女「好きだよって…それだけ」男「そっか」
好きだった。
それはもう何年か前の話。
私が恋をした彼は不思議だった。
そこにいるようでいないような、
どことなく哀しげな雰囲気で、
またあるいは貴族のように気高く、
ときどき天使のようにふわっとしていた。
彼の持つ世界観がそうさせていたのだろう。
ただただ平々凡々とした、
お世辞にも多いとは言えない数の友人と
喋るのが下手な口を持っているばかりだった。
男「あれ?どうしたの女さん、めずらしいね」
女「あの…文化祭の係一緒になったじゃない?」
男「あーそっか。ぼーっとしててあんま聞いてなかったから後で誰と一緒になったか委員長に聞こうと思ってたんだよね。よろしく」
女「あ…うん、よろしく」
女「それで準備のことなんだけど…」
男「教室の前の看板のデザインだっけ?」
女「うん…一応和風ってことでだいたいのイメージは渡されたんだけど…」
男「ちょっと見せてもらえる?」
女「あ、ごめん…はい」
男「あーこんな感じかー。自分たちはこんな風に作ればいいんだよね?」
女「うん…えっと、それで男くんにはレタリングを頼みたいなって思ってて…美術の授業でやったのすごく上手だったから…」
男「いいよ。女さんは?」
女「あ…私はその絵を…」
男「そっか。ここでやるの?」
女「あっと…たしか美術室が開放されてて…色塗りなんかはそこで…下書きまではここで」
男「わかったありがとう。それじゃあやろう」
集中しているときの彼はとても素敵で、
気を抜くとすぐに見とれてしまった。
話をするのは初めてではなかったのだけど、
こうしてちゃんと話をするのは初めてだった。
教室では他の生徒たちも買い出しの計画を立てたり、
機材の調達の算段を立てたりで賑やかだった。
女「あれ?終わったの?」
男「一応ね。女さんは?」
女「あう…あと少し…」
男「そっか。見ててもいい?」
女「えっ…あっ…あの…うん、いいよ…」
男「ありがとう」
見ててもいい?なんて勘違いしてしまうに決まっている。
見られるのは慣れていたのだけど、
相手が想い人だと違うらしい。
結局終わったのはもう少し、と言ってから15分ほど経ってからだった。
男「ううん、女さんが一生懸命絵を描いてるのを見てたからあっという間だったよ。すごいね、あんな上手な絵を描けるなんて」
女「う…そんなこと…あ、ありがと……」
女「そんなことより美術室に…」
男「おっ、ラッキー誰もいない」
女「ほんとだ…うちのクラス早いみたいだね」
男「サクッと終わらせちゃおっか?」
女「うん…そうだね…」
このまま2人でいたいから、少しゆっくりやりたいな、なんて言えたらどれだけ良かっただろう。
そんな甘酸っぱいことは言えず、1時間ぐらいで終わってしまった。
でも2人で作業をできた、という事実だけで1時間という短さは関係ないぐらい大切な時間になった。
女「美術の授業の時みたいに乾くまであそこの金網の棚に…」
男「なるほど…えっとここでいいかな?」
女「いいと思う…うん…戻ろっか」
男「少し待ってもらっていい?」
女「えっ…どうして……?」
男「美術室にある石膏像とか授業中にはほとんど見れなかったからさ、少し見ておきたくって」
女「…そっか、たしかに見る機会も時間もないもんね…」
淡い期待を抱いた自分がバカだった。
期待外れだったからといって残念そうな顔をしていないだろうか。
そんなことばかりが気になってしまって残りの時間は上の空だった。
女「ううん、私も見たいものがあったから良いの」
男「そうだったんだ?なら良かったんだけど…じゃあまた明日」
女「うん…また明日ね」
私は美術室に置いてある
出番があるのかも怪しい石膏像なんかを
興味津々で見ている男くんを見たかったのだから
嘘ではない、と思いこむことにした。
それに、どうやら期待外れだったことは、
表情には出てなかったみたいだったし、
また明日、なんて心ときめくことまで言われたので、
その日は寝るまで上機嫌だった。
女「あ、お、おはよう」
男「もう乾いてるかな?」
女「うん…だと思う…行く?」
男「行こう」
男「そういえば女さん今日は少し機嫌良いね。良いことあったの?」
女「そ、そうかな…特にないよ」
男「気のせいかー」
なんとなく笑顔が溢れてくるのを必死で抑えながら、
悟られまいと嘘をついた。
ここで本当のことを伝えて、あるいは知られて、
拒絶されたら立ち直れないと思ったから。
男「お~すごい。女さん本当に絵うまいね。すごいと思う」
女「ありがと…じゃあこれ教室に持って帰ろう?」
昨日とは違って、何組か美術室にいた。
4~5人のグループだったりカップルらしきグループもいて、
そのカップル達を横目で見てから教室に戻った。
男「…っと…こんな感じかな?」
女「すごくいいよ、できたね…」
男「うん…意外とあっさりできちゃったね?」
女「あははっ、そうだね」
元々できていた板に私たちの「かいた」絵と文字を貼った。
あっさり、なんていう彼は、
私の気持ちなんて知らないのだろうと思うと
なんだか悲しくなって、それを隠そうと笑った。
そんな感情がどんどんと私の心に積もっていった。
拒絶されるのが怖いから、拒絶されるぐらいなら、
それなら誰にも知らせずに、
このまま心ごと私の奥深くに沈めてしまおう、
そんな風に考えていた。
でも私の心と行動は一致しなかった。
あろうことか、大胆にも、
それも私にとって、ではなく、
世間一般から見ても、だった。
男「えっ、うーん…いいよ。でもどうして?」
女「あっ…その…えぁ…男くんがんばってくれたからお礼がしたいなって…」
男「そっか、ありがとう。じゃあ当日よろしくね」
やっぱり唐突すぎただろうか。
言い訳が苦しすぎたのではないか。
いっそのことその場で告白をしてしまえれば…。
男くんが友人の元へ行って1人になってから
そんなことを考えてもう一度笑った。
今度のは自分への嘲笑みたいだった。
当日までどうしたら良いのか分からず、
男くんとも挨拶ぐらいしかせずに過ぎてしまった。
なぜ自分は誘ったのだろう?
何を話して場を持たせるのだろう?
仮に告白をしたとしてその先どうするつもりなのだろう?
今まで欠片も考えたこともなかったような問題が、
とつぜん山のように目の前に現れて、
夜もあまり眠れず、昼間も上の空だった。
拒絶されるのだって怖いじゃない。
だからこの気持ちはどこかに沈めて、
そのまま知らんぷりをしていた方が楽じゃない。
必死に自分に言い聞かせた。
それでも自分のどこかで抵抗する勢力がいた。
大好きなの。
それで良いじゃない。
だからせめて気持ちは伝えたいの。
そのままにしておこうよ。
気持ちを伝えてそれで終わり。
ね?そうすれば傷つかないですむよ?
終わりぐらい自分で決めて何が悪いの。
それで終わり。
断られて終わり。
これは意地だ。
自分で自分に
「こんな私でも恋ができるんだぞ!!!」
ってのを知らしめてやるんだ。
何も言わなかったら、
このまま知らんぷりをしていたら、
それは恋をしなかったのと同じだから。
この気持ちはそんな軽くない。
嘘をつきたくない。
だから言おう。
そう決めて目を閉じた。
いつもは意識をしないようなことに気づく。
雲ひとつない青空。
朝日を浴びる街路樹。
精いっぱい羽ばた
コメント一覧
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- 2016年12月03日 19:20
- 屁出た
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- 2016年12月03日 19:30
- 気持ち悪い妄想を文字にするな
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- 2016年12月03日 20:29
- 身も出た
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- 2016年12月03日 22:16
- なんか綺麗すぎて物足りない
毒もなければ華もない
良いんだけどつまらない
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- 2016年12月03日 22:19
- すごく良かったと思ったのは私だけでしょうか?
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- 2016年12月03日 22:45
- あなただけではないだろうが私にはとてもつまらなかったです
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