リリネット「筋肉で十刃のトップに立つ」
リリネット「ふんぬうううう!」グググ…
彼女の名前はリリネット・ジンジャーバック。第1十刃コヨーテ・スタークの片割れであり従属官でもある。
今は暇つぶしの一環としてスタークと腕相撲をして遊んでいる。
リリネット「うぎぎぎぎぎ……!」ググッ…
スターク「ほい」グイッ
リリネット「うぎゃっ」パタン
当然、腕力でスタークに敵うはずもない。今の敗北を含めずとも、彼女の負け数はもはや両の手で数えられない程に膨れ上がっていた。
リリネット「くそぉ……」ポロポロ
スターク「おいおい、泣くなって……」
破面の中でも特に幼さの目立つリリネット。
彼女には非常に泣き虫であり負けず嫌いでもある。遊びとはいえスタークに負け続けた今の彼女に涙を堪える術などありはしなかった。
リリネット「えぐっ……ぐすっ……」
スターク「落ち着いたか?」ナデナデ
リリネット「うん……」
リリネットの心はえも言われぬ罪悪感にさいなまれていた。
それは改めて己の非力さを実感したことも大きな要因の一つではあったが、今はそれよりもスタークに余計な気苦労をかけさせてしまったことの方で頭がいっぱいになっていた。
日頃はガサツな言動が目立つ彼女だが、その心根は虚に似つかわしく無いほどに優しく繊細なのである。
リリネット「スターク、あたし決めたよ」
スターク「ん?」
リリネット「あたし強くなる!」
この時リリネットは一つの決心をした。
それは強くなること。ただし物理的にである。
リリネット「あたし今日から修行の旅に出るから! たぶん一ヶ月くらいは戻ってこないと思う!」
スターク「は?」
リリネット「そんじゃ!」
いきなり突拍子もないことを言いだしたリリネットに対し、半ば呆気にとられているスターク。
思考が纏まらない間に彼女はそそくさと宮を出ていってしまった。
スターク「まぁあいつのことだ、そんなに無茶なことはしないだろ……」
スターク「たぶん、な……」
リリネットのことがちょっぴり心配なスタークであった。
一ヶ月後
リリネット「うおおおおおおおっ!!!」ダダダッ!
強くなると決心した彼女。
その言葉の通り、今は虚夜宮の外で日々修行に明け暮れていた。
リリネット「ふーっ、ランニング終わり!」
最初のうちは少し走っただけで息切れをおこし倒れこんでいた彼女だったが、今は50kmの距離を全力疾走で駆け抜けることができるほどに成長していた。
リリネット「よし! 今日の修行はこれで終わりかな!」ムキッ
彼女の修行はいたってシンプルであり、筋力トレーニングと走り込みの二つだけである。
走り込みの成果は見ての通りであるが、単純な筋力に関しても今では1000tを超える巨大な岩石を軽々持ちあげられるほどに成長していた。
リリネット「そういえば、そろそろ一ヶ月か……」
リリネット「ようし、じゃあ鍛えに鍛えたあたしの修行の成果を見せちゃおうかな!」ムキッ
リリネット「ってワケでまずは>>↓2するよ!」
リリネット「…………」チラッ
彼女は修行の成果を存分に発揮できそうな相手を考えに考え抜いた。
その結果、十刃の中でも相当な実力者であり尚且つ慈愛の心も併せ持つハリベルが適任であると思いついたのである。
そんなリリネットは今、ハリベルとその従属官が住まう第3の宮の様子を窓から窺っていた。
リリネット(ようし、どうやらアパッチたちはこの部屋にはいないみたい……)
リリネット「とうっ!」ザッ
リリネット(ふふっ、なんだかスパイになった気分!)
誰にも気付かれることなく潜入に成功したリリネット。
ただしその肉体はお世辞にも隠密行動に適しているものだとは言えなかった。
リリネット(さあ、ハリベルのところまで一直線!!)ギュン!
リリネット「たのもーーーーっ!!!!」ドガンッ!
勢いよく扉を開けてハリベルが居ると思われる部屋に入るリリネット。
あまりの勢いに扉から嫌な音が聞こえた気もしたが、彼女は気のせいであると割り切った。
ハリベル「ヤミ……リリネットか。どうした、私に何か用か?」
リリネット「えっと……」
リリネットは全ての事情を説明した。
一ヶ月間修行に励んだこと、その成果を確かめるために闘う相手を探しているということ、他にも色々なことを説明した。
ハリベル「そうか、お前もお前なりに力をつけようと努力をしているのだな」
ハリベル「戦いは私の性分ではないが、ここでお前の意思を無碍にしてしまうのも忍びない」
ハリベル「お前のその頼み、模擬戦という形で引き受けよう」
リリネット「やったーーーーっ! ありがとうハリベルっ!」ムキムキッ
筋骨隆々の肉体で幼さの残る万遍の笑みを浮かべるリリネット。
その笑顔は最早ある種の神々しさすら感じられるものであった。
アパッチ「ってなわけで模擬戦の審判はあたしが務める!」
アパッチ「危ないと思ったらすぐ終わりにするからな、リリネット!」
リリネット「わかってるって」ムキッ
審判はジャンケンの結果アパッチが務めることになった。
ミラ・ローズとスンスンは観客としてこの戦いを見守る権利を得た。
ハリベル「準備はいいか?」
リリネット「おう!」ムキキッ
アパッチ「試合時間は10分! 開始っ!」カーン
試合開始のゴングが鳴る。
先に動いたのはリリネットであった。
リリネット「響転!!」ヒュン
日々の訓練で得た足腰の強さにより、彼女の響転の速度は以前とは比べ物にならなくなっていた。
いとも簡単にハリベルの背後をとる。
ハリベル「!」
リリネット「ふんがっ!!!!」ブンッ
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!
その拳の一振りはまさしく巨人の一撃。
恐ろしい威力のその一撃はハリベルの立っていた床を見事に粉砕し、その拳圧で周囲の壁にすらヒビが入ってしまうほどであった。
リリネットは後にこのパンチを撃った自身の左腕を「巨人の左腕(ぶらそ・いすきえるだ・でる・でぃあぶろ)」と名付けた。意味は本人も理解していない。
ミラ・ローズ「ハリベル様っ!」ガタッ
スンスン「落ち着きなさいなミラ・ローズ。ハリベル様は今の攻撃など受けてはいませんわ」
スンスンの言葉の通り、響転で背後をとったはいいもののあまりに大振りな一撃だったためハリベルには簡単に避けられてしまったのだ。
おまけに床を粉砕した際の砂埃でリリネットはハリベルの姿を見失っていた。
リリネット「うっ、一体どこに……!」キョロキョロ
ハリベル「動くな」スッ
気付けば既にリリネットの喉元にはハリベルの斬魄刀が押しあてられていた。
この瞬間、リリネットは実質的な敗北を喫したのである。
リリネット「う……あ……」ガクン
敗けという一文字を心に深く刻み込まれたリリネット。
そのショックからか、彼女は膝から崩れ落ちるように倒れこんでしまった。
アパッチ「試合終了!!」カーン カーン
悲痛なゴングが鳴り響く。
リリネットの初めての闘いはわずか数十秒で決着がついてしまうという、彼女にとって非常に屈辱的なものになったのであった。
リリネット「ううっ……」グスッ
ハリベル「惜しかったな、リリネット」
リリネット「うわああああああん!!!!」ビエーン
リリネットは泣いた。ひとしきり泣いた。
悲しみの感情を抑えることなく涙を流すリリネット。その悲痛な姿を見た三人の従属官は、その目に薄っすらと貰い涙を浮かべていた。
リリネット「うっ、えぐっ……」
ハリベル「涙を拭け」スッ
さり気なくハンカチを手渡すハリベル。
ハリベル「そう気を落とすな、リリネット」
リリネット「う……」フキフキ
リリネット「ねえハリベル……」グスッ
ハリベル「どうした?」
リリネット「あたしの修行って、無駄だったのかなあ……」
力なく呟くリリネット。
それもそのはず、一ヶ月間の修行で得た自信がものの見事に打ち砕かれてしまったのだ。ナーバスになるのも仕方がない。
ハリベルの返答を待つリリネット。きつい言葉を投げかけられるだろうとじっと俯いていたが、ハリベルの返答は意外なものだった。
ハリベル「そんなことはない。さっきの一撃をまともに受けていれば私でも相当なダメージを負っていたはずだ」
リリネット「え……」
ハリベル「お前の敗因は探査神経を展開するのを怠ったことだ。索敵は攻撃面でも防御面でも戦闘の基本になる。どれだけ強い力を持っていても相手を認識できなければ何の意味もないのだからな」
ハリベル「それにお前にはその腕力を生かせる速さもある。模擬戦ではお前の力の全てが十分に発揮されていなかっただけだ」
リリネット「ほんとに!?」ムキッ
彼女は泣き虫ではあるが立ち直りも非常に速い。
その立ち直り具合は筋肉の隆起を見ればすぐにわかる。
リリネット「やったーっ! やっぱり無駄じゃなかったんだ!」ムキキッ
彼女の上腕二頭筋が喜びの咆哮をあげる。
仄かに浮き出たその血管からは溢れんばかりのバイタリティが見て取れた。
リリネット「アドバイスまでしてくれてありがとうハリベル! なんだか自信を取り戻せた気がするよ!」ムキムキッ
ハリベル「そうか」
リリネット「じゃあね! また会ったらよろしくっ!」
リリネット「よーし! じゃあこの調子で次は>>↓2をしちゃうかな!」
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コメント一覧
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- 2016年10月18日 23:26
- 地の文でいちいち笑うわ
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- 2016年10月18日 23:30
- どう、反応すれば良いんだ…?よく出来てるSSだけにどうすれば良いんだ!?
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- 2016年10月18日 23:35
- 考えるな、筋トレしろ
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