高垣楓「私、猫になりたいんです」
・アニメ版ではなく、オリP出てくる感じです。
・昔同人誌で発表したSSを少しリライトしたものになります。
・ねこが出ます。ねこかわいい。
・けっこう長いのですが、よろしければ是非どうぞ。
例えば、飲み屋の店先によくいる、とっくりを携えた狸の置物。
異国の情景が三〇〇〇ピースに分割されたジグソーパズル。
ずっしりとした重さのある白木の木刀。
リンゴのようにつややかな色をしたダルマ。
ソーラー電池で常に右手をゆらゆらさせる招き猫。
己の役目を果たすことなくオブジェと化しているダーツボード。
凄まじい音と共に回る金属ブレードの扇風機。
端的に申し上げれば、私、お酒が好きなのです。
すごく、好きなのです。
そうではありません。
あくまで悪いのはお酒を飲み過ぎて、分別を失ってしまう自分なのです。
飲み屋の前で狸の置物が欲しいと駄々をこねたり、
ドンキホーテでガラクタを買い込んでしまったり、
あまつさえ五分ほど遊んで飽きてしまう等と言った行動を取る自分自身が悪いのです。
鈍い頭痛と共に後悔の念が押し寄せるわけですが、人の反省はかくも脆いもの。
ついついアルコールの気持ちよさに身を委ね理性を消滅させ、
ガラクタを抱えて帰宅してしまうのもまた人の性でしょう。
ともかく、そういった風にして私の家には少しずつガラクタが増えていくのでした。
どうやら昨日の夜、また私の悪癖が出てしまったようです。
ただ、今回私が手に入れてきたものは、どうやらいつもとは違うようで。
ガラクタと呼ぶのはいかがと思われるしろものだったのでした。
ぷにぷにした何かで頬を撫でられる夢をみていました。
それはとても幸福で気持ちが良く、安らぎに満ちていました。
やがてそれが夢ではなく現実だと気付かされたのは、
携帯電話の目覚ましアラームと、鉛が詰まったような頭痛のせいです。
「あ、またやってしまったな。もうお酒なんて飲まないぞ」
とその瞬間は思うのですが、それが実行に移された試しはあまりありません。
鈍い痛みとぷにぷにの感触に挟まれ、しばし私は夢現の間をたゆたっていました。
今日も仕事がありますし、いつまでもこうしているわけにはいきません。
起き上がろう、と意を決した時。
はて、このぷにぷにしたモノはそもそもなんだろう、と気付くのでした。
「にゃおーう」
目を開いて一番に飛び込んできたのは、世間一般に白猫と呼ばれる獣でした。
頬に押し付けられていたぷにぷにはいわゆる肉球。
それがひっついた前足はすこし汚れてはいるものの、ミルクみたいな白色。
全体の大きさは両の掌にすっぽり収まるくらいで、少々ちいさいように思えます。
そして何より特徴的なのは、その目。
左が金で、右が銀。いわゆるオッドアイなのです。
目を覚ました私に驚いたのか、前足をゆらゆらとさせています。
それが少しソーラー招き猫の挙動に似ていて、思わず笑ってしまいました。
「にゃおぅ」
猫は前足をあげるのをやめ、今度は鳴き声で何かを訴え始めます。
昨日の出来事を必死に思い出そうとしますが、わかるのは酔いの深さのみ。
さすがに全く記憶にないのは久し振り。ダーツボードが知らぬ間に壁にかかっていた時以来です。
あの時は財布に押し込まれたドンキホーテのレシートが所業を知らせてくれましたけれど……。
部屋の中央に段ボールが放り出されていました。
中にはタオルが敷き詰められています。
アルコールでひたひたになった脳みそでも、大体の事情は察することが出来ました。
ゴミ捨て場の扇風機を持ち帰った実績がある私です。
偶然がいくつか重なれば、捨て猫を拾ってもおかしくはありません。
キッチンの方へ移動すると、猫もそれにあわせて付いてきました。
水を飲もうと蛇口を捻ると、猫はたんっと軽やかな音と共にシンクへ跳躍。
私のコップを顔でどかし、蛇口からの水をべろべろと舌から貪り飲んでいます。
喉が渇いているのでしょう。
それならきっとお腹も減っているはずだ、とシンクの下を漁ってみることにします。
さいわい酒飲みの備蓄品は猫の好みと合致していそうです。
……奥まった場所に放置されていたサバの水煮缶、これならよさそう。
ぱかりと開けてシンクに置いてやると、相当はらぺこだったのか、
缶を食い破りそうな勢いでがっつき始めました。
私もコップに水を注いで一息。
うっすらと鈍痛や吐き気が薄まっていくような気もします。
まぁ、錯覚なんですけども。
冬から春に切り替わりつつある朝は、
光は柔らかいのに風は冷たいというちぐはぐさで、ちょっとおもしろいです。
いつもは欠伸をすると、どこまでもその空気の振動が伝わっていきそうですけど、
今は缶とシンクが擦れるちいさな金属音だけが響いています。
目からぱりぱりになったカラーコンタクトを外して、
化粧をしたまま眠り込んだことを思いだしてため息をひとつ。
そういえばシャワーも浴びてない。
もうすぐ二十五歳なのになぁ、なんてぼんやり考えはじめた辺りで、
猫は食事を終えました。
前足で顔を拭い、ぺろぺろと舐めています。
「おそまつさまでした」
満足して人心地……いや、猫心地ついたのか。
猫はとてとてと部屋まで歩いていき、段ボールの中で丸まってしまいました。
さて。
沢山考えることはあるけれど、とりあえずシャワーを浴びよう。
化粧を落として……今日の分は、メイクさんに任せればいいか。
シャンプーとボディソープを間違えないようにして。
服は、渇いているのがあったかな? あるはず。
時間は、けっこうまずいかも。
段ボールを覗き込み、携帯電話でパシャリ。
「猫が、ねころぶ。ふふっ、ふふふっ」
まるでお餅みたいになっている猫はとても可愛らしい。
私の悪癖も偶には良い方へ転ぶじゃないか、なんて思うのでした。
2
モデルというお仕事の季節は、世の中とずれていることが多々あります。
本日の撮影は公園でしているのですが、冬の残り香で肌寒いのに格好は夏真っ盛り。
動かないでいると鳥肌が立ってガタガタ震えそうですが、
もちろん、撮影の際にそんな顔をするわけにもいきません。
さいわい寒い時はライトが当たり始めれば温かいのですが、これが夏場になると大変です。
とても暑い上に格好は秋物、ライトで体感温度は更に上昇。
かといって汗をだらだらかくわけにもいかず、ではどうするのかというと気合いで抑えるわけです。
モデルを始めたばかりの頃はそんなこと出来るわけないでしょ、
とだらだらと汗をかいてはメイクさんに拭ってもらっていたのですが。
これが不思議なもので、慣れると出来るようになるのです。
いやぁ、人って不思議ですね。
今となってはお手の物……というほど大したものではありませんけど、
スケジュールを押さない程度にはこなせるようになりました。
最初はこんな仕事続かないな、と思っていましたけれど、もうこれで三年目。
生存競争が厳しい世界ですし、来年もこうしていられる保証はないのですが……割と気に入っています。
私もこうみえて一応は女子なので、自分が綺麗になるのは嬉しいし楽しいのです。
メイクさんの技術は魔法というか一種の詐欺みたいですし、
スタイリストさんの選ぶ服はとても素敵です。
シャツ一枚とっても、こう、ぴしっと着させてくれるというか。
私が自分で着るとへなっとしてしまうのですけど。
夏物のホットパンツに、ぱりっとした白色のシャツ。
シンプルだけど高そうなイヤリングなんかも。素敵です。
「高垣さん、いけるゥ?」
「はい、大丈夫です」
カメラマンさんに呼ばれたので、撮影場所へ。
噴水を前にして撮るようです。
物珍しさからか、周りに人集りが少し出来ていて、
ちょっと芸能人みたいだな、なんて思ったり。
「お願いします」
一礼して、撮影開始。
カメラマンさんの指示に従ってポーズを取ったり、
あるいはアドリブしたり。
いずれにしても自分が前に出るのではなく、
自分が着ている服が活きるようなポーズを。
ブランドのロゴマークが
コメント一覧
-
- 2016年11月12日 22:30
- のあ「いい」 みく「お話だったにゃ」 アーニャ「Да」
-
- 2016年11月12日 22:32
- にゃんにゃんにゃんもCo3人の方がバランスがいいとは思わないか?
-
- 2016年11月12日 22:48
- みんなみんな!みんなみんな!みんな猫になりたい!♪
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
LINE読者登録QRコード
スポンサードリンク