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千歌
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1: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 17:58:18.00 ID:AStuVqsg.net
千歌「どういう意味だろ?普通にお友達として大好き、ってことかなぁ」

ねぇ、千歌ちゃん。

千歌「違う意味だったら…お、女の子同士なのに、そんなのヘンだよね?」

千歌ちゃんは、気付いてないの?

千歌「黙って頷いちゃったけど、何かお返事した方がいいのかなー!」

今の千歌ちゃん、誰がどう見ても

千歌「あ~~!曜ちゃん、どうしよ~~~~~!!!」

恋する乙女って顔してるよ。

2: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 17:58:28.79 ID:AStuVqsg.net
曜「…ごめん、私先に行くね」

千歌「え?梨子ちゃん待ってないの?」

千歌「係の仕事、そんなにかからないって言ってたし、もうちょっとで戻ってくると思うけど」

曜「うん。次の衣装についてルビィちゃんと話もしたいし」

千歌「わかった。じゃあ、梨子ちゃん戻ってきたら一緒に行くね」

曜「じゃ、後でね」

3: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 17:59:24.45 ID:AStuVqsg.net
最近、千歌ちゃんと梨子ちゃんと、一緒にいるのが辛い。

恋愛とかに疎かった私でも、近くにいればわかる。

二人は、きっと好き合ってるんだって。

女の子同士で、なんて普通じゃない。

でも、私もそうだったから。

私も、千歌ちゃんのことが好きだったから。

だから、それが手に取るようにわかって。

だから、それが辛かった。

4: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:00:23.77 ID:AStuVqsg.net
東京からの転校生として、突然現れた梨子ちゃん。

千歌ちゃんとは家が隣ということもあってか、Aqoursを結成してから、二人の仲は急激に近づいた。

梨子ちゃんは、スクールアイドルをやる上でも、作曲ができるという他の人にはない特技を持っているし、それを除いても確かに魅力的な女の子だ。

でも、その奇跡のような出会いは。

私が千歌ちゃんと十年以上育んできた絆を、一瞬で飛び越えてしまって。

それが私には、どうしようもなく耐えられなかった。

5: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:01:11.38 ID:AStuVqsg.net
ダイヤ「あら、曜さん。ごきげんよう」

鞠莉「ん?曜、なーんか顔色、良くないわよ」

曜「…え?そうですか?」

ルビィ「ぐ、具合が悪かったり…?」

果南「気分が優れないなら、無理しないで今日は休みな」

曜(…そんなに酷い顔をしてるのかな、今の私は)

曜「…そうだね。そう言われればなんだか体調良くないかも。悪いけど、今日は休むね」

花丸「お大事にずら~」

6: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:01:46.45 ID:AStuVqsg.net
千歌「おっまたせ~!今日も練習がんばろう!」

梨子「あれ、曜ちゃんは?先に来てるって聞いたけど」

ダイヤ「曜さんなら帰りましたわ。なんだか顔色が優れないようだったので」

千歌「え…?」

果南「あんた達、一緒にいたのに気付かなかったの?すっごい具合悪そうだったよ」

千歌「…ちっとも、気付かなかった。普通に話してたと、思ったんだけどな」

7: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:02:27.75 ID:AStuVqsg.net
曜(みんなに心配かけちゃった。顔に出ちゃうなんて、私はダメだなぁ)

曜(明日からはいつも通り、普通の渡辺曜でいなきゃ)

曜(…いつまで、隠してればいいのかな。いつまでこんなこと、続ければいいのかな…)

ピロリン

曜(…あ、メール…千歌ちゃんからだ)

曜(体調、気遣ってくれてるんだ。やっぱり優しいな、千歌ちゃんは)

曜(…でも、その優しさは、きっと他の人にも向けられているものなんだよね)

10: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:03:23.29 ID:AStuVqsg.net
梨子ちゃんは、千歌ちゃんに告白、したらしい。

千歌ちゃんから相談を受ける形で知ったことだ。

その返答に思い悩む様子は、恋に浮かれる女の子そのもので。

千歌ちゃんの梨子ちゃんに対する想いは、やっぱり特別なんだと、思い知らされた。

私や、他のみんなへ見せている優しさとは、違う。

きっと、私が同じことをしても、こうはならなかったのだろう。

千歌ちゃんが、梨子ちゃんに見せた表情はどれも、

私には向けられたことがないものばかりだった――

12: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:04:16.37 ID:AStuVqsg.net
千歌「おはよ~曜ちゃん」

梨子「曜ちゃん、おはよう」

曜「おはよう、千歌ちゃん、梨子ちゃん」

千歌ちゃんと梨子ちゃんは、いつも同じバス停から一緒に乗ってくる。

家が隣同士なんだから、当たり前なんだけど。

…私も、沼津に引っ越さないで、内浦のままだったら、良かったな。

家が近くだったら。バス停が一緒だったら。…何か変わっていたのだろうか。

13: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:05:12.77 ID:AStuVqsg.net
千歌「曜ちゃん、体調はもう平気なの?」

曜「うん、大丈夫。昨日はみんなにも心配かけちゃったね」

梨子「本当よ?千歌ちゃん、早く歌詞出してって言ってるのに、曜ちゃんが心配で~って全然手付かずだったんだから」

千歌「で、でも梨子ちゃんの脅すような言い方も悪いよ!あんなにプレッシャーかけられたんじゃ出るものも出ないよ!」

梨子「そもそも予定通りに進めてくれていれば、私もこんなに心を鬼にしなくて済むんだけど」

ねぇ、千歌ちゃん、梨子ちゃん

千歌「うぐ…梨子ちゃん、歌詞の締切の時だけは、心だけじゃなくて顔まで鬼に…」

梨子「何 か 言 っ た ?」

千歌「ひぇっ!ほら、その顔その顔!すっごい怖い!」

何の話をしているの?

千歌「曜ちゃんも、そう思うよね!?」

曜「あはは、そうかな」

14: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:05:52.53 ID:AStuVqsg.net
千歌「授業おわった~~!さ、今日も練習がんばるよ!」

梨子「昨日は待たせちゃったから、早く行きましょう」

曜「…ごめん。今日はちょっと水泳部の方に行くね」

千歌「あ、そうなんだ」

梨子「大変ね、水泳部とスクールアイドルの兼部なんて」

曜「あはは…みんなには、体調はすっかり良くなったから大丈夫だよって言っておいてよ」

千歌「うん、わかった。頑張ってね」

15: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:06:35.26 ID:AStuVqsg.net
…ふと気を抜くと、暗い思考が頭を覆い尽くす。

きっとまた、ひどい顔をしている。

こんなんじゃAqoursの練習にも出られない。

…私は、どうしたらいいんだろう。

梨子ちゃんから千歌ちゃんを奪うなんてこと、できない。

そもそも好き合ってる二人の間に、私が入る余地なんてない。

でも、このまま二人を傍で見続けるなんて、もっとできない。

袋小路のように行き場のない感情が、ぐるぐると渦巻いていた。

16: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:07:10.46 ID:AStuVqsg.net
千歌「やっとバス来たよ~。あれ、曜ちゃんいない」

梨子「珍しいね。いつもこのバスに乗ってるのに」

千歌「うぷぷ。曜ちゃん、お寝坊さんかな?」

梨子「千歌ちゃんじゃあるまいし…」

千歌「な、なんだと~!!」

梨子「…ところで千歌ちゃん。私、まだお返事聞いてないな」

千歌「え?何のこと?」

梨子「ほら、合宿の時の…」

千歌「…あ、あぁ~。それはまぁ、近いうちに、ね…?」

梨子「ふふっ。待ってる」

17: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:08:07.78 ID:AStuVqsg.net
千歌「もうすぐ授業始まっちゃうのに、曜ちゃんまだ来ないな~」

梨子「もしかして、本当に寝坊しちゃったのかしら」

千歌「…って、噂をすれば!曜ちゃーん!」

曜「…おはよ、千歌ちゃん、梨子ちゃん」

梨子「おはよう。珍しいね、こんな時間になるなんて」

千歌「曜ちゃん、まさかお寝坊さんしちゃった?」ニヤニヤ

曜「あはは、まぁそんなところ」

梨子「え、本当!?」

千歌「ほらー!私の言った通りじゃん!」

梨子「くっ…曜ちゃんが寝坊してくることなんて一度もなかったから、まさかと思ったけど…」

千歌「私は曜ちゃんの幼馴染だからね!今はしっかり者って感じだけど、昔はたまに寝坊とかしてたんだよ」

曜「…」

18: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:08:49.54 ID:AStuVqsg.net
先生「では、ここのところを…渡辺さん」

曜「…」

梨子「…曜ちゃん?」

先生「渡辺さん?聞こえてますか?」

千歌「曜ちゃん、あてられてるよ!」

曜「ッ!は、はい」

先生「あらあら、まだ寝ぼけてるの?今朝も遅刻ギリギリの時間に登校してきたでしょう、廊下で見かけたわよ」

曜「す、すみません…」

千歌「…」

19: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:09:32.88 ID:AStuVqsg.net
千歌「さあって!地区予選に向けて、今日も練習やるぞー!」

曜「…ごめん。今日も練習、行けない」

千歌「え…」

梨子「…水泳部の方へ?」

曜「…うん」

千歌「そうなんだ…」

梨子「無理しないでね」

曜「ありがと…それじゃ」

梨子「…なんだか曜ちゃん、今日一日元気なかったね」

千歌「うん…どうしたんだろ」

千歌「あんな曜ちゃん、初めて見た…」

21: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:10:35.44 ID:AStuVqsg.net
鞠莉「Oh my God! 理事長のつまんない仕事で遅くなっちゃったワ!練習、もう始まっちゃってるかしら」

鞠莉「オゥ?あれは…」

鞠莉「曜!」

曜「…あ、鞠莉ちゃん」

鞠莉「なんだか元気なさそうね。そっちは帰る方向だし、今日もAqoursの練習はお休み?」

曜「…ごめんね」

鞠莉「…昨日はチカっち、曜は水泳部に行ったって言ってたけど。あれウソよね?」

曜「…」

鞠莉「偶然見ちゃったのよね。曜が帰るところ。水泳部に行った後にしては、早すぎる時間に」

鞠莉「別に責めてるわけじゃないのよ。曜が自分勝手な理由でサボるような子じゃないって知ってるもの」

鞠莉「だから、心配してるの。だって、今のあなた…」

鞠莉「…なんだか、今にも死んじゃいそうな顔してる」

22: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:11:18.04 ID:AStuVqsg.net
曜「…そう、かな」

鞠莉「ねぇ、曜。もし体調が悪いだけならいいの。きちんと休めば治るから」

鞠莉「でも、何か悩みを抱えてるなら、遠慮なく私に話してちょうだい?」

鞠莉「私は理事長なんだから。困ってる生徒は放っておけないワ!」

鞠莉「…なんていうのは建前。私たち、同じAqoursの仲間なんだから」

鞠莉「だから、もっと頼ってくれていいのよ?」

曜「…うん。ありがとう、鞠莉ちゃん」

曜「あの…私が水泳部に行ってないこと、みんなには…」

鞠莉「わかってるわ。誰にも言わない」

曜「…ごめんね、心配かけて。ありがとう」

23: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:11:49.74 ID:AStuVqsg.net
先生「では、ホームルームを終了します。起立、礼!」

曜「…」ガタッ

千歌「よ、曜ちゃん!」

曜「…」

千歌「今日も、練習には…」

曜「…ごめん。行けない」

梨子「…そう…」

千歌「曜ちゃん、最近元気ないよね。練習にも全然来なくなっちゃったし…何か、あったの?」

曜「…ううん、なんでもないよ。大丈夫」

曜「ごめんね、心配かけて。大丈夫だから…それじゃ」

千歌「曜ちゃん!」

梨子「…全然、大丈夫には見えないけれど…」

千歌「…」

25: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:12:23.65 ID:AStuVqsg.net
鞠莉「…今日も曜は欠席?」

ダイヤ「もう5日目ですわ。いくら水泳部と兼部とはいえ…」

千歌「…曜ちゃん、最近私たちとは違う時間のバスで来るようになっちゃったし、学校でも口数が少ないしで…一体どうしたんだろう…」

花丸「何か悩みがある、とか?」

善子「確かに、最近廊下で見かける曜さん、なんだか元気なさそうね」

果南「そういうのは、幼馴染の千歌が一番わかるんじゃないの?」

千歌「私も聞いてみたんだけど、なんでもないよって答えるだけだし、あんな曜ちゃん、見たことなくって…」

ルビィ「なんだか心配だね…」

梨子「…千歌ちゃん。今日の帰り、曜ちゃん家に行ってみない?やっぱり気になるの」

千歌「そうだね…明日から土日で学校も休みになっちゃうし。行ってみよう」

26: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:13:16.41 ID:AStuVqsg.net
ピンポーン

曜ママ「はーい。あら、千歌ちゃん久しぶりね!そっちの子は…?」

千歌「ひさしぶり、おばさん!こっちはこの間引っ越してきた、梨子ちゃん」

梨子「初めまして。桜内梨子です」

曜ママ「!…そう、あなたが梨子ちゃんね」

千歌「えっと、曜ちゃんいますか?」

曜ママ「…千歌ちゃん、今曜とケンカとかしてるの?」

千歌「え?」

曜ママ「朝もいつもと違う時間に出るようになっちゃったし、その…曜には内緒って言われてたんだけど…」

曜ママ「千歌ちゃんと梨子ちゃんには、会いたくないって…」

梨子「…え?」

千歌「うそ…」

27: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:14:04.30 ID:AStuVqsg.net
梨子「さっき、曜ちゃんのお母さんが言ってたこと…」

梨子「曜ちゃんが今こうなってる原因が、私たち、ってことだよね…」

千歌「…わかんない」

千歌「全然わかんないよ…ッ!」

千歌「どういうことなの…私たちには会いたくないって…」

千歌「朝も、学校でも、まるで私たちを避けるみたいに…」

千歌「なんでもないよ、なんて…どう見たってなんでもないワケないのに…」

千歌「曜ちゃん、どうしちゃったの…?」

梨子「千歌ちゃん…」

28: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:14:51.40 ID:AStuVqsg.net
先生「では出欠を取ります。あら、渡辺さんはお休み?」

先生「高海さん、あなた渡辺さんと仲良かったわよね。何か聞いてない?」

千歌「い、いえ、何も…」

先生「そう…また遅刻かしら。たまにはガツンと叱らなきゃ!では出欠を―」

梨子「…曜ちゃん、来ないね」

千歌「…うん…」

梨子「…きっとまた、寝坊してるんだよね?」

千歌「…」

29: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:15:31.96 ID:AStuVqsg.net
花丸「曜さん、今日はお休みずら?」

千歌「うん…先生には、なんの連絡もなかったみたいだけど」

善子「具合が悪いにしたって、普通先生には連絡くらいするわよね」

ダイヤ「となると、それ以外の理由で…?」

鞠莉「…ねぇ、チカっち達は先週曜の家に行ったんでしょ?どうだったの?」

千歌「そ、それは…」

梨子「…」

梨子「お話は、できませんでした…」

鞠莉「…そう」

30: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:16:16.87 ID:AStuVqsg.net
果南「千歌たちにも話せないとなると、私たちが聞いたところで結果は同じだね」

ダイヤ「そうですね…曜さんのことは心配ですが、もうすぐラブライブ地区予選も迫ってきています」

ダイヤ「気持ちを切り替えて、私たちは私たちで今できることに集中しましょう」

鞠莉「曜は飲み込みが早いから、戻ってきてもきっとすぐに追いつくわ。でも…」

ダイヤ「…最悪、曜さんを除く8人での動きも練習に入れないといけないかもしれないですね」

千歌「…」

31: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:16:55.92 ID:AStuVqsg.net
曜ママ「…曜、ご飯ここに置いておくわね」

曜ママ「…今日も、学校行かないつもり?」

曜ママ「理由はもう今さら聞かないわ。でも、何か助けになることがあれば、ママなんだってするから」

曜ママ「…食べ終わったら、食器置いておいてね」

曜(…)

曜(…一体何をやってるんだろう)

曜(みんなに心配かけて、迷惑かけて、来てくれた千歌ちゃんたちを追い払ったりして)

曜(私は何がしたいんだろう。どこへ向かってるんだろう)

曜(…きっとどこへも向かっていない)

曜(みんなが前へ進んでいくなか、私だけここに置き去りになってる)

曜(もがいてももがいても、沼のように沈んでいって、ちっとも前に進まないんだ)

32: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:17:48.87 ID:AStuVqsg.net
先生「渡辺さんは、親御さんから体調不良で今日も欠席との連絡がありました」

千歌「え…?」

梨子「これでもう3日目だね…」

千歌「さすがにおかしいよ…私、もう一回曜ちゃんの家に行ってくる」

梨子「今から!?もうホームルーム始まっちゃうよ!それに、前行った時…」

千歌「そんなこと気にしてる場合じゃない。何か嫌な予感がするの」

千歌「このままだと曜ちゃん、どこか遠い所に行って、帰ってこなくなっちゃうんじゃないかって…」

33: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:18:53.90 ID:AStuVqsg.net
千歌「はぁ、はぁ…えっ?」

千歌「なんで曜ちゃん家の前に、パトカーが…」

曜ママ「あ、千歌ちゃん!」

千歌「おばさん!どうしたの!?曜ちゃんに何かあったの!?」

曜ママ「ねぇ、曜のこと見なかった!?」

千歌「えっ?どういうこと?」

曜ママ「曜が、いないの…朝食に手を付けてないから、おかしいと思って部屋に入ったら…」

千歌「…うそ…」

35: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:20:07.12 ID:AStuVqsg.net
私が死んだら、千歌ちゃん悲しんでくれるかな。

最近は、そんなくだらないことばっかり考えるようになった。

友達が死んじゃったら、誰だって悲しい。

当たり前だよね。

…でも、梨子ちゃんより?

私が死んだら、梨子ちゃんより私のこと、想ってくれるかな?

36: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:20:46.54 ID:AStuVqsg.net
曜「…」

高い、高いところ。

沼津の街が遠くまで見渡せる。

内浦は、あっちの方角かな。

曜「…」

他人から見たら、なんてことない、ただの失恋というものだろう。

人生の中で、一度や二度経験してもおかしくない、普通のできごと。

でも、私は今まで狭い世界で生きすぎたのかもしれない。

私が17年間で形作った、小さな小さな心の中は、

千歌ちゃんという光を失ったら、真っ暗になってしまった。

37: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:21:21.45 ID:AStuVqsg.net
曜(…あれ、千歌ちゃん…?)

街の中に、必死の形相で走る幼馴染の姿を見つけた。

人もまばらな平日の駅前を、何かを探すように駆け回っている。

制服姿のまま、学校を抜け出して、今ここにいる理由。

…もしかして、私を探してくれているのかな。

曜(…やっぱり、千歌ちゃんは優しいな)

そんな千歌ちゃんのことが、大好きだったんだよ。

38: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:22:01.69 ID:AStuVqsg.net
…ねぇ、千歌ちゃん。

聞いてほしいことがあるんだ。

やっと見つけたの。私がまた、千歌ちゃんの一番になれる方法。

すぐに、伝えたいから。

いま、傍にいくね。

39: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/30(日) 18:22:45.57 ID:AStuVqsg.net
ぐら、と傾き出した私の身体。

…曲がりなりにも、飛び込みの選手として活躍もしていたのに。

それはあまりにも不格好で、もはやただの”落下”だったけれど。

千歌ちゃん、ちゃんと見ててね。

私の、最期の飛び込み。

そして、私のこと忘れないで。

大好きだよ、千歌ちゃん。

千歌「…え、…曜ちゃん?」

88: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:03:41.23 ID:CG5xYpog.net
学校を飛び出した千歌ちゃんは、結局戻ってくることはなかった。

携帯の連絡にも一切反応がなく、心配になった私は、放課後Aqoursのみんなと一緒に千歌ちゃんの家を尋ねた。

玄関では、悲痛な表情を隠しきれない志満さんが対応してくれたが、

千歌ちゃんは今、とても他人に会える状態ではないと言っていた。

一体何があったのかはわからないが、普通じゃないことが起こったのだと、私たちは理解してしまった。

89: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:04:29.74 ID:CG5xYpog.net
先生「…今日は、高海さんは体調不良のため欠席です。それと…」

先生「渡辺さんが、突然の病気により、長期間入院することになりました」

梨子「…え…」

先生「かなり長い期間になりそうで…もしかしたら、卒業まで復学できない可能性もある、とのことです」

先生「難しい病気のため、面会はできないそうです。お見舞いの品物は病院で預かってくれるとのことなので、寄せ書きなどを渡す場合は―」

梨子「千歌ちゃん…曜ちゃん…一体、何が…」

90: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:04:58.12 ID:CG5xYpog.net
先生「…では、これでホームルームを終わります」ガラガラ

梨子「先生!あの…曜ちゃん、どうしたんですか…?」

先生「…桜内さん。あなたも、渡辺さんと仲が良かったわね」

先生「…でも、ごめんなさい。私の口からは、詳しく話せない」

先生「高海さんは事情を知っているけど…あまり無理に聞き出さないであげて」

先生「彼女も、いま相当…辛いはずだから」

91: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:05:39.32 ID:CG5xYpog.net
先生からは教えてもらうことはできなかったが、このまま何もしないわけにはいかない。

曜ちゃんは、私にとっても大切な友人だ。

あの日、何があったのか。私は知らなくっちゃいけない。

それに―

梨子(千歌ちゃん…!)

千歌ちゃんとも、あれから一度も連絡がとれていない。

最悪の事態が次々に思い起こされる頭を振って、私はまた千歌ちゃんの家を尋ねた。

92: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:06:21.54 ID:CG5xYpog.net
梨子「千歌ちゃん…!」

病室のドアを開くと、ベッドに横たわる曜ちゃんと、そこに寄り添う千歌ちゃんの姿があった。

千歌ちゃんは今日、朝から病院で曜ちゃんのお見舞いをしていたらしい。

私は志満さんに車で送ってもらい、教えてもらった病室へ駆け込んだ。

千歌「梨子ちゃん…」

梨子「…曜ちゃんの、それって…」

千歌「うん、見て。曜ちゃん、気持ちよさそうに寝てるでしょ」

千歌「でも、もう目を覚まさないんだって」

93: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:07:30.39 ID:CG5xYpog.net
梨子「…え…?」

千歌「今もつないでる機械でなんとか生きてるだけで、外したら、しんじゃうんだって」

千歌「信じられないよね。今にも起き出して、ヨーソローって敬礼しそうなのに」

梨子「そんな…一体何が…」

千歌「…沼津駅前のビルから、飛び降りたの」

千歌「私、見ちゃった。曜ちゃんが落ちてくるところ」

千歌「あの高さから落ちて、命が助かっただけでも奇跡だって、お医者さんは言ってた」

梨子「…どうして、そんな…」

94: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:08:36.03 ID:CG5xYpog.net
千歌「…ねぇ梨子ちゃん。私たち、どこで間違っちゃったんだろう」

千歌「学校を救いたいって、普通な私たちでも輝きたいって、スクールアイドル頑張って」

千歌「最近はPVの再生数も増えて、ようやくこれからだって思ったのに」

千歌「どうして、こんなことになっちゃったんだろう…」

千歌「私が何回聞いても、曜ちゃん、もう答えてくれないの」

千歌「これじゃ、なんにもわからないよ…曜ちゃん…」

95: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:09:34.00 ID:CG5xYpog.net
千歌「私も…」

梨子「え?」

千歌「私も向こう側に行けば、曜ちゃんとお話できるかな」

千歌「ちゃんと、思ってること、素直に聞かせてくれるかな…」

梨子「それだけは、ダメ!!」

千歌「梨子ちゃ…!」

梨子「曜ちゃんだけじゃなくって、千歌ちゃんまでいなくなっちゃったら、私…!!」

千歌「…そうだね。私、バカだ。バカチカだ」

千歌「大事な友達を、また悲しませちゃうところだった」

千歌「…うっ…曜、ちゃん…うぅ…」

千歌「うわあぁああぁぁぁあぁぁん……!」

96: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:10:26.74 ID:CG5xYpog.net
あれから1年の時間が経った。

時の流れは、どんな悲しみも和らげてくれるようで。

ずっと俯いていた千歌ちゃんも、最近はようやく少し笑顔を見せてくれるようになった。

Aqoursは解散し、千歌ちゃんは放課後、毎日曜ちゃんのお世話をしに通っている。

その日学校であったことを嬉しそうに話す千歌ちゃんの目は、愛おしさに満ちていて。

ピクリとも動かなかった指先がかすかに動いたことに、まだ気付かないのだった―

97: 名無しで叶える物語(しうまい)@\(^o^)/ 2016/10/31(月) 00:11:18.64 ID:CG5xYpog.net
蛇足失礼しました