【モバマスss】「私はママが、大嫌い」
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1.
突然ですが、私はママが嫌いです。
だってママは、パパが居なくても平気だから。
パパのいないお家は、私と、ママの二人だけじゃとっても広くて。
たまにママのお友達が遊びに来たときだけ、私のお家は、少しだけ、賑やかになるんです。
……それ以外は、いつも静か。
「あっ、お帰りなさい」
学校から私が戻ると、ママはいつも、玄関まで迎えに来ます。
私は、「ただいま」なんて言ってないのに、ドアの開く音で、きっと私が帰って来たことに気づくんです。
キッチンからエプロン姿でやって来た、ママの手にはお玉が握られていました。
多分、お夕飯を作っている途中だったのでしょう。
「あのね、今日のご飯なんだけど、今日はいつもよりもちょっと豪華な――」
「ママ」
ニコニコと喋り始めたママの言葉を遮ると、私は靴を脱ぎながら言いました。
「私、今から遊びに行く約束してるの。宿題は、帰ってからでもいいよね?」
じっと見上げたママの顔が、一瞬だけ、ニコニコ笑顔から困ったような顔になる。
だけど、すぐに元の笑顔に戻ると、
「そう……だね」
考え込もむような、フリをする。
でも、私にはママの次の言葉なんて、手に取るようにわかります。
「いいよ。むーちゃん、ママと違ってしっかりしてるし。お勉強は、帰ってからでも」
「……ランドセル置いたら、行ってきます」
「うん……お家に帰る時間は、大丈夫?」
「もう私、五年生だよ? いつまでも、小さいままじゃないんだから……」
「あっ、そ、そうだね」
私は、「ごめんね」と謝るママの横を通り過ぎると、
そのまま階段を上って、二階にある自分の部屋にやって来ました。
学習机の上にランドセルを置くと、ふと部屋に置かれた、姿見に映った自分と目が合います。
「むぅ……」
……私は、ママが小さい頃にそっくりだと、よく言われて来ました。
おじいちゃんや、おばあちゃんからもですし、
その時に見せてもらった子供の頃のママの写真には、確かに自分そっくりの子が写っていて。
「でも……私はママと、違うから」
そう――私は、ママとは違うんです。
ママが恥ずかしがるからと、パパにこっそり見せてもらった写真に写っていたママは、
大人のクセにとってもくしゃくしゃの泣き顔で。
「この写真は、パパが一番大事にしている、とっておきのママを写した写真です」
そう言って、パパは私の写真と一緒に、ママのその写真をいつも持ち歩いていたみたいです。
……でも、とっておきの写真が、そんな泣いているところの写真だなんて、と。
それ以来私は、カメラの前では絶対に泣かないようにしようと決めました。
だって、泣いているところをカメラに撮られてしまうと、パパはママの分と同じように、
私の泣き顔写真を持ち歩いてしまいそうだったから。
きっとパパは、それらの写真をお守り代わりにでもしてたんでしょうけど……
そんなみっともない写真を、宝物みたいに扱われるなんて……そんなの、私は嫌だと思ってました。
遊びに行くための荷物を持って玄関を出ると、私は、家の近くにある公園へ。
中には、噴水や花壇の他に、ブランコやジャングルジムなんかの遊具がいくつかあって。
最近では、こうした昔ながらの公園は、中々に珍しいらしいです。
言われてみれば、この公園の砂場は、ただ囲いの中にサラサラとした砂が敷いてあるだけですし、
学校みたいに、ウサちゃんロボが定期的なお掃除をしに来るわけでもありません。
(完全な余談ですが、私はお掃除道具片手に町内を徘徊する、あのウサウサ集団が少し好きです)
それにブランコや滑り台なんかも、
昔の様子を再現したドラマや漫画に出てくるような、古い形の物ばかり。
「あっ、むーちゃんやっと来た!」
私が、そんな公園の入り口に姿を見せると、既にやって来ていた、
見知った顔の女の子がそう言って、私においでおいでと手招きしました。
「やっと来た、じゃないですよ。ミヨちゃんの来るのが、早すぎるんです」
「そうかな? 私、普通に家に帰って、そのまま出て来ただけだけど」
「私のお家より、ミヨちゃんのお家の方が、この公園に近いじゃないですか」
「ああ、そう言えば」
じとっとした目でそう言うと、ミヨちゃん――私の、幼馴染の女の子です――は、悪びれた様子もなく頭に手をやって、
「確かに! 私のマンション、この公園からすぐ近くだもんね!
そりゃ、うーちゃんより着くのが早くなるはずだ!」
ケラケラと、声を上げて笑い出しました。
その笑顔は、うちのママなんかよりも、よっぽど笑顔らしいと思えて……
私は、同じ笑顔なら、ママよりもミヨちゃんの笑顔の方が、好きだな……なんて、思ったりします。
「ところで、リツ君はまだ来てないんですか?」
「そーなんだよねー、今日こそ絶対に勝ってやる! なんて言ってたのに」
ミヨちゃんはそう言うと、額に手をかざして、公園の中をキョロキョロ。
「やっぱり、無理だったんだよ。私より先に、この公園に来るなんて!」
「今日で、何敗目でしたっけ?」
「さぁ……いちいち数えてないけどさ。多分、十回は超えてるんじゃない?」
「そんなに負けてねぇよ! 何勝手なこと言ってやがる!」
すると私たちのいるベンチの近く。
いくつも穴の開いた、ドームみたいになっている遊具の中から、
リツ君がその顔をひょっこりと出したんです。
「り、リツ君!」
「あんた、いつからいたの!?」
驚く私たちに向かって、リツ君は――彼も、ミヨちゃんと同じ、私の幼馴染です――
「今日は、宣言通り俺の方がココに来るのは早かったぜ」と言って、どうだと言わんばかりに胸を張りました。
「へへっ、お前らの驚く顔が見たくってさ、こっそり隠れてたんだ! ……参ったか!」
……何が、参ったのでしょうか?
不思議に思って首を捻る私とは違い、
ミヨちゃんが、リツ君の背中を指さして言いました。
「ああっ! リツ、あんたランドセルしょったまま……もしや、家に寄らずに来たな!」
「そ、そうだけど……文句は言わせないぞ? 正攻法じゃ、ミヨより家の遠い俺は勝てないからな!」
「そんなのズルい!」
「ズルくない!」
「だったら私だって、家に帰る途中でこの公園の中横切るもん!」
「それは帰り道だろ! ノーカンだよ!」
ミヨちゃんもリツ君も、お互いに両手を大きく振り上げたり、振り下ろしたり。
体全体を使って自分の意見を通そうと必死に主張します。
「帰り道がダメなら、あんただってやっぱりダメじゃない! そんな、ランドセルなんてしょっちゃって!」
「俺のは、家が遠いってハンデだからいーんだよっ!」
「何よ! だったら私のが年上なんだから、年上の言うこと聞きなさいよ!」
「汚ねぇぞ! またそうやって、すぐ年上だってことを武器にするっ!」
すると、分が悪いと思ったのか、
リツ君が私の方を指さして言いました。
「だったら! むつ姉に決めてもらおうぜ? 三人の中で、一番年が上なんだから!」
「え、ええっ! 私ですかっ!?」
「年上ったって、私より誕生日が先ってだけじゃん」
「それでも、年上は年上だろ? ほら、早く!」
ミヨちゃんとリツ君。二人に「さぁ、どっち?」と決断を迫られる。
……あぅ、これは、いつものパターンです。
「わ、私としては……そのぉ……」
「勿論、親友の私だよね!」
「いいや違うね! 俺の方だよ!」
「ふ、二人とも、今回はフェアな条件じゃなかったということで……引き分けじゃ……ダメ、かな?」
言い終わり、ちらりと視線を上げると、
二人はとっても難しい顔で私のことを見てました。
……あぁ、これは上手く、おさめられなかったかな……なんて思っていると、
「まぁ、むーちゃんがそういうなら、仕方ないね」
「確かに俺も……ちょっと強引だったかな」
お互いに顔を見合わせて、自分たちの悪かったところを認め合う二人。
私がぽかんとして見ていると、リツ君は照れ臭そうに頬を掻きながら、
「それに、あんまり卑怯な手を使ってたら、母ちゃんに怒られる」なんて言うんです。
「あっ、その手があった……リツのお母さん、怒るとおっかないもんね」
「な、なんだよ。そのニヤニヤ笑い……」
「べっつにー? ただ、今日のことを教えてあげたら、リツがどうなっちゃうのかなー、なんてこと、考えただけだよ」
「や、止めろよな、そういうの! ……この前みたいに、また休みの日に店の手伝いさせられちまう……!」
リツ君がそう言って、本当に嫌そうな顔をしたものですから。
その何とも言えない顔が面白くって、思わず私とミヨちゃんは、
二人揃って顔を見合わせると、そのまま笑い出してしまいました。
2.
とにもかくにも、三人が揃ったということで。
私たちは公園を出ると、目的の場所に向かって街の中をテクテクと歩き出しました。
途中、ミヨちゃんがポケットの中から、ケースに入った眼鏡型端末機を取り出して、
「それで――二人とも、アレはちゃんと持って来た?」 ……と、並んで歩く私たちに聞いて来たので、
「はい。ちゃんとこの鞄の中に」
「勿論だよ! 今日こそ俺が、アイツを参ったって言わせて見せるぜ!」
私は手に持っていた鞄を掲げ、リツ君も元気よく答えると、
背負っていたランドセルの中から、ミヨちゃんとは色違いの眼鏡を取り出しました。
「あんた、学校に眼鏡持ってってたの?」
するとミヨちゃんが、顔をしかめ、問い詰めるようにリツ君を見ます。
「なに言ってんだよ。むしろ学校に眼鏡を持ってきてない、ミヨの方がおかしいっての」
「だって、ウチはお母さんがダメって言うんだもん。眼鏡なんて、外遊びにはいりませんー、なんて」
「一応、校則でも禁止されてますもんね」
「なに? ……ってことは、むつ姉も学校に眼鏡持ってきてないんだ」
「実は……そうなんです」
「はぇー……おっくれてるーっ!」
信じられないといった顔で驚くリツ君に、ミヨちゃんが言います。
「なーにが遅れてる、よ! 生意気言って!」
「なんだよ。遅れてるヤツのこと遅れてるって言って、何が悪いんだよ」
「別に……その程度でいちいち怒ったりするほど、私も子供じゃない
コメント一覧
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- 2016年10月08日 23:06
- ニュージェネ三人の旦那は同一人物?
……果たして三人だけかな
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- 2016年10月08日 23:09
- そんなに悪いもんでもなかったかな
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- 2016年10月08日 23:20
- 誰の娘でも速攻で誘拐する自信がある。
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- 2016年10月08日 23:54
- 後書き読んで「黙れ」と思ったのは初めてだ
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むっちゃん言うからむつみかと思ったのにオリキャラかよ
文章は読みやすいのに変にオリキャラ主体で書いてるから読後感悪いわ