心なファンですら会場にたどり着くことが難しかったのである。
そのため来場者は予想の半数程度であった。
それでも来てくれたファンのためにアイドルはステージを行い、それは誰の目をもってしても大成功であった。
だが、不幸なことに大雪の影響でライブ会場を含めた地域一帯が大規模な停電に見舞われ、タイムテーブルの半分も消化されないうちに中止になってしまったのだった。
美城常務はふっと息をつき椅子から立ち上がり言った。
美城常務「君の必死の懇願に対して私はどのような条件を提示したのか覚えているか?」
武内P「それは…」
【シンデレラの舞踏会の成功】武内Pの頭の中にはこの半年間、この文字が鎮座していた。
美城常務「では次に聞こう。今回のシンデレラの舞踏会、このライブは成功であったと言えるか?」
シンデレラの舞踏会が成功とは言えないことは、武内Pはわかっていた。
彼も企業の人間である。
346プロほどの事務所が大規模なライブを行うにあたってどれほどのお金が動いているのかも当然知っていた。
しかし、どうしても、いや、どうやってもその事実を認める事はできなかった。
武内P「しかし…」
美城常務「しかしもなにもあるのか!」
武内Pの言葉を遮ってように美城常務が言い放つ。
美城常務「私は半年前君の提案を聞き入れたのだ。あのときに君に取り合わずこちらで全て決めることもできたのだ。
それなのに君はここまで醜く食い下がろうとするのか?」
武内P「…しかし!あのような天候でなければシンデレラの舞踏会は…」
美城常務「君は天に見放されたとは思わないのか?」
武内P「…」
美城常務「言いたい事はそれだけか?」
武内P「…」
武内Pの絶望した顔をよそ目に時計に目をやる。
美城常務「では、CPは本日をもって解散、CPのアイドルは明日、各部署への割り振りを行う。以上だ。」
再び椅子に座りなおすとパソコンの画面を見ながら口を動かす。
美城常務「そろそろ朝礼の時間だろう?君のシンデレラたちに最後の挨拶をしてきたらどうだ?」
武内Pは辞儀すら忘れ、ふらふらとした足取りで部屋から出ていった。
美城常務はその姿を見届ける時間すら惜しむようにキーボードを叩いていた
CPのプロジェクトルームの空気は酷く重かった。
CP発のユニット、ニュージェネレーションズの島村卯月はみんなの不安な顔と時間は必ず守る武内Pが朝礼の時間になっても姿を現さないことで困惑していた。
普段なら莉嘉やみりあが元気な声でおしゃべりをしているが、これから何が起こるかを理解しているらしく、口を閉ざしたまま不安な表情を浮かべていた。
それはアイドルが、ましてこんな小さい子がしていい表情ではない。
しかし、ルーム内にいる全員がそんな顔をしていたのだ。
みく「みくたちをこんなに待たせて、Pチャンはなにやってるにゃ。こんなんじゃプロデューサー失格どころか、男性として失格にゃ。」
唐突にみくが口を開いた。
場の嫌な空気を変えようと声を震わせながらなんとか言葉を作った。
未央「そうだよ!全くこんなに可愛い娘達を待たせてプロデューサーは罪な男だよね全く!」
隣で震えていた未央もそれに乗じた。
しかし、さすがの未央とみくを持ってしてもこの空気は変えられなかった。
むしろ誰かが口を開く事でパンパンになった炭酸飲料の蓋を開けるように、中に溜まっていたものを一気に外に噴出させることになる。
智絵里「あの…プロデューサーさんはなんでこんなに遅いんでしょう…今まで遅れてきたことなんてなかったのに…」
みく「それは…そう!たぶん打ち合わせが長引いちゃってるだけにゃ!シンデレラの舞踏会がああなっちゃって、それの後処理がまだ残ってるだけにゃ!」
ここで全員ができるだけ口にしないようにしていた言葉が出てしまった。
みくがはっと口をつぐんだが遅かった。
みりあ「…ねぇ…この間のステージは失敗しちゃったの?」
小さい子は純粋である。
それゆえみんなが遠慮している部分をストレートに突いてくる。
これはみりあが悪いわけではない、むしろいずれ全員で話し合いをしなくてはいけないことなのだ。
みく「失敗なわけないにゃ!」
語気を強める。
みく「確かにお客さんは少なかったし、予定の半分もいかないうちに終わっちゃったにゃ…でも、みんな笑顔だったにゃ!
ファンの子猫チャンたちも楽しんでいたにゃ!それを失敗したなんてみくは絶対言わせないにゃ!」
李衣菜「でもさ」
みくのパートナーが口を開いた。
李衣菜「あのライブって本当に成功だったのかな…」
みく「…それってどういう意味にゃ?」
李衣菜「どういう意味って…確かにファンのみんなは楽しんでくれてた。それはわかってる。
でもさ、あの規模のライブをするのにたぶん結構なお金がかかってたんじゃない?」
李衣菜は冷静に見えた。
李衣菜「私も詳しい事はわからないけどさ、中止になったあとお客さんのチケットの払い戻しとかあったじゃん?
他にも金銭的な面の損害っていうのも出てるだろうし…」
ヘッドホンを掛け直す。
確かにそうだと卯月は思った。楽しみにしていたイベントが途中で強制的に終わるなんて興が冷めるし、なにより寂しい。
みく「…ずいぶんと落ち着いてるね李衣菜チャン…」
李衣菜「だってしょうがないじゃん。もう終わっちゃったんだしさ。」
卯月はふっと李衣菜に目をやる。澄ましているように見えるが明らかにおかしかった。
みく「そうやっていつでもクールにしてることが李衣菜チャンにとってのロックなのかどうか知らないけど、李衣菜チャンはなんでそんな風にしていられるの!?CPのみんなを見て何も思わないの!?CP解散の危機なのに何も言うことはないの!?」
李衣菜「実際そうでしょ。そうやってすぐ感情的になるの、みくの悪いところだよ。」
バァン!
みくがテーブルを叩いた。莉嘉とみりあがびっくりして泣きそうな顔になる。それをきらりが宥めている横でみくが今にも李衣菜に飛びかかろうとしている。
最悪の空気になってしまった。とりあえず2人を止めなきゃと卯月が口を開こうとした。
杏「2人ともその辺にしたら?」
全員が一斉にばっと声の主の方に振り返る。
杏「みくちゃんもほら飴でも舐めて少し落ち着きなよ。」
杏がみくに飴玉を渡す。
前川「そんなこと分かってるにゃ…でも…そんなのあんまりにゃ…」
声を震わせてうじうじするみくに杏はうんうんと頷きながら声をかける。
杏「うん、わかるよ。杏だってCPが無くなるのは寂しいもん。」
かな子ときらりを見ながらため息をつく。
杏「それにさ、みくちゃんの言ってる事はここにいる誰もがが思ってることだもんね。みんながなかなか言い出せないことをズバズバ言うのもみくちゃんらしいよ。」
杏はみくに微笑みかけながら話している。
杏「でもね、」
ここで真面目な顔になった。
杏「テーブルを叩くのはちょっとやりすぎたかな。ちびっ子を見てみなよ?」
テーブルの前の長椅子には目に涙を浮かべてきらりにしがみつく2人の女の子がいた。
杏「まずはさ、2人に言うことあるよね?」
杏はうながす。
みく「…2人ともごめんにゃ…すぐ感情的になって周りを疎かにするのは…みくの悪いところにゃ…」
杏「はいよくできましたっと。じゃ、飴舐めながらプロデューサーのことを待とっか。」
そういうといつものようにうさぎクッションに体を預けた杏は寝ることはせず、目をしっかりと開けていた。
その覚悟を決めたような表情をした杏を見た瞬間から卯月はプロデューサーがプロジェクトルームに入ってきてから、
そしていつものように朝礼が始まってから、その口からどんな言葉が発せられるのか想像できてしまっていた
アイドルたちは誰1人とも口を開かなかった。ただ武内Pがいつもの場所へと歩を進める姿を見ているだけだった。
凛「…」
武内Pの姿を見て顔をしかめる凛を横目に見ながら卯月も武内Pの言葉を待った。
武内P「………………みなさん、おはようございます…」
しばしの沈黙の後いつもの朝礼が始まった。
武内P「…以上が各部署から寄せられた意見となります。各人ともこれらの点に気をつけて生活をなさってください。」
ここでまずみりあや莉嘉が質問を投げかけプロデューサーを困らせる、そして
コメント一覧
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- 2016年09月17日 23:53
- 神、天使、ちひろ!
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- 2016年09月17日 23:54
- こういう展開はアリだしそういう意図があるわけじゃないかも知れんが、専務をただの悪役にするのは気に入らん
-
- 2016年09月17日 23:56
- 続編はよ
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