側近「では、結婚しますか?」
*
側近「人間というものは、親しくなると男女は契を結ぶらしいです」
青年「オレと……側近さんが?」
側近「はい。貴方なら退屈しなくて済みそうですからね」
青年「そんな玩具みたいに言われても……」
青年「そもそも、オレみたいな無能とで良いの?」
側近「何度も言いましたが、貴方はもう無能ではありませんよ」
青年「そう、かな」
側近「自信を持ってください。なんせ人族の国の騎士団長とやらに勝利したのですから」
側近「家畜の分際で、なかなかだと思いますよ」ニコ
青年「その性格じゃなければ即OKなんだけどなー」
*
側近「さぁ、冷めないうちに朝食をどうぞ」
青年「いただきます」スッ
青年 (なんかもう自然に飯食ってるけど)モグモグ
青年 (どうしてこうなったのか未だにわからない)
青年 (ちょっと記憶を整理するか)
青年 (あれは一ヶ月と少し前だったかな……)
側近「正確には一ヶ月と九日前ですね」
青年「あの、思考を読むのやめてくれません?」
側近「私に思考を読むなと言うのは、例えば貴方の顔を見て「無様だなぁ…」と嘲笑うのを止めろと言うのと同義ですよ?」
青年「そ、そっか…………ん?」
青年「結局悪口言われてるだけじゃん」
青年「はぁ……」
青年 (側近さんに構うとキリが無い。そっとしておこう)
青年 (えーと、あれは一ヶ月と九日前だったかな……)
側近「今更ですけど、一ヶ月以上も魔王城に図々しく居座る人間はなかなかいませんよね」
青年「あの、ホントに割り込んでくるのやめてくれません?」
側近「割り込むのをやめろと言うのは―――
青年「あーはいはい、わかりましたよ」
青年「割り込んでくるのはもう良いです。スルーしますので」
側近「は?私を無視するとは良い度胸ですね」ギロ
青年「て、適度にスルーするから……」
側近「全部拾いなさい」
青年「わかりましたよ!せめて考え事くらいさせて!」
側近「あれは一ヶ月と九日前でしたかね」
青年「オレの思考を先に言わないで」
青年 (一ヶ月と九日前……)
側近「九日前って中途半端だと思いません?もう一ヶ月前と言った方がスッキリするのでは?」
青年「どっちでもいいよ!先に進ませて!」
青年 (あれは一ヶ月前……)
*
青年『はぁ……』トボトボ
青年『王から直々に話があると通されてみれば―――
青年『まさか勇者に任命されるなんて……』
側近「随分と、ひ弱な勇者ですね」
青年「……うるさいな」ボソ
側近「後で生き埋め―――
青年「すいませんっした!」
青年『王城で盗み聞きをしてると、無能な民は切り捨てる……それが今回僕に回って来たらしい』
側近「体よく国から追い出された訳ですね」
側近「気になったのですが、一人称が『僕』ですか」
側近「おやおや、もしかして私達に少しでも威勢を見せようと意気がってます?」
青年「放っといてよ///」
青年『地図は貰ったけど』ゴソゴソ
青年『このフザケてる様にしか見えない地図』
青年『適当過ぎてどうすればいいのか……』
ヒュゥゥゥ…!
青年『ん?』チラ
バヂィィッッ!!カコーン
青年『ほげぇぇっ!?!』ゴロロロッ
側近「ふふっ、鈍くさいですね」クスクス
青年「いやいや、これのせいで片腕が千切れ飛びましたからね?」
ダダダダダッ
側近『っと……』ズザザザッ
側近『おや…?変ですね、この辺に落ちた筈なのですが――― キョロキョロ
青年『』
側近『……』
側近『さて、缶を回収して帰りましょうか』
青年「うわ、見て見ぬフリとか最低だよ」
側近「貴方は地に転がっている小石を見て、助けようという意志が出ます?」
青年「いや……」
側近「つまり、そういう事です」
青年「さいですか」
ダダダダダッ
青年「さっきから走る速さが尋常じゃないよね」
『よっと……』ズザザザッ
側近『おや、魔王様』
青年「あ、あれ?オレ、倒れた所から記憶無いはずなんだけど……」
側近「だと思いましたので、私が引き継いで語りますね」
青年「そんなに割り込みたいのか……」
魔王『やっほー、遅いから様子見に来ちゃった―――お?』
青年『』
魔王『……』
側近『……』
魔王『お腹空いたんだったら、何か食べてくれば良かったのに……』
側近『いえ、私が食べようとした訳ではありません』
側近『どうやら魔王様がお蹴りになった缶が、この人間の右腕に直撃し千切れ飛んだ様です』
側近『その際の激痛で失神したのではないかと……』
魔王『ありゃりゃ、ボクのせいだね……』
側近『いいえ、この様な場に居るこの人間に非がありますよ』
青年「ひでぇなこれ。ただ歩いてただけなのに……」
側近「あれくらい避けてくださいよ」
青年「いきなり缶が視認出来ないスピードで迫ってくるなんて誰が予想できるんですか」
側近「貴方こそ、何故缶蹴りをしているという可能性を考えなかったんですか?」
青年「普通考えないでしょ!」
魔王『んー……とりあえず持って帰ろうか』
側近『魔王様にお任せします』
青年「やっぱり魔王様は優しいなぁ。それに比べて」チラ
側近「言っておきますけど、貴方が目覚めるまでの三日間、身辺の世話をしたのは私ですよ?」
青年「その件につきましては誠にありがとうございました」
*
青年「ごちそうさまでした」
側近「午後からは、稽古と言う名の調教ですので、いつもの場所に遅れないように」
青年「あれ?オレ、騎士団長を倒したじゃん」
側近「引き分けですけどね」
青年「いやいやー、完全に勝ってたって」
側近「何抜かしてるんですか、殺しますよ」
青年「側近さんの軽いビンタ食らうだけで数メートル吹っ飛ぶのは疲れるもん」
側近「リベンジなさらないんですか?」
青年「もういいよ、あれだけ出来たんだもの」
側近「そうですか…………ふんっ!」ズドッ
青年「ぐえっ」
側近「なら力づくで連れて行きますね」
*
―稽古場―
側近「さっ、どうぞ」ドサ
青年「良いんですか?本気を出しても」スク
青年「今のオレはそこら辺の人間を超越してますよ?」
側近「どうぞ。武器も使って構いませんよ」ポイッ
青年「……」スッ
青年「っ……りゃァッ!」ダッ
側近「遅い」ズバンッ
青年「」ゴロロロッ ドカ
青年「ほらね!」
側近「いえいえ、貴方は確かに人間を超越してるかもしれませんよ」
側近「私が手を払っても首から頭が飛びませんでしたので」
青年「そりゃぁ、魔導師さんが肉体を強化……もとい、勝手に改造されたから……」
側近「生ゴミを家畜に変えられる、魔王様の部下は優秀ですね」
青年「……そうだね」
青年「あの騎士団長と互角に打ち合えたのも、皆や側近さんのお陰だよ」
青年「ありがとう」
側近「貴方……消えるんですか?」
青年「思い残すことが無ければ」
側近「では私が消してあげますよ」
青年「せめて自然消滅させてくださいよ」
側近「まぁ、人間にしては根性がある方だと思います」
側近「それに免じて、今は見逃して上げましょう」
青年「……うん」
青年 (思えば、ここに来て色々なことがあったな……)
側近「ありましたねぇ」
青年「ナチュラルに入ってくるのやめてくれない?」
側近「なんやかんや、騎士団長を倒しましたよね」
青年「今鮮明に、その件についての思い出に浸ろうとしてたのに……」
*
青年『ここ、は……』ムク
側近『おや?起きましたか』チラ
青年『君は…?』
側近『貴方の命を握っている者です』
青年『物騒だね……』
青年『ここはどこなの…?』
側近『貴方の様な人族からは、‘‘魔王城’’と呼ばれている場所ですね』
青年『そうなんだ』
青年『ふぅ……』ボフ
側近『驚かないんですか?』
青年『驚愕よりも疲労の方が今は大きいよ……』
側近『そうですか』ペラ
青年『……』
青年『君が、看病してくれたの?』
側近『……』
側近『……私はここで、本を読んでいただけですよ』
青年『そっか』
ガラララッ
『やっほー、人間さんの具合はどう?』
『って、起きてるー!』
青年『誰です…?』
側近『この城の主ですよ』
青年『あぁ……え?』
魔王『ボクね、一応魔王をやってますっ』フンス
青年『えっと、助けて頂きありがとうございました』ペコ
魔王『あはは……ボクにも責任があるから気にしないで!』
魔王『具合はどう?』
青年『えっと……あれ、腕がくっついてる』
魔王『その様子だと大丈夫みたいだね』ニコ
青年『あ、はい……』
魔王『どうする?送ろうか?』
青年『どこへ、です…?』
魔王『どこへって、キミの住んでた所にだよ』
青年『あぁ……それでしたらお気遣い無く』
青年『ぼく―――いや、オレにはもう帰る場所はありませんから』
青年『それに、ここが魔王城でアナタが魔王であるなら、目的は達成したようなもんですし』
魔王『うん?良くわからないけど、帰るお家が無いの?』
青年『簡単に言えば』
魔王『そうなんだー、じゃあここに居なよ』
青年『ですから、煮るなり焼くなり―――ん?』
魔王『この城ね、一杯部屋余ってるからどこでも好きに使ってねー!』
青年『ちょ、あの―――
魔王『それよりお腹空いちゃった!側近、ご飯まだー?』
側近『今から取り掛かりますので、少々お時間を頂く事になりますが……』
魔王『おっけーおっけー!』
側近『では』スッ
ガラララッ…
青年『……』
魔王『~♪』ニコニコ
コメント一覧
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- 2016年12月11日 21:03
- 缶はオリハルコン製ですか?
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- 2016年12月11日 22:01
- なんか良かった
ただ、側近の容姿のくだりで、なぜか頭の中にロラン・セアックの姿が浮かんでしまった
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- 2016年12月11日 22:05
- 近年稀に見ない良作
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- 2016年12月11日 22:12
- 話がなかなか進まない
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- 2016年12月11日 23:18
- こういうザ・テンプレみたいなSSすこ
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