【モバマスSS】モノクロ写真にきを付けて【藤原肇】
私は自室で頭を抱えていた。
机の上にあるのは、桐箪笥を整理している最中に偶然見つけた一枚のモノクロ写真。
写っているのは穏やかに微笑む着物姿の少女。
その姿が私そっくりなのには驚いたけれど、家族から肇はおばあちゃんの若い頃に似ている、とよく言われていたこともあり、祖母の写真だと気付いた。
桐箪笥も祖母から受け継いだものだ、それは間違いないだろう。
それよりも問題は他にあった。
肇「おばあちゃん…良人さんって誰なの…?」
写真裏の【○年○月・茶屋にて 良人と】という走り書きが私を悩ませていた。
祖父の名前は哲雄であり、祖母に兄弟はいない。
もしかしたら親戚の誰かなのかもしれないけれど、丁寧に保管されていたことを考えるとこれが祖母にとって大事な写真だったのは間違いない。
祖父に聞けば詳細が分かるかもしれないが、この写真のことを知らない可能性を考えるとちょっと尻込みしてしまう。
本人にこっそり尋ねるのが一番だろう、しかし残念なことに祖母は随分前に亡くなっていた。
肇「…そうだ、芳乃ちゃんなら!」
拝み屋の仕事を手伝っていたという彼女に頼めば何か分かるかもしれない。
そんな希望に一縷の望みを託し、芳乃ちゃんに相談することにした。
彼女の部屋を訪ねると、そこには芳乃ちゃんだけでなく意外な顔があった。
肇「こんにちは、芳乃ちゃん、それに晶葉ちゃん」
芳乃「ようこそおいでませー。すぐにお茶を用意いたしますので、しばしお待ちをー」
晶葉「やあ肇、先にお邪魔しているぞ」
晶葉ちゃんは暇があれば機械を弄っている印象があるため、少し意外だった。
晶葉「ああ、新しいロボの調整で芳乃に協力してもらっているのだよ」
そのことが顔に出ていたのか、晶葉ちゃんから先に説明をしてくれた。
以前から思っていたことではあるけど、私はそんなに考えていることが顔に出やすいのだろうか。
芳乃「そうかもしれませんなー。さ、お茶とお煎餅をどうぞー」
肇「ありがとう芳乃ちゃん…さらっと心を読むのはやめてね?」
芳乃「ふふふー」
そこで意味深に微笑むのはさすが神秘系アイドルといったところか。
お茶とお煎餅を頂き一息ついてから、写真の事を相談させてもらった。
後になって思えば、この時に裏の走り書きを見てもらえばよかったのだけれど、そこには思い至らなかった。
芳乃「ふむ、なるほどー……結論から言いますと、私では少々難しいですなー」
肇「そっか…分かった。急にごめんね、変なこと相談しちゃって」
芳乃「いえー、私には無理ですが、手段はありましてー。これも巡り合せというものかもしれませんなー」
芳乃ちゃんが横で聞いていた晶葉ちゃんに視線を向けると、晶葉ちゃんは不敵に笑いだした。
晶葉「フフフ…名探偵の元に事件が引き寄せられるように、天才の元には発明を必要とする子羊が集まってくるのかもしれないな…」
そう言って立ち上がり、白衣を翻す晶葉ちゃん。
何度も練習したポーズなのか、ダンスレッスンの時以上にキレのある動きだった。
取り出されたのはとぐろを巻いて眠っている龍のオブジェと、それにつながったメカメカしいバイザー(ヘッドフォン付)。
それは物に込められた記憶(残留思念というらしい)を読み取り、見ることが出来るというものだった。
ちなみにネーミング元は文香さんが事務所に置いていた小説らしい。
晶葉「ただ、これを使用するには条件があってな。まず調べる物と見る人に縁があること、そして芳乃が傍にいること。せめて後者の条件をなんとかできないかと今日は調整中だったのだよ」
芳乃「今よりその写真を調べるのでしたら、どちらの条件も満たしておりましてー」
肇「す、すごいね…というか晶葉ちゃんがオカルトみたいな分野にまで手を伸ばしてるのが結構驚きなんだけど」
晶葉「なに、今は科学で証明されていることの多くも昔はオカルト扱いだったのだ。興味深いジャンルでもあるし、先駆けとなるのは天才の役割だろう」
まだまだ未完成だがな、と晶葉ちゃんは自嘲するけれど、これは結構とんでもない発明なのではないだろうか。
深く考えると負けな気がしたので、二人の好意に甘えて使わせてもらうことにした。
肇「…はず?」
なにか不穏なことを言われた気がする。
晶葉「私も数回試してはいるが試行回数が足りないし、被験者が私だけだから絶対にそうなるとは言えないんだ。危険がないことは保障するが、止める選択も勿論ありだ」
芳乃「ばば様に相談すれば何か分かる可能性もありましてー」
肇「…ううん、大丈夫。これを付ければいいの?」
少し不安はあるけれど、写真について知りたい好奇心の方が勝っていた。
芳乃「それではー、良きものが見れますようー」
バイザーを付けて座布団を枕に横になると、芳乃ちゃんが手を握ってくれた。
肇「ありがとう、芳乃ちゃん。それじゃあ…お願い」
晶葉「よし、では行くぞ!ポチッとな」
晶葉ちゃんの掛け声とともに、真っ暗だった視界に光が灯った。
「出かけるから着替えてこい、なんて急に言うから何かと思いましたよ。あなたからの逢瀬の誘いなんて久しぶりね」
『あー、まあ、なんだ。今日はお前に見せたいものがあってな』
すぐ傍から男性の声が聞こえたが、その姿は見えない。
周囲に人はいないため、おそらくこの男性が良人さんなのだろう。
てっきり映画のように俯瞰して見えるのだと思っていたが、良人さんの視界を借りている状態のようだ。
なんとなく複雑な気分になっていると、二人の元に備前焼の茶器が運ばれてきた。
「あら、これってもしかして…」
『ああ、俺の作品だ。今後も定期的に作品を卸すことになっていてな、俺にとってはこの店が初めての顧客だ』
「まあ、おめでとう!この器もとっても素敵…」
どうやら良人さんは備前焼作家のようだ。確かにいい器だと思うけれど…
もやもやとした気持ちを抱える私を尻目に、二人の会話は続いていた。
「あらあら、あなたがそんなことを言ってくれるなんて珍しい。明日は雨かしら」
『こら、茶化すな』
「ふふ、ごめんなさい。なんだか照れ臭くって」
そう言ってお茶を飲む祖母はとても幸せそうだった。
「良き人と一緒に、良き器を見て、そしていただく良き一服…幸せね」
『ああ…だから…その、なんだ。これからもよろしく頼む』
「…ふふっ。ええ、こちらこそよろしくお願いしますね、哲雄さん」
…えっ、その名前は…!?
思わず聞き返そうとしたけれど声は出ず、大きなカメラを取り出した男性が祖母の写真を撮ったところで映像は途切れた。
バイザーを外すと、興味津々な晶葉ちゃんが待ちきれない様子で問いかけてきた。
肇「えっと、写真のことは分かったんだけど…ちょっと待ってね」
混乱した頭を落ち着かせるために一度深呼吸をして、晶葉ちゃんに説明する。
写真の少女と一緒にいた男性の視点で写真が撮られた場面を見ることが出来たこと、そして男性が哲雄さんと呼ばれていたことを説明すると、晶葉ちゃんは首をかしげてしまった。
晶葉「ふむ、私が体験したパターンとは見え方が異なるようだな…それにしても、一緒にいた男性は良人というのではなかったのか?」
肇「うん、写真の裏にはそう書いてあるんだけど…」
写真を裏返すとそこには確かに【○月○日・茶屋にて 良人と】と書かれていた。
晶葉「…うむ、確かに良人と書かれているな…どういうことだ?」
芳乃「なるほどー、そういうことでしたかー」
首をひねる私と晶葉ちゃんを横目に、そう言って頷く芳乃ちゃん。何か分かったのだろうか。
肇「うん、それで驚くやらホッとするやらで混乱しちゃって…」
そう、祖母が大事にしていたのは祖父との想い出の写真だったのだ。
それまで家族の不倫現場を見ているかのような後ろめたさがあっただけに、祖父の名前が呼ばれたのには驚かされてしまった。
芳乃「【良人】は【おっと】とも読めましてー。意味は音の響きの通り【旦那様】なのでしてー」
肇「…そういうことだったんだ…」
晶葉「それは私も知らなかったな。日本語も中々に奥が深い」
勘違いで空回りしてしまっていたと分かり、気恥ずかしさに思わず項垂れてしまう。
もう少し国語の勉強を頑張ろう、そう心に決めたのだった。
祖母から譲り受けた着物を着て行き、Pさんと一緒に備前焼の資料館を巡ったり、ゆっくりとお茶を味わったりと、とても素敵な休日だった。
その時にPさんが撮ってくれた写真は偶然にもこの前見つけたモノクロ写真にそっくりで。
少し照れ臭いけれど、Pさんから貰った写真の裏に祖母を真似て走り書きをした。
【◎年◎月・茶屋にて 良き人と】
【き】が取れる日が来るのかどうか、それは未来のお楽しみだ。
ちなみに肇さんのおじいちゃんの名前は非公式です(人間国宝の方からお名前をお借りしました)
コメント一覧
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- 2016年12月14日 21:41
- 誠P…生きてたのか…
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- 2016年12月14日 22:50
- 1レス目で終わりでよかった作品
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- 2016年12月14日 23:04
- ここまで教養のない娘だと思わないけどな。
このぐらいの年で、爺さんと親しいなら明治ごろの文学ぐらい読んでそうだし。
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