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双葉杏「九家三伏」|エレファント速報:SSまとめブログ

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双葉杏「九家三伏」

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:36:43.74 ID:YevjaYC3o

昨今の梅雨というのは本来想像するものとは少しばかし違うものになったと思う。
しとしとと振り続ける長雨。青紫色の花を咲かせる紫陽花。おまけのかたつむり。
梅雨とはなんとなくそんなイメージがついているし、他の人も同じように思っていると決め付けている。
だが実際はどうだ。曇りばかりの日が続いたかと思ったら突如豪雨が降る。テレビでは観測史上だの
非常に激しい雨だのなんやらの警戒が必要だのとても梅雨らしくない。これではただの台風ではないか。
ということを諸星きらりに話したところ

「杏ちゃんもそういうことがわかるようになったにぃ」

と言われた。しかし私は見逃さなかった。一瞬「急にどうしたんだ、この子は」という顔になったのを。
そもそもその返しでは今までの私は季節感皆無の生活をしているように聞こえるではないか。
実際そうかもしれないし、そのことできらりに怒られたこともあったが、私はこれでも現役女子高生なのだ。
JKなのだ。帰りにクレープ屋に寄って買い食いしたり、ゲーセンによってプリクラ撮ったりする年頃なのだ。
無論私はしたことがない。それにアイドルだってやってる。この職業は否応がなしに季節感というのを
感じさせる。やれ水着だハロウィンだクリスマスだ目まぐるしいにもほどがある。赤道直下の国ならば
延々と水着を着ていれば済むのかと思うとちょっと羨ましくなる。実際にどうかは知らない。

このように色々と言っているが最近ではアイドルも満更ではないと思っている自分がいる。
ちゃんと仕事をこなせばそこそこ実入りもあるし、こういうのはいつでも出来る稼ぎじゃないから
仕事を貰えているうちが華なのだ。咲いているうちにこなしたほうがいいと思っている。
ここで種銭を稼いで、アイドルやめたら株やらなんやらで稼ぐというのが専らの計画だ。

だがそれは先の話。私は相変わらず女子寮でだらだらと過しているのであった。



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:37:25.44 ID:YevjaYC3o

六畳のワンルームとキッチン、ユニットバス。食堂と大浴場付き。
今となっては当たり前のように思える女子寮の設備だが、アイドルをしているという条件はあるものの
家賃は破格の安さで、しかも防犯もキッチリしていることから事務所近辺に住んでいるアイドルまで
一人暮らしの練習だとかそんな名目で引っ越して来るようになった。休みになると玄関のほうで荷物が
山積みになっているのを食堂に行く時に見かける。場所が場所なだけに業者に頼むことも出来ないので
事務員だのプロデューサーだのアイドルだのが荷物運びに借り出されることになる。

「それで今日は武内プロデューサーなんだね」
「ええ。他に手の空いている方もいなかったので」

武内プロデューサーは荷物を降ろし、額に浮いた汗を拭う。梅雨が明け、いよいよ夏が始まるといった季節。
なのになぜこの人は暑苦しいスーツを着て、引越しの手伝いをしているのか。私にはわからない。

武内プロデューサーとは呼んでいるが彼はプロデューサーではない。プロダクションの事務員なのだ。
どういうわけか私達のドキュメントっぽいアニメでプロデューサーに抜擢されて以来、このように呼ぶ
のが普通になっている。ちなみに私の本来のプロデューサーはアイドルに対する度重なるセクハラ紛い、
問題行動で上司から直々に女子寮近辺への立ち入りが禁止された。

「大変だね。こんな仕事までするなんて。冬は雪かきもしてたでしょ」
「いえ。このプロダクション全体が潤滑に回るようにするのが私の仕事です」

姿も合わせて縁の下の力持ちという言葉がこれほど似合う人間もいまい。そんなことを話していると
今回の入居者がやってきた。眼鏡と白衣とツインテールが特徴の池袋晶葉だ。ウサちゃんロボと称される
踊るロボットを開発し、一人だけ二世代ぐらい未来に生きているのではないかと噂されている。学校の
夏休みが始まったのでそれを機会に越して来たようだ



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:37:57.25 ID:YevjaYC3o

「おや、杏じゃないか。私の引越しの手伝いをしてくれるのか?」
「冗談でしょ。杏の細腕じゃゲームのコントローラーしか持てないよ」
「そうか。ならばこの荷物を私と彼で運ぶしかないのだが……」

改めて荷物を見る。大小様々なダンボールが積み重なっている。おかげで玄関が狭い。
手が空いている人がいなかったというが、仮に女性が来たとしても手に負えなかっただろう。

「部屋の下見した? これ全部入らないんじゃない?」
「確かに少し多いかもしれないな。二部屋借りて片方を私のラボにするのはどうだろうか」
「晶葉さん。申し訳ありませんが一人一部屋という決まりがあるので……」

言われるまでもなく当然である。そんなわけで玄関で荷物整理が始まった。なぜか私も手伝わされている
のだが、見たところダンボールに書かれた中身の説明には『発明品』だの『製作途中』だの『工具』だの
生活に必要そうなものが見当たらない。

「まずさ。衣服以外はいらないと思うんだ」
「いやいや、工具がなければ発明できないだろう」
「女子寮で発明しないでよ。爆発したらどうするのさ」
「む、じゃあ私はどこにラボを構えればいいんだ」
「事務所のどっかの空き部屋借りれば? 武内プロデューサーに頼んで」
「えっ」

ダンボールに書かれている説明で荷物を仕分けしていた武内さんが顔を上げる。

「待ってください。一個人のために部屋を宛がうことは出来ません」
「じゃあどうすれば使えるんだ?」
「要望書を提出してください。こちらで会議の際に検討して、許可するかどうかを決めます。
 ですが、アイドルの私事のための部屋となるとおそらく許可は出ないと思います」
「何かいい案はないの?」

武内さんは荷物を降ろして、考え出す。

「……以前、池袋さんの開発したロボットは社内でも大変好評だったと聞いています」
「ああ、あのロボットか。あれは私の自信作だったからな」
「あのような会社にとってプラスになる物を製作するということであれば、もしかしたら許可が通るかも
 しれません。しかしそういった場合、定期的に成果を要求されると思います」
「成果か。まぁそのぐらいならば可能だろう。ではその線でやってみるか」
「武内プロデューサーも話がわかるね」

そういうと武内さんは少し照れくさそうに「ありがとうございます」と答えた。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:38:23.59 ID:YevjaYC3o

ラボの計画が決まったので、荷物の整理を続ける。日用品や僅かな工具などは残して、後は元々のラボに
送り返すそうだ。それが一体どこなのかなどの疑問は面倒なので訊かないことにした。あれだけあった
ダンボールも必要なものだけ残すと私と晶葉の二人だけでも十分運びきれそうな量になった。

「それでは私は失礼します。また何かあればご連絡ください」

送り返す荷物を車に積み込み終わった武内さんが別れの挨拶をして去っていくのを見送る。本来であれば
女子寮付近はアイドルが怪我する可能性も考えて車両の立ち入りは禁止なのだが、引越しなどどうしても
必要な時に限って許可が下りる。そうでなければ本社から台車で運ばなければならなくなってしまう。
考えたくもない話だ。

我々も残った荷物を四階の晶葉の部屋まで運び入れて、やっと一息つく。なんだかんだで最後まで手伝って
しまった。時計を見ると丁度大浴場が開く頃だったので案内がてら一風呂浴びる事にした。お互い髪を
下ろした相手の姿に驚きつつもゆっくりと湯船に浸かり、疲れを癒し、風呂上りに自販機のコーヒー牛乳
を今日の報酬として奢ってもらった。

私の夏はそんな具合に始まりを告げたのだった。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:38:50.10 ID:YevjaYC3o

事務所にプールが出来た。
その吉報はプロダクション内のみならず、当然この女子寮にも速報として入った。

今までも事務所内にはプールが存在した。したのだが撮影用だったため、自由に入ることが
出来ない上に大変狭かった。女子寮の大浴場の湯船のほうが広いぐらいだ。そのためアイドル達は
人目を忍んで普通のプールに行くか、女子寮の裏にビニールプールを設置するかというどうしようもない
二択を迫られていた。ただし休みと金、あるいはツテのある一部のアイドルはどこぞの人目のない海へと
行っているようだがこれは省く。

夏が来るたびに海に行きたい、プールに行きたいと駄々をこねるアイドル達にはプロデューサー達も
なかなか手を焼いていたようだ。弁護するが私は言っていない。この話が社長に届いたらしく
めでたくアイドルが自由に入れるプールの設置が決まったのが梅雨入りの頃だった。

一体いつ出来るのだろうか。そもそもどこに作るのか。そんな話が夏に近づくにつれ、増えていたが
ある日あまりにも突然プールが完成したという報せが入ったので半信半疑も含めたアイドル達が殺到
することとなった。かくいう私もその一人だ。別に興味があったわけではないが、完成したとなれば
浮き輪で浮かばなければいけない。波は無くても漂うことが大事なのだ。

どんなプールなのか。流れるプールだろうか。ウォータースライダーがついているだろうか。そんな
期待を胸にいざ蓋を開けてみると、なんということだろうか。事務所の屋上に25メートルプールが
あるだけだった。先ほどまで更衣室で期待に胸を膨らませていたアイドル達のテンションがプールを
見ると同時にみるみる低下していくのがわかる。水中メガネや浮き輪を片手に固まっているアイドルも
見られる。ただしコースは8コースと多いため、一部の運動好きアイドルがひたすら泳いでいるが、
これは我々の求めたレジャープールではない。競技用プールなのだ。

しかしプールであることには変わり無い。年少組は構わず遊んでいるし、塩見周子はなぜか
ビニールプールを持ち出して、ブールサイドで浸かっているし、浜口あやめはビート版に乗って
水面移動をしようとして失敗している。気落ちしていたアイドルも降り注ぐ太陽の下、冷たいプールに
入れるなら良しとしようと割り切れたのか次々とプールに入りはじめた。私もさっそく浮き輪に尻を
突っ込んでぷかぷか浮かぶ。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:39:16.20 ID:YevjaYC3o

眼を瞑っても潮騒は聞こえないし、海の匂いもしないがゆらりゆらり揺れているとそれだけでリラックス
出来る。クーラーの効いた部屋でごろごろするのも良いが、こうして水に揺られるのも悪くは無い。
しかし平穏は長くは続かず、唐突に顔に水をかけられ、驚いた拍子に浮き輪からひっくり返って落ちる。
思ったよりも深かったので浮き輪にしがみ付いて、顔を拭く。見るとプールサイドに水鉄砲を持った
年少組と首謀者が立っていた。

「友紀。許さないぞ」
「当てたの私じゃないよ? 仁奈ちゃんだから」
「仁奈が最初に杏おねーさんを撃ち抜きましたですよ!」

年端もいかない娘に責任転嫁しようとしている成人に制裁をするべく、プールサイドに近づく。
しかし首謀者に煽られた年少組の水鉄砲攻撃が止まず、なかなか辿りつけない。
ガードしながら機会を伺っていると、好機はすぐにやって来た。

「水がなくなったでごぜーます」

どれも同じ型の水鉄砲で一斉に発射していたのだ。全員が同時に水切れを起こし、しゃがみ込んで
プールの水で補給し始めた。それを横目にプールサイドに上陸する。

「人が浮き輪でのんびりしているのを的にするなんて……許さんぞ。
 鼻に水鉄砲突っ込んで口から水を吐かせてやる」
「杏ちゃん、落ち着いて。それアイドルのやることじゃないから」
「いいか、みんな。悪者は友紀なんだよ。さぁ補充したら撃つのだ」

無邪気な年少組は私の言葉に従い、先ほどまで従っていた相手に鉄砲を向ける。
友紀は笑いながら降参降参といいつつ、プールの中に逃げ込んだのでみんなで泳ぎながら追いかけ、
気付けば鬼ごっこの様になっていた。

結局その後ものんびり揺られることはなかったし、友紀の鼻に水鉄砲を突っ込む事も出来なかったが、
その日の夜はいつも以上によく眠れたので良しとすることにした。

後日、日焼け止めクリームを塗り忘れたアイドルに担当プロデューサーから雷が落ちた。



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/08(火) 20:39:42.52 ID:YevjaYC3o

「幽霊を見たの」

そう語るのは篠原礼。そして聞くのは白坂小梅、道明寺歌鈴、依田芳乃、そしてなぜか私、双葉杏。

「昨日の夜、日付が変わる前ぐらいだったわね。部屋で寝ていたらドアノブがガチャガチャって
 回り始めたの。もちろん鍵は閉まってたから開く事はなかったけど、私怖くて布団を頭から被って
 聞かないことにしたの。そのうち今度はドンドンってノック……っていうよりも叩く音ね。
 ただでさえ雷が鳴ってて怖かったのによ? でももしかしたら誰かが呼んでいるのかしらと思って
 勇気を出してド
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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2016年11月08日 22:49
      • 武内じむいんっ!がいれば
        ホモでHAGEでロリコンでブサイクでドリンク中毒でヤニカスで課金狂いのPなんてもういなくていいな
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2016年11月08日 23:02
      • この杏の風呂のはいりかた前にも見たなと思ったら同じ人だったかいいぞもっとやれ
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2016年11月08日 23:10
      • 歳をとらないだと……
        サザエさん時空なのか

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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