【艦これ】鳳翔さんと完璧性の懐中時計
色褪せない海。
誇らしさと悲しさの詰まった私の居場所。
彼女たちの呼び声が私にはずっと聞こえ続けている。
鎮守府近くの公園で過ごす午後、私は非番の日にこの場所へ来るのが好きだ。
ベンチに座り、見つめるともなく景色を眺める。
鳳翔「いい陽気ですねぇ」
誰にも届かないと知っているからこそ、私はひとりごちた。
ただ心静かだ。
子どもたちが遊ぶ声や姿は穏やかな日常の象徴であるように思う。
鳳翔「戦争はもう終わったのですね……」
ハワイ沖での決戦、多くの艦娘の血にまみれた激戦の果て、我々は最終的な勝利を手にした。
敵は太平洋から放逐され大西洋やインド洋に残った拠点に閉じこもり最後の抵抗を続けている。
だが最大の生産拠点であったハワイを失った以上、その抵抗も続かないだろう。
喜ばしいことだ。それなのに……。
鳳翔「……何で元気が出ないのでしょう」
背もたれに寄りかかり、視線を上にし木漏れ日を見つめる。
きらきらと、あの日の海面のように光っている。
鳳翔「これは私たちの特権ですね」
人間には見えない色、耐えられない光……艦娘にしか捉えられない映像。
老人「こんにちは」
鳳翔「あっ、こんにちは」
老人「驚かせてしまいましたかな」
彼は老いを感じさせる含み笑いをした。
老人「隣に座ってもよろしいですかな」
鳳翔「勿論です。どうぞ」
光を放たない黒塗りのステッキ、見事な質感を持った茶色の革靴、落ち着いた品の良い服装。
薄くなった頭、皺の寄った目とよく似合った眼鏡。
年相応でありながら全体として気品のある格好。お金持ちなのだろうか。
……私は何をしている。人を値踏みするような真似など、はしたない。
老人「初めまして。この公園でお会いするのは初めてですな……よく来られるのですか」
鳳翔「初めまして。いいえ、休みの日には来る程度です」
老人「私はほぼ毎日通っているんですがね、いやはや。どうぞお見知りおきを」
鳳翔「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
その後、彼はバッグから小説を取り出して読み始めた。
私はすぐに帰るつもりだったが、先程挨拶をした人がすぐに帰るというのはおかしな話ではないか?
帰るか、帰るまいか、どうにも居心地が悪く、結局私もしばらく座っていることにした。
老人「……」ペラ
鳳翔「……」
暇なので、横目に顔を覗いてみる。
その時、熱心に小説を読んでいた筈の彼がこちらを向いた。
老人「そういえば」
鳳翔「はっ、はい!!」
驚いて少し素っ頓狂な声を上げてしまった。
老人「隣に貴女がいらっしゃるというのに、一人で本を読むなど失礼でしたかな」
鳳翔「いえ、とんでもございません。どうぞ私などお気にならさずに」
老人「いやいや申し訳ない。日課でして」
鳳翔「……すいません。お気を使わせてしまって」
老人「構いませんよ。どうせ暇なのですから。読書も暇つぶしのようなものです」
鳳翔「何をお読みになられていたのですか」
老人「秘密です」
鳳翔「……え?」
老人「がっかりされても困りますし、その方が面白いと思いませんか」
鳳翔「ふふっ、そうでしょうか」
そこからの会話は弾んだ。天気のこと、近くのスーパーの品揃えのこと、彼の昔話。
とりとめもない話をする内に時間は過ぎていった。
鳳翔「それは少し思慮が足りていない行動ではないですか?」
老人「何をおっしゃいます。南方の学校では優等生だったのですよ。特に語学が」
鳳翔「ふふふ、既に日本語は覚えていらしたのでしょう?」
老人「確かに父母から多少の手ほどきは受けて居ましたがな。ふっふっふ」
鳳翔「もう」クスクス
鳳翔「南方の学校はどのような?」
老人「どこの国だろうと子供は子供です。日本人という肩書はまるで通用せずに、喧嘩ばかりしていましたよ」
鳳翔「まぁ」
老人「ですが気質が優しい者が多かったように思います。喧嘩して、仲良くなって、そうですな……今思えば楽しかったものです」
鳳翔「それは良かった」
老人「貴女の学校生活はどうだったんですか。是非お聞きしたい」
鳳翔「……私は詰まらないものです。人一倍グズで、誰かの後ろから眺めているような、そんな感じで」
老人「お優しいのですな」
鳳翔「いえ、鈍いだけです」
そうだ。私は誰の役にも立てないだけだ。
老人「……そうですか。ああ、もうこんな時間か」
鳳翔「あっ」
気づけば夕暮れも終わりが迫っていた。
遊んでいた子どもたちの姿も無く、公園には私たち二人だけになっていた。
老人「ではまた、えーっと……あ、申し訳ない。貴女のお名前を伺うことを忘れていた」
鳳翔「秘密です」
老人「え?」
鳳翔「お互いに名前は秘密にしておきましょう。その方がきっと楽しい、そう思われませんか?」
一般人と艦娘は必要以上に関わってはいけない。その方がお互い幸せだ。
老人「……そうですな。ふっふっふ。それではお嬢さん、またお会いしましょう」
鳳翔「はい。またご縁があれば」
老人「楽しい時間をありがとうございます」
鳳翔「こちらこそ、良い時間を過ごさせて頂きました。またご縁があれば、よろしくお願いします」
老人「はい。勿論ですとも」
「鳳翔さん、おはようございます。今日も早いですね」
鳳翔「新聞屋さん、おはようございます。いつもありがとうございます」
「ちわーす魚屋です~、鳳翔さん毎度っ!」
鳳翔「はい。ゲンさんもおはようございます。毎度様です」
「どう鳳翔さん、イキの良いブリも入ったし、戦争も終わったことだし、ウチに嫁に来ない?」
鳳翔「ありがとうございます。ご縁があれば是非」ニッコリ
「クゥゥゥ! てっきびしいねぇ!」
「ちわーす八百屋です。ゲンさん、アンタのとこじゃ無理だって。鳳翔さんはウチの息子の嫁になるんだから」
鳳翔「ありがとうございます。ご縁があれば是非」ニッコリ
「カァァァァ!!! そりゃ無いよ鳳翔さん!」
「だぁっとれ八百屋!」
「鳳翔さんいつも悪いね。食堂の仕事なのに」
鳳翔「いえ、私も楽しいですから。この具材先に刻んでおきますね」
「そいつが終わったら魚の下処理も頼むよ。アンタより上手い人は居ないんだから」
鳳翔「ありがとうございます。任されました」
鳳翔「駆逐隊の皆さん、朝の哨戒をよろしくお願いします」
「「「「「「はーい、いってきま~す」」」」」」
鳳翔「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「鳳翔さん、おはよう。ちょっと頼み事良いかな?」
鳳翔「はい。何でもどうぞ」
「鳳翔さん鳳翔さん、ここの備品って予備どこあったっけ」
鳳翔「それなら第四倉庫の棚に有ります。あ、私が取ってきます」
「鳳翔さ~ん、手伝ってくれるのも朝夕だけで良いのに~」
鳳翔「いえ、私も楽しいですから。この具材先に刻んでおきますね」
提督「鳳翔さん、年度締めの収支報告書の確認をお願いしたいんだが」
鳳翔「はい。お任せ下さい」
提督「悪いね。秘書艦にも頼んでるんだがどうにも不安で」
鳳翔「もっと雲龍さんを信頼してあげて下さいね。……後で執務室へ参ります」
提督「頼む」
「うぇぇぇぇぇ」
鳳翔「はいはいはい、どうしたんですか」
「あ、あかづぎはれでぃなのに、びすまるぐが」
鳳翔「……ビスマルクさん」
「わ、私は本当のことを言ったまでだ」
鳳翔「めっ!! 誰かを傷つけちゃ駄目です」
「うぐっ……は、反省する!」
鳳翔「反省では駄目です。暁ちゃんにあ・や・ま・り・な・さ・い」
鳳翔「はい、おやつが焼けましたよ~」
「「「「「「ッシャコラァ!!!」」」」」」
鳳翔「クッキーは一人二枚まで、良いですね」
鳳翔「遠征お疲れ様です、報告をこちらで受け付けます」
鳳翔「失礼します。鳳翔、参りました」
提督「ありがとう」
「鳳翔さ~ん、悪いんだけどこれお願いできるかな」
鳳翔「はい。お任せ下さい」
「鳳翔さん、アラの下処理頼むよ」
鳳翔「すぐ終わらせます」
「鳳翔さん、今夜一杯どう?」
鳳翔「はい。一酌お付き合いします」
「やっり~! さすがは鳳翔さん!」
鳳翔「隼鷹さん、昨日も飲んでいるのですから。今日は飲み過ぎは駄目ですよ」
「ヘーキヘーキ、今日は休肝日だって休肝日~」
鳳翔「その言葉、忘れませんからね」クスクス
鳳翔「……戻りましたよ~」
隼鷹さんを止められず少し深酒し過ぎた。
少し愉快な気持ちで独りごとを呟いてみたりして。
結を解いて髪を下ろし、寝間着へと着替え……。
鳳翔「ふぅ」ボスッ
そのまま布団の上に寝転んだ。
鳳翔「めっ、お行儀が悪いですよ」
鳳翔「……」
鳳翔「ふふふ……」
疲労感から私の瞼は独りでに落ち、意識は闇へと沈んでいった。
たすけて
くるしい
いたい
どうしてまた
いたいよ
ほうしょうさん……?
前に来てから一週間程だろうか。曇り空の公園はいつになく静かだった。
老人「またお会いしましたな」
鳳翔「奇遇ですね」クスクス
老人「ご機嫌はいかがですか」
鳳翔「お陰さまで」
短い他人行儀な挨拶を済ませた後、また前のようなとりとめもないお喋りが始まった。
時間を忘れ熱中し、気がつけば夕暮れ……とは今回はならなかった。
老人「おっといけない。今日はこの後約束があるんだった」
彼はそう言うと胸ポケットから時計を取り出し、時間を確認した。
老人「ああ、まだこんな時間か。もう少しこちらに居られそうです」
コメント一覧
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- 2016年11月29日 21:30
- 読解力不足なのか鳳翔さんが単に性格悪く幼稚なだけに見えてしまった
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- 2016年11月29日 22:00
- なんか元ネタあるのかなと思わせる説明不足とエキセントリックな性格の鳳翔さんとわかりにくい場面転換でした
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- 2016年11月29日 22:14
- 復員船になった鳳翔に救われたおじいさんのお話かな?
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- 2016年11月29日 22:35
- ここの奴らって本当にss読んで感想書いてるのか?読んでいけばなんとなく内容わかるし想像で補完できるだろ…
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- 2016年11月29日 22:47
- 最後のセリフがいいね
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