【瑞加賀】 瑞鶴「大好きはもう隠さない」
瑞鶴「よーし勝った! 今日もいい感じ!」
午後の演習が終了。お隣の単冠湾泊地の艦隊との戦いは何とか勝利で終えることができた。
葛城「やりましたね! 瑞鶴先輩、さすがです!」
艦娘になってから約三年。結構力を付けてきたと思うし、こうして慕ってくれる後輩も出来た。
私も少しは『あの人』に近づけたかな……?
???「この勝利に慢心しては駄目よ、五航戦」
瑞鶴「加賀さん……」
幌筵泊地に所属するもう一人の正規空母、一航戦の加賀さん。私が師事している熟練の先輩空母だ。
今回の演習では人数や戦力バランスの関係で戦闘には参加せず、終わった後にアドバイスとかをしてくれることになっていた。
この加賀さんって人、普段は無表情無愛想で何考えてるかわからないんだけど、私に対してはやたら厳しいんだよね。
お小言やお説教も多いし……同じ一航戦でも優しい赤城先輩とは大違い。正直、赤城先輩に師事してる翔鶴姉を羨ましく思う時もあったよ。
でも……いざ戦闘になると凛とした表情で艦載機を操って、その圧倒的な技量で誰も寄せ付けない強さを発揮する。
まあ何て言うか……認めたくないけど、カッコいいんだよね……
それにその、時々……ホントーにたま~になんだけど……優しいとこもあるし。
そんなこの人のことが、私は……
加賀「今回の演習、勝ったとは言え内容は決して褒められたものではないわ」
なーんて考えてたらいきなり厳しい言葉をぶつけられて、私は蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまう。
加賀「この子に無茶をさせ過ぎよ。あなたは旗艦なんだから、仲間の練度を把握してそれに見合った指示を出しなさい」
そう言いながら葛城の肩をポンと叩く加賀さん。
瑞鶴「そ、それは……その……」
確かに、私が出した指示は艦娘になったばかりの彼女には少し荷が重いものだったかも知れない。
加賀「戦場では旗艦の言葉一つ、判断一つが艦隊の命運を分けるのよ。それを忘れないで」
瑞鶴「はい……」
厳しい言葉だけど正論。もし実戦で同じことをやったら、葛城が沈まない保証なんてどこにもなかった。
そうだ。この人は厳しいけど、いつだって正しい。そしてその厳しい言葉も私の為に言ってくれてるんだ……それはわかってる。
わかってるんだけどさ……
加賀「あなたは本当によく頑張ったわね。偉いわ」
葛城「えへへ……ありがとうございます、加賀先輩」
私には絶対に見せてくれないような優しげな表情を浮かべて葛城を褒める加賀さん。
何、この差は? そりゃ私は葛城と違って可愛くないし、素直でもないけどさ……
瑞鶴「むー……」
頬を膨らませて不満を訴えてみるけど、加賀さんは全く気付いてくれない。
瑞鶴「もう本っ当に腹立つよね、あいつ!」
泊地に戻る途中。私は一緒に歩いている幼馴染みの駆逐艦、初月に愚痴をこぼす。
初月「瑞鶴、そんな言い方はないだろう? 加賀だって君の為を思って……」
瑞鶴「で、でも! みんなの前で……あんな、こと……!」
あの後の反省会で、私は作戦指揮について思いっきりダメ出しを食らった。
いや、まあそれ自体は言われても仕方のないことだし、別に良かったんだけど問題はその後。
加賀『でもまあ勝ったのは事実よね。そこは……よく頑張ったわ』
なーんて言いながらみんなの前で頭を撫でてくるの。私の顔は一瞬で真っ赤になって大破状態。
本当は嬉しかったはずなのに、素直になれずについ加賀さんの手を払ってしまった。
反省会の内容は完全に忘れちゃったし、葛城にもみっともない姿見せちゃったな……
初月「瑞鶴、君はいつもそうだよね。もう少し自分の気持ちに正直になった方がいいと思うよ」
初月「って、これ言うのもう何回目だろうね……」
やれやれと言った感じで溜息をつく初月。そう、この言い慣れた感じで諭されるのはもはや恒例行事。
この子には幾度となく加賀さんに関しての愚痴を聞いてもらっている。
瑞鶴「し、仕方ないじゃん……こんな事吐き出せるの、初月くらいしか……」
他の艦隊メンバー……加賀さんは論外として、鈴谷には絶対話したくない。120%からかわれるに決まってる。
榛名は……真面目すぎる性格だから重く受け止めちゃいそうで、何となく悪い気がしてくる。
葛城もね。私、一応あの子には慕われてるし、ちゃんと良い先輩ぶってなきゃいけないんだから。
初月「まあとにかく。僕から言えるのは、今の関係から先に進みたいなら自分から変わるよう努力しなくちゃ駄目ってことだね」
初月「君はやっぱり意地っ張りなところとか、鈍感なところはいい加減治した方が良い」
瑞鶴「それは……私だってわかっ……って!」
瑞鶴「ちょっと待って! 意地っ張りなのはまあ、100歩譲って認めるけど鈍感って何さ!?」
初月「瑞鶴……本気で言ってるのかい?」
一瞬呆れたような表情を浮かべた後、何かを訴えかけるように見つめてくる初月。
でも、私にはそんなこと言われるような心当たりは全くなくて……むしろ逆に加賀さんの鈍感さの方に困ってるくらいだし。
初月「やれやれ。どうせその様子だと……私の気持ちにも気付いてないんだろうな」
ボソッと消え入りそうな声で何かを呟いた初月。「私の」とか聞こえたような気もしたけど……
でも初月って自分のことは「僕」って言うよね。聞き間違いかな……?
瑞鶴「ねえ、初月。今なんて……」
初月「瑞鶴、早く泊地に戻ろう。今日は提督が海老フライを作ってくれるそうだよ」
初月「早く行かないと鈴谷に全部食べられてしまう」
そんな私の言葉を遮って、初月は走り出してしまった。もう、何なのよ急に……
結局愚痴を聞いてもらってたのに、私にはモヤモヤが残る形になってしまった。
━━━━━数日後 瑞鶴、加賀の部屋
それは、ある晴れた日の午後のこと。いつもと何ら変わりのない日常になると思っていた。その時までは……
鈴谷「チーッス! 瑞鶴、書類整理終わった~?」
榛名「お邪魔します」
買い出しに行っていた二人が部屋に入ってくる。手に持ってるのは買ってきた食材と……封筒?
鈴谷「ちょうど商店街の方で福引きやっててさ~。ジャーン! 見て見て~!」
瑞鶴「あっ、これって」
柏原ボウル……確か最近オープンしたボーリング場だ。この島での数少ない娯楽施設。その無料チケットが2枚。
鈴谷「ちょうどこの日ってウチら一日中遠征で居ないんだよね~」
榛名「確か瑞鶴さんと加賀さんはお休みでしたよね? 一緒に行ってきてはどうでしょうか?」
瑞鶴「本当に? いいの?」
榛名「ええ。このまま使わないというのは勿体無いですし」
鈴谷「運が壊滅的に悪い鈴谷が頑張って当てたんだからね。加賀さんとの仲、一気に進展させちゃいなよ!」
瑞鶴「う、うん……頑張る」
この二人には加賀さんの事とかあんまり相談したこと無かったんだけど……ここまでしてくれるなんて……
瑞鶴「二人とも、ありがとね! 私、頑張るから!」
━━━━━数時間後
何と言ってもボーリングは大得意だ。平均スコアは220を超える。だからそこは問題ないんだ。
問題なのは、加賀さんをどうやって誘うか。デートの約束を取り付けることができなくちゃ、
どれだけボーリングに自信があったとしても所詮は絵に描いた餅。失敗するわけにはいかない。
瑞鶴「私、加賀さんの前だとつい意地張っちゃうからなぁ……」
わかってはいるのにどうしても治せない、私の悪い癖。本当はもっと素直になりたいのに……
初月「瑞鶴? こんな所で何をぶつぶつ言ってるんだい?」
瑞鶴「えっ!? は、初月? いつからそこに……?」
初月「いや、たまたま通り掛かっただけだけど……」
うぇっ……初月にも気づかないくらい考え込んでたのか。
瑞鶴「あ、えっとその……加賀さん見なかった?」
初月「加賀ならさっきまで葛城と一緒に弓道場にいたけど……ああ、でももう上がるって言ってたから入渠にでも行ったんじゃないかな?」
瑞鶴「そっか。ありがと、初月!」
初月「い、いや……」
私はすぐさま浴場の方へ向かって走り出した。だから……この時彼女が最後に呟いた言葉は耳に入らなかったんだ。
初月「瑞鶴……すまない」
━━━━━浴場、更衣室前
加賀「ふぅ……」
大浴場の前まで走ってくると、ちょうど良く加賀さんの顔が見えた。
瑞鶴「……っ!?」
加賀「? 五航戦、何をボーッと突っ立っているの? 邪魔よ」
瑞鶴「えっ!? あっ、えーっと」
お風呂から上がったばっかりなんだから当然なんだけど、加賀さんは髪を下ろして浴衣を着ていた。
その姿があまりにも綺麗で心を奪われて、つい立ち尽くしてしまった。こんなの不意打ちってレベルじゃないわよ!
瑞鶴「こほんっ」
いけないいけない。このままペースを乱されたらまた心にもないことを言っちゃって当初の目的を果たせなくなる。
落ち着くのよ瑞鶴。
瑞鶴「加賀さん、今週の土曜日非番だよね!? い、一緒にボーリング行かない!?」
言いながら無料チケットを見せる。随分早口だったような気がするけど、ちゃんと伝わったはず。
加賀「ちょうど良かったわね。私もそこに行こうと思ってたの」
えっ? 加賀さんがボーリングとか、ちょっと意外なんだけど。
加賀「初月からそのチケットを貰ったのよ。ボーリングは苦手だから代わりに楽しんできて欲しいって……」
初月が? でもあの子、運動神経抜群だしボーリングもかなり得意だったはずだけど……どういうことなの?
加賀「でもこれではチケットが1枚余ってしまうわね」
確かに。チケットも当日のみ有効だし、少し勿体無いな。初月ったら本当にタイミング悪いんだから。
加賀「ああそうだわ、葛城も誘いましょう」
コメント一覧
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- 2016年12月09日 22:24
- こういう話だとメイン二人よりも初月みたいな立ち位置のキャラに惚れるんだよね俺。何故だ…
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- 2016年12月09日 23:22
- ※1
打算が働くからやぞ
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