【コラム】 松智洋原案 「メルヘン・メドヘン」スペシャルインタビュー
集英社スーパーダッシュ文庫『迷い猫オーバーラン!』『パパのいうことを聞きなさい!』を始めとして、数々の大ヒット作品を手がけていた松智洋先生が今年の5月、肝臓癌により43歳で永眠されたことは記憶に新しい。
その松智洋先生が原案を手がけていた新シリーズが先日、ダッシュエックス文庫・2周年記念プロジェクトにて発表となった。タイトルは『メルヘン・メドヘン』、イラストレーターは『変態王子と笑わない猫』などでおなじみのカントク先生である。
「パパのいうことを聞きなさい! after」が遺作と銘打たれたにも関わらず、松智洋プレゼンツの新シリーズとは一体どういう事なのか。今回は、執筆を担当する松智洋先生の会社「ストーリーワークス」に取材を敢行。その詳細について忌憚なく質問をぶつけてみた。
■松智洋が「大好きな"魔法少女モノ"を書きたい!」 から生まれた企画
───先日発表となった『メルヘン・メドヘン』ですが、どんなお話なんでしょうか?
ストーリーワークス:世界中の有名な昔話やおとぎ話の元となる「原書」と呼ばれる本に選ばれた女の子たちが、それぞれの願いをかなえるために、その「原書」にまつわる魔法を使う魔法少女を目指すお話になります。
───えっ、魔法少女ですか!? 松先生は『パパ聞き』などアットホームな作風のイメージなので、驚きました。
ストーリーワークス:彼は作家であると同時に重度のオタクであって、魔法少女は大好物なんですね。
(一同笑い)
ストーリーワークス:もしかしたら、矢吹健太朗先生の影響もあるかもしれませんね。矢吹先生がイラストを描かれていた「はてな☆イリュージョン」は手品に見える魔法の話なので、手品や北欧の伝説、魔法など、作品のテーマについて深く調べていました。その蓄積があって、「魔法少女をやりたくなってきた」っていうのがあったかもしれません。ただ一番の理由は「魔法少女って可愛いよね」ってことに尽きるんじゃないかなと。
───その松智洋先生と「ストーリーワークス」の関係について、教えてください。
ストーリーワークス:もともと創作集団「StoryWorks(ストーリーワークス)」は、松が14年前に作ったチームです。松智洋は作家だけでなくゲームのシナリオライター、プランナーとしても優秀で、「ゲームやドラマCDの企画やシナリオなど、ストーリーに関するものならなんでもやりますよ」って形で、松が才能があって信頼できる仲間を集めて作った集団で会社を立ち上げたのが始まりになります。
───松先生の会社だったんですね。
ストーリーワークス:はい。松が業界で働き始めたのが20年位前で、ゲームのシナリオってテキスト量が膨大で、松が一人ではできない執筆仕事もいっぱいありました。なので仲間と協力したり、メンバーそれぞれが作品を作るにあたってアイディアを出し合ったり、原稿を手伝ったりして、そのチームが会社として成立したのが14年前なんです。
なので『メルヘン・メドヘン』はストーリーワークスが松の企画を引き継ぐというよりは、「ストーリーワークスとして松と一緒に作っていたものが、松がいなくなってしまったけれども完成させたい」という形の方が正しいです。
■名前を借りるのではなく、正統な「松智洋作品」として ストーリーワークスが完成させていく決意
───キツい言葉で言わせていただくと、「亡くなられた方の名前を使って商売している」という否定的な見方もできます。それについては?
ストーリーワークス:それは、はっきりと「違います」と断言させてください。『メルヘン・メドヘン』は松が長年「このテーマで書きたい」って言いつづけて、編集部とずっと相談しながら温めてきた企画なんです。でも当時は『パパのいうことを聞きなさい!』も続いていましたし、順番として後ろにあったというだけで、プロットやコンセプトをストーリーワークスと一緒に作り続けてきたものが、今年ようやく結実しつつある所で亡くなってしまったというのが実情になります。
───では『メルヘン・メドヘン』は、松先生がストーリーワークスのメンバーと以前から作り上げていた作品なんですね。
ストーリーワークス:はい。普段から我々は「あれが面白い」「これがダメ」「お前の書いたこれはつまらん」とか、各々の企画や作品をブラッシュアップなり、自分が気づかなかった点を取り入れる作り方をしている集団です。『メルヘン・メドヘン』もそうしたぶつけ合いの中で、松が骨子をきちんと残してくれましたので、我々も完成までの道筋はわかっています。
───そうしたディスカッションで練り上げていったと。
ストーリーワークス:辛気臭い話ではありますが、松がベッドから起き上がれなくなってからも、口述筆記で松が口にした文章を、書き留めていく作業をしていました。自分で書けなくなっても、思いつくことは溢れ出るくらい溢れるんで、「あとはお前が書け」と(笑)アイディアは無限に出てくる男だったので、「次は俺はこれを書くんだ」と言いながら……最期までワーカホリックでしたね。
───アイディアマンだったんですね。
ストーリーワークス:松は小説家としての印象が強いんですが、プランナーとしても本当に天才的で、本人も言ってましたがアイディアは無限にあると。ただ、「あとはお前らよろしくな」って、たくさんの企画をチームのみんなに託していきました。
遺作が出てるのに「松智洋作品の新シリーズ」っておかしいだろって感じですけど、彼はいっぱい書きたくて書きたくて、とにかくたくさん企画を残しているんですよ。『メルヘン・メドヘン』だけじゃなくて、進行中の作品がいくつもあって、おそらく松智洋の作品が数年間は出つづけるかもしれない。しかし、それは名前を借りるのではなく、彼が企画したものとして、ストーリーワークスが正統な松智洋作品として作っていくということです。
───松智洋先生の遺した企画を、形にして実現させていくという強い意思なんですね。
ストーリーワークス:ええ。もちろん皆さんには、それぞれの作品を見ていていただいた上で、「松っぽい」のか、そうでないのかは判断してもらうとして、松が残した物語の作り方、仕事の仕方、世の中に対する捉え方、「こんな風にみんなを楽しませたい」っていうマインドを我々は受け継いでいます。
───『メルヘン・メドヘン』も「松っぽい」と感じるところはありますか?
ストーリーワークス:松智洋の作品で中心を貫くのって、『迷い猫オーバーラン!』『パパ聞き』では『家族』『友達』などが根底にありましたが、その集大成として今回は、「物語」そのものをテーマとしていて、物語が「人と人の絆」「繋がり」を作るということを描いていきます。そもそも松が「ストーリーワークス」って社名をつけたことからも分かる通り、「人は物語を必要としているからこそ、僕らは仕事で、ずっと物語を書いていけるよね」っていう思いで物書きが集まった集団ですから、その思想のままといえばそうなります。
───つまり、松先生にしてみればストレートなテーマであると?
ストーリーワークス:そうです。
■おとぎ話の原書をまとって戦う魔法少女たちを紹介!
───イラストレーターにカントク先生を起用されましたが、これまた大物ですね。
ストーリーワークス:松がカントク先生に惚れ込んで、「キミが絵をつけてくれないとこの企画はやめる!」くらいの勢いで口説いたそうです(笑)で、上がってきた絵を見るとやはりスゴいなって、ばっちり『メルヘン・メドヘン』の世界とハマりました。
───こちらが、主人公の鍵村葉月(かぎむら はづき)ですか。
ストーリーワークス:『シンデレラ』の原書に選ばれた女の子なんですが、極めて平凡な、でも前向きな子です。他の子が諦めてる状況でも何かできるんじゃないかと考えて、みんなで力を合せてどうにかしようという王道の主人公タイプです。
───ライトノベルで女性の主人公は珍しいのでは?
ストーリーワークス:葉月は女の子なんですけど、女の子にモテるので、そのあたりはライトノベルの王道を踏みつつ、女の子にモテる女主人公、どこを向いても女の子、っていう形になっています。「萌え」よりは「愛でる」系を目指そうと、楽しく前向きに、女の子が仲良くしている様をニコニコ見守っていただけたらいいなと思います。実は初期の段階では主人公が男の子だったのを、これは違うだろうと性別を変えたらしっくりきたって松が言ってました(笑)
───平凡ってことは、魔法少女としては強くない?
ストーリーワークス:ええ、最初は魔法が上手く使えないんですよ、変身しても魔法少女の服がちゃんと着られないくらいのドジっぷりで。松は『仮面ライダースーパー1』という特撮が大好きなんですが、一話だったか二話かで、仮面ライターになる沖一也が、ちゃんと変身できないところから始まるんですよ。精神が集中できなくて腕しか変身できないとか(笑) でも、そこに怪人が現れて「俺がやらなきゃ」ってところで変身できるようになる。
才能とか素材が備わっているけども、上手く使えないもどかしさ。それをどういう想いで使いこなすのか、葉月にも「誰かのために強くなれる子になってほしい」と松は言ってました。
───土御門静(つちみかど しずか)は、和服、というか十二単ですね。
ストーリーワークス:『かぐや姫』を原書に持つ、いわばエリートの魔法少女です。責任感が強くて、自分がすべてやらなくてはって意思が強い、孤高タイプです。最初は葉月のドジに振り回されているけど、彼女が葉月に対してどうデレていくか……お楽しみに。
───ユーミリア・カザンは、挑戦的な顔つきですね。
ストーリーワークス:原書が『酒呑童子』なので、剣を持って突撃するアタッカータイプです。リーダーらしく責任感も強く、そこで静とぶつかったり、葉月と仲良くなったりという。松が言うには、少女漫画に例えるとヒロインが葉月で、イケメンの恋人が静だとしたら、途中から登場する、ワイルド系の横恋慕してくるライバルみたいな(笑)
───あはは、ラブコメだと出てきますね。
ストーリーワークス:松からは聞いてないんですけど、『トップを狙え』の三人が下敷きにあるのかなあ……葉月がノリコで、静はカズミで、カザンがユング枠。松は『トップを狙え』が大好きで、PS2版ゲームの『トップを狙え』の仕事を取ってきたくらいなので(笑)
───先程の『仮面ライダースーパー1』と言い、本当に松智洋先生の「好き」が詰まってるんだと感じます。続いて加澄有子(かすみ ゆうこ)ですが、ロリ系でしょうか。
ストーリーワークス:『一寸法師』を原書に持つ子なので、背が低いということで(笑)打ち出の小槌って何でもありなので、ものすごい強力な魔法を使うんだけど、本人の魔法力の問題で使い切れてないんですね。一発打つと疲れてしまう。なので普段は針を武器にして戦う、近接タイプですね。
■あえて今の時代に、魔法少女ジャンルを選ぶ理由
───ところで魔法少女モノって世の中にたくさんありますが、あえて今、魔法少女を題材にしたのはなぜでしょうか?
ストーリーワークス:先程言いましたが、まず松が大好きなジャンルであることと、いっぱい作品がありますけど、もっといてもいいじゃん!って(笑) 美味しいものはいくら食べても幸せです。でも「好き」だけじゃ駄目で、やっぱり世に出すには流行とかタイミングがあります。例えばですが、今「戦争モノ」を題材にするかという、松にとっては「そうじゃないだろう」と。「物語が人と人の絆をつなぐ」というテーマを今、届けるには「魔法少女でしょう」って事なんです。
───それでは最後の皆さんへのメッセージをお願いします。
永田勝一(ダッシュエックス文庫 編集長):スーパーダッシュ文庫ならびにダッシュエックス文庫を支えてくださった松智洋先生の名前のついた本を、まだまだ出していけることになったのは嬉しいことだと思います。ストーリーワークスさんも編集部も、松智洋の名に恥じないような作品を出していけるように頑張りたいと思いますので、期待していただけたらと思います。
ストーリーワークス:松はいつも「中途半端で終わらせたくない、書き上げる、完成させる、結末まで書く。読んでくれる人のために」と言いつづけてきた男なので、作りかけで亡くなったのは心残りだと思います。だけど僕らに最期「続きは頼むよ」と言ってくれたので、約束を守って、まずはこの作品をきちんと書き上げることになりました。松が作りたかったものを僕らが完成させます。
「読者に楽しんでもらわなければ何も意味がない」とつねづね言っていたので、松智洋作品として見劣りしないものに仕上げて、それ以上に楽しい作品にする意気込みですので、ぜひ読んでいただければと思います。
───本日はありがとうございました。
(2016年9月、集英社にて。 取材・文:かーずSP)
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執筆担当:StoryWorks(ストーリーワークス)のホームページ
原案:松智洋氏のTwitter
イラスト:カントク氏のホームページ「5年目の放課後」 / pixiv
松智洋 - Wikipedia
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