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【SS】ポケモンものがたり : ホライゾーン - SSまとめサイト

【SS】ポケモンものがたり

2016-12-17 (土) 12:01  ポケモンSS   0コメント  
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/04(金) 04:28:21.81 ID:sE5+pmBg0

ここはポケモンだけが住む島、ポケモン島。

自然があふれ、たくさんの種類のポケモンがそれぞれの社会を作り生存しています。

そして、ポケモン島の一番南に広がる森の中、サルのポケモンだけが住むおさるの村。

ここに一匹のヒコザルがいました。

しかしこのヒコザルはいつも他のサルポケモンからいじめられています。

あらあらたいへん、また今日もヒコザルはいじめられているようです。

マンキー「おいヒコザル!早くここまで登って来いよ!」

マンキーが一番高い木のてっぺんからそう言います。

ヒコザル「む、無理だよ・・・早く、それ返して・・・」

バオップ「お前、サルのくせに木も登れないのか?」

ヒヤップ「やだ、あいつまた泣くわよ!」

木の上から他のサルポケモンたちが言います。

てっぺんのマンキーの手には、ヒコザルの大事なお守りが握られていました。

星の形をした綺麗なお守りです。

マンキー「返してほしかったら早く登って来い!」

マンキーの言葉にほかのポケモンたちがクスクス笑います。

ヒコザル「か、返してよ・・・」





2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/04(金) 04:29:00.37 ID:sE5+pmBg0

ヒコザルは泣き出してしまいました。

このヒコザルは、怖がりで、弱虫で、いつもいじめられて泣いてばかり。

マンキー「ほら、返してやるよ!」

そういってマンキーは、ヒコザルのお守りを力いっぱい木の上から放り投げます。

ポイ

お守りは遠く森の向こうまで飛んでいきます。

ヒコザル「あっ!」

ヒコザルは急いでお守りが飛んでいった方へ駆け出しました。

そんなヒコザルの後姿を、マンキーたちは大声で笑いながら見送りました。




3: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:30:12.18 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「どこに行ったんだろう・・・」

飛んでいったお守りを探して、ヒコザルは森を歩きます。

すると、後ろから急に誰かに突き飛ばされてしまいました。

ヒコザル「痛い!」

ヒコザルが後ろを振り向くと、そこにはエイパムとヤナップが立っています。

エイパム「こんなところで何してるんだよ」

エイパムの手には、ヒコザルのお守りが握られていました。

ヒコザル「あ、それ返して・・・」

エイパム「これお前のだったのか?」

ヒコザル「うん・・・」

エイパム「なんでこんなもの投げたりするんだよ!」

エイパムは尻尾を伸ばし、ヒコザルを突き飛ばしました。




4: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:30:41.38 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「違う・・・!投げたのは僕じゃ・・・」

エイパム「言い訳はやめろ!これのせいでヤナップがケガしたんだぞ!」

ヤナップのほうを見ると頭から血が流れています。

ヒコザル「ぼ、僕じゃないよ・・・」

エイパム「嘘つくな!これはお前のなんだろ?!」

ヒコザル「う、うん・・・」

エイパム「ほら見ろ!お前のせいだ!」

ヒコザル「ち、違うよ・・・」

ヒコザルの目から涙があふれます。

エイパム「この泣き虫嘘つき!」

ヤナップ「お父さんに言いつけてやる!」

ヤナップはエイパムからお守りを受け取ると、ヒコザルめがけて投げつけると二匹は帰っていきました。

お守りが頭に当たり、ヒコザルも頭から血を流しながら自分の家に帰ります。

いっぱい泣きながら歩きます。

どうして僕ばっかり・・・みんないなくなっちゃえばいいのに・・・

そんなことを思いながら。




5: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:31:27.20 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「ただいま・・・」

ヒコザルが家の玄関をくぐると、見覚えのある後姿がありました。

さっきのヤナップとお父さんのヤナッキーです。

ヤナッキー「お宅のヒコザルにやられたと言っているんです!どうしてくれるんですか?!」

ヤナッキーはかなり怒っているようです。

その奥でヒコザルのお母さん、モウカザルが何か言っています。

モウカザル「確かにケガをさせたのは謝りますけど、たかだか子供のけんかでしょう?」

ヤナッキー「子供のケンカですって?!危うく死ぬところだったかもしれないんですよ?!」

モウカザル「死ぬってそんな大げさな、かわいい怪我じゃないですか」

ヤナッキー「かわいいってあなたねえ!」

モウカザル「あら、ヒコ。おかえり」

ヒコザル「ただいま・・・」

モウカザル「あら、ヒコも頭に怪我してるじゃない」

ヒコザル「こ、これは・・・」




6: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:32:01.09 ID:sE5+pmBg0

モウカザル「ヤナッキーさん、これはお互い様でしょう?」

ヤナッキー「こんなの自分で頭を打ったに決まっている!」

モウカザル「そうなの?ヒコ」

ヒコザル「これは・・・その・・・」

ヤナップ「絶対言うなよ!」

ヤナップは言った後、ハッとなって口をふさぎました。

モウカザル「どういうことかな?ヤナップ君」

ヤナップは首を横に振ります。

モウカザル「ヤナッキーさん」

ヤナッキー「もういい!!覚えてろ!」

ヤナッキーはヤナップを引っ張りながら家を出ていきました。




7: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:32:54.01 ID:sE5+pmBg0

モウカザル「またずいぶん派手にやったんだねえ」

ヒコザル「ぼ、僕はやってないよ・・・」

モウカザル「わかってるよそんなこと」

モウカザルはにっこり笑うとヒコザルの頭の血をぬぐいました。

ヒコザル「迷惑かけてごめんなさい・・・」

モウカザル「もう気にしないで早く汚れ落としてきちゃいなさい」

ヒコザル「うん・・・」




8: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:33:45.93 ID:sE5+pmBg0

ヒコザルのうちにお父さんはいません。

ヒコザルのお父さん、ゴウカザルはこのポケモン島を守る戦士の一匹だったのです。

そしてまだヒコザルが小さいころに、突然やってきた凶暴なポケモンをこのポケモン島から追い払うために家を出て行ってから帰ってきていません。

そして、その時にゴウカザルから託されたのが、このお守りでした。


これをお前に預ける

大丈夫、何かあったらこのお守りが必ずお前を守ってくれる


ヒコザル「お父さん・・・」

ヒコザルは強くてかっこいいゴウカザルが大好きでした。

お母さんと一緒に今でも帰ってくるのを待っています。




9: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:34:26.87 ID:sE5+pmBg0

もうすぐ夕暮れ。

そんなときでした。

おさるの村の外れから大慌てで走ってくるポケモンがいました。

ヤルキモノです。

ヤルキモノ「た、大変だ!!」

「いったいどうしたんだ?」

村のポケモンたちは一斉に家から顔をだし、ヤルキモノに問いかけます。

ヤルキモノはいったん落ち着くために息を吸い込むと、こう言いました。

ヤルキモノ「アブソルが出た・・・!」




10: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:34:52.91 ID:sE5+pmBg0

アブソルは村の間で災いポケモンと呼ばれて恐れられていました。

大昔からアブソルがその姿を現すと、なにか大きな災いがこの村を襲ってきたからです。

ヤルキモノのその一言で、村の皆は息をのみました。

エテボース「村長を起こそう」

エテボースの言葉で、村の大人たちが一斉に家を出て村長の屋敷へ向かいます。

モウカザル「ヒコはおとなしく待ってるんだよ」

ヒコザル「うん・・・」

ヒコザルのお母さんも例外ではありません。

ヒコザルは初めての出来事に不安で仕方ありません。

ヒコザル(お父さん、早く帰ってきて・・・)

ヒコザルはそう思いながらお守りをぎゅっと握りしめました。




11: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:35:40.69 ID:sE5+pmBg0

エテボース「村長様!村長様!この村に、アブソルが現れました!」

オコリザル「どうか、お目覚めになりお力をお貸しください!」

そういうと、村の大人たちはたくさん集めた木の実を供え、祈りを捧げます。

どれぐらい経ったでしょうか。

すっかり夜も更けたころ。

村長の屋敷の扉がゆっくり開きました。

エテボース「村長様・・・!」

ケッキング「わしの眠りを妨げるとは、なにごとだ・・・」

村長のケッキングがその大きな体を揺らしてみんなの前に姿を現しました。

ケッキングは何年も眠りにつき、村の危機に目覚め、その凄まじい力で何度も村を救ってきました。

ヤルキモノ「村長様、実はこの村にアブソルが!」

ケッキング「アブソルだと・・・そうか。みなのものは、何かあった時のために木の実を持ち、それぞれ持ち場につくのだ」

ケッキングのその一言で、皆それぞれの持ち場へ向かって解散していきました。




12: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:36:20.74 ID:sE5+pmBg0

モウカザル「ヒコ、ただいま」

ヒコザル「おかえり・・・なにかあったの?」

やっと家に帰ってきたお母さんに駆け寄り、不安そうに尋ねます。

モウカザル「いいや、でもまたすぐに出かけなきゃならない」

ヒコザル「え・・・」

モウカザル「大丈夫、またすぐ戻ってくるからね」

モウカザルはヒコザルをやさしく抱き寄せました。

ヒコザル「お母さん・・・?」

いつも元気で頼もしいお母さんのモウカザルが、少し震えてるような気がしました。

モウカザル「あはは!何でもないさ!ちょっと外にいすぎて寒くなっちゃってね」

そういうと尻尾の炎を勢いよく燃え上がらせました。

きれいな炎です。

モウカザル「いいかい?ヒコは絶対何があっても家から出ちゃいけないよ?」

ヒコザル「うん・・・わかった・・・」

ヒコザルは不安でした。

お守りをまた強く握ります。

モウカザル「帰ってきたら晩御飯、ヒコの好きなものを作ってあげるから何食べたいか考えときな」

じゃあ行ってきます。

そういってモウカザルは家を出ていきました。




13: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:37:06.53 ID:sE5+pmBg0

おさるの村の西側。

星空満点の海岸沿い。

ここにはヒヤッキーとヤルキモノが何か異変がないか見回りをしています。

ヒヤッキー「あれは、なにかしら?」

するとヒヤッキーが海の方で何か見つけました。

しかし暗くてまだよく見えません。

ヒヤッキーとヤルキモノは浜辺に流れ着いていたスターミーに協力してもらい、フラッシュで海を照らします。

ヤルキモノ「あれは・・・!」

ヒヤッキー「た、大変!ヤルキモノ!!はやく村長様のところへ」

そう言いかけた途中でした。

当たりが真っ白に染まり、海岸沿いは一瞬にして爆炎に包まれました。




14: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:37:40.70 ID:sE5+pmBg0

それと同じころ、村中を大きな地震が襲います。

オコリザル「なんだ?!地震か?!」

揺れは徐々に大きくなり、村の地面が大きく二つに割れていきます。

割れ目から砂嵐が巻き起こり、あたりは何も見えなくなってしまいました。

エテボース「どうなってるんだ?!」

「ぐあああ!!!」

砂嵐の中、突然誰かの悲痛な叫び声が響きわたります。

バオッキー「どうした?!何があった?!」

バオッキーが声のしたほうへ向かいます。

バオッキー「こ、これは?!」

バオッキーが目にしたものは、傷ついて瀕死の状態で倒れているヤナッキーでした。

バオッキー「なにがどうなって・・・」

そう言いかけ、バオッキーは後ろに何かの気配を感じました。

バオッキー「くっ、かえんほうしゃ!!」

バオッキーは振り向きざまに炎を吹き出し攻撃します。

しかし砂嵐で何もわかりません。

でもバオッキーは次の瞬間、ヤナッキーをこんな風にした犯人を目にしました。

しかし、それを誰にも言えぬまま、意識が遠のいていきました。




15: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:38:27.90 ID:sE5+pmBg0

あちこちで悲鳴が聞こえます。

オコリザル「くそ!!なんなんだいったい!」

ケッキング「みなさがれ!!」

ケッキングの雨乞いによって雨が降り出し、砂嵐が掻き消されて視界が徐々に開けていきます。

ケッキング「!!」

ケッキングやほかの猿ポケモンが目にしたのは驚く光景でした。

地面に何匹ものポケモンたちの傷ついた体が横たわり、その真ん中にその犯人が立っています。

ケッキング「バンギラス・・・」

ヤルキモノ「村長様・・・」

ケッキング「ヤルキモノ!どうしたんだその傷は?お前は海岸の方へ行っていたはず・・・」

ヤルキモノは全身傷だらけです。




16: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:39:03.63 ID:sE5+pmBg0

ヤルキモノ「海から・・・見たことのないギャラドスのようなポケモンが・・・破壊光線で海岸を・・・!」

ケッキング「ギャラドス?!このバンギラスといい、一体どうなっておる・・・」

オコリザル「しかし、まずはこのバンギラスをどうにかしないと!」

ケッキング「いや、ここはわしに任せて、お前たちは海岸の方へ向かってくれ」

オコリザル「しかし、村長様は?!」

ケッキング「バンギラスを倒したらすぐに向かう」

オコリザル「そんなおひとりでは・・・!」

ケッキング「わしもまだ戦えるわい」

ケッキングは拳を固めます。

オコリザル「わかりました・・・どうか御無事で!」

そういうとオコリザルは残っているポケモンたちと海岸へ向かいました。

ケッキング「ゆくぞ・・・アームハンマー!!」

振り上げたこぶしがバンギラスをとらえようとしたその時。

三つの頭がケッキングの体にかみつき、その動きを封じました。




17: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:39:36.69 ID:sE5+pmBg0

ケッキング「サザンドラまでおったのか!」

ケッキングにかみついたのは凶暴ポケモンのサザンドラでした。

サザンドラはかみついたケッキングの拳をバキバキっとかみ砕きます。

拳を潰されたケッキングの表情が悲痛に歪みました。

さらに、身動きの取れない体にバンギラスが鋭く尖った無数の岩を突き立てます。

ケッキング「がぁああ・・・!!」

鋭い岩に体中を貫かれ、サザンドラに噛みつかれたまま膝をつきました。

さらに追い打ちをかけるようにバンギラスもケッキングののど元に噛みつきます。

ケッキングは声をあげることも身動きを取ることもできず、意識を失ってしまいました。

それを確認すると、サザンドラは空へ舞い上がり、火を噴いて村の家を次々に燃やしていきます。




18: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:40:30.33 ID:sE5+pmBg0

家に取り残されたポケモンたちの悲鳴が響き、村は炎に包まれ、村のポケモンがあちこちで倒れています。

モウカザル「ヒコ・・・!」

傷ついた体を引きずりながら、モウカザルはヒコザルの元へ向かいます。

しかし、そんなモウカザルの目の前にサザンドラの姿が。

モウカザル「くっ、そこをどきな!!インファイトオオ!!!」

モウカザルは力を振り絞り、ヒコザルに会うためサザンドラに突っ込んでいきました。




19: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:40:58.88 ID:sE5+pmBg0

朝です。

太陽がまぶしく輝いています。

朝の日差しを浴びて、ヒコザルは目を覚ました。

いつもの朝。

お母さんの作る朝ごはんのにおい。

ヒコザル「違う・・・」

ヒコザルは目を疑いました。

自分の体は倒れた家の壁の隙間に入り、火と煙の臭いが漂っています。

急いで隙間から這い上がり伺う外の様子。

ヒコザル「何・・・これ・・・」




20: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:41:30.89 ID:sE5+pmBg0

自分の家は崩れ落ち、村の家々も崩れ落ち、鋭い岩が転がり、地面は真っ二つ、あちこちで火がくすぶり、黒い煙が漂っています。

ヒコザルは手に握りしめていたお守りと一緒にあたりを歩き出しました。

動いているのはヒコザルと火と煙だけ。

他には誰もいません。

やがて海岸に出ました。

砂浜は瓦礫や崩れた岩で、ヒコザルの知っている景色はどこにもありません。

ヒコザル「お母さん・・・」

ヒコザルは村中歩きまわってお母さんを探しました。

しかし、お母さんはおろか、村にいたポケモンは一匹もいません。

一体、何があったのか。

お母さんが家を出た後、しばらくして急に地面が揺れて目の前が真っ暗になって。

それから記憶がありません。




21: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:41:59.34 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「僕が、みんないなくなればいいなんて思ったから?」

ヒコザルは泣き出しました。

自分の家のあった場所に戻り、一匹。

おなかが減りました。

お母さんの手料理が食べたい。

ヒコザル「お母さああん!!」

その泣き声だけがむなしく響きました。




22: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:42:33.23 ID:sE5+pmBg0

どのくらい歩いたでしょうか。

お母さんを探してヒコザルはフラフラ力なくさまよっていました。

ヒコザル「どこだろ・・・ここ・・・」

おさるの村のはずれの森を入っていったところまでは覚えているのですが、どうやら迷子になってしまったみたいです。

辺りは木々が深く生い茂り、まるで夜のように薄暗くて不気味です。

ヒコザル「あっ・・・」

ヒコザルが見つけたのは大好物のオレンの実。

幸い、ヒコザルでも届きそうな位置に実っています。

ヒコザルはもうおなかぺこぺこ。

すぐにオレンの実に手を伸ばしました。

するとその時でした。

つるのむちがヒコザルの体を引っ張りあげ、地面にたたきつけられてしまいました。




23: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:43:09.22 ID:sE5+pmBg0

「この迷いの森で誰に断わって木の実を食べようとしてるんだ?」

ヒコザルの前に三体のポケモンが現れました。

迷いの森にすむ、ウツボット、ドクケイル、そしてペンドラー。

彼らは迷いの森で木の実を独占するポケモンたちでした。

ペンドラー「見たことない奴だな。俺様の森でいい度胸じゃねえか」

どうやらこのペンドラーがリーダーのようです。

ヒコザル「ご、ごめんなさい・・・」

ドクケイル「声が小さくて聞こえないぞ」

ヒコザル「うぅ・・・」

ウツボット「うじうじしてイライラするぜ」

ウツボットは巻き付けていたつるでヒコザルを更に締め付けます。

ペンドラー「こいつは喰ってもまずそうだな」

ドクケイル「違いない」

ウツボット「なら俺がもらうぜ、溶解液で跡形もなく溶かしてやる」

ヒコザルは苦しさと恐怖で気を失ってしまいました。




24: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:43:52.45 ID:sE5+pmBg0

ウツボット「いただきます」

ウツボットがヒコザルの体を口の中に入れようとしたその時。

彼らの横の木がなぎ倒され、また別のポケモンが現れたのです。

ドクケイル「げっ!お前は・・・」

ペンドラーたちは驚いて後ずさり、ウツボットもヒコザルをつい落としてしまいました。

ペンドラー「ゴ、ゴロンダ・・・」

ゴロンダと呼ばれたそのポケモンは、恐ろしい顔でこちらをにらみ、唸り声をあげています。

ペンドラー「くっ、くそ!いくぞ・・・」

どうやらペンドラーたちも、このゴロンダにはかなわないようです。

ヒコザルを置いて森の奥に去っていきました。

ゴロンダ「・・・・・」




25: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:44:28.30 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「んん・・・」

気が付くと、敷き詰められた藁の上に寝ていました。

よく見るとここは洞穴の中みたい。

外は雨が降っています。

ペンドラーたちに襲われて、それから自分はどうなったのだろう。

考えてもよくわかりません。

とにかく助かったようでした。

少しだけ安心すると、ぐーっとお腹の音がしました。

昨日の晩から何も食べていませんから当然です。

ヒコザル「おなかすいた・・・」

そうつぶやくと、バラバラっと頭上から木の実がたくさん振ってきました。

ヒコザル「き、木の実だ・・・!」

ヒコザルが見上げると、ずぶ濡れの大きなポケモンがそこに立っています。

最初は少し怖かったけど、どうやら襲ってくる気配はありません。

それに空腹にはかなわなかったみたい。

ヒコザル「食べても、いいの・・・?」

そう尋ねると、そのポケモンは少しうなずき、背を向け洞穴の入り口あたりに座り込みました。

気を使ってくれたのでしょうか。

ヒコザルは一心不乱に木の実にかじりつきました。




26: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:45:16.60 ID:sE5+pmBg0

お腹いっぱいになって元気になったヒコザル。

思い切ってあのポケモンに近づきます。

ヒコザル「おじさん、ありがとう」

ヒコザル「おじさんは誰?ここで暮らしているの?」

しかし何も答えません。

ただ口に葉っぱをくわえ、雨が降るのを眺めています。

ヒコザルもそのまねをして、木の実の葉っぱを口にくわえて一緒に雨を眺めました。




27: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:45:57.20 ID:sE5+pmBg0

しばらく、ヒコザルはそのポケモンと過ごしました。

そのポケモンは何もしゃべってくれませんでしたが、ヒコザルはそれでも良かったのです。

なぜかはわかりませんが、悪いポケモンだとは思えなかったからです。

そのポケモンも、何もしゃべりませんでしたが、ヒコザルを追い出そうともしませんでした。

二匹は一緒に木の実を食べ、一緒に空を眺め、一緒に藁の上で眠り。

ただそれだけでとっても心地が良かったのです。

そして、あれから三日ほどたったころでした。

ドクケイル「ほら、あの時のちびもいるぞ」

ウツボット「あの時喰いそびれちまったからな」

ペンドラー「ゴロンダめ・・・俺様の怖さを思い知らせてやる」

あの時の三匹でした。




28: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:46:32.09 ID:sE5+pmBg0

ドクケイル「じゃあ俺からいってくるぞ」

そういうとドクケイルは洞穴まで飛んでいきました。

ドクケイル「くくっ、中で仲良く木の実喰ってやがる・・・」

ドクケイルは洞穴の入り口で羽を羽ばたかせます。

ドクケイル「[ピーーー]!ゴロンダ!しびれ粉!!」

ドクケイルのしびれ粉が洞穴に充満していきます。

ゴロンダはヒコザルをかばい、しびれ粉を全部吸い込みました。

ドクケイル「なんてやつだ、だがこれでお前はしびれて動けまい!」

ウツボット「次は俺だ!グラスミキサー!!」

ウツボットから放たれた鋭い葉っぱがゴロンダの全身を切り刻みます。

ヒコザル「お、おじさん!!」

ゴロンダはしびれて動けません。

ペンドラー「とどめは俺だ!メガホーン!!」

ペンドラーの二本の角が、グサリとゴロンダの体を貫きました。

ペンドラー「死んだか?」




29: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:47:12.52 ID:sE5+pmBg0

ゴロンダ「グオオオオ!!」

ゴロンダはまだ生きていました。

ペンドラーの突き刺さった角をつかむと、真っ二つに折ってしまったのです。

ペンドラー「ぐわああああ!!!こいつ!やれ!!殺せ!!」

その言葉でウツボットとドクケイルがいっせいにゴロンダに襲い掛かります。

ウツボット「リーフストーム!!」

ドクケイル「シグナルビーム!」

何度も何度もゴロンダに攻撃が続きます。

もうゴロンダは動きません。

息もしていません。

手足が吹き飛んでも攻撃はやみません。

ヒコザル「やめて・・・もうやめてよ・・・!!」

ヒコザルは勢いよく飛び出しました。

ペンドラー「お前も殺してやる!」

三匹が今度はヒコザルめがけて襲い掛かります。

とても怖かった。

なぜ飛び出したのか。

自分でもわかりません。

でも体が勝手に動いたのです。

不思議と後悔はありませんでした。




30: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:48:28.83 ID:sE5+pmBg0

ヒコザル「うわああああ!!!」

お父さんのお守りを握りしめ、無我夢中で叫びました。

すると、体から勢いよく炎が噴き出し、ヒコザルの体を渦巻いていきます。

ペンドラー「こ、これは・・・火炎車?!」

ドクケイル「ぐわああ!!」

ウツボット「や、やめろおお!!」

炎技はこの三匹に効果抜群です!

ペンドラー「こんな技隠し持ってやがるなんて・・・」

炎をまとったヒコザルに近づくことはできません。

ペンドラー「お、覚えてろよ!!」

そういうと三匹は逃げるように去っていきました。




31: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/04(金) 04:49:33.72 ID:sE5+pmBg0

自分が感じたことのない力でした。

自分にこんなことができるなんて。

いつもいじめられて何もできなかったのに。

ヒコザル「あったかい・・・」

ヒコザルをまとっていた炎がさらに強くなっていきます。

自分の中に力があふれていくのがわかりました。

やがて炎が収まり、ヒコザルは自分の姿を見て驚きました。

ヒコザル「あれ・・・?僕・・・進化してる?!」

そうです、ヒコザルはお母さんと同じ姿、モウカザルに進化したのです!

モウカザル「おじさん・・・!」

モウカザルはゴロンダに駆け寄りました。

血まみれで手足は千切れぼろぼろになったゴロンダ。

もう二度と一緒に木の実を食べることも、一緒に昼寝をすることもできない。

そのことはモウカザルにもわかっていました。

でももう泣きません。

モウカザル「ごめんおじさん・・・僕を助けてくれてありがとう」

モウカザルはゴロンダの体を洞穴の近くに埋めました。

くわえていた葉っぱをその上に差して。



つづく




33: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:22:52.44 ID:Oww1VHxd0

ポケモン島。

数多くのポケモンがそれぞれの生態系を築きながら共存するポケモンだけの島。

そのポケモン島の南にあるサルポケモンしかいない不思議な村、おさるの村から少し離れた小さな村。

そこにてんたいポケモン、ゴチルゼルが夜空を見上げながら佇んでいました。

ゴチルゼル「この星の動き・・・」

サーナイト「どうしました?ゴチルゼル」

このポケモンはサーナイトです。

ここはサーナイトとゴチルゼルの種族が暮す、てんたいとほうようの村。

ゴチルゼル「サーナイト、あなたも感じますか?この悪しき気配」

サーナイト「はい・・・はるか北の方から。このポケモン島に大きな災いが降りかかろうとしているかのようです・・・」

ゴチルゼル「星たちも、今夜はいつもより騒いでいます・・・いったい何が起ころうとしているのか」

サーナイト「わかりません、ですが近いうちにこの村にも大きな変化が訪れようとしています」

ゴチルゼル「皆にも注意を呼び掛けておきましょう」

サーナイト「ええ・・・」

そうして次の日の朝。




34: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:24:01.07 ID:Oww1VHxd0

キルリア「ママ!!ママ!!」

この子はキルリア。

サーナイトの進化前のポケモンです。

サーナイト「どうしました?キルリア。そんなに慌てて」

キルリア「村の入り口で変なポケモンが倒れてる!」

サーナイト「へんなポケモン?」

サーナイト(まさか・・・)

サーナイトは昨日のゴチルゼルとの会話を思い出しました。

サーナイト「キルリア、あなたは家にいなさい」

キルリア「えー・・・」

キルリアはご機嫌ななめです。

サーナイト「いいですね?」

キルリア「はーい・・・」

キルリアは少し不機嫌でしたがママのいうことを聞くことにしました。

後でこっぴどく怒られてしまいますからね。

サーナイト(ゴチルゼル、聞こえますか?)

サーナイトはテレパシーでゴチルゼルに話しかけます。

ゴチルゼル(はい、どうしました?)

ゴチルゼルもテレパシーで答えます。

サーナイト(うちのキルリアが、村の入り口でポケモンが倒れているのを見つけたそうです。一緒に来てもらえますか?)

ゴチルゼル(わかりました。皆には外に出ないように言っておきます)

サーナイト(お願いします。先に行っていますね)

ゴチルゼル(私もすぐ向かいます)

そうして、サーナイトは村の入り口へ向かいました。

キルリア「ママにはああ言ったけど、ついていっちゃうもんね」

キルリアはこっそりママについて行くことにしました。




35: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:27:15.54 ID:Oww1VHxd0

村の入り口についたサーナイト。

サーナイト「このあたりですが・・・」

すると、道の端っこでポケモンが倒れています。

よく見るとケガをしているようです。

サーナイト「大変・・・!」

ゴチルゼル「待つのです、サーナイト」

そこへゴチルゼルも到着しました。

ゴチルゼル「まだあのポケモンが安全と決まったわけではありません」

サーナイト「でも・・・」

サーナイトはほうようポケモン。

傷ついたものを放っておくことなどできません。

サーナイト「ならあのポケモンはまだ危険と決まったわけでもないということです」

ゴチルゼル「・・・仕方ありません、ですが危険と分かった場合はすぐにしかるべき処置をとります」

サーナイト「ええ、ありがとうゴチルゼル」

すぐさまサーナイトは倒れているポケモンに駆け寄り、傷口に手をかざしました。




36: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:27:58.96 ID:Oww1VHxd0

するとサーナイトの体が光り輝いていきます。

これはサーナイトの癒しの波動です。

そのポケモンの傷は見る見るうちに消えてなくなり、やがてゆっくりと目を開けました。

「ここは・・・」

サーナイト「具合はどうですか?あなたはここで怪我をして倒れていたのですよ?」

ゴチルゼル「サーナイト、下がってください」

ゴチルゼルが少し厳しい口調でそう言いました。

ゴチルゼル「あなたは何者ですか?なぜここへ?」

「僕は、ヒコ・・・じゃなかった」

僕はモウカザル。

そのポケモンはそう言いました。

モウカザル「僕はお母さんを探しているんです」

数日前にいなくなった僕のお母さん。

今、どこで何をしているんだろう。

変わってしまった僕の姿を見てどう思うのだろう。

サーナイト「お母様がいなくなったのですか?」

モウカザル「はい・・・でもお母さんだけじゃなく、僕の村のポケモン全員いなくなったんです」

ゴチルゼル「どういうことです?」

モウカザル「わかりません・・・」

「わー!尻尾から炎が出てる!!」

モウカザルが肩を落とすのと同時に、後ろから声が聞こえました。




37: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:29:42.85 ID:Oww1VHxd0

サーナイト「こら、キルリア!家にいなさいと言ったでしょう?」

その声の正体はキルリア。

モウカザルの尻尾をつかんでブンブンっと振り回しています。

キルリア「いいでしょ!別に!」

ゴチルゼル「そのポケモンは危険かもしれません!キルリア離れなさい!」

キルリア「大丈夫だよ!ね?」

キルリアはモウカザルに尋ねます。

モウカザル「う、うん?どうだろう・・・?」

まだよくわからない状況にモウカザルは少し戸惑いました。

ゴチルゼル「キルリア、ダメです!」

キルリア「いやだ!この子と遊びたい!」

キルリアは負けじと言い返します。

間に挟まれたモウカザルはもうたじたじ。

モウカザル「あ、あの・・・僕は別にあなたたちに危害を加えるつもりは・・・」

キルリア「ほらね!」

ゴチルゼル「ですが」

サーナイト(ゴチルゼル、もうやめましょう)

その間に入ったのはサーナイトのテレパシーでした。

サーナイト(私たちで見張っておけば大丈夫。それにさっきのこの者の話ももう少し詳しく聞きたいですし)

ゴチルゼル(・・・そうですね、すみません。少し取り乱してしまいました)

サーナイト「キルリア、このモウカザルを私たちのお家へ案内してさしあげて」

キルリア「えー!いいの!?わかった!」

サーナイトの言葉に、キルリアは嬉しそうに飛び跳ね、モウカザルの手を引いて家の方へ向かいました。




38: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:31:35.09 ID:Oww1VHxd0

キルリア「ふふっ、何して遊ぶ?!」

モウカザル「僕は、なんでもいいけど・・・」

誰かと遊ぶなんてこれまでなかったモウカザルは、このキルリアに押されっぱなし。

サーナイト「キルリア、この子と話がしたいから遊ぶのはもう少しだけ後にしてもらえる?」

キルリア「えー何で?!」

サーナイト「ごめんなさい、すぐに終わるから。ね?」

そういってキルリアの頭を柔らかく撫でました。

キルリアはこうやってママに頭をなでてもらうのが大好きです。

キルリア「んーわかった・・・先にゴチミルたちと遊んでくる」

キルリアはしぶしぶそういうと、家を後にしました。

サーナイト「騒がしい子でごめんなさいね、そこへ座って」

モウカザル「いえ・・・大丈夫です」

言われたまま、モウカザルは椅子に腰かけました。




39: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:32:05.45 ID:Oww1VHxd0

ゴチルゼル「話というのは、先ほどの話のことです」

ゴチルゼルとサーナイトも向かいのいすに腰掛けながらモウカザルに尋ねました。

なぜ村の外で倒れていたのか。

そして母親や村のポケモンがいなくなったこと、その時何が起こったのか。

モウカザルは、思い出せる限りのことを話しました。

お母さんが何かのために家を出ていったこと。

そのあと地震が起こったこと。

目が覚めたら村中が崩壊し、お母さんや村のポケモンたちがいなくなっていたこと。

そして、お母さんを探してさまよっていたこと。

ペンドラーたちに襲われたこと。

ゴロンダに助けてもらったこと。

ゴロンダが死んだこと。

モウカザル「それから、あの森を抜けるまでに、何度も危険なポケモンに出会って、なんとかあそこまでたどり着いたんです・・・」

サーナイト「そうだったのですか・・・」

ゴチルゼル「しかし、村中のポケモンをさらうなんて・・・」

ゴチルゼルも、モウカザルを気の毒に思いました。




40: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:32:48.24 ID:Oww1VHxd0

サーナイト(ゴチルゼル、やはりこの者は危険なポケモンではありません・・・なんとかしてあげたいですが・・・)

ゴチルゼル(そうですね・・・しかし、手掛かりが少なすぎて・・・)

キルリア「お話は終わった?!」

そこへ勢いよくキルリアが部屋に飛び込んできました。

サーナイト「ええ、キルリア。この子と遊んできなさい」

キルリア「わーい!一緒にあそぼー!」

サーナイト「ごめんなさいね、この子と一緒に遊んでやって」

そういうとモウカザルはキルリアに手を引っ張られて家を出ていきました。




41: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:33:33.02 ID:Oww1VHxd0

はじめは戸惑ったけど、こんな経験がなかったモウカザルは少し嬉しそう。

誰かと遊ぶのがこんなに楽しかったなんて。

かくれんぼに鬼ごっこ、そしてゴチムやラルトス、ゴチミルなども加わって、皆で楽しく遊びました。

しかし、その様子を何かが村の外で見つめています。

ゴチルゼル「!!」

サーナイト「あなたも感じましたか?ゴチルゼル」

家にいた二体はお互い身を寄せ合って、うなずきました。

サーナイト「何か邪悪なものが近づいてくる」

ゴチルゼル「早く皆を呼び戻さないと・・・!」

そういってゴチルゼルは村中のポケモンにテレパシーを送ります。

キルリア「!」

モウカザル「どうかしたの?」

ゴチミル「皆、戻って来いって」

ゴチム「せっかく楽ちかったのに」

皆がっかりです。

ラルトス「帰ろう・・・」

キルリア「いやだ!まだ遊ぶもん!」

キルリアは駄々っ子。

一度こうなると手が付けられません。

ゴチミル「キルリア、帰らないとまたママに怒られるよ?」

キルリア「いいもん!まだ遊ぶの!」

そういうとキルリアは家と反対方向に行ってしまいました。

ゴチミル「もうどうなっても知らないからね!」

ゴチミルも呆れて家に帰っていきます。

モウカザル「いいの?放っておいて」

ゴチム「いちゅものことだから放っておいていいのでちゅ」

ゴチムもゴチミルの後について帰っていきました。

でもラルトスはちょっと心配そう。

ラルトス「帰ろう」

しばらく考えていたようですが、モウカザルの手を引っ張って帰ることにしたみたい。

モウカザルも少し心配でしたが、ラルトスを連れてサーナイトの家に戻ることにしました。




42: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:34:11.07 ID:Oww1VHxd0

モウカザルとラルトスはサーナイトが待つ家に戻ってきました。

ラルトス「ただいま」

サーナイト「おかえり、あら?キルリアは?」

ラルトスは首を横に振りました。

サーナイト「そんな!大変!」

そういうとサーナイトは急いで家を飛び出しました。

そしてテレパシーを送ります。

サーナイト(キルリア!どこなの!早く帰ってきなさい!!)

しかしキルリアからの返事はありません。

モウカザル「どうかしたんですか?」

サーナイト「この村に邪悪なものが近づいてきているのです」

サーナイトの声は恐怖と不安で少し震えていました。

モウカザル「そ、そんな・・・僕も探すのを手伝います!」

サーナイト「お願い!私もテレパシーであの子の居場所を探ってみます」




43: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:34:36.69 ID:Oww1VHxd0

村の外れ。

キルリアはぶつぶつ言いながら歩いていました。

キルリア「もーママはいつも早く帰って来い早く帰って来いって・・・全然遊べないんだから。今日は絶対に帰らないもん」

そんなキルリアの背後にうごめく影がありました。

その影はすばやくキルリアに近づき、そして・・・。




44: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:35:38.08 ID:Oww1VHxd0

サーナイト「!!」

そのころ、サーナイトがキルリアのテレパシーを感じたようです。

サーナイト「村の外れに!」

モウカザル「わかりました!」

サーナイトたちは急いで村の外れに向かいました。

サーナイト「あれは・・・!」

村の外れに到着したサーナイトたちが目にしたのは、たくさんのうごめく影に襲われているキルリアでした。

キルリア「ママ!!助けて!!」

うごめく影は鋭い刃物のような手でキルリアを襲います。

サーナイト「キルリアから離れなさい!!」

サーナイトがサイコキネシスで影を引き離そうとします。

しかし効果はないようでした。

サーナイト「そんな・・・」

モウカザル「火炎車!」

そこへモウカザルが炎をまとって影の中へ突っ込んでいきます。

どうやらこれは効果抜群!

影たちは一斉にキルリアから離れました。

キルリア「ありがとう!」

しかし、安心するのもつかの間、影たちは見事に統率のとれた動きで、今度はサーナイトへ襲い掛かります。




45: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:36:18.00 ID:Oww1VHxd0

キルリア「ママ!!」

ゴチルゼル「サイコショック!!」

どうやらゴチルゼルも助けに来てくれたようです!

ゴチルゼルの攻撃が影を吹き飛ばしますが、効果はいま一つのよう・・・

ゴチルゼル「この者たちはコマタナ・・・、悪タイプでミラクルアイを使わなければエスパー技は効きません。しかし、あまり効果があるようには見えませんね・・・」

サーナイト「なぜこんなポケモンがここへ・・・?」

コマタナたちは体勢を立て直すと、誰かの指示を受けているかのように見事な連携攻撃を仕掛けてきました。

多勢に無勢、どんどんゴチルゼルたちは追い詰められていきます。

モウカザル「やめろ!火炎車!」

モウカザルの攻撃も、よけられるようになってしまいました。

そしてコマタナたちはモウカザルの体に張り付き、鋭い腕で全身を突き刺していきます。

モウカザル「ぐああああ!!」

サーナイト「ああ!」

一瞬のスキが生まれました。

サーナイトがモウカザルに気を取られた瞬間、ほかのコマタナたちがいっせいにサーナイトにとびかかります。

ゴチルゼル「危ない!!」

しかし、コマタナたちの攻撃を受けたのはサーナイトをかばって飛び出したゴチルゼルでした。




46: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:37:08.21 ID:Oww1VHxd0

ゴチルゼル「きゃああああ!!」

ゴチルゼルはコマタナたちの連続切りで全身を切り裂かれてしまいました。

サーナイト「ゴチルゼル!!!」

ゴチルゼルはその場で崩れ落ちると、意識を失ってしまいました。

サーナイト「いますぐ癒しの波動を・・・」

「そうはさせるか」

次の瞬間、コマタナたちの間から別のポケモンが飛び出してきました。

コマタナたちよりも大きく、鋭い刃物を全身に構えたポケモンです。

サーナイト「キリキザン、ですね・・・」

キリキザン「そうさ」

キリキザンはそういうと、コマタナたちに指示をだします。

コマタナ達はサーナイトを取り押さえ、メタルクローで突き刺していきます。

サーナイトはサイコキネシスやムーンフォースなど、得意のエスパー技やフェアリー技を繰り出し応戦しますが、コマタナやキリキザンには大した効果はないようでした。

そうして、動けなくなったサーナイトにキリキザンが近寄ります。




47: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:37:42.66 ID:Oww1VHxd0

キリキザン「止めだ」

そういってキリキザンは鋭い腕でサーナイトの体を引き裂きました。

真っ赤な血を噴き出してサーナイトは気を失い、その場で倒れこみました。

キリキザン「連れて行け」

キリキザンの命令でコマタナたちはサーナイトの体を持ち上げ、どこかへ運んでいきます。

キルリア「マ、ママから離れて!どこへ連れていく気なの?!」

キリキザン「失せろ!」

キリキザンの怖い顔ですっかりおびえて恐怖にのまれてしまったキルリアはその場に力なく座り込むしかできません。

そうして、キリキザンたちはサーナイトを連れてどこかへ消えてしまいました。




48: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:38:17.00 ID:Oww1VHxd0

「起きて!」

「ねえってば!!」

何かに揺り起こされてモウカザルは目が覚めました。

モウカザル「あれ・・・?僕は一体・・・」

モウカザルが起き上がると目の前にキルリアの顔が。

キルリア「どう?目が覚めた?!癒しの波動で怪我を治してあげたの!じゃあ早く行こう!!」

言うや否やキルリアはモウカザルの腕を無理やり引っ張っていこうとします。

何が何だかわかりません。

モウカザル「ちょっと待ってよ、行くってどこに?」

キルリア「決まってるでしょ?!ママを助けに!!」

そういえば自分はコマタナたちと戦っていたはず。

でもコマタナたちに攻撃されてから記憶がありません。

モウカザル「あの後どうなったの?」

キルリア「ママが連れ去られたの!!だから早く助けに行かなきゃ!!」

サーナイトが?

連れ去られた?

どうして・・・

まさか僕のお母さんを連れて行ったのもあいつら・・・?




49: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:38:51.12 ID:Oww1VHxd0

モウカザル「ま、待って!でも君、女の子・・・だよね?そんなの、危ないよ・・・」

キルリア「えー?!女の子?!何言ってるの?!ボクはオスだよ!!オスのキルリア!!」

そう、この子は男の子。

モウカザル「え?!そうなの?!ご、ごめん・・・」

通りでこんなに元気いっぱいなわけです。

キルリア「ボクのせいでママは連れていかれちゃったんだもん・・・ボクがあの時すぐ帰っていれば・・・」

キルリアは今にも泣きそうなのをぐっとこらえてモウカザルを見つめます。

キルリア「君もママがいなくなったんでしょ?もしかしたら同じやつかもしれない!だから一緒に行こう?!」

モウカザル「で、でもどこを探せばいいのか・・・」

キルリア「大丈夫!テレパシーで大体のママの居場所はつかめるから!君のママも同じところにいるかも!」

そういうと更にモウカザルの腕を強く引っ張りました。

ゴチルゼル「それは、なりません・・・」

すると入り口にはゴチルゼルが立っていました。




50: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:39:32.71 ID:Oww1VHxd0

しかし、傷が深く、まだ癒えていないのか少しふらついています。

ゴチルゼル「あなたたちだけで行かせるわけには・・・うぐっ・・・」

ゴチミル「ママ、大丈夫?」

ゴチミルも不安そうです。

キルリア「だってじゃあ他に誰がママを助けに行くの?!ゴチルゼルもそんな怪我じゃ助けに行けないでしょ?!」

ゴチルゼル「しかし・・・!」

キルリア「それにボクはママの子供なんだから!」

そういうとエッヘンと腕を腰に当てるポーズをとりました。

ゴチルゼル「キルリア・・・」

キルリア「お願いゴチルゼル!ママをボクに助けさせて!!」

キルリアはまっすぐにゴチルゼルの瞳を見つめます。

ゴチルゼル「・・・わかりました」

キルリアのまっすぐな瞳にゴチルゼルも根負けしたようです。

ゴチルゼル「しかし、無理をしてはダメ。居場所を探り当てるだけです」

キルリア「で、でも!」

ゴチルゼル「キルリアがサーナイトの居場所を見つけてくれたら、私に知らせてください。必ず助けに行きますからそれまで戦ったりしてはいけません」

キルリア「んー・・・」

コマタナやキリキザンに手も足も出なかったことを思い出し、少し悔しくなりました。

確かに自分が戦ってもあいつらには勝てない。

ママを救えない。

キルリア「わかった・・・」




51: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:40:24.08 ID:Oww1VHxd0

ここはゴチルゼルの言う通りにするしかありませんでした。


出発は明日の朝です。

今日は明日に備えてもう眠ることにしました。

モウカザル「ねえ、キルリアはその・・・怖くないの?」

キルリア「え?何が?」

ベッドの上でモウカザルが尋ねます。

モウカザル「もしかしたらあんなポケモンがいっぱい出てくるかもしれないのに・・・」

キルリア「まあ確かに怖いけど、でも怖がってたらママを助けられないもん!」

モウカザル「そっかぁ・・・強いんだね、キルリアは・・・僕はいつも泣いてばかりなのに・・・」

キルリア「ボクはこの村でたった一匹のオスだからね!オスは泣いちゃダメなんだー!」

モウカザル「・・・」

キルリア「モウカザルは、ママを助けたくないの?」

モウカザル「・・・助けたい・・・よ」

大好きなお母さん。

いじめられてもお母さんがいてくれたからこうして生きてこられたのです。

絶対に助ける。

モウカザルはお父さんから託されたお守りを強く握りしめました。

キルリア「なーにそれ?」

モウカザル「お守り。お父さんから預かってるんだ」

キルリア「へー、とっても綺麗!んー・・・でも、ママも似たようなの、持ってた気がするなあ・・・」

モウカザル「そうなんだ・・・」

キルリア「うん・・・さあ、もう寝よう・・・明日は、とっても、早く、起きな、きゃ・・・」

そういうと、すでにキルリアは寝息を立て始めていました。

モウカザルもお母さんとお父さんの顔を思い浮かべながら寝むりにつきました。




52: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/05(土) 04:41:27.65 ID:Oww1VHxd0

出発の朝。

昨日と同じく、モウカザルはキルリアに慌ただしく起こされました。

あまりに強く引っ張られたので、ベッドから落ちて打った頭がまだ痛みます。

ゴチルゼル「くれぐれも、無理はしないこと!いいですね?」

ゴチルゼルが心配そうにキルリアとモウカザルを抱きしめます。

キルリア「大丈夫だよ!絶対無理はしないから!」

ゴチミル「早く戻ってきてね」

ゴチム「気をちゅけるでちゅ」

ラルトス「お兄ちゃん、気を付けて」

皆でキルリアたちを見送ります。

キルリア「うん!ママと一緒にすぐ戻ってくるから!!」

行ってきます!

キルリアとモウカザルは元気いっぱい、村から旅立っていきました。


つづく




53: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:04:08.93 ID:HGcxxDWk0

モウカザル「どう?お母さんのテレパシーは感じる?」

旅立って二日目の朝です。

昨晩はてんたいとほうようの村から少し離れた河原で野宿。

モウカザルの尻尾の炎で温かく眠ることができました。

そして今、キルリアは高い岩の上でサーナイトのテレパシーを探っているところです。

キルリア「・・・ダメ。昨日は少しだけ感じられたのに」

モウカザル「そっか・・・」

キルリア「でも昨日のテレパシーで大体の方角はわかったよ!」

そういってキルリアは北の方角を指さしました。

おさるの村から出たことがないモウカザルにはその方角に何があるのか全く見当もつきません。

でも、きっとこの方角にお母さんがいる。

そう思うとちょっとだけ不安が紛れて、元気になれました。

それに今はキルリアという騒がしいけど頼もしい仲間もいます。

キルリア「さあ!早く行こう!早く早く!」

キルリアも初めての外の世界にいつもより元気いっぱい。

モウカザルの手を思いっきり引っ張って歩き出します。

見たことのない景色、見たことのないポケモン、モウカザル達にとって見たことのないものばかりです。




54: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:04:59.24 ID:HGcxxDWk0

キルリア「見てみて!!あれなんていうポケモンだろう?!綺麗!!」

二匹の前にはビビヨンやバタフリー、アゲハントたちの群れが飛んでいます。

モウカザル「キルリア!そっちは逆方向だよ・・・」

蝶々ポケモンたちに見とれてついついキルリアはついていっちゃったみたい。

キルリア「ちょっとだけならいいでしょ?!ほらモウカザルもおいでよ!!ボクもあんな風に飛んでみたいなあ!」

すっかりキルリアはビビヨンたちに夢中です。

モウカザルも仕方ないなあと肩をすくめてキルリアに引っ張られてついていきました。

キルリア「待って待ってー!!」

ビビヨンたちを追って緑の木々が生い茂る森に差し掛かったころです。

これまでゆっくり漂っていたビビヨンたちの群れでしたが急に何かから逃げるようにスピードを上げ、あっという間に空の彼方に消えて見えなくなってしまいました。

キルリア「もー待ってよー!!」

モウカザル「どうしたのかな・・・?」

その時。




55: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:05:38.56 ID:HGcxxDWk0

上空でバサバサっという羽音が響きました。

モウカザル「な、なに・・・?!」

見上げると、黒い翼を広げた鳥ポケモン達が羽ばたきながら地面の方に降りていくところでした。

キルリア「あいつらのせいで逃げちゃったんだ」

ビビヨンたちの天敵ポケモンが近くにいたみたいですね。

キルリア「ん?待って、こっちで何か感じる!」

キルリアは頭の赤い触覚をピクピクっと動かすと、指さしたほうへ駆け出しました。

モウカザル「ま、待ってよ・・・!」

モウカザルもそのあとに続きます。

草木をかき分け、森を抜けたところでした。

黒い翼の鳥ポケモンの群れが、何やら地面に集っています。

何かを啄んでいるようにも見えます。

キルリア「モウカザル!見て!あそこで何か倒れてる!!」

キルリアが指差した場所を見ると、確かに白い毛が見えました。

鳥ポケモンたちはどうやらそれを襲っているようです。

キルリア「大変だよ!!助けないと!!」

モウカザル「う、うん!」

そういうとモウカザルは火炎車で鳥ポケモンたちの群れに飛び込みました。




56: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:06:12.01 ID:HGcxxDWk0

鳥ポケモンたちは急に飛び込んできた炎の塊に驚き、散り散りに飛び上がっていきます。

その鳥ポケモンたちは、バルジーナ。

悪タイプの鳥ポケモン達です。

バルジーナたちは上空で体勢を立て直すと、モウカザルめがけて突っ込んできます。

キルリア「モウカザル!逃げて!!」

モウカザル「だ、ダメだ・・・早すぎるよ・・・!」

ものすごい速さでバルジーナたちが襲ってきます。

キルリア「モウカザル伏せて!」

キルリアは急いで群れの前に飛び出しました。

キルリア「マジカルシャイン!!」

そう叫ぶとキルリアの体からまばゆい光が発せられ、バルジーナたちが地面に落下していきます。

どうやら効果抜群だったみたい!

モウカザル「す、すごい!」

キルリア「ママから教わったんだ!」

バルジーナたちも観念したみたいです。

ふらつきながらどこかへ飛んで行ってしまいました。




57: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:07:59.32 ID:HGcxxDWk0

モウカザル「ありがとうキルリア」

キルリア「いいの、いいの!そんなことよりこのポケモン・・・ひどい怪我!」

バルジーナたちに襲われていたこのポケモン。

白い体毛が血で赤くなり、片目はつぶれ、頭の角も折れてしまっています。

キルリア「待ってて、今癒しの波動で治してあげる!」

キルリアの癒しの波動で、みるみる怪我が治っていきます。

しかし深く傷ついてつぶれた片目と、折れてしまった角は無理だったみたいです。

キルリア「血は止まったけど、目を覚ますかな?」

モウカザル「どうだろう・・・かなりひどくやられてたみたいだし・・・」

すると、倒れていたポケモンがゆっくりと目を開けました。

赤くて綺麗な目です。

キルリア「ああ!よかった!元気になった?!」

そのポケモンはキルリアとモウカザルの顔を交互に見ると、ふらつきながら立ち上がります。

モウカザル「む、無理しないほうが・・・」

キルリア「オボンの実食べる?!」

二匹の言葉を無視して、そのポケモンは背を向けて歩き出しました。

キルリア「あ、ちょっと待ってよ!!」

キルリアが駆け寄ろうとしたその時です。

そのポケモンが振り向き、恐ろしい咆哮をあげると、そのまま近くの崖を一っ跳びで飛び越えてどこかへ行ってしまいました。

キルリア「な、なにあのポケモン!せっかく助けてあげたのに!」

モウカザル「ま、まあいいじゃない・・・元気になったみたいだし」

キルリア「うーん・・・そうだね。じゃあそろそろママを探しに行こう!」

さあ、再びお母さん探しの始まりです。




58: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:09:21.32 ID:HGcxxDWk0

キルリア「んー・・・」

モウカザル「キルリア?どうかしたの・・・?」

いつも先頭に立ってモウカザルを引っ張っていくキルリアが、今回はなぜか立ち止まって動きません。

どうしたんでしょう?

キルリア「ここどこ?北ってどっち?!」

そう、キルリアたちはビビヨンたちを追いかけて、方角がわからなくなってしまったのです。

モウカザル「ええ?!わからないの・・・?」

キルリア「うん・・・」

困りました。

サーナイトのテレパシーを感じることができない以上、どっちに進めばいいのかわかりません。

キルリア「迷子になって、ボクたちこのまま帰れないかもぉ・・・」

キルリアはまたモウカザルを脅かすように囁きます。

モウカザル「そ、そんなぁ・・・」

「オッホッホー、おチビさん達、こんな所で何をしておるのかのぉ?」

背後で急に声がしました。




59: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:10:03.92 ID:HGcxxDWk0

モウカザル「ぎゃあああああああ!!!!」
キルリア「ひゃあああああああ!!!!」

突然のことにお互い抱き合い叫ぶ二匹。

「ホッホー、すまん、すまん。そんなに驚くとは思わんでな」

キルリア「ど、どこにいるの?!」

「ここだよ。お前さんら頭の上を見てごらん」

そう言われ、声のしたほうを見上げると、木の枝に一羽のポケモンがとまっています。

そのポケモンは首をくるくると動かしながらこちらを見下ろしていました。

キルリア「何?!ボクたちは食べてもおいしくないよ!!」

「オッホッホ!誰もお前さんらを取って食ったりせんよ」

そのポケモンは頭のてっぺんと顎がひっくり返った状態で笑い声をあげました。

キルリア「じゃあ何?!おじさん誰なの?!」

「わしはヨルノズク。この森で迷ったものの道案内をしておる」

頭をまたくるっと回し、普通の位置に戻しながらそのヨルノズクというポケモンが言いました。

ヨルノズク「どうやらお前さんらは迷子のようだからのぉ。オッホッホ」

キルリア「そ、そうなんだ。なあんだ!びっくりした!じゃあ早速教えて?北ってどっち?!」

ヨルノズク「まあまあ、落ち着きなされ。それより先にそちらの小僧を起こさなくてもよいのかのぉ?ホッホー」

キルリアが隣を見ると、モウカザルはすでに驚いたショックで気を失っていました。




60: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:10:56.46 ID:HGcxxDWk0

気絶したモウカザルをなんとか起こすと、再びヨルノズクに北の方角を訪ねることにしました。

ヨルノズク「ホッホー。お前さんら、なにをしに北へ行くのかのぉ?」

キルリア「ボクたちのママを探しに行くの!」

ヨルノズク「母親をか?それはまたなにゆえかのぉ?」

ヨルノズクは不思議そうに頭をくるくると回転させます。

キルリア「悪いポケモンに連れていかれちゃったの!だから早く探しに行かないと」

ヨルノズク「なんと、それは奇妙な話だのぉ」

どんどん頭を回し、見ているこっちの目が回りそうです。

モウカザル「どういうことです・・・?」

ヨルノズク「数年前の出来事以来、北の大地は今や誰も近寄らぬ枯れ果てた土地になっておる。誰もおるはずないんだがのぉ」

モウカザル「数年前の出来事・・・?」

モウカザルは首をかしげました。

一体数年前に何があったのでしょう。

ヨルノズク「まあお前さんらはまだ子供、知らんで当然かのぉ。そうあれは今から5年程前だったかな・・・」




61: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:11:40.68 ID:HGcxxDWk0

突然、どこからともなくこのポケモン島に巨大な翼をもったポケモンが現れた

そのポケモンは、このポケモン島一緑あふれる北の大地に降り立つとその場のありとあらゆる命を吸い取っていった

大地も、水も、草も木も、そして、ポケモンの命さえも・・・

このままではこのポケモン島のすべての命が奪われてしまう

そうなる前に、この島の戦士たちがそのポケモンを追い払うために北の大地へ集められた

そのポケモンとの死闘は三日三晩続き、そして、ようやくそのポケモンの力を抑えることができた

しかし追い払うことはできず、傷を負ったそのポケモンは自ら繭となり、その地で眠りについたのだ・・・

ヨルノズク「それ以来、あの土地は命が芽吹かず、枯れ果てた土地となってしまった。それに、いつあのポケモンが目を覚ますやもしれんので誰も近づかないんだよ」

キルリア「そんなことが・・・」

モウカザル「あ、あの・・・」

モウカザルはヨルノズクに尋ねます。

その戦士たちはどうなったのかと。

ヨルノズク「わしにもわからん。あの後戦士たちがどうなったのか・・・その姿を見たものは誰もおらんのぉ」




62: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/06(日) 13:13:45.96 ID:HGcxxDWk0

それを聞いて、モウカザルは肩を落としました。

キルリア「どうかしたの?」

モウカザル「僕のお父さん・・・戦士だったんだ」

キルリア「え?!」

モウカザル「お母さんがいつも話してた・・・お父さんは立派な戦士で、凶暴なポケモンを追い払うために今は遠くへ行っているって・・・」

モウカザルはお守りを握りしめ涙を流しました。

キルリア「大丈夫だよ!パパはきっと無事だよ!!」

キルリアはそっとモウカザルの肩に手をかけました。

キルリア「そこへ行けば、パパともママともきっと会えるよ!ね?!」

モウカザル「そう、かなぁ・・・?」

ヨルノズク「可能性はなくはないのぉ。北の大地は誰も近づかぬ不毛の土地。目的はわからんが連れ去ったポケモンを隠すにはうってつけの場所だからのぉ」

ヨルノズクも頭をくるくる回してそう言いました。

モウカザルは涙を拭うと少しだけ希望があるような気がしました。

キルリア「行こう!北の大地へ!!」

ヨルノズク「北の大地へ行くにはこの道をまっすぐ行けばよい」

ヨルノズクが翼を片方広げ、進む方向を教えてくれました。

キルリア「ありがとう!」

モウカザル「ありがとうございます・・・」

ヨルノズク「くれぐれも気を付けるんだぞ。北の大地までの道のりは険しい。それに恐ろしいポケモンが眠っておるんだからのぉ。ホッホー」

そうして、ヨルノズクに見送られながらモウカザル達は再び北の大地へ向かって歩き出しました。



つづく




64: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:41:15.53 ID:iHGSaMmQ0

とある崖の見える丘。

月明かりの中、そのポケモンはずり落ちる自分の皮をつかみながらそろそろと崖を下っていました。

「あそこだな・・・」

その後から小さな姿もついていきます。

崖の下は月明かりがあまり届かないうす暗なところです。

「ズルル!あそこだッグ・・・」

「静かにしろ!逃げちまうだろ!」

「ズル!お前のほうがうるさいッグ!」

言い合いになってしまいました。

すると、崖の下の洞穴からすうっと不気味な黒い影が・・・

ジュペエエエエ!!

「で、でたあああああ!!!!」
「ズ、ズルウウウウウ!!!!」

黒い影に驚き、そのポケモンたちはずり落ちる自分の皮を必死で抑えながら走って逃げていきました。




65: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:42:05.46 ID:iHGSaMmQ0

ヨルノズクと別れ、あれから数日。

サーナイトのテレパシーもたまにしか感じることができず、居場所がなかなかつかめずにいました。

しかし、感じるテレパシーは徐々に強くなってきているのです。

サーナイトが北の方角にいるのは間違いありません。

キルリア「今日はこの前よりずいぶん強く感じるよ!もしかしたら近いのかも!」

キルリアの言葉に、モウカザルも大喜びです。

モウカザル「今日はもう寝るところを探そう」

キルリア「そうだね!この辺は崖も多いし、岩場ばっかりで寝られる場所が少なそう」

ここは岩でできた崖が立ち並ぶだけの少し寂しいところです。

キルリア「ほら見て!崖の下真っ暗!お化けでもでそうだよぉ」

モウカザル「や、やめてよぉ・・・!」

相変わらずモウカザルは怖いのが苦手。

もう崖の下を見れません。


ジュペペペペ・・・!


モウカザル「?!何?!キルリア何か言った?!」




66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/07(月) 20:42:36.56 ID:iHGSaMmQ0

すると急にモウカザルがキルリアに尋ねます。

キルリア「え?何も言ってないよ!風の音じゃないの?」

モウカザル「そうかなぁ・・・?」


ジュペペペペペペ!!


モウカザル「ほら!!今聞こえたよね?!」

キルリア「んー・・・?聞こえないよ。何?ボクはそんなのじゃ怖がらないよぉ?」

モウカザル「違うよ!本当に・・・」

その時でした。

キルリアの肩口に、黒い手が・・・。

モウカザル「ぎゃあああああああ!!!!」

モウカザルは混乱して走り出してしまいました!

大変!

あのまま行くと、崖の下に落っこちてしまいます!

キルリア「モ、モウカザル?どうしたの?!そっちは危ないよ!!」

ダメです!

モウカザルは止まりません!

キルリア「モウカザル!!!」

モウカザル「うわあああぁぁぁ・・・・!!」

モウカザルはそのまま崖から落ちて行ってしまいました!




67: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:43:22.79 ID:iHGSaMmQ0

その頃、崖の下ではポケモンの影が二つ・・・。

「ズキキ!今日こそあいつを捕まえるぞ」

「ズルル!今日こそあいつを捕まえるッグ」

洞穴の前で、二匹のポケモンが何やらコソコソやっています。

「ズキキ!俺から行くぞ」

「ズル!オラから行くッグ!」

ほらほら、また言い合いになっちゃいそう。

「ズキキ!お前は引っ込んでろ!」

「お前が引っ込むッグ!」

言い合ってるけど、ほら、上から何か聞こえるよ。

ぅゎぁぁぁぁああああああ!!!

「ズキ?なんだ?」

「ズル?何ッグ?」

モウカザル「うわああああああ!!」
「うわあああああああ!!」
「ズルウウウウウウウ!!」

上から落ちてきたのはモウカザルでした。

モウカザルは丁度言い争っていた二匹の上にドスン!

「いててててて・・・なんだ?」

「ズルル、隕石ッグ?」

モウカザル「あいたた・・・」

三匹の目があいました。

モウカザル「うわああああ!!おばけええ?!」

目の前に急にあらわれた二匹にモウカザルはまたパニックです。

「ズキキ!なんだこいつ!俺たちはお化けなんかじゃねえ!足もちゃんとあるだろ?」

「ズルル!面白い奴ッグ!」

モウカザル「え?・・・本当だ・・・君たち、誰・・・?」

足があるのを確認して安心したのか、モウカザルは二匹に尋ねます。

「ズキキ!俺はズルズキン!」

「ズルル!オラはズルッグ!」




68: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:44:02.57 ID:iHGSaMmQ0

ズルズキンとズルッグと名乗ったそのポケモンたち。

ズルズキン「お前は何もんなんだ?なんでこんなところにいる?」

ズルズキンはモウカザルに詰め寄りながら聞いてきます。

モウカザル「ぼ、僕は・・・その・・・」

ズルズキン「ああん?まさかお前もこの洞穴のポケモン狙ってるのか?!」

顔をモウカザルに思いっきりくっつけて聞いてきます。

ズルズキン「そうはいかねえぞ!ここのポケモンを任されてんのは俺たちだ!邪魔するんじゃねえ!!」

そういってズルズキンはモウカザルを突き飛ばしました。

乱暴者のポケモンのようです。

ズルッグ「ズルル!そうだッグ!ここのポケモンはオラ達が捕まえることになってるんだッグ!」

モウカザル「どういうこと・・・?捕まえて、どうするの?」

ズルズキン「そんなの北の大地に連れていくに決まってるじゃねえか!」

北の大地?!

モウカザル達の目的地です。

まさかこのポケモンたち、モウカザル達のお母さんをさらったポケモンの仲間なのかも。




69: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:44:44.91 ID:iHGSaMmQ0

ズルッグ「おい兄貴、こいつ何も知らないみたいッグ。あんまり秘密をしゃべらないほうがいいッグ」

モウカザル「ちょっと待って!まさか君たち、いろんなポケモンをさらったりしてない?」

モウカザルはズルズキンたちに詰め寄ります。

ズルズキン「な、なんだお前!そんなのお前に関係ねえだろ!!」

そういってズルズキンはモウカザルに気合パンチを繰り出そうとしています。

「どいて、どいてえええ!!」

すると頭上から叫ぶ声が聞こえ、ズルズキンが見上げようとした瞬間。

ズルズキンは頭に何か降ってきたと気づいたところで気を失ってしまいました。

キルリア「ふんづけちゃった?ごめん、ごめん!でもちゃんとどいてって言ったのに!」

上から落ちてきたのは、モウカザルを追いかけて降ってきたキルリアでした。

キルリア「話はちゃんと聞かせてもらったよ!知ってることは洗いざらい話してもらうからね!ママをどこへやったの?!早く返して!ねえ、ねえ!!」

キルリアはズルズキンを踏みつけると、ズルッグに詰め寄ります。

まくしたてるようなキルリアにズルッグは少したじたじ。




70: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:45:20.40 ID:iHGSaMmQ0

ズルッグ「う、うるさいッグ!お前たちなんなんだッグ!」

キルリア「あなたたちこそ何?!ママをさらって何が目的なの?!」

ズルッグ「お前たちに言うことは何もないッグ!とっとと消えろッグ!」

ズルッグはずり落ちる黄色い皮を首元まで上げながら言いました。

しかし、話は平行線。

キルリア「言ってよ!ママはどこ?!」

ズルッグ「お前のママなんて知らないッグ!」

するとその時でした。

キルリアの頭上に黒い影が現れたのです。

モウカザル「で、でたあああ!!キルリアァアア!!」


ジュペペペペ!


ズルッグはキルリアよりもその影の方に用事があるみたいでした。

ズルッグ「で、出たッグ!兄貴!兄貴ぃ!」

キルリア「出たって何が?!ちょっと聞いてるの?!」

ズルッグ「お前に用はないッグ!」

ズルッグはそういうと皮を引っ張り上げながらキルリアの後ろに回り込みました。




71: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/07(月) 20:47:52.61 ID:iHGSaMmQ0

ズルッグ「兄貴!兄貴!」

ズルズキン「いってえ・・・なんなんだ一体・・・」

ズルズキンが頭を抱えながら起き上がりました。

ズルッグ「兄貴!奴が出たッグ!」

ズルッグが指差した先には黒い影が漂っています。

ズルズキン「ズキキ!今度こそ捕まえてやるぜえ!」

そう言うとズルズキンは影の方に飛び込んでいきます。

キルリア「何あれ?!」

モウカザル「お、おば、おば、おばばばば・・・」

モウカザルはすでに失神寸前。

ズルズキン「ズルッグ!お前は反対に回れ!」

ズルッグ「わかってるッグ!」

二匹はその影を挟み撃ちにしようとしています。

そして二匹が同時に飛び上った瞬間。

黒い影はすうっと薄くなり消えてしまいました。

ズルッグ「ズル!兄貴!どくッグ!」

ズルズキン「お前がどけええ!!」

ズルッグ「ぶつかるッグ!!」

ドカンっと音を立てて二匹は頭からぶつかってしまいました。

ズルズキン「あの野郎・・・舐めやがって!」

その様子を見て、黒い影がその姿を現しました。

今度はしっかりした形になっていきます。

ぬいぐるみのようなその姿。

ゴーストタイプのジュペッタです。




72: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:48:37.26 ID:OlFT1aFn0

ジュペッタ「ジュペペペペ!」

ジュペッタはズルズキンたちを見て面白そうに笑っています。

もしかしたらジュペッタは遊んでいると思っているのかも。

キルリア「かわいい!見てモウカザル!」

しかしモウカザルの反応はありません。

見るとやっぱり気を失っていました。

キルリア「もぉー」

ジュペッタはふわふわ漂いながらこちらを伺っています。

まるで一緒に遊ぼうと言っているみたい。

ズルズキン「くっそぉ・・・」

ズルッグ「完全に遊ばれてるッグ!どうするッグ?!」

ズルズキン「んなことわかってるよ!お前は黙ってろ!このクズック!」

またケンカが始まりました。

ズルッグ「ズル?!兄貴のほうがクズズキンだッグ!」

ズルズキン「何を?!この野郎!」

とうとう掴み合いになてしまいました。

ジュペッタ「ジュペペペ!」

それを見てジュペッタはまた面白そうに笑います。

「お前たちは何をしてるんだ?」

すると、崖の下に冷たい声が響き渡りました。

ズルズキンたちもその声にケンカをやめます。




73: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:50:50.37 ID:OlFT1aFn0

声のしたほうを見ると、コマタナの群れとキリキザンが崖の上から降りてくるところでした。

キルリア「あ、あいつは・・・!!!」

サーナイトをさらっていった張本人。

あいつに聞けばすべてがわかる。

でも、キルリアはあの時の恐怖でなかなか声が出ません。

キリキザン「いつまで待たせるつもりだ?もうあの方はお怒りだぞ」

冷たい目でズルズキンたちをにらみます。

ズルズキン「うるさい!今捕まえようと・・・」

キリキザン「もういい。こいつは俺たちが狩る」

ズルズキン「なんだと?!こいつは俺たちの獲物だ!邪魔するな!」

キリキザン「もういいと言ったんだ、役立たずは引っ込んでろ!」

ズルズキン「この野郎!!」

ついに我慢の限界が来たのか、ズルズキンはキリキザンにとびかかります。

キリキザン「バカが・・・死ね!!」

腕の刃が展開され、ズルズキンよりも早く襲い掛かります。

キリキザン「燕返し!!」

燕返しは鋭い刃で相手を素早く切り裂く技。

ズルズキン「しまっ・・・」

ズルズキンはもうよけることはできません。

ズルッグ「兄貴!!」

すると、ズルズキンの横からズルッグが飛び出します。

そしてずつきでズルズキンを突き飛ばしました。




74: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:52:02.12 ID:OlFT1aFn0

ズルズキン「ズルッグ・・・?!」

ズルッグ「ズル?!!」

ズルッグの体はキリキザンの刃に真っ二つに切り裂かれました。

力ない音で地面にたたきつけられるズルッグの上半身と下半身。

ズルズキン「ズ、ズルッグ・・・?ウソだろ・・・」

キリキザン「足手まといには丁度いい姿だな」

そういうと今度はジュペッタの方をにらみます。

キリキザン「おとなしくつかまれ!!」

そういうと、コマタナたちがいっせいにジュペッタに襲い掛かり、連携の取れた動きで追い詰めていきます。

キリキザン「もう逃げられんぞ、シャドークロー!!」

キリキザンの腕が黒い影のような刃に変わり、追い詰められたジュペッタの体を切り裂きました。

ジュペッタ「ジュ、ジュペェ・・・」

動かなくなったジュペッタをコマタナが覆っていきます。

そして、ジュペッタの体を持って素早く崖を登っていきました。

キリキザンもそのあとを追って崖を超え、その姿が見えなくなりました。




75: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:52:37.75 ID:OlFT1aFn0

キルリア「あぁ・・・また・・・何もできなかった・・・」

キルリアは足が震え、体が震え、ただ立ち尽くすしかありませんでした。

悔しい。

目の前にママを連れ去ったポケモンがいたのに。

怖くて、苦しくて、何もできなかった。

キルリア「ママ・・・ごめん・・・」

キルリアはその場に力なくうなだれました。

もう、涙が出そうです。

オスだから、泣かないって決めていたのに・・・。

キルリア「ぅう・・・」

モウカザル「キルリア・・・」

キルリア「!モウカザル!今頃目が覚めたの?!もう!モウカザルが気絶してるまに、色々あったんだから!!もう本当に色々!」

キルリアは涙をこらえてモウカザルを殴りつけます。

モウカザル「・・・ごめん」

キルリア「ううん・・・ボクこそごめん、なぐっちゃって・・・」

モウカザル「いいよ・・・多分、辛い思いをしたんだろうから・・・肝心な時に、本当にごめん・・・」

そんなこと言われたらまた泣きそうです。

「ウヲォオオ!!」

キルリア「?!」

すると、キルリアとは別の泣き声が響き渡ります。

声がするほうを見ると、ズルズキンが膝をついて泣いていました。




76: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:53:12.99 ID:OlFT1aFn0

ズルズキン「ズルッグ・・・!俺なんかかばいやがって!!バカ野郎・・・なんでだよ・・・」

ズルッグの上半身と下半身を抱きしめ、ズルズキンは涙と血にまみれていました。

ズルズキン「くそ・・・!!くそおおお!!!最後が、喧嘩したままだなんて・・・あんまりだろ・・・」

モウカザル「ひどい・・・なんでこんなことを・・・」

キルリア「許せない・・・あのキリキザン。ボクが絶対に倒してママを連れ戻してやる!!」

ズルズキン「お前ら・・・あいつのところへ行くのか?」

ズルズキンが怒りと悲しみで震える声で尋ねます。

モウカザル「うん・・・僕たちは北の大地を目指しているから・・・」

キルリア「ボクはあいつにママを連れ去られたんだ!絶対に、絶対に許さない!!」

ズルズキン「そうか・・・何を言い出すんだと思うかしれないが、聞いてくれねえか?」

ズルズキンはこちらに向き直り、両手を地面に付きました。

ズルズキン「恥を承知で頼みがある!俺も・・・俺も一緒に付いていかせてもらえねえか?」

ズルズキンの言葉は意外なものでした。

ズルズキン「俺もあいつをぶっとばしてえ!お前らにとったら俺もあいつと同類かもしれねえが・・・それでも、どうか!こいつの仇を打たせてくれねえか・・・!」

ズルズキンは二匹の目の前で土下座しながら頼んでいます。




77: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/08(火) 05:53:42.57 ID:OlFT1aFn0

キルリア「どうしよっかなあ?こいつもあいつらの仲間だったし・・・」

モウカザル「キルリア、そんな言い方・・・いいよ・・・一緒に行こう・・・!」

ズルズキン「ほ、本当か?!」

キルリア「まあモウカザルがそういうなら仕方ないか。それにあいつらのことも詳しく知りたいしね」

モウカザル「うん・・・そうだね・・・君がいれば心強いと思う・・・」

ズルズキンの表情がみるみる明るくなって行きます。

ズルズキン「恩に着る!!これからは何でも言ってくれ!何でもする!モウカザルの旦那とキルリアの姐御!これからよろしくな!」

キルリア「あ、姐御?!ボクはオスだぁあ!!」




78: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 07:59:40.25 ID:bANYs4+r0

崖を登って太陽の光が当たる場所に三匹はズルッグを埋めました。

ズルズキン「もっとマシなところに埋めてやりたかったが・・・」

モウカザル「きっとわかってくれるよ・・・」

ズルズキン「あぁ・・・なんかまいっちまうぜ・・・」

モウカザル「・・・」

しばらく黙祷を捧げた後、三匹はこの場を後にしました。

ズルズキン「すまねえ、俺があいつらについて知っていることはほとんどない。ただ、何かの計画で、ある力を持ったポケモンを集めてるってことだけだ」

モウカザル「計画・・・?ある力・・・?」

キルリア「ボクのママや、モウカザルのママにも特別な力があるってこと?」

モウカザル「その力っていうのは一体・・・」

北の大地へ向かう道中、モウカザルとキルリアはズルズキンから自分の母親をさらった相手について情報を聞き出していました。




79: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:00:27.41 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「どんな力で何に使うのかも分からねえが、とにかくあのジュペッタもなにか特別な力を持っていたらしい」

キルリア「そして集めたポケモンを北の大地に連れて行ってるってこと?」

ズルズキン「ああ。俺も実際に行ったことがあるわけじゃねえが、聞いたところによると何匹ものポケモンがすでにあの地に連れていかれてるらしい」

キルリア「あのキリキザンがそれを命じてるの?!」

ズルズキン「いや、おそらく違う。キリキザンやコマタナも、俺やズルッグも特別な力を持ったポケモンを連れ去るための兵隊に過ぎねえ」

モウカザル「それを命じたやつがほかにいるってこと・・・?」

ズルズキン「そうだ。そいつはヤミカラスを使って色んな悪タイプのポケモンに同じような命令を出しているんだ。でもそいつが何者なのかはわからねえ・・・」

キルリア「でもズルズキンたちは何でそんな怪しい命令に従っちゃうわけ?」

ズルズキン「それなりの見返りがあるんだ」

キルリア「見返り?」

ズルズキン「悪タイプのポケモンって結構いろんなところで忌み嫌われてるんだ。旦那や姐御にはわからねえかもしれねえが・・・」

モウカザル「そんなこと・・・ないよ・・・」

モウカザルはいじめられていたヒコザル時代のことを思い出しました。




80: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:01:01.06 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「でもそのヤミカラスは言った。この計画が成功すれば誰にも何も言われない、誰が忌み嫌うこともない、悪タイプだけの素晴らしい理想郷ができるって」

キルリア「ふううぅうううん。あとボクは姐御じゃないよ」

キルリアはいかにも胡散臭いといった感じでそう言いました。

キルリア「そんなわけわからない言葉にホイホイのって色んなポケモンに迷惑かけるから忌み嫌われちゃうんだよ!」

ズルズキン「姐御の言うとおりだ・・・面目ねえ!」

そういってズルズキンは頭を下げました。

キルリア「姐御じゃないってばあ!!」

モウカザル「他に特別な力を持ったポケモンってどのぐらいいるの・・・?」

ズルズキン「そうだなぁ・・・俺が聞いた話だと、ジュペッタのほかに30匹ほどいるみたいだ」

モウカザル「そんなにいるんだ・・・ねえ、まだ捕まってないポケモンってわかるの?」

ズルズキン「なんでそんなこと聞くんだ?」

モウカザル「捕まる前に、助けられないかなって思って・・・」

ズルズキン「ズキキ!!やっぱり旦那は違うぜ!だがすまねえ、俺みたいな下っ端にそこまでの情報は回ってこねえんだ」

モウカザル「そっか・・・ならいいんだ・・・」

まだ捕まっていないなら事情を話せば何とかなるかもしれないと思ったのですが、そううまくはいかないみたいです。




81: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:01:36.62 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「あ!でも旦那の思いとは違うかもしれねえが、方法がないわけでもないぜ!」

キルリア「どうするの?まさかポケモン島の隅々まで調べて回るっていうんじゃ・・・」

ズルズキン「ズキキ!いいや、もっと簡単な方法だ。まず捕まえたポケモンはその日のうちに北の大地へ行くわけじゃあない。必ず一日はある場所にとどまるんだ」

モウカザル「それから・・・?」

ズルズキン「そこで俺たちみたいな兵隊から、北の大地への運送部隊にポケモンが引き渡される。兵隊はキリキザンみたいな強い奴もいるが、運送部隊は貧弱なポケモンばっかりだったぜ」

キルリア「つまり、兵隊が去って運送部隊だけになったところをボクたちで奇襲するってこと?!」

キルリアは少し目を輝かせて身を乗り出しました。

ズルズキン「そういうこと!そしてその引き渡し場所はここからそう遠くない!それに引き渡し場所さえ潰せれば今後連れ去ったポケモンも北の大地へ送るのをかなり遅らせることができる」

キルリア「その間にボクたちが北の大地へ行って計画をぶっ潰してママを連れ戻せば完璧だね!!」

ズルズキン「ズキキ!さっすが姐御!そういうことだぜ!」

キルリア「こういうのやってみたかったんだあ!」

キルリアとズルズキンはすっかりやる気です。

しかしモウカザルはあまり乗り気ではなさそう。

モウカザル「うまくいくかなぁ・・・」

ズルズキン「旦那!心配しなくても大丈夫だぜ!」

キルリア「そうそう!絶対うまくいくよ!」

二匹に押されてモウカザルも半ば無理やりこの作戦を実行することにしました。

そして・・・。




82: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:02:07.79 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「ここが引き渡し場所だ・・・」

三匹は背の高い草木に囲まれた川のほとりにいました。

対岸には大きな檻のようなものが浮かび、その先にはキバニアが二匹つながれています。

どうやらあのキバニア二匹が運送部隊みたいです。

まだ檻の中にポケモンはいません。

ズルズキン「ここで隠れて見張ろう。檻が出てるってことはもうすぐ連れ去ったポケモンが来るはずだ・・・」

モウカザル「わかった・・・」

キルリア「うう、ドキドキするね!」

キルリアは少しウキウキしながら対岸の様子を見ていました。





83: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:02:46.65 ID:bANYs4+r0

どれぐらい経ったでしょうか?

すっかり夜も更け、月が真上に上っています。

聞こえるのはコロトックとコロボーシの鳴き声だけ。

キルリア「まだかなぁ・・・」

モウカザル「来ないなら来ないに越したことはないけど・・・」

キルリア「それはそうだけど・・・」

キルリアは少し残念そう。

しかしその時。

ズルズキンが二匹の口をふさぐように手を前に出しました。





84: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:03:33.84 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「来たぜ・・・!」

キルリア「っ!!」

モウカザル「・・・!」

三匹は息を殺して対岸の方を凝視します。

すると、対岸の木々の間から黒いポケモンが姿を現しました。

黒いポケモンはあたりの様子をうかがいながらゆっくりと檻の方に歩いていきます。

ズルズキン「あれはヘルガーとデルビルだ・・・」

ヘルガーを先頭に、後ろから四匹のデルビルが現れました。

デルビルたちは後ろを向きながら、何かを口にくわえて引きずっています。

モウカザル「あれは・・・?」

ズルズキン「おそらく捕まったのは、ルカリオだな・・・」

デルビルに引きずられていたのはルカリオ。

どうやらかなり深く傷ついているようです。

ぐったりとして、あちこちから血が出ているのが見えます。




85: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:04:17.51 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「伏せろ・・・!」

急にズルズキンがモウカザルとキルリアの頭を草の中に押し込みました。

よく見ると空にヤミカラスが一羽、対岸の方に飛んでいくのが見えます。

そして檻の上に降り立つと、ここからでは何を言っているのかわかりませんが、ヘルガーと何か話しているようでした。

しばらくヘルガーと話すと、やがてヤミカラスは檻から飛び立ち、北の方角へ飛び去っていきました。

それを見送ると、ヘルガーがデルビルたちに合図し、ルカリオが檻の中に連れ込まれていきます。

ルカリオを運び終えると、ヘルガーとデルビルたちは元来た道を戻っていきました。

ズルズキン「行ったな・・・」

キルリア「もう行くの?!ねえ!」

ズルズキン「まあちょっと待て姐御、まだあいつらがうろうろしてるかもしれないからな」

ズルズキンが対岸をまだ凝視しています。

ズルズキン「あの檻が動き出し、目の前までやってきたら飛び移るぞ」

キルリア「オッケイ!それから次に姐御って言ったらぶっ飛ばすからね」

そうこうしていると、ルカリオを乗せた檻がキバニアに引っ張られて動き出しました。




86: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:04:56.17 ID:bANYs4+r0

ズルズキン「よし、動き出した!」

キルリア「早く来い!早く来い!」

そして、檻が三匹の目の前に流れてきました!

さあ、飛び移るのは今、そう思った時でした。

「やはり鼠が数匹紛れ込んでいたか」

冷たい声が三匹の後ろで聞こえました。

ズルズキン「しまった・・・!ばれてたのか・・・!」

三匹が振り返った先に立っていたのは、先ほどまで対岸にいたヘルガーとデルビルたちでした。

ヘルガー「何を企んでたのか知らんが、俺は鼻が結構利くんでな」

ズルズキン「企みって程のものでもねえ」

そういってズルズキンはモウカザルとキルリアに耳打ちをしました。

ズルズキン「旦那、姐御、俺が奴らの気を引くから旦那と姐御で檻に飛び移ってくれ」

モウカザル「で、でもズルズキンは・・・?!」

ズルズキン「こいつをぶちのめしたらすぐに行く・・・!」

キルリア「・・・わかった。姐御って言った分殴らないといけないからね!」

ズルズキン「ズキキ!そうこなくっちゃ!」





87: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:05:38.17 ID:bANYs4+r0

ヘルガー「何をコソコソしゃべってる?何をしても無駄だ!」

ヘルガーが鋭い牙を覗かせます。

ズルズキン「そうでもねえよ!猫だまし!」

そういうとズルズキンはヘルガーたちの前で両手をパチンっと鳴らしました。

突然のことにヘルガーたちはひるんで行動することができません。

ズルズキン「姐御!旦那!いまだ!」

キルリア「わかった!!行くよモウカザル!!」

モウカザル「え?うわあ、ちょっと!」

キルリアはズルズキンに言われた通りにモウカザルを引っ張って檻に飛び移ります。

ヘルガー「待て貴様ら!!デルビル!やつらをあの檻から引きずりおろせ!」

ヘルガーの命令でデルビルたちも檻にとびかかります。

キルリア「マジカルシャイン!!」

まばゆい光に照らされ、デルビルたちが檻から吹き飛ばされました。

ズルズキン「さっすが姐御!」

ヘルガー「よそ見してていいのか?!」

一瞬のスキをついてヘルガーがズルズキンに襲い掛かります。

ヘルガー「炎のキバ!!」

ズルズキン「とび膝蹴り!!」

激しくぶつかり合うズルズキンとヘルガー。




88: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:06:14.37 ID:bANYs4+r0

モウカザル「ズルズキン、大丈夫かな・・・?」

キルリア「大丈夫だよ、それよりボクたちは早くルカリオを助けよう!」

ズルズキンも気になりますが、ここに来た目的を忘れてはいけません。

キルリア「壊せるかな?」

モウカザル「・・・やってみる」

そういうとモウカザルは拳を握ります。

モウカザル「インファイト・・・!!」

モウカザルは拳に力を集中させ、檻の扉を殴りつけました。

攻撃がやむと、鉄でできた檻の扉はぐしゃぐしゃにひしゃげてルカリオが出られるほどの穴が開いています。

キルリア「今の技すっごい!!モウカザルこんなことできたんだ!!」

モウカザル「・・・うん。僕もびっくり・・・」

自分の力に、モウカザル自身も驚きました。

進化して、まだまだ自分の知らない力が眠っているようです。

キルリア(うわぁ!憧れちゃうなあ!)

キルリア「さあ、ルカリオを助けよう!」

モウカザル「うん・・・」

二匹は、今の攻撃で空いた穴から檻の中へ入りました。




89: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:06:48.47 ID:bANYs4+r0

中では傷だらけのルカリオが両腕を鎖で繋がれ床に倒れこんでいます。

モウカザル「ルカリオ・・・!」

キルリア「癒しの波動で回復しないと・・・!」

二匹がルカリオに近づいたその瞬間。

ルカリオ「グオォォオオ!!」

ルカリオは鋭い牙をむき出しにして二匹に襲い掛かろうとしてきました。

モウカザル「や、やめてルカリオ・・・!」

キルリア「ボクたちはルカリオを助けに来たんだよ!」

ルカリオ「ガルゥウウ!!」

まだ唸り声をあげてこちらをにらんできます。

「ぐあああああ!!」

すると、岸の方でズルズキンの叫びが聞こえました。

見ると、ヘルガーや復活したデルビルたちに囲まれ苦戦しているズルズキンが見えます。

モウカザル「大変だ・・・!あっちも早く助けないと・・・!」

キルリア「お願いルカリオ!大人しくして!ボクたちは君の味方だってば!」

どうやらこのルカリオは混乱しているようです。

暴れてキルリアの言葉を聞いていません。

もし鎖でつながれていなかったら、今頃襲われていたでしょう。




90: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:07:21.99 ID:bANYs4+r0

モウカザル「仕方ない・・・ごめんルカリオ!」

そういうと、モウカザルは尻尾の炎を渦巻かせて体にまといました。

モウカザル「火炎車!」

そして炎をまとったまま体当たりでルカリオに飛び込んでいきます。

ルカリオ「ガルァアアア!!!」

しかしルカリオは燃えるモウカザルをものともせず、その腕にかみつきました。

モウカザル「うぐっ・・・!!」

ミシミシとルカリオの牙がモウカザルの腕に食い込んでいきます。

モウカザル「捕まえた・・・!」

モウカザルは腕にかみつかれたまま、残された腕と両足でルカリオの体を押さえつけました。

でもものすごい力でモウカザルを振りほどこうとしています。

かみつかれた腕も今にも食いちぎられてしまいそう。

モウカザル「キル・・・リア・・・!」

キルリア「わかってるよ!癒しの波動!!」

キルリアは動きの封じられたルカリオに手をかざし、癒しの波動を放ちます。




91: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:08:01.91 ID:bANYs4+r0

キルリア「もう少し我慢して!大丈夫!怖がらないで、ルカリオ!」

ルカリオに話しかけながら傷を癒すキルリア。

檻の外ではズルズキンのやられる声が響きます。

モウカザル「まだ・・・なの・・・?!」

モウカザルのルカリオを抑えつける力はもう限界。

かみつかれた腕も、骨が砕けすでに感覚がなくなっています。

キルリア「もうちょっと!!耐えて・・・モウカザル・・・!」

キルリアも持てる力をすべて使ってルカリオの傷を癒します。

ルカリオ「ガルアアア!!」

しかしルカリオが咆哮をあげた瞬間、青い煙のようなものが吹き出しキルリアを弾き飛ばしました。

これはルカリオの波動。

とても強力な力を持っています。

キルリア「うぐぅ・・・」

波動を受けたキルリアは大ダメージを受けてしまいました。

モウカザル「も、もう・・・ダメ・・・だ・・・」

キルリア「うぐぅ・・・ボクも・・・もう限界・・・」

二匹に、もう押さえつける力も癒しの波動を打つ力も残されていません。

このままズルズキンも敗れ、ヘルガーたちが自分たちを殺しに来るでしょう。

モウカザル(ここで、終わり・・・か・・・助けられなかった・・・ルカリオも、ズルズキンも・・・お母さんも・・・)

キルリア(ママ・・・ごめん・・・体が動かない・・・ボク、もうダメみたい・・・)




92: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:08:43.04 ID:bANYs4+r0

二匹の意識が遠く向こうの景色に吸い込まれていく・・・。

それになんだか暖かい・・・。

暖かくて血行が良くなりすぎて、体中かゆい・・・。

あれ?

二匹の意識ははっきりしています。

感覚がなくなっていた腕も、波動を受けた体もすっかり元通り。

モウカザル「腕が・・・なんともない・・・」

キルリア「体が軽い!」

ガシャンっと金属が床に落ちる音がしました。

なんの音でしょう。

二匹が振り返ると、そこには鎖から解放されたルカリオが立っていたのです。

モウカザルが炎を燃え上がらせ、戦闘態勢に入ります。

しかし、ルカリオはそのまっすぐな瞳でモウカザルを見つめました。

ルカリオ「お前たちの波動、感じさせてもらった」

するとそう言ってルカリオは頭を下げました。

モウカザル「混乱が解けたんだね・・・!」

ルカリオ「ああ、迷惑をかけた、すまない。助けてくれた礼を言おう」

キルリアたちのおかげでルカリオは混乱が解け、怪我も治ったみたいです。




93: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:09:24.41 ID:bANYs4+r0

モウカザル「もしかして僕たちの怪我は・・・」

ルカリオ「私の癒しの波動だ」

ルカリオは波動ポケモン。

あらゆる波動を操り、その波動で相手の行動や感情を読み取ることもできるポケモンです。

キルリア「すごい!他にどんな波動が打てるの?!」

モウカザル「それより、早くズルズキンを助けに行かないと!」

ルカリオ「いや、その前にこいつらを片付けないとな」

そう言ってルカリオは両手を突き出します。

その先には二匹のキバニアが水面から飛び出し、こちらに襲い掛かってくるところでした。

ルカリオ「竜の波動!!」

ルカリオの拳に渦巻く波動が現れ、それがまるで竜のように空中を翔けると二匹のキバニアの体を貫きました。

モウカザル「すごい・・・!」

ルカリオ「さあ、ゆくぞ」

檻を飛び越え、川のほとりへルカリオが降り立ちました。

ズルズキンがヘルガーの足元で倒れこんでいます。




94: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:10:12.96 ID:bANYs4+r0

ヘルガー「ルカリオ・・・ちっ、あのガキどもめ・・・!デルビル!奴をもう一度捕まえろ!」

ヘルガーの命令でデルビルたちがいっせいにルカリオにとびかかります。

しかしルカリオはまるでデルビルの動きがわかるかのように、すべての攻撃をかわしました。

ヘルガー「みきりか・・・。しかしいつまでもつかな?!」

体勢を立て直したデルビルたちが再びルカリオを襲います。

「マジカルシャイン!!」

しかし今度はまばゆい光がデルビルを吹き飛ばしました。

キルリアとモウカザルもほとりへ戻ってきたのです。

ヘルガー「デルビル・・・!!」

デルビルはすっかり瀕死の状態で動かなくなりました。

ズルズキン「ズキキ!よそ見してていいのか?!」

ヘルガーの足元でズルズキンがそういうと、固く握った拳をヘルガーのお腹に突き立てます。

ズルズキン「気合パンチ!!」

ヘルガー「ぐほおお!!!まだ、生きていたのか・・・?!」

ヘルガーは吹き飛ばされ、その体は大木の幹にたたきつけられました。

ズルズキン「俺の皮は厚いんだよ!お前らみたいなやつの攻撃なんてへっちゃらだぜぇ!」

そういってズルズキンはずり落ちる皮を首元まで引き上げました。

ヘルガー「貴様ら・・・許さんぞ!」





95: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:10:49.83 ID:bANYs4+r0

すると、ヘルガーの体から邪悪な光があふれ、その体を包んでいきます。

ズルズキン「なんだこりゃあ?!」

ルカリオ「これは・・・まさか・・・!」

キルリア「なんか嫌な感じがする!」

モウカザル「一体何が・・・?」

ヘルガーからあふれる邪悪な光がどんどん強くなっていきます。

しかし、そこへ先ほどのヤミカラスが現れました。

ヤミカラスは一声鳴くと、ヘルガーの頭へ降り立ちます。

ヘルガー「ヤミカラス・・・!」

やがてヘルガーからあふれた邪悪な光は徐々に収まっていきました。

そしてなにやらヤミカラスがヘルガーに囁いています。

ヘルガー「ちっ・・・わかった・・・」

ヘルガーが苦虫を潰したような顔を浮かべると、ヤミカラスが翼を広げます。

すると黒い霧が立ち込め、あたりは真っ暗。

ルカリオ「竜の波動!!」

渦巻く波動で黒い霧を吹き飛ばすと、周りにはヘルガーはおろか、デルビルも、ヤミカラスも、キバニアたちやあの檻すらもなくなって、初めから何もなかったかのような静寂だけが残されたのでした。




96: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:11:26.68 ID:bANYs4+r0

静けさを取り戻した川原で、モウカザルたち三匹はルカリオにことの成り行きを説明していました。

ルカリオ「つまり私は、何かに利用されようとしていた、というわけか」

ルカリオが自分の拳を眺めながらつぶやきます。

ルカリオ「・・・私も、北の大地に行くことにしよう。私を利用しようとするとは、許せん」

モウカザル「本当に・・・?」

キルリア「一緒に来てくれるの?!」

ズルズキン「すげえ味方だぜ!」

ルカリオの言葉に三匹は大喜び。

ルカリオ「いや、すまないが私はこれからやらなければならないことがある。だから一緒に行くことはできない」

キルリア「えー!なんだぁ・・・」

キルリアはがっくりと肩を落とします。




97: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/12(土) 08:12:07.53 ID:bANYs4+r0

ルカリオ「しかし、それが終わればすぐに北の大地へ向かう」

キルリア「多分ルカリオが来る前に全部終わってるよ!」

モウカザル「それは言いすぎだよ、キルリア・・・」

ルカリオ「うむ、そうなっていることを願おう。では、私はそろそろ行かせてもらうぞ!」

ルカリオは少し笑みを浮かべると、一っ跳びで向こう岸へ跳び移ります。

ズルズキン「気をつけてな!俺たちは先に北の大地で待ってるぜ!」

ルカリオ「ああ。お前たちも気を付けろよ、あいつらはどんな手段でも使ってくる。油断するな」

そういってルカリオは一瞬で三匹の目の前からいなくなりました。

モウカザル「さあ、僕らは北の大地へ急ごう・・・」

そして、三匹は再び北の大地へ向かうのでした。



つづく




98: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:51:30.78 ID:3gpYRlk40

サーナイトのテレパシーを頼りに、北を目指すモウカザル達。

北の大地へ続く道を進むにつれ、空からは真っ白な雪が降り出しました。

冬のように寒く、目の前にそびえたつ大きな山には雪が積もっています。

ここはポケモン島で一番温度が低く、雪と氷に包まれた場所。

キルリア「寒いよぉ!」

キルリアはモウカザルの尻尾の炎に体を寄せながら体を震わせました。

モウカザル「そうかな・・・?」

ズルズキン「姐御は寒がりなんだなあ」

モウカザルとズルズキンはあまり寒さを感じていないようです。

キルリア「モウカザルは炎タイプだし、ズルズキンはその黄色い皮のおかげでしょ?!ボクには何もないんだから!」

ズルズキン「なんならここに入るかい?暖かいぜ?」

そう言ってブカブカの皮を広げます。

キルリア「嫌だよそんなの!何でオス同士でそんなことしなきゃならないの!メスでも嫌だけど!」

ズルズキン「そっかあ?というか俺は姐御がオスだなんて未だに信じられないぜ」

キルリア「うぅ・・・!」

キルリアは顔を真っ赤にしてズルズキンをにらみつけました。

ズルズキン「ズキキ!悪い、悪い!」

ズルズキンはそう言うと意地悪そうに笑いました。




99: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:52:08.79 ID:3gpYRlk40

モウカザル「キルリア、ズルズキン、あれ見て!」

すると、モウカザルが山の麓を指さしました。

見ると村のようなものが見えます。

しかし、何やら様子がおかしいみたい。

何やら黒い煙が立ち上っているのです。

モウカザル「行ってみよう・・・!」

三匹が村にたどり着くと、村の建物のほとんどが崩れ落ち、あちこちで火がくすぶっています。

モウカザル「これは・・・!」

モウカザルはその光景に声を失いました。

この光景を、彼は嫌というほど知っているからです。

「かかれ!冷凍ビーム!!」

三匹の頭上から声がすると、どこからともなく冷気を帯びた光線が放たれました。




100: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:52:36.98 ID:3gpYRlk40

ズルズキン「なんだいきなり!?」

あちこちからやむことなく放たれる何発もの冷凍ビームが三匹を襲います。

冷凍ビームが当たった場所からは白い冷気が上がり、氷の結晶が出来上がっていました。

キルリア「なんなの?!」

ズルズキン「誰だ!何で俺たちを襲いやがる!!」

三匹は物陰に隠れ、冷凍ビームをかわしながら叫びます。

「うるさい!お前達もあいつらの仲間だろう!!今度は何をしに来た!!」

頭上の声が叫びます。

モウカザル「あいつらってまさか・・・!」

「ここで氷漬けにされるか、さらったポケモンをおとなしく返すか二つに一つだ!」

キルリア「ここのポケモンも誰かさらわれたんだ!」

どうやらこの村のポケモンもさらわれたようです。




101: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:53:28.06 ID:3gpYRlk40

ズルズキン「おい!勘違いだ!俺たちはそいつらの仲間じゃ・・・いあ、まあ俺は仲間みたいなもんだったけど、今は違うっていうか、なんていうか・・・」

キルリア「ややこしくなるからズルズキンは黙ってて!」

モウカザル「キルリア、危ないよ・・・!!」

キルリアは冷凍ビームのあらしを潜り抜けて村の真ん中に飛び出していきます。

キルリア「聞いて!ボクたちもそいつらを追ってるんだ!だから攻撃しないで!」

「そんなの信じられるか!!」

そういうと、何発もの冷凍ビームが一斉にキルリアに向かいました。

モウカザル「キルリア!!」

冷凍ビームが降り止むと、そこには氷漬けになったキルリアの姿が・・・。

「あと、二匹だ!」

モウカザル「やめてください!本当に僕らはあいつらの仲間じゃないんです!僕とこのキルリアはお母さんをさらわれ、そしてズルズキンは仲間を殺されました!だから今、あいつらを追って北の大地に向かっているんです!信じてください!」

あまり大声を出さないモウカザルが、氷漬けになったキルリアの前に飛び出し、頭上の声に向かって叫びました。

ズルズキン「旦那・・・」

すると、モウカザルの頭上にある崖の岩場から数匹のポケモンが顔を出しました。

「本当、なのか・・・?」





102: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:54:10.13 ID:3gpYRlk40

モウカザル「本当です・・・それに僕の住んでいた村も、ここと同じようにめちゃくちゃにされました・・・」

モウカザルは村の光景を思い出し、泣きそうです。

「そうだったのか・・・すまない。早とちりしてしまったようだ・・・。早くそのキルリアの氷を溶かしてあげないと!」

モウカザルは尻尾の炎で氷を溶かすと、崖から降りてきたポケモンたちの一体が木の実を差し出しました。

「これはナナシの実だ。これを食べるといい」

凍えきったキルリアがその木の実を口にすると、たちまち寒さがなくなり、元気になりました。

モウカザル「一体、この村で何が起きたんですか・・・?」

彼は自分をツンベアーだと言いました。

ツンベアーはこの村で起こった出来事を話してくれました。

ツンベアー「ここは氷結の村と呼ばれている。ご覧の通り、氷タイプが多く住むところでね」

崖の上にはイノムー、デリバードやバイバニラ、村の真ん中の池にはラプラスやジュゴン、トドグラーなどのポケモンが顔を覗かせています。

ツンベアー「そしてここにはニューラにマニューラというポケモンも暮していたんだが・・・」

ツンベアーはそういうと、どこか悲しげな表情を浮かべました。

ツンベアー「あいつらは、私たちを裏切って、ユキノオーとオニゴーリを連れ去っていったんだ!」

モウカザル「そんな・・・」

ズルズキン「ニューラとマニューラも悪タイプのポケモンだ。きっとヤミカラスの伝言を聞いたんだろうぜ」

モウカザル「じゃあその二匹が村もこんな風に・・・?」

モウカザルは荒れ果てた村を見渡しながら言いました。




103: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:54:36.06 ID:3gpYRlk40

ツンベアー「いや・・・マニューラたちがユキノオーとオニゴーリを連れ去った直後に別のポケモンたちがやってきて、そいつらが村を滅茶苦茶にしたんだ。」

モウカザル「そのポケモンって・・・?」

ツンベアー「コマタナの群れに、キリキザンというポケモンだ。危うく村のポケモンを全滅させられるところだった・・・」

キルリア「キリキザン!!」

ズルズキン「あの野郎・・・!!」

キリキザンという名前に、二匹は怒りがこみあげてきます。

キルリア「ボクのママもそのキリキザンに連れ去られたんだ!」

ズルズキン「ズルッグも、あいつに殺された・・・」

ツンベアー「そうか・・・」

キルリア「あいつだけは絶対にボクがこの手で倒してやる!」

ズルズキン「いや、姐御!あいつは俺が倒すんだ!」

キルリア「ボクだよ!」

ズルズキン「無理だ!姐御には悪いがあいつと姐御は相性が悪るすぎるぜ!」

ズルズキンの言葉に、キルリアは一瞬動揺したように見えました。




104: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:55:15.42 ID:3gpYRlk40

キルリア「そ、そんなことない!ボクには悪タイプに強いマジカルシャインがあるもん!!」

ズルズキン「あいつにはそれだけじゃ勝てねえんだ!」

キルリア「わ、わかるもんか!だってこれまでだって・・・」

確かにバルジーナなどの悪ポケモンにマジカルシャインで圧倒したことはありました。

しかし、キリキザンに対しては何もできていません。

それに、あのサーナイトですら歯が立ちませんでした。

あの時サーナイトはフェアリー最強技のムーンフォースまで使っていたはずです。

でも大した効果があったとは言えません。

「話は聞かせてもらった」

すると、キルリアとズルズキンの会話に割って入る声が聞こえました。

ツンベアー「マンムーさん!」

いつからいたのかわかりませんが、長い体毛に覆われた大きなポケモンがそこに立っていました。




105: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:56:07.04 ID:3gpYRlk40

モウカザル「マンムー・・・さん・・・?」

ツンベアー「この村の村長だよ。マンムーさんのおかげでこの氷結の村のポケモンは全滅せずに済んだんだ」

マンムー「お嬢さん、見たところお主はキルリア・・・エスパーとフェアリータイプのようじゃが・・・」

マンムーが巨体を近づけながらキルリアにそう言いました。

キルリア「そうだけど、ボクはお嬢さんじゃない!オスだよ、オス!」

マンムー「それは失敬。対してキリキザンは悪タイプじゃが、鋼タイプも併せ持っておるのを知っとるかな?」

キルリア「鋼、タイプ・・・?」

マンムー「そうじゃ。鋼タイプはフェアリータイプに強いんじゃ。逆に弱点は、炎タイプにわしの併せ持つ地面タイプ、そしてそこにおるモウカザルやズルズキンの併せ持つ、格闘タイプじゃ」

マンムーはゆっくりとした口調で、しかしはっきりとそう言いました。

マンムー「それに悪タイプはエスパー技を無効化する。お主には天敵と言って差し支えない」

キルリア「そ、そんなこと・・・!」

しかしそのあとの言葉が続きません。

きっとそれは自分でもどこかで気づいていたからかもしれません。

自分はキリキザンには勝てないということを。




106: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:56:39.58 ID:3gpYRlk40

キルリア「ボクだって・・・」

キルリアはうつむいて肩を震わせています。

モウカザル「キルリア・・・」

キルリア「攻撃が通じないからって・・・勝てないわけじゃ・・・」

マンムー「いや、お主は勝てん。そこのモウカザルとズルズキンに任せるしかあるまい」

ツンベアー「マ、マンムーさん・・・」

ツンベアーも見かねて声をあげますが、それ以上は何も言えませんでした。

キルリア「うぅ・・・」

泣かない!

泣かないぞ!

ボクはオスなんだ!

あいつを倒してママを助けるんだ!

ママを助けるのはボクなんだ!

ボクなんだから・・・。

涙がでました。

悔しかった。

自分にはキリキザンと戦うすべがない。

きっと戦闘経験と悪技と鋼技で返り討ちにあってしまうだろう。

そんなことはわかっています。

だから、悔しい。




107: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:57:08.67 ID:3gpYRlk40

キルリア「うぅ・・・!!悔しい!ボクもあいつと戦える力がほしいよ!悔しいよぉ・・・!」

モウカザル「キルリア・・・」

ズルズキン「姐御・・・」

キルリアは泣き崩れました。

そんな彼を前に、モウカザルもズルズキンもかける言葉がみつかりません。

マンムー「その言葉は本当か?」

すると、マンムーがまたゆっくりと優しくささやきます。

マンムー「本当にあのキリキザンと戦える力がほしいか?」

キルリア「うん!ほしい・・・!あいつと戦える力が!!」

キルリアはあふれる涙を拭いながらマンムーに答えます。

マンムー「なら、方法がないわけではないぞ」

マンムーの言葉に、キルリアの涙が止まりました。

キルリア「ほ、本当に?!」

マンムー「通常なら不可能じゃが、ある方法を使えばお主に新しい力が目覚める可能性が一つだけある」

キルリア「何?!早く教えて!!」

答えを急くようにキルリアはマンムーの方へ身を乗り出します。




108: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:57:58.65 ID:3gpYRlk40

マンムー「まあそう急ぐでない。まずはこの山の天辺へ向かうといい。そこでユキメノコというポケモンに会うのじゃ」

ツンベアー「ユキメノコに?!そんな・・・まさか・・・!」

マンムー「そこであやつはお主に必要な力のありかを教えてくれるじゃろう」

ツンベアー「あそこは危険です!私たちでさえたどり着けるかどうか・・・!」

マンムー「ツンベアーはこう言っておるがどうする?」

マンムーはキルリアを試しているかのように聞いてきます。

キルリア「行くよ!何があっても絶対行く!」

キルリアはすでに山の方へ体を向けています。

マンムー「だそうだ。さあツンベアーよ、オボンの実とナナシの実をありったけ集めてくるのじゃ」

ツンベアー「・・・わかりました」

そういうとツンベアーは急いで木の実をかき集めてきてくれました。

ツンベアー「あの山は山頂に近づくにつれ吹雪が強くなって視界が悪くなり、切り立った崖も多い。十分に気を付けるんだよ?油断すると谷底へ真っ逆さまだからね」

キルリア「わかった!」

ツンベアーから防寒用のマントと沢山のオボンの実とナナシの実を受け取りながら答えます。

マンムー「それは伸びたわしの毛を切って作ったマントじゃ。寒さは感じん」

キルリア「ありがとう」

マンムー「山頂に洞穴がある。ユキメノコはそこにおるじゃろう」

キルリア「わかったよ。じゃあモウカザル、ズルズキンすぐ戻ってくるからね!」

そういってキルリアは駆け出します。




109: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:58:29.73 ID:3gpYRlk40

モウカザル「何言ってるの?!」

ズルズキン「そうだぜ姐御!俺たちを置いていくのか?!」

キルリア「だって危ないんだよ?全員崖に落ちたら誰がママを助けに行くの?」

モウカザル「落ちないよ。皆でユキメノコに会って、そして北の大地でお母さんを助けるんだ!」

ズルズキン「そうだぜ!俺はどこへだってついていくつもりでここまで来たんだ!」

キルリア「モウカザル、ズルズキン・・・」

キルリアはまた涙があふれてきました。

でも、もう大丈夫。

キルリア「ありがとう!」

そして、三匹はマンムーたちに見送られユキメノコのいる山頂へ向かって走り出しました。

キルリア「でもズルズキンは姐御って言ったから崖から突きおとしてやる!!」

ズルズキン「そ、そりゃないぜ、姐御ー!!」







110: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:59:14.47 ID:3gpYRlk40


想像以上の吹雪です。

山を半分ほど登ったところですでに目の前は吹き荒れる雪で真っ白。

足元すら見にくい状態です。

幸いマンムーの毛でできたマントのおかげで寒さは感じませんでした。

ズルズキン「旦那!姐御!いるかい?!」

モウカザル「いるよ・・・!」

キルリア「はいはーい!」

三匹はそれぞれ紐を体に括り付け、バラバラにならないようにしています。

そしてそれぞれが定期的に声掛けをしてはぐれていないか確認していました。

時には吹雪をしのげそうな岩場でオボンの実を食べて体力を回復したりもしました。

もうずいぶん登った気がします。

山頂はあとどのくらいでしょうか?

モウカザル「なんだか暗くなってきた。今日はもう登るのをやめよう・・・」

吹雪をしのげそうな岩場の影でモウカザルがマントの雪を落としながら言いました。

ズルズキン「確かに夜動くのは危険だからな」

吹雪の量は変わりませんが、暗くなっているのははっきりとわかります。

今日はここで朝が来るのを待つことにしました。

モウカザル「僕の炎を囲って寝よう。ちょっとでも体温を逃がさないようにするんだ・・・」

そしてモウカザルを囲んで三匹の内、一匹は起きて変わりばんこに寄り添うように眠ることにしました。




111: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 15:59:42.58 ID:3gpYRlk40

翌朝。

モウカザルの炎とマンムーのマントのおかげで、どうやら寝ている間に凍え死ぬことはなかったようです。

モウカザル「よし・・・行こう・・・」

準備を整えて再び山頂をめざし出発です。

吹雪はさらに強さを増して、もう何も見えません。

明るい真っ白な世界です。

やがて三匹の口数も減り、聞こえるのは風が吹き荒れ、雪が吹雪く音だけ。

その時でした。

足元から何やら振動が伝わってきます。

ズルズキン「なんだ?!地震か?!」

振動は徐々に弱くなり、やがてまた吹雪の音が響くだけ。

ズルズキン「収まった、のか・・・?」

しかし今度は体に巻き付けていた紐が強く引っ張られ、どんどん引きずられていきます。

ズルズキン「ズキ?!なんだ?!どうした?!」

モウカザル「あ、足場が・・・!!」

ズルズキンから少し離れたところでモウカザルの声が聞こえますが、視界はただ雪が映るだけです。




112: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:00:11.19 ID:3gpYRlk40

ズルズキン「旦那!どうしたんだ?!」

モウカザル「足場が崩れる・・・!!」

キルリア「どうなってるの?!落っこちちゃうよ!!」

どうやらモウカザルやキルリアの足場が崩れ、引きずられているようです。

ズルズキン「なんとか、耐えろ!旦那!姐御!」

モウカザル「す、滑り落ちる・・・!!」

その時ズルズキンは気が付きました。

自分たちが滑り落ちているのではなく、自分たちが立っている足場が滑り落ちているということに。

ズルズキン「そ、そうか・・・さっきのは地震じゃなくて、雪が崩れた振動だったんだ!!これは・・・雪崩だ・・・!」

ズルズキンたちは雪崩に巻き込まれていたのです。

自分たちが雪と一緒に崩れ落ちていきます。

モウカザル「ダメだ・・・!!飲み込まれる・・・!!」

やがて崩れた雪はモウカザル達を飲み込み、大きな音を立てて崩れ落ちていきました・・・。






113: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:00:40.34 ID:3gpYRlk40

・・・リア

・・ルリア

目を・・・して・・・ルリア

目を覚まして・・・キルリア・・・!

キルリア!

キルリア「ママ?!」

キルリアが目を覚ますとそこは透明な氷柱が張り廻らされた開けた場所でした。

確か吹雪の中、雪崩に巻き込まれたはず。

でもさっきまでの吹雪も雪崩も嘘のように止んでいます。

キルリア「ここはどこ?すっごく綺麗!!」

透明な氷柱は見る角度によって違う光を反射して様々な色に変化して見えます。

とっても不思議な空間です。

キルリア「あれ?モウカザル?ズルズキン?」

しかしその空間にモウカザルとズルズキンの姿は見当たりません。

体に結んでいた紐はすでに外れています。

キルリア「どこなの?!モウカザル!ズルズキン!」

何度呼びかけても二匹からの返事はありません。

さっきの雪崩ではぐれてしまったのでしょうか。

「どうしたのかえ?」





114: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:01:09.93 ID:3gpYRlk40

するとキルリアの後ろで声がしました。

ぶるっと凍えてしまいそうな氷のように冷たい声です。

キルリア「あ、あなたは?」

突然の声に少し驚きましたが、キルリアは強気な子。

突然現れたそのポケモンに名前を訪ねてみました。

すると・・・。

キルリア「あれ?」

振り返った先には誰もいません。

おかしいな、と首を傾けると再び後ろから声がします。

「こっち、こっち」

声のしたほうを振り返ります。

すると今度はさっきまでなかった一本道が続いていました。

どこまでも続いていそうな一本道。

先が見えません。

キルリアはこの先を進まなければならないような気がしました。

この先に、求めていたものがあるような。

自分の中の何かがこの先にあるものを求めているような。

キルリアはこの一本道に迷うことなく足を踏み入れました。




115: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:01:45.61 ID:3gpYRlk40

周りは一面氷で覆われた一本道。

こっち、こっち

一本道を進むにつれてその声も大きくなっていきます。

やがて、丸く開けた場所に辿りつきました。

氷でできた分厚い壁が周りを囲っています。

その真ん中に何か白くふわふわと漂うものがあります。

「よくきたねぇ」

その白い何かがキルリアの到着を待っていたかのようにくるりとこちらに向き直りました。

キルリア「あなたは、もしかして・・・」

「おほほ・・・私はユキメノコ」

白い体をふわふわと漂わせ、そのポケモンは妖しげな笑みを浮かべています。

キルリア「やっぱりあなたはユキメノコ!!ねえ、ボクはあなたに会いにきたんだ!」

ユキメノコ「ほぉ・・・」

キルリア「ボクが強くなるために必要な力のありかを教えて!」

ユキメノコ「おほほ・・・」

しかしユキメノコは妖しく笑うだけ。

キルリア「ボクたちはその為にここへ来たんだ!はやく教えて!」

キルリアの声が少しずつ大きくなっていきます。

ユキメノコ「ボク、達・・・?どうやら其方は一匹にしか見えんが」

キルリア「さっきまではモウカザルとズルズキンがいたんだけど、雪崩に巻き込まれてはぐれちゃったんだ。早く探しに行かないと」

二匹は無事なんでしょうか。

とても心配。

早く必要な力を手に入れて探しに行かなければ!




116: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:02:20.63 ID:3gpYRlk40

ユキメノコ「其の者らは其方にとって大切かえ?」

ユキメノコが笑みを浮かべたままキルリアに尋ねます。

キルリア「もちろん!大切な友達だよ!モウカザル達がいなかったらボクはここまで来れてないよ!だから早く探しに行かないといけないんだ!だから早く力のありかを教えて!」

ユキメノコ「ほぉ・・・。ならこれをご覧」

そう言ってユキメノコは腕をひらりと翻し、後方を指さしました。

ユキメノコがさした先に二つの空洞が現れました。

ユキメノコ「其方はどちらが大切かえ?」

キルリア「え?」

キルリアには質問の意味がよくわかりませんでした。

ユキメノコ「この分かれ道、右の道には其方の望む力がある・・・。もう片方には」

「其方の大切な友達がおる」

キルリア「モウカザルとズルズキンが?!」

これはついています!

この分かれ道の先には強くなるために必要な力と二匹が待っています。

キルリア「教えてくれてありがとう!」

そういうとキルリアは分かれ道に向かって駆け出しました。

ユキメノコ「待ちなされ」




117: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:03:05.06 ID:3gpYRlk40

しかしユキメノコがそれを制止します。

キルリア「何?ボク急いでるんだってば!」

ユキメノコ「おほほ・・・。この別れ道は片方を選べば片方は消えてしまう」

キルリア「え?それって・・・」

ユキメノコ「そう、どちらか片方しか通れぬ。さあ、其方はどちらの道を選ぶ?」

なんということでしょうか。

どちらかを選べばどちらかは手に入らない。

ユキメノコ「そう簡単に力が手に入ると思っていたのかえ?おほほ・・・」

ふわふわとキルリアの周りを漂うユキメノコ。

キルリア「・・・」

キルリアは二つの空洞を見つめます。

ユキメノコ「さあ、其方はどちらの道を選ぶのかえぇ?」

キルリア「そんなの決まってるよ!!」

そういってキルリアが向かったのは・・・。






118: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:04:06.24 ID:3gpYRlk40

氷でできた空洞をキルリアは駆け抜けます。

この先に自分が望んだものがある。

空洞を抜けたその先に待っていたのは・・・。

キルリア「モウカザル!ズルズキン!」

氷漬けになったモウカザルとズルズキン。

キルリア「大変!!早く溶かさないと!」

そういうや否や、二匹を包んでいた氷は強い光を放つと小さな結晶となって消えていきました。

モウカザル「う・・・」

ズルズキン「雪崩にのまれるうううう・・・あれ?」

キルリア「良かったあああ!!」

キルリアが二匹に飛びつきました。

ズルズキン「あ、姐御!どうしたんだよ?!」

モウカザル「な、何があったの・・・?」

キルリア「心配したんだから!!」

キルリアは二匹をぎゅっと抱きしめました。

ズルズキン「オス同士でこういうことするのは嫌なんじゃなかったのか?」

キルリア「今はいいの!」




119: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:04:34.14 ID:3gpYRlk40

「それが其方の答えかえ?」

そんな三匹の後ろで冷たい声が響きます。

そこにいたのはユキメノコ。

キルリア「うん、力が手に入ったってボクだけでなんて何もできない。でも仲間がいれば力がなくたってきっとあいつを倒せる!そんな気がする」

ユキメノコ「おほほ・・・。そうかえ。なら其の者たちを大切にするんだよ」

そういうとユキメノコの体が光り輝き、キルリアたちを包み込んでいきます。

あの凍えそうな冷たい言葉とは裏腹に、とっても温かい光です。

光に包まれどんどん体が溶けていくようです。

意識も、だんだんと光に溶けて・・・。






120: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:05:05.54 ID:3gpYRlk40

まぶしくきらきらと輝く光で、徐々に意識がはっきりとしていきます。

キルリア「ここは・・・」

マンムー「お主達、戻ったか」

ツンベアー「無事でよかった・・・!!」

目の前にはマンムーの巨体。

そして見覚えのある氷タイプのポケモンたち。

モウカザル「村に、戻ってる?」

ズルズキン「一体、どうなってるんだ?さっきまで確かに雪山に・・・」

マンムー「どうやら無事にユキメノコに会えたようじゃな。元気にしとったか?」

キルリア「うん、でも強くなるための力は手に入らなかったけどね・・・」

マンムー「そうかな?ならお主の前に転がってるその石はなんじゃろうな?」

そういうとマンムーはキルリアの足元に自分の鼻を伸ばしました。

確かにそこには見覚えのない石が落ちています。

眩く輝く綺麗な石です。

キルリア「これは…?」




121: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:05:44.64 ID:3gpYRlk40

マンムー「手に取ってご覧」

マンムーが優しくそう言います。

その言葉にキルリアは少しうなずくと、輝く石を手に取りました。

キルリアがその石を手に取った瞬間、輝きは強さを増してキルリアの体を包んでいきます。

モウカザル「キルリア・・・!」

ズルズキン「一体姐御に何しやがった!?」

マンムー「安心せい。そしてよく見るんじゃ」

この輝きは感じたことがあります。

ユキメノコから発せられた光と同じ、温かい光です。

キルリア「なんだか、ボクの体じゃなくなっていくみたいだ・・・」

光に体が溶けていく感覚。

ふわふわと、光に身を任せ、キルリアは目を閉じました。

マンムー「この石は目覚め石という石じゃ」

モウカザル「目覚め石?」

マンムー「そう、そしてこの目覚め石はある特定のポケモンを進化させる特別な石なんじゃ。もちろんキルリアもその一匹」

ズルズキン「ってことはもしかして姐御は!?」

徐々に光が収まり、キルリアの体が再び見えていきます。




122: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:06:11.70 ID:3gpYRlk40

マンムー「そう。キルリアは目覚め石によって進化する」

しかし、その姿はモウカザル達が見知った姿ではありません。

マンムー「正義の心を持ったエルレイドにな」

それは勇ましく、凛々しい姿でした。

エルレイド「こ、これがボク?なんだか、体に力がみなぎってくる!」

モウカザル「すごいやキルリア・・・じゃなかった、エルレイド!」

ズルズキン「もう姐御なんて呼べねえな、これからは兄貴って呼ばせてもらうぜ!」

エルレイド「もー好きにして!」

マンムー「エルレイドは元々のエスパータイプ、そして新たに格闘タイプの力を持っておるのじゃ。代わりにフェアリータイプはなくなってしまったがな」

格闘タイプは悪タイプ、そして鋼タイプに効果抜群です。

これならあのキリキザンに対抗できそう!





123: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/15(火) 16:07:07.29 ID:3gpYRlk40

エルレイド「じゃあ、ボクはあいつと戦えるんだ!」

マンムー「ああ。じゃがようやく戦えるようになっただけ。あやつに勝てるかどうかは別問題じゃ」

たしかにあのキリキザンに勝てるかどうかはまだわかりません。

エルレイド「絶対勝ってみせるよ!じゃなきゃママを助けられないもん!」

決意を新たにしたエルレイド。

その瞳には熱い闘志と明るい希望が宿っています。

マンムー「そうか・・・すまんがわし達はこの村を守らねばならんから離れられん。だがいつだってお前たちの無事を祈っておるぞ」

モウカザル「ありがとうございます・・・きっとユキノオーとオニゴーリも無事に救い出してここに連れ戻してきます」

ツンベアー「すまない。二匹を頼む」

マンムーとツンベアーは申し訳なさそうに頭を下げました。

ズルズキン「ついでにニューラやマニューラも改心させて連れ戻してやるぜ」

マンムー「何から何まですまないな・・・。北の大地はこの山の向こうだ。この道を行けば山を登らなくても北の大地へ行ける」

モウカザル「わかりました。それでは、行ってきます」

そうして新たな力を手に入れた三匹は、強い決意を胸に北の大地へ出発するのでした。



つづく




124: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:50:21.05 ID:m7NAtdw70

深々と積もっていた雪はやがてその姿を消し、地面には灰色の岩場が顔を覗かせていました。

空にも分厚い灰色の雲がかかり、草木はなくごつごつとした冷たい岩場が続くだけ。

モウカザル「ここが北の大地・・・」

ズルズキン「ズキ・・・ここが・・・」

エルレイド「ヨルノズクが言ってた通りだ・・・」

まさに命が芽吹かない枯れ果てた土地。

見渡す限りの暗い灰色。

遥か前方には巨大な岩山が不気味にそびえるだけ。

風すら吹いていません。

エルレイド「あっ!!」

すると急にエルレイドが声をあげました。

モウカザル「どうしたの?エルレイド」

エルレイド「ママだ!ママのテレパシーを感じるの!!」

これまでに感じたことのないくらい強いテレパシーを感じたのです。

ズルズキン「どっから感じるんだ?」

エルレイド「ちょっと待って・・・あの岩山の方からだ!」

モウカザル「あそこに・・・お母さんが・・・!」

もうすぐお母さんに会える。

もしかしたらお父さんもいるかもしれない。

そう思うと、モウカザルもどこか急ぎ足になっているようでした。

モウカザル「やっと・・・お母さんに会える・・・!」

「そこまでだ」





125: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:51:07.97 ID:m7NAtdw70

すると、どこからともなく不気味な声と共に黒い影が三匹の前を横切っていきます。

ズルズキン「てめえらは・・・あの時の!」

三匹の前に現れたのはヘルガーと四匹のデルビルたちでした。

ヘルガー「あそこへは行かせん。貴様らは我々とあの方の計画には邪魔な存在だ。ここで消えてもらおう」

ズルズキン「へっ!やれるもんならやってみな!」

ヘルガー「貴様・・・裏切り者の分際で!」

鋭い牙をむき出しにして、ヘルガーは唸り声をあげています。

ズルズキン「こいつとは俺が決着をつけてやる!」

モウカザル「ズルズキン!!」

ズルズキンは単身ヘルガーとデルビルに突っ込んでいきました。

ヘルガー「奴らを逃がすな!行け、デルビル!!」

デルビルたちはヘルガーの命令でモウカザルとエルレイドに襲い掛かります。

モウカザル「まずデルビルたちをなんとかしないと・・・!」

エルレイド「任せて!マジカルシャイン!!」

眩い光がデルビルの体を包み込みます。

しかし、大したダメージを与えるまでには至りません。

モウカザル「インファイト・・・!!」

モウカザルの攻撃も、四匹の連携の取れた動きにことごとくかわされてしまいます。

と、同時にデルビルたちの口からは火炎放射が放たれました。

モウカザル「このままじゃジリ貧だ・・・」

エルレイド「ごめんモウカザル、ボクもまだこの力になれてなくて上手く戦えない・・・!」

相手の攻撃を辛くも避け、エルレイドも進化したばかりで自分の力を十分に発揮することができないみたい。

四匹のデルビルに囲まれ、モウカザルとエルレイドは身動きが取れません。




126: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:51:42.46 ID:m7NAtdw70

ズルズキン「旦那、兄貴!」

ヘルガー「よそ見する癖は治ってないみたいだな!噛み砕く!!」

モウカザル達に気を取られたズルズキンの脇腹にヘルガーの鋭い牙が突き刺さります。

ズルズキン「ぐはぁああ!!」

モウカザル「ズルズキン!!」

デルビルたちも一斉に二匹に飛び掛かりました。

もうだめだと目を伏せるモウカザルとエルレイド。

一瞬の静寂の後、吹き抜ける鋭い風の音。

モウカザル「な、何が起きたんだ・・・?」

モウカザルが目を開くと、目の前でデルビルたちが倒れています。

デルビルたちの体には何かに切り裂かれたような切り傷がぱっくりと開いていました。

ヘルガー「今のは、かまいたち・・・まさか・・・」

ヘルガーは噛みついていたズルズキンを放すと何かを警戒するように後ずさりしました。




127: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:52:14.67 ID:m7NAtdw70

ズルズキン「ぐっ・・・一体どうしたんだ・・・」

エルレイド「ズルズキン、じっとして。今癒しの波動を使うから」

ズルズキン「すまねえ・・・兄貴・・・」

ヘルガー「どこだ!いるんだろう?」

ヘルガーはモウカザル達には目もくれず、あたりの岩場をきょろきょろと見回しています。

何かを探しているようです。

ヘルガー「匂うぞ・・・そこか!!」

ある岩場めがけてヘルガーの口から火炎放射が放たれました。

熱で赤くなった岩場は砕け散って粉々に。

岩場が砕け散った瞬間何かが飛び出しました。

ヘルガー「やはり貴様か・・・」

飛び出した影は素早い動きで別の岩場に飛び移ると、ヘルガーに向かって咆哮をあげました。

ヘルガー「裏切り者・・・アブソル!!」

アブソルと呼ばれたそのポケモンは白い体毛に、片方の目がつぶれ、頭の角は半分折れています。




128: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:52:44.50 ID:m7NAtdw70

エルレイド「あのポケモンってあの時の!」

モウカザル「バルジーナに襲われてたポケモンだ・・・!」

アブソルはもう一度咆哮をあげるとヘルガーに向かって突進していきます。

ヘルガー「あの方を裏切り、おさるの村のケッキングに情報を漏らそうとしよって!貴様もここで殺してやる!」

アブソルの角とヘルガーの牙が激しくぶつかり合います。

モウカザル「アブソルが・・・おさるの村に・・・?!」

エルレイド「おさるの村ってモウカザルの住んでたところだよね?」

モウカザル「うん・・・あのアブソルってポケモンは一体・・・」

ズルズキン「ズキキ・・・アブソルも悪タイプのポケモンのはずだ・・・あいつも俺みたいにヘルガーたちを裏切ったのか?」

癒しの波動で傷の癒えたズルズキンが傷口のあった場所をさすりながらそう言いました。

モウカザル「助けないと・・・!」

ズルズキン「待て旦那!あれを見ろ!」

しかしモウカザル達の頭上に、いつの間に現れたのかヤミカラスが旋回しています。

ズルズキン「ヤミカラスだ!どうやら俺たちのことを監視してるみたいだぜ。下手に動くと何されるかわからねえぞ?」

モウカザル「でもアブソルが・・・!」

ズルズキン「あっちは俺たちが入り込む余地がなさそうだ・・・様子を見てあいつの隙をつこう」

モウカザル「・・・わかった」




129: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:53:51.75 ID:m7NAtdw70

アブソルとヘルガーの戦いは炎と風をまき散らし、お互い譲らぬまま激しさを増していきます。

ヘルガー「悪タイプながら、正義の心を持ち合わせた愚かなやつめ・・・。この力で貴様を葬ってやる!」

すると、ヘルガーの体が黒い煙に包まれていきます。

ヘルガー「グオォオオオオ!!」

ヘルガーの雄叫びが響き渡り、その姿が禍々しく変化していきます。

モウカザル「なに・・・あれ・・・?!」

エルレイド「すごい邪悪な気配がする!!」

ズルズキン「あんなの見たことねえぞ・・・進化、したのか・・・?」

姿が変化したヘルガーは低い唸り声をあげ、アブソルをにらみつけています。

ヘルガー「グルァアアア!!!」

しかし、それはヘルガーだけではありませんでした。

アブソルの体も眩い光に包まれていきます。

モウカザル「アブソルのほうも様子が変だ・・・!」

肩口には翼のようなものが現れ、つぶれた片目を覆うように頭部の白い毛が伸びています。

モウカザル「アブソルも・・・進化した・・・?!」





130: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:54:25.01 ID:m7NAtdw70

ヘルガー「・・・これで決着だ!!」

その言葉と同時にヘルガーの体が真っ赤な炎で包まれていきます。

自分の持てるすべての力をぶつける技、オーバーヒートを使うつもりなのです。

対してアブソルは半分に折れた角が光を放ち、すべての力をそこに集中させています。

ヘルガー「メガホーンでも使うつもりか?その前に燃やし尽くして―」

言いかけ、ヘルガーの首は光の刃に切り落とされました。

ズルズキン「不意討ちだ・・・!」

アブソルはメガホーンではなく、不意討ちを繰り出したのでした。

首が落とされたヘルガーの体は元の姿に戻ると、まるで糸の切れた操り人形のように岩場から力なく落ちていきます。

その落ちた体から、二つの石がコロコロと転がり出ました。

モウカザル「あれは・・・?」

どこかで見たことのあるような・・・。

すると、それまでモウカザル達を監視していたヤミカラスが急降下をはじめ、そして二つの石を丸呑みにすると再び空へ舞い上がります。

まるでこの石を回収するためにこの場を旋回していたかのように・・・。




131: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:55:01.26 ID:m7NAtdw70

しかし、飛び立ったヤミカラスにアブソルが鋭い爪を立てて襲い掛かりました。

紙一重でアブソルの攻撃を避けたヤミカラスは、体勢を立て直すと再び空へと舞いあがっていきます。

ズルズキン「あいつ逃げるぞ!」

その後ろ姿を追う様にアブソルが攻撃を仕掛けようとした

その時―





132: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:55:31.71 ID:m7NAtdw70

アブソルの足場の岩場から、鋭く尖った岩が新たに顔を出し、白毛で覆われたその体を貫きました。

モウカザル「アブソル・・・!!!」

岩はアブソルの体を貫いたまま天高く伸びていきます。

モウカザル達はその光景に成す術がありません。

まるで雨のようにモウカザル達の頭上に降り注ぐアブソルの血。

天高く貫かれたアブソルの体はだらんと垂れて、もう動くことはありません。

血の雨と一緒に、今度はさっきヘルガーの体から転がり出たものと似た石が降ってきました。

血に染まった赤い二つの石。

その石も、モウカザル達を後目にヤミカラスが飲み込み、その後はモウカザル達をものともせず向こうに見える岩山へ飛んでいってしまいました。

モウカザル「アブソルは僕達を助けてくれたのに・・・何も・・・できなかった・・・くそぉ!!」

エルレイド「モウカザル・・・」

ズルズキン「旦那・・・」

何度も何度も血に染まった冷たい地面を殴りつけるモウカザル。

しかし、この冷たい北の大地は悔しがってる暇も、慰める暇も与えてはくれません。

突如辺りを包む地鳴りと共に、さっきと同じような鋭い岩が無数にモウカザル達を取り囲んでいきます。




133: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:56:09.87 ID:m7NAtdw70

ズルズキン「なんだこれ?!」

エルレイド「囲まれちゃうよ?!」

まるで岩でできた檻のようです。

ズルズキン「とび膝蹴り!!」

岩でできた壁面に向かてズルズキンの蹴りがさく裂します。

しかし、崩れた岩肌から新たな岩が飛び出し、いくら壊してもきりがありません。

モウカザル「閉じ込められた・・・」

ズルズキン「こっから出しやがれ!!」

いくら叫んでもこの岩の檻は開きません。

「あなた方が、ヤミカラスの言っていた私の邪魔をする愚かな方たちですか?」

するとどこからか聞き慣れない声が響いてきました。

不気味で、相手をあざ笑うかのような声です。

エルレイド「邪魔って、ボクたちは連れ去られたママを探してるんだ!」

「ママ・・・ですか?」

ズルズキン「お前は誰だ!!姿を見せやがれ!!」

「おやおや、随分な言い方ですね?ズルズキン」

ズルズキン「な、なんで俺の名前を・・・?!」

「せっかくあなたも私の理想郷に招待して差し上げたのに」

その声はそう言いました。




134: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:56:55.03 ID:m7NAtdw70

ズルズキン「まさか・・・お前がヤミカラスを使って俺を唆して旦那や兄貴の親を攫った野郎か?!」

「唆す?攫う?人聞きの悪い・・・あなただって最初は私の言葉に共感していたじゃありませんか」

ズルズキン「お前の言っていることは夢幻だ!そんなもの信じられるか!!」

「そうですか・・・。ならあなたもあの愚かなズルッグのように哀れに死ぬことです」

ズルズキン「てめえ・・・。ズルッグを馬鹿にするなあああああ!!!!」

怒りが頂点に達したズルズキンは目の前の岩肌に向かって突進していきます。

モウカザル「待つんだズルズキン・・・!!」

エルレイド「落ち着いて!!相手の挑発に乗っちゃダメだよ!!」

もはやズルズキンにはモウカザルの声もエルレイドの声もズルズキンには聞こえません。

ズルズキン「諸刃の頭突き!!!」

諸刃の頭突きは自分にもかなりのダメージを受ける強力な技。

それを所構わず周りの岩の檻にぶつけています。

相手の挑発に乗り、ズルズキンは攻撃を繰り返しているのです。




135: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:57:25.65 ID:m7NAtdw70

やがて岩の檻に亀裂が入り、一部が音を立てて崩れ落ちました。

ズルズキン「殺してやる!!」

ズルズキンの視界が外の景色をとらえたとき、謎の光がその眼に入り込んできました。

彼の意識はその光にだんだんと飲み込まれ・・・。

モウカザル「ダメだズルズキン!!攻撃をやめないと、君が倒れてしまう・・・!!」

エルレイド「止めなきゃ!!」

二匹がズルズキンを取り押さえようとしますが、ズルズキンはいとも簡単に二匹を振りほどきました。

モウカザル「ズルズキン!」

ズルズキン「・・・・」

さっきまでの攻撃がうそのように、ズルズキンの動きがとまっています。

エルレイド「どうしたの?ズルズキン・・・?」

様子がおかしい、そう思った時でした。

ズルズキンの諸刃の頭突きが目にもとまらぬ速さでモウカザルの腹部をとらえました。




136: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:58:17.14 ID:m7NAtdw70

モウカザル「ぐふぅ・・・!?」

激痛に耐え、モウカザルはズルズキンを止めようと足を踏ん張ります。

しかし、腹部に強烈な頭突きを食らったまま押し戻されるモウカザルの体。

そのまま岩肌に激突し、頭突きと固く尖った岩の間で、モウカザルの体の骨が粉々に砕ける音が響きました。

骨が、内臓が、皮膚が、意識が、何もかもが弾き飛んでいく感覚です。

モウカザル「っがあ・・・!!」

意識を保つのは困難でした。

かすむ視界の向こうでエルレイドの歪んだ顔がぼんやりと見えたと思うと、モウカザルの意識はそのまま暗闇の中へ落ちていきました。




137: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/17(木) 16:58:47.92 ID:m7NAtdw70

エルレイド「モウカザル!!」

目の前でモウカザルの腹部が破裂して血が噴き出るのが見えます。

エルレイド「やめてズルズキン!!どうしちゃったの?!」

しかしその声がズルズキンに届くことはありませんでした。

体を押さえつけられ、地面にたたきつけられたと思うと、その重たい一撃がエルレイドの体を伝って骨や内臓を破壊していきます。

声にならない声をあげたエルレイドはそのまま何も考えることができなくなりました。

憎きキリキザンのことも、大切な仲間のことも、そして大好きなママのことも。

その後どうなったのかわかりません。

エルレイドの意識はただ、ただ暗い暗い闇の底へ堕ちていくのでした・・・。




つづく




138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/17(木) 17:53:31.29 ID:kJC3qyAFo



どうなっちゃうんだ…




139: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:55:23.98 ID:0XoC4lYv0

何も見えない、暗闇。

上も下も右も左も前も後ろもわかりません。

一体どこまで続いているのか、どこまで道でどこまで壁なのか。

そしてどこまで自分なのか・・・。

一体自分は誰で、自分は何なのか。

そしてどうしてここにいるのか・・・。

何かを思い出そうと考えていると、遠くのほうで一筋の光が見えます。

考えていても始まらない、その方向へ行ってみましょう。

歩いているのか、走っているのかわかりません。

でもその光はだんだん近づいてきました。

あともう少し、もう少しで光に届く・・・。




140: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:55:58.52 ID:0XoC4lYv0

すると、その光の中で見覚えのある後姿が見えました。

いえ、きっとこれは待ち望んでいた姿なのです。

その後姿を見た瞬間、脳に一気に思い出が流れ込んでいきます。

一緒に過ごした日々、一緒に笑った日々、一緒に涙した日々・・・。

そうです、彼は思い出しました。

「お母さん・・・」

ぽつりとつぶやくと、暗闇はまるで霧が晴れるようになくなり、あたりは緑の草原に包まれました。

空は快晴。

流れる雲は一つもありません。

彼の前には愛しい母親の後姿。

彼は駆け寄ります。

ずっと一緒にいたような、ずっと探していたような、その姿に。

そしてその手を取りました。

「あれ・・・?」

しかし、その手はどこにもありません。

目の前にはただ草原が広がっているだけ。

「どこ・・・?」

確かに目の前にいたのに。

手を取ったはずなのに。

彼は目をこすると、もう一度その眼をあけてみました。

「これは・・・!!」




141: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:56:48.33 ID:0XoC4lYv0

そこはさっきまで草原ではありません。

黒い煙と、炎が立ち込め、村の家々は半壊。

「僕の村だ・・・」

彼が生まれ育った場所。

おさるの村でした。

「そうだ・・・思い出した・・・」

ヒコザルというポケモンの姿をした彼はその光景を目の当たりにして、やっとなぜ自分がここにいるのかを思い出したのです。

ヒコザル「僕はお母さんを探していたんだ・・・。そして・・・」

次の瞬間周りの風景が目まぐるしく変化していきます。

迷いの森でゴロンダに出会ったこと。

ゴロンダがペンドラーたちに殺されたこと。

そこで彼が進化を遂げたこと。

てんたいとほうようの村でキルリアに出会ったこと。

サーナイトが連れ去られたこと。

途中アブソルを助け、ヨルノズクに出会い、ズルズキンに出会ったこと。

ズルッグがキリキザンに殺されたこと。

ルカリオを助け、雪山で雪崩に遭って、キルリアがエルレイドに進化したこと。

北の大地にたどり着き、アブソルが目の前で殺され、そして、ズルズキンに―

また真っ暗になりました。

真っ暗な空間に浮かび上がる一つの明かり。

星の形に輝くそれは、彼の大切なポケモンから託されたものでした。


これをお前に預ける

大丈夫、何かあったらこのお守りが必ずお前を守ってくれる・・・





142: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:57:38.75 ID:0XoC4lYv0

モウカザル「っ!」

開いた瞳が捕えたのは、灰色の岩肌。

手にはしっかりとお父さんから託されたお守りを握っています。

そんな自分がごつごつした冷たい岩の上に寝転がっているということに気が付くまで、少し時間がかかりました。

ここはさっきまで閉じ込められていた岩の檻だろうか?

そう思って辺りを見回すと、視界の端っこでピンク色の何かがこちらを見ているのに気が付きました。

「気が付きました?」

少しかすんだ眼をこすり、もう一度見てみると、どうやらそれはポケモンのようです。

でも、見たことがないポケモンです。

モウカザル「あなたは・・・?」

「私は、タブンネと申します」

タブンネというそのポケモンは、耳の丸まった触覚をプルプルと震わせると、少し微笑んでお辞儀をしました。

モウカザルも、少しだけ会釈。

タブンネ「気分はいかがですか?ひどい怪我をされていましたが・・・」

そうです。

確か、急に襲い掛かってきたズルズキンの諸刃の頭突きで腹部がつぶれてしまったはず・・・。

モウカザルは自分のお腹を触ってみますが、なんともありません。

モウカザル「あれ・・・?」





143: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:58:47.23 ID:0XoC4lYv0

タブンネ「まことに勝手ながら、私が癒しの波動と癒しのすずで、あなたの怪我を治療させていただきました」

モウカザル「そうなんだ・・・ありがとう。助かりました・・・」

タブンネ「いえ、それと後のお二方は向こうでまだ眠っていらっしゃいます」

タブンネの指さす方向に、エルレイドとズルズキンが眠っています。

モウカザル「良かった・・・」

なぜ襲い掛かって来たのかは謎でしたが、ズルズキンも無事のようでした。

モウカザル「それにしても、ここはどこなんです・・・?何で僕たちはこんなところに・・・?」

タブンネ「ここは、巨大な岩山の中にある私たちを閉じ込めておくための牢屋です。昨晩、突然門番があなた達をこの牢屋に放り込んだのです。あなたがたもあの恐ろしい悪タイプのポケモンたちに連れ去られたのですか?」

モウカザル「岩山の・・・牢屋・・・?!」

タブンネの言葉を信じるなら、ここはどうやら目指していたあの岩山のようです。

奇しくもモウカザル達は目的の場所にたどり着いていたのでした。

モウカザル「あの・・・!僕のほかにもモウカザルがここに連れてこられませんでしたか?!」

お母さんのことでした。

きっとお母さんはここにいる。

そう信じてここまでやってきたのです。

タブンネ「すみません。私も昨日の朝ここにきたばかりで・・・。モウカザルはあなたがはじめてです」

タブンネの言葉に肩を落とさずにはいられませんでした。

モウカザル「そう・・・ですか・・・」

タブンネ「ですが、他の牢屋にならいるかもしれません」

モウカザル「どういうことです・・・?!」

しかし、タブンネのその言葉でまた少し希望が芽生えてきました。




144: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 01:59:14.54 ID:0XoC4lYv0

どうやらこの岩山にはここの他に、いくつもの牢屋が存在し、たくさんのポケモンが捕まっているみたい。

自分がここに連れてこられる際に、その牢屋をいくつも見てきたというのです。

モウカザル「この牢屋から出る方法はないんですか・・・?」

タブンネ「あの扉以外に出口はないみたいです・・・。それに私は見た通り攻撃が得意ではないので・・・」

頑丈な鍵で閉ざされた扉が一つあるだけで、この牢屋にはほかに出口は見当たりません。

冷たい岩に囲まれた壁や天井もそう簡単には崩れそうには見えません。

モウカザル「あなたの他には誰もいないんですか・・・?」

タブンネ「いえ、私の他にもう一匹・・・ほら、あそこに」

物陰にひっそりと佇む影が見えます。

モウカザルが物陰をのぞき込むと、そこにも一匹のポケモンがいました。

「やぁん・・・?」

そのポケモンはゆっくりとした動きでこちらを見たかと思うと、どこを見るでもなく視線を戻しました。

タブンネ「彼はヤドランさんです。私と一緒にここに連れてこられました」

モウカザル「そうなんですか・・・」

ヤドランの独特の雰囲気に少し圧倒されそうになったとき、眠っていたエルレイドが目を覚ました声が聞こえました。




145: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:00:04.42 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「ここどこ?」

目を覚ましたエルレイドに今の状況を伝えると、彼も母親に会える喜びと希望で飛び起きました。

エルレイド「早く行こう!ママはきっとこの岩山のどこかにいるはず!」

モウカザル「テレパシーは感じる?」

エルレイド「ううん。やってみたけど、今は感じない・・・でも絶対いるよ!そんな気がする!」

エルレイドはそわそわしながら牢屋の中を歩き回っています。

エルレイド「ズルズキンを起こして、早くこの牢屋から出られる方法を探そう!あ・・・でも・・・」

しかし次に目を覚ました時、彼はどうするのでしょうか?

またさっきのように襲い掛かって来るのでしょうか?

モウカザル「そうだね、僕が起こすよ・・・」

モウカザルはズルズキンの元へ近づき、その肩を揺らしました。

モウカザル「ズルズキン・・・!起きて・・・!」

やがてズルズキンの目がゆっくりと開いていきます。

そしてその眼がモウカザルの眼と合ったとき。




146: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:00:34.60 ID:0XoC4lYv0

ズルズキンは飛び起きたかと思うと、自分の頭を地面がえぐれるほどに勢いよくたたきつけました。

ズルズキン「あ・・・あぁあああああ!!!申し訳ねえ!!旦那!兄貴!俺を殺してくれええ!!」

ズルズキンの眼から涙があふれています。

モウカザル「ちょ、ちょっと落ち着いて・・・!」

ズルズキン「俺はとんでもねえことを!!旦那と兄貴を殺してしまうところだった!なんて不甲斐ないんだ俺は!!ズルッグだけじゃなく旦那達まで失うところだった・・・!!」

再び頭を地面に打ち付けます。

エルレイド「待ってよ!どうしてあんなことをしたの?」

ズルズキン「わからねえ・・・あの時変な光を見てから・・・体が勝手に動いて・・・自分ではどうしようもできなくて・・・。いや、言い訳はしねえ・・・俺はもう終わりだ・・・早く殺してくれえ!!」

地面はズルズキンの血と涙で濡れています。

タブンネ「もしかしたら、それって催眠術かもしれません」

恐る恐るタブンネが口を開きました。

モウカザル「催眠術・・・?」

タブンネ「はい。催眠術という技で操られていたんです。多分・・・」

エルレイド「知ってるよ。ママもボクやラルトスが眠れないときよく使っていたもん」

催眠術は相手の意識を操って深い眠りに落としたり体を操る技。

ズルズキンはあの時何者かの催眠術で操られていたのです。

エルレイド「それだと納得がいくね!ズルズキンは何も悪くないよ」

モウカザル「そうだね・・・だから心配しなくても大丈夫だよ・・・。でも誰がそんなこと・・・」

ズルズキン「そうはいかねえ!あんなことをしてしまったんだ・・・償いきれねえ・・・」

ズルズキンはなかなか頭をあげてくれません。

モウカザル「そうだなぁ・・・。そうだ・・・!ここを出るいい方法を思いついた・・・君に手伝ってもらうよ・・・!」

ズルズキン「なんでもする!!なんでも言ってくれ!」

ようやくズルズキンが頭をあげてこちらを向いてくれました。

モウカザル「ありがとう・・・」

モウカザルはいたずらな微笑みを向けました。






147: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:01:46.72 ID:0XoC4lYv0

ズルズキン「こ、これで本当にいいのか・・・?」

ズルズキンはモウカザルとエルレイドに抱えられ、頭を牢屋の扉の方に向けられています。

モウカザル「じっとしててね・・・。じゃあいくよエルレイド!」

エルレイド「おっけい!せーの!」

エルレイドの掛け声で二匹はズルズキンを抱えたまま扉の方に突っ込んでいきます。

ズルズキン「え、ちょっ―」

大きな音を立ててズルズキンの頭が牢屋の扉に打ち付けられました。

エルレイド「これならいけそうだね!」

モウカザル「うん。この扉を破るには君の諸刃の頭突きの威力が必要だからね」

ズルズキン「お、おう・・・これぐらいどうってこと―」

その後何度目かの諸刃の頭突きによって牢屋の扉に穴が開いたのでした。

エルレイド「開いた!」

モウカザル「ちょっとやりすぎたかな・・・?」

ズルズキン「だ、だ、大丈夫・・・だぜ・・・旦那・・・」

ズルズキンの頭は牢屋の扉と同じように拉げていたのでした・・・。

モウカザル「さあここから出ましょう・・・」

タブンネ「はい!ヤドランさん、ここから出られますよ!」

ヤドラン「やぁん・・・」

ヤドランはさっきと同じようにとぼけた返事をすると、のそのそと出口のほうへ歩いてきました。

モウカザル「あなた達は出口を探して逃げてください」

タブンネ「・・・わかりました。どうか、無事でいてくださいね」

モウカザル「はい、助けてくれた御恩は忘れません・・・。あなた達も御無事で・・・」

そして、モウカザル達は牢屋を抜け出し、大切な人を探しに走り出しました。

タブンネ「彼らに、神のご加護がありますように・・・」

タブンネは静かにその後姿を見送ると、そう祈るのでした。






148: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:02:26.75 ID:0XoC4lYv0

牢屋を出てしばらく、岩でできた壁に松明の明かりだけが灯る薄暗い道が続いていました。

「こっちですごい音がしたぞ!」

すると道の先から声が聞こえてきます。

どうやら門番がさっきの音を聞きつけてやってきたようです。

しかしここは一本道。

ズルズキン「戦闘は避けられないな」

足音がどんどん近づいてきます。

しかも、かなりの数のようです。

モウカザル「来た・・・!」

前方から五匹の黒いポケモンが走ってきます。

ズルズキン「あいつらは・・・グラエナの群れだ!」

グラエナ達は唸り声をあげながら素早くこちらに走ってきます。

グラエナ「あいつら牢屋らから抜け出したようだ!」
    「あの方からは殺すなという命令が下っている」
    「なら死なない程度に噛み砕いてやる!」
    「一匹ぐらいなら大丈夫じゃないか?」

口々にそう言いながらグラエナ達はモウカザル達と対面しました。

グラエナ「牢屋に逆戻りさせてやる」

五匹の中で一際体が大きいグラエナが鋭い牙を覗かせて威嚇してきます。

どうやらこのグラエナがリーダーのようです。




149: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:03:05.74 ID:0XoC4lYv0

ズルズキン「そうはいかねえ!お前らそこどきな!」

グラエナ「ほざけ!お前らかかれ!」

リーダーの命令で残りの四匹もその鋭い牙をむき出しにして襲い掛かってきました。

グラエナ「食らえ!炎の牙!」
    「氷の牙!」
    「雷の牙!」
    「毒毒の牙!」

モウカザル「やるしかないか・・・!」

モウカザル達も相手の攻撃に身構えます。

モウカザル「インファイト・・・!!」

ズルズキン「とび膝蹴り!!」

エルレイド「えーっと、えーっと・・・マジカルシャイン!!」

どの攻撃もグラエナ達には効果抜群!

三匹の攻撃がグラエナ達を吹き飛ばしました。

グラエナ「ほお・・・」

モウカザル「あとはお前だけだ・・・!」

グラエナ「やってみろ!噛み砕く!!」

モウカザル「インファイト!」

グラエナの牙とモウカザルの拳がぶつかり合います!




150: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:03:51.35 ID:0XoC4lYv0

グラエナ「ぐっ・・・はぁ・・・!!」

グラエナの体はモウカザルの一撃で吹き飛び、岩壁に激突。

岩と一緒に地面に崩れ落ちて、動かなくなりました。

ズルズキン「旦那のインファイトすげえな!」

モウカザル「そんなことないよ・・・」

モウカザルは少しだけ恥ずかしそうにはにかみました。

エルレイド(すごいや・・・。ボクもあんな風に戦えるようになれたらなぁ・・・)

キルリアの時からモウカザルのインファイトに憧れていたエルレイドは、モウカザルのはにかむ姿をじっと見つめていました。

モウカザル「エルレイド、どうかしたの・・・?」

エルレイド「え?ううん!何でもないよ!」

ズルズキン「旦那!兄貴!あれ見てくれ!」

ズルズキンが指差した先には、沢山の鍵がかかった鍵束が転がっています。

ズルズキン「あのでかいグラエナが持ってたみたいだ。牢屋の鍵じゃねえのか?」

モウカザル「そうかも・・・とにかく一緒にもっていこう」

そう言ってモウカザルが鍵束を拾おうと手をかけた瞬間。

その鍵束がまるで生き物のように動き出し、ふわりと空中に浮かび上がったのです。

モウカザル「うわあああああああ!!!」

モウカザルはあまりの突然の出来事にその場で盛大にひっくり返りました。




151: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:04:22.25 ID:0XoC4lYv0

「やっと自由に動けるようになった・・・」

なんと動くだけでなく、その鍵束は言葉を発したようです。

モウカザル「お、おば、おば、おばばば・・・!!」

エルレイド「モウカザル、これはお化けじゃないよ!ポ・ケ・モ・ン!」

モウカザル「・・・え?」

ふわふわと漂うその鍵束はくるりとこちらを向くと、再び口を開きました。

「僕の名前はクレッフィだっふぃ!君たちが助けてくれたっふぃ?ありがとうだっふぃ!」

金切声でその鍵束はそう言いました。

その正体は鍵束ポケモンのクレッフィだったようです。

ズルズキン「助けてくれたって、自分からここの鍵束やってるんじゃないのか?」

クレッフィ「確かに僕らクレッフィは鍵集めが好きだけど、これは無理やりやらされたっふぃ。なんだか変な光を浴びせられて、体が自由に動かせなくなったんだっふぃ・・・」

モウカザル「ズルズキンの時と同じだ・・・!多分君も催眠術で操られていたんだよ」

クレッフィもズルズキンと同じように、催眠術で無理 矢理牢屋の鍵束をさせられていたようです。

ズルズキン「どんなやつがやったか見たのか?」

クレッフィ「それが、急な出来事だったもんで見てないんだっふぃ」

ズルズキン「そうか・・・」

クレッフィ「それより、君たちはこんなところで何してるんだっふぃ?」

そう尋ねられたモウカザル達は事情と経緯を話しました。




152: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:05:07.45 ID:0XoC4lYv0

クレッフィ「そうだったんだっふぃ・・・。なら助けてくれたお礼に全ての牢屋まで案内するっふぃ!」

どうやらクレッフィ、モウカザル達を助けてくれるみたい!

良かったね!

モウカザル「本当に・・・?!」

クレッフィ「さすがにどんなポケモンが捕まっているのかまでは覚えてないっふぃが、牢屋の場所は毎日見ていたからわかるっふぃ!」

モウカザル「助かるよ・・・!ありがとう・・・!」

クレッフィ「お互い様だっふぃ!」

クレッフィは沢山の牢屋の鍵をジャラジャラと鳴らして空中を一回転してみせました。

モウカザル「さあ、お母さん達を探そう・・・!」

そうしてモウカザル達は、新たにクレッフィを仲間に加えて歩を進めるのでした。







153: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:06:07.63 ID:0XoC4lYv0

松明の明かりだけの少し薄暗い道を、四つの影が走り抜けます。

岩山をくりぬいてできた内部はとても広く、いたるところに牢屋は設置されていて、どこにあるのかは知ってるものでしかたどり着けないほど入り組んでいます。

まるで迷路のよう。

そこをクレッフィの案内でモウカザルは迷わず進むことができました。

クレッフィ「次の角を左に曲がると次の牢屋が見えてくるっふぃ!」

ズルズキン「クレッフィはここの悪タイプのポケモンたちの企みは知らないのか?」

牢屋を目指す道中でズルズキンはクレッフィに尋ねました。

一体ここで誰が何の目的で何をしようとしているのか。

どうしてポケモンたちをここへさらってくるのか。

クレッフィ「僕はただ牢屋の鍵束をさせられてただけだっふぃ。牢屋の場所以外のことは何も知らないんだっふぃ・・・ごめんっふぃ・・・」

ズルズキン「いや謝らなくていいんだ。悪かったな」

そうこうしているうちに次の牢屋にたどり着いたようです。

モウカザルとエルレイドは急ぎ足で牢屋をのぞき込みました。

しかし母親の姿は見当たりません。

モウカザル「クレッフィ、ここの牢屋の鍵はどれ?」

クレッフィ「これだっふぃ!」

モウカザル「解放しよう」

クレッフィは沢山の鍵の中から一本を取り出すと、牢屋の扉の鍵穴に差し込みました。

ガチャリという音と共に扉が開きます。

中にはデンリュウとチルタリスが閉じ込められていたようです。




154: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:06:35.43 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「次の牢屋へ案内して!」

二匹を逃がすと、クレッフィに再び案内を頼みました。

それからいくつかの牢屋で、捕まったポケモンたちを解放して回りましたが、モウカザルとエルレイドの母親はいませんでした。

クレッフィ「次は外にあるっふぃ。こっちだっふぃ!」

クレッフィに導かれ、モウカザル達は進みます。

その道中、モウカザル達を探す敵の悪ポケモンを何度か見かけましたがクレッフィのおかげでうまく接触することなく進むことができたのでした。

やがて、岩でできたトンネルの先に外の景色が見えてきました。

クレッフィ「見張りがいるかもしれないからこの岩陰に隠れながら行くっふぃ」

出た場所は、岩山の中腹あたりでしょうか?

下をのぞき込むと切り立った崖のようになっており、かなりの高さがあります。

落ちるとただではすみそうにありません。

それに上空にはいつか見たバルジーナの群れやドンカラスが一羽旋回しています。

クレッフィ「この坂を上ると牢屋があるっふぃ。この岩肌に隠れて進むっふぃ」

ところどころに枯れて朽ちた木々が歪に生え、不気味な雰囲気が漂う坂道をクレッフィは小声になりながら進んでいきました。

モウカザル「ちょっと止まって・・・!」

すると突然モウカザルが足を止めて皆に呼びかけました。

何かを見つけたのか、モウカザルはある方向を指さしています。




155: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:07:26.41 ID:0XoC4lYv0

ズルズキン「ズキッ!あれは・・・ヤミカラス!!」

指さした先には、舞い降りてくるヤミカラスの姿が。

ヤミカラス「アノ方カラノ伝言ダ」

モウカザル「伝言・・・?」

枯れた止まり木に降り立ったヤミカラスは、羽をたたみながらそう言いました。

ヤミカラス「オ前達ノヤッテイルコトハ、全テ無駄ナコトダ。探シテイルポケモンハイナイ。ソレニ捕エタポケモンヲ解放シタトコロデ、兵隊達ガスグニ新シイポケモンヲ連レテクル」

ズルズキン「なんだと?!」

ヤミカラスは続けます。

ヤミカラス「今スグココカラ立チ去レ。ソウスレバ命ハ助ケテヤロウ。シカシ、アノ方ノ計画ヲ邪魔シ続ケルナラバ、容赦ハシナイ。サア、ドウスル?」

エルレイド「どうするって、そんなの決まってるよ!ねえ皆?」

モウカザル「うん、そうだね」

ズルズキン「その為にここまで来たんだからな!」

三匹はそれぞれの顔を見合わせてうなずきました。

モウカザル「僕達は邪魔するよ・・・!そしてお母さんを見つけ出すんだ・・・!!」

ズルズキン「あの方がどこのどいつか知らねえが、そういうことだ!」

ヤミカラス「・・・ソレガ、オ前達ノ答エダナ」

そういうとヤミカラスはすうっと空へ浮かび上がると、羽を広げて一声鳴き声をあげました。




156: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:07:57.00 ID:0XoC4lYv0

やがて分厚い雲の隙間から炎の塊がこちらへ向かって飛んできます。

ズルズキン「なんだあれ?!」

炎の塊はヤミカラスの頭上に降り立つと、その姿を露わにしていきます。

クレッフィ「あ、あ、あれはサザンドラっふぃ!!」

黒い羽に三つの頭を持つそのポケモン。

凶暴ポケモンのサザンドラです。

ヤミカラス「ソロソロ新シイポケモン達ガ来ル頃ダ。オ前タチハ無駄ニココマデヤッテキテ、無駄ニココデ死ンデイクノダ」

そう言ってヤミカラスが再び鳴き声を上げると、サザンドラも黒い羽を羽ばたかせてモウカザル達に襲い掛かってきます。

凄まじい殺気を帯びながら突っ込んでくるサザンドラを前に、モウカザル達は恐怖に怯んで動くことができなくなってしまいました。

もうだめだ。

サザンドラの殺気に満ちたドラゴンダイブが目の前に迫ったその時でした。

青白い光の弾がサザンドラの体を吹き飛ばし、その巨体を岩山にたたきつけたのです。

ヤミカラス「何ダ?!」

弾が飛んできた方向に顔を向けるヤミカラス。

それに続いてモウカザル達もその方向に視線を移しました。

ヤミカラス「オ前ハ・・・」





157: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:08:39.60 ID:0XoC4lYv0

モウカザル「ルカリオ・・・!!」

視線の先の岩場には、青白い煙を上げたルカリオが立っていたのです。

ルカリオ「待たせたな」

ズルズキン「ナイスタイミングだぜ、ルカリオ!」

三匹は大喜びでルカリオに呼びかけました。

ヤミカラス「邪魔ガ何匹増エタトコロデ計画ハ狂ワナイ・・・!」

ルカリオ「そうかな?お前たちが連れ去る予定だったポケモン達はここへはもうこないぞ」

ヤミカラス「ドウイウコトダ?!」

ルカリオは北の大地へ来る途中、特別な力を持ったポケモンを連れ去ろうとする、ヤミカラスが兵隊と言っていたポケモン達を片っ端から倒して回って来たと言うのです。

モウカザル「やらなければならないことってそのことだったんですね・・・!」

そうだ、と頷くルカリオ。

ヤミカラス「余計ナ真似ヲ・・・!」

ルカリオ「お前たちは一体何をしようとしている?“メガシンカ”するポケモンを集めて」

モウカザル「メガ・・・シンカ?」

モウカザルは聞き慣れない言葉に首をかしげました。





158: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:09:15.93 ID:0XoC4lYv0

ヤミカラス「聞イテドウスル?オ前達ハ今ココデ死ヌノダゾ!ヤレ、サザンドラ!!」

サザンドラに命令すると、ヤミカラスは上空に舞い上がり逃げ出しました。

ルカリオ「逃がさん!」

逃がすまいとルカリオは波動弾を放ちますが、サザンドラから放たれた竜の波動によって掻き消されてしまいました。

ルカリオ「逃がしたか・・・」

サザンドラとルカリオは互いに譲らず睨み合っています。

ルカリオ「お前達、ここは私が引き受けた。早く母親を探しに行くんだ」

サザンドラに視線を向けたまま、ルカリオがそう言います。

モウカザル「で、でも・・・!」

ルカリオ「私を見くびるな。それにタイプ相性は私のほうが有利だ。さあ早く!」

モウカザルは力強くうなずくと睨み合う二匹のわきを通り抜けて先へ進みました。

サザンドラもそれを逃がすまいと三つの首から竜の波動を放ちますが、ルカリオの波動弾によって弾き飛ばされました。

青白い煙をあげるルカリオと、真っ赤な炎に包まれるサザンドラ。

ルカリオ「行くぞ・・・!」

二体が激突、まばゆい光に包まれて―






159: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:09:58.13 ID:0XoC4lYv0

岩山の頂上まで続いていそうな長い坂道を駆け上がるモウカザル達。

振り返らず、一心不乱で走ります。

しかし、上空のバルジーナやドンカラスはいつの間にかいなくなってます。

何か指示でもあったのでしょうか。

クレッフィ「残る牢屋はあと二つっふぃ!」

そんなことを気にする間もなくクレッフィが言います。

残る二つの牢屋にモウカザルとエルレイドの母親が捕まっているのでしょうか。

早く会いたいという気持ちがその歩を早めます。

ですがそう簡単には次の牢屋へたどり着けそうもありません。

モウカザル達の前に新たなポケモンが現れたのです。

マニューラ「お前らが侵入者か!ここを通すわけにはいかない!!」

鋭い爪を持ったマニューラが目の前に現れました。

モウカザル「このポケモンは・・・?」

ズルズキン「こいつはマニューラだ。ま、まさかお前氷結の村のマニューラか?!」

マニューラ「・・・だったらどうした!お前ら今すぐあたしが切り裂いてやる!」

どうやらこのポケモンは氷結の村でツンベアーが言っていた、マニューラというポケモンのようです。




160: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:10:27.05 ID:0XoC4lYv0

モウカザル「君は騙されてる!悪タイプだけの理想郷なんて馬鹿げてるよ!」

マニューラ「うるさい!私はそんなものに興味はない!ただ・・・ニューラを生き返らせたいんだ!」

そう言うマニューラの眼は少し悲しげでした。

ズルズキン「ニューラを?どういうことだ?氷結の村で一緒にユキノオーとオノゴーリを攫って行ったんじゃなかったのか?!」

マニューラ「確かにあの時は一緒だった・・・でも・・・」

そしてマニューラは悲しげな瞳のまま話し始めました。

マニューラの記憶が鮮明によみがえっていきます。







161: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:11:04.67 ID:0XoC4lYv0




氷結の村出口

ユキノオー「ニューラにマニューラ・・・。どうしてこんなことを・・・」

オニゴーリ「そうだ・・・。一体なぜこんな・・・」

傷ついた体を縄で縛られたユキノオーとオニゴーリを、ニューラとマニューラが引きずって氷結の村をから出ていくところでした。

ニューラ「・・・」

マニューラ「悪いな。あんたらにはこのまま黙ってついてきてもらうしかない」

ニューラ「ごめんね・・・」

ニューラはぽつりとそうつぶやくと縄をつかんでいた手をさらにつよく握り直しました。

するとその時、自分たちの後ろで爆発音と悲鳴が聴こえてきたのです。

ニューラ「お姉ちゃん!村が!ニューの村が燃えてるよ!!」

ニューラは縄を手放すと、今出てきたばかりの村を振り返りました。

雪の積もった木々の間から、黒い煙が上がっているのが見えます。

マニューラ「くっ・・・こんなのきいてないぞ!」

マニューラもその光景に困惑するばかり。

ニューラ「お姉ちゃん!ニューやっぱり村に戻る!こんなことしたってニュー全然楽しくない!」

そういうとニューラは村の方へ駆けていきました。

マニューラ「待てニューラ!危ないぞ!」

マニューラもニューラの後を追います。




162: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:11:30.69 ID:0XoC4lYv0



村ニイル“ユキノオー”ト“オニゴーリ”ヲ、北ノ大地ヘ連レテクルダケデイイノデス

アナタハ今幸セデスカ?

誰ニモ、何モ咎メラレナイ望ムママノシアワセナ世界

悪タイプダケノ理想ノ世界ガ待ッテイマス

オ待チシテイマスヨ・・・






163: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:12:35.52 ID:0XoC4lYv0

マニューラの脳裏に、ヤミカラスの言葉が浮かびました。

マニューラ「あたしの幸せって何だ・・・?」

ニューラを追いかけながら、マニューラは考えました。

村のポケモンを裏切り村を出て、仲間だったポケモンを攫うことが幸せなのか。

確かに悪タイプというだけでつらい経験をしたこともあった。

路頭に迷っていた自分たちを村のポケモンたちは優しく迎えてくれた。

それだって幸せなことだったんじゃないのか。

マニューラは自分のやっていることが分からなくなりました。

マニューラ「あたしは・・・」

「きゃああ!!」

悲鳴はニューラのものでした。

自分より少し先に行っていたニューラに何かあったようです。

腕も使い、四足で雪の上を駆け抜けます。

マニューラ「ニューラ!!何があった?!」

しかしそこには変わり果てたニューラの姿が横たわっていました。

白い雪に、ニューラの体からあふれ出てくる赤い血が染みていきます。

マニューラ「ニュ、ニューラ・・・?」

???「お前達、逃げるつもりだったのか?あの方の命に背いて」




164: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:13:04.09 ID:0XoC4lYv0

どこまでも冷たい声。

キリキザンでした。

キリキザンの腕からニューラのものと思われる血がポタポタとしたたり落ちています。

マニューラ「お前がやったのか?」

困惑と悲しみと怒りで、声が震えます。

キリキザン「あの方の命令に従えないのなら当然の報いだ。役立たずが」

マニューラ「貴様・・・!!」

マニューラは目にも留まらぬ速さでキリキザンに襲い掛かりました。

しかし、キリキザンは腕の刃でその攻撃を軽々と受け止め、マニューラを弾き飛ばしてしまいました。

キリキザン「ほう、素晴らしい動きだ。殺すには惜しいな」

キリキザンは腕の血を拭いながら続けます。

キリキザン「お前があのユキノオーとオニゴーリを北の大地へと無事送り届け、一生あの方のために尽くすというのなら・・・あの方に頼んでこのニューラを生き返らせてやろう」

マニューラ「何だと?!そ、そんなことができるのか?!」

キリキザン「それはお前の働き次第だ。あの方の理想のため、お前の一生を捧げるがいい」

マニューラ「・・・」








165: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:13:32.90 ID:0XoC4lYv0



マニューラ「だからあたしは、ここでお前らを通すわけにはいかないんだ!」

マニューラの両腕の爪がさらに長く、鋭くなってモウカザル達を襲います。

エルレイド「そんなのあいつにうまく利用されてるだけだよ!」

モウカザル「やめてマニューラ!そんなことしたってニューラは・・・!」

マニューラ「うるさい!!!例えあの言葉が嘘でも、あたしが利用されてるだけだとしても・・・それでもあたしにはこうするしかないんだよおお!!!」

マニューラの瞳から、何か光るものが零れ落ちたように見えました。

エルレイド「仕方ない!マジカル―」

ズルズキン「待ってくれ!」

エルレイドの攻撃を制止したのは、ズルズキンでした。




166: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:14:05.64 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「ズルズキン?!何で止めるの?!」

ズルズキン「こいつは・・・俺がやる!」

モウカザル「ズルズキン・・・?」

マニューラ「誰が相手だろうが全員ここで切り裂く!」

ズルズキン「そうはいかねえ!旦那、兄貴、先に行ってくれ!」

モウカザル「そんな・・・!」

ズルズキン「こいつは俺と一緒なんだ・・・。俺もズルッグを失った・・・。だからこいつの気持はよくわかる」

ズルズキンが拳を震わせます。

ズルズキン「でも旦那や兄貴に出会って前に進めている!だからこいつにも・・・こんなとこで立ち止まっていてほしくはないんだ!」

エルレイド「ズルズキン・・・」

モウカザル「ここまで一緒にやって来たのに、おいていけるわけないよ!」

ズルズキン「こんな目立つところで時間を食うわけにはいかねえ!また新手が現れたらやっかいだ。それにこいつをひっぱたいて目を覚まさせてやったら、すぐに追いつくからよ。安心してくれ!ズキキ!」

ズルズキンはニカッっと歯を見せると、再びマニューラに視線を戻しました。

モウカザル「・・・わかった。ありがとうズルズキン!先に行ってるから必ず追いついて!」

エルレイド「かっこつけちゃって。まだ姉貴って言った分のお仕置きしてないんだから遅れたら承知しないからね!!」

ズルズキン「まいったなー、それは勘弁してもらいたいんだけど・・・」

マニューラ「行かせるかああ!!」

ズルズキン「猫だまし!!」

モウカザル達を追うマニューラの目の前で両手をパチンと鳴らし、怯ませることに成功しました。

ズルズキン「ズキキ、残念だったな」

マニューラ「貴様・・・!邪魔するなああ!!!」

ズルズキン「俺もあの時そんな目をしてたのかな・・・。さあ、マニューラ。お前を地獄の悪夢から目覚めさせてやるぜ!!」

襲い掛かるマニューラの爪。

ズルズキンも戦闘態勢を固め、マニューラめがけて飛び上がりました―




167: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:14:43.80 ID:0XoC4lYv0

長い坂を駆け上がるモウカザルとエルレイド。

それを先導しながらクレッフィが金切声をあげます。

クレッフィ「もうすぐ牢屋が見えるっふぃ!」

それを聴いたモウカザルとエルレイドの鼓動が早くなります。

お願い、今度こそ。

牢屋の前にたどり着き、モウカザルとエルレイドは祈るようにその中を覗き込みました。

そこには―





168: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:15:15.32 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「ママ!!!」

エルレイドの母、サーナイトが横たわっていたのです。

気を失っているのか、反応はありません。

エルレイド「クレッフィ!!早く鍵を!!!」

クレッフィの鍵を半ば強引に引っ張って、牢屋の鍵を回します。

鍵が開く音と同時にエルレイドは力いっぱい牢屋の扉を開くとサーナイトの元へ駆け寄りました。

エルレイド「ママ!!ママ!!」

エルレイドはママの体を抱き起すと、膝の上に横たわらせて肩を揺さぶりました。

怪我などはしていないようです。

サーナイト「ぅ・・・」

エルレイド「ママ!!大丈夫?!」

サーナイトはゆっくりと瞼を開くと、エルレイドの顔を見つめます。

サーナイト「あなたは・・・」

エルレイド「ボクだよ!ママ!」

サーナイト「キル・・・リア?キルリアですね・・・!」

エルレイド「そうだよ!ママ!助けに来たよ・・・!」

ようやく会えた愛しの母親。

エルレイドの頬に涙が伝います。

サーナイト「本当にこんなところまで・・・なんて無茶なことを・・・」

エルレイド「ごめんなさい・・・」

サーナイト「いいえ・・・。ありがとうキルリア・・・・いいえ。
今はエルレイドですね・・・。あなたの声はずっと聴こえていましたよ。すっかり逞しくなりましたね・・・」

サーナイトはエルレイドの頭を柔らかく撫でました。




169: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:16:01.92 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「うぅ・・・ママ・・・良がっだ・・・」

サーナイト「泣かないで、エルレイド・・・」

エルレイド「泣いでないもん・・・!!ボグはオスなんだがら・・・!」

そう言ってエルレイドはサーナイトの胸に顔をうずめました。

その姿を見て、モウカザルにも自然に笑みがこぼれます。

本当に良かったね、エルレイド・・・。

サーナイト「まぁ・・・あなたはあの時の・・・あなたも助けに来てくれたのですね・・・。ありがとう」

モウカザルにもサーナイトはお礼を言うと、エルレイドの肩を借りながら立ち上がりました。

サーナイト「確か、あなたもお母様を探していましたね?」

モウカザル「・・・はい」

サーナイトがモウカザルの瞳をじっと見つめます。

サーナイト「あなたのお母様もこの岩山にいらっしゃいます」

その言葉にモウカザルは心臓が飛び出そうになりました。




170: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:16:27.95 ID:0XoC4lYv0

モウカザル「本当ですか・・・!?」

エルレイド「ほんとなの?!」

サーナイト「はい。おそらく“あのポケモン”と一緒に・・・」

モウカザル「あのポケモン・・・?」

サーナイトの表情が曇ります。

サーナイト「私たちメガシンカできるポケモンをこの北の地へ集めた張本人。そしてメガシンカの力を使ってある計画を実行しようとしているポケモンです・・・」

モウカザル「ある計画・・・」

エルレイド「ママ、メガシンカって何なの?」

サーナイト「メガシンカとは、ある一部のポケモンが行える、新たな進化の方法です」

モウカザル「新たな進化?」

サーナイト「メガストーンと、それに対応したキーストーンと呼ばれる石の二つを使うことで、さらなる進化を可能にするのです」

エルレイド「そんなことが・・・じゃあ、ママもそのメガシンカを?」

サーナイト「ええ。でも、あの計画だけは阻止しないと・・・」

一体、どんなポケモンなのでしょう。

それにその計画って一体・・・。

聴きたいことがいっぱいです。

モウカザル「そのポケモンって・・・?それにその計画って一体・・・?!」

サーナイト「それは―」

「そこまでだ」

どこまでも冷たい声と共に登って来た道が真っ二つに両断され、崩れ落ちていきます。

これでもう来た道を戻ることはできなくなりました。




171: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:17:23.09 ID:0XoC4lYv0

エルレイド「キリキザン!!!」

そしてエルレイド達の目の前にキリキザンとコマタナたちが降り立ったのです。

エルレイド「なんでここにいるの!?ルカリオが兵隊は倒して回ってくれたはずなのに!」

キリキザン「俺たちはあの方に呼ばれ、先にここへ戻っていたからな」

モウカザル「呼ばれた・・・!?」

キリキザン「間もなくあの計画が始動するからな。その下準備さ。そのためにはそこのサーナイトにいなくなられたら困るんだ」

サーナイト「そんな・・・もう始まってしまうというのですか・・・!?」

キリキザン「あの計画が成功すればあの方に仕える悪タイプのポケモン以外は皆死ぬのだ。これこそ我々が望む素晴らしい理想郷だ!」

サーナイトをここへ連れ去り、ズルッグを殺したエルレイドとズルズキンの憎き相手。

それが今目の前に。

エルレイドはキルリアの時、恐怖で何もできませんでした。

しかし、キルリアはこの時のために今の姿になったのです。

エルレイド「モウカザルはママを連れて先に行って!!」

モウカザル「な、何を言ってるの・・・?!」

サーナイト「そうです・・・!あなただけでは・・・!」

エルレイド「さっきの話聞いてなかったの?!とんでもない計画が始まろうとしてる!モウカザルのママを見つけ出してその計画を止めて!!ボクもすぐに行くから!」

キリキザン「ごちゃごちゃと!あの方の邪魔はさせんぞ!!」

エルレイド「行かせない!!」

自分でも気づかないうちにエルレイドは、自身の肘から延びる剣でキリキザンの刃を受け止めていました。




172: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:17:54.74 ID:0XoC4lYv0

キリキザン「ほう・・・。あの時のキルリアが俺の刃を受け止めるとはな」

エルレイド「ボクはもうあの時のボクとは違う!!」

エルレイドの剣がキリキザンを撥ね飛ばしました。

キリキザン「・・・」

キリキザンが体勢を立てなおしながら地面に降り立ったその時。

激しい地響きが起きて足場が崩れ始めました。

キリキザン「おお・・・ついに始まった!!あの計画が!!」

エルレイド「あんなに多くのポケモンを逃がしたのに!?」

キリキザン「そんなもの、俺がすべて檻にたたき返してやった」

エルレイド「そ、そんな・・・」

これまで檻にとらわれていたポケモンを逃がしたのは、全て無駄だったようです。

キリキザン「さあ、サーナイト。来るんだ。あの方の計画完成のために!!」

エルレイド「モウカザル!!早くママを連れて逃げて!!」

エルレイドはキリキザンに向かいながら叫びました。

モウカザルは迷います。

ズルズキンと同じように、またここまで一緒に旅してきた仲間を置いていくのか。

それとも・・・。




173: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:18:31.48 ID:0XoC4lYv0

サーナイト「あなたは先へ行ってください。この道を進めば、あなたのお母様がいらっしゃるはずです」

迷うモウカザルの耳に、サーナイトがぼそっとつぶやきました。

モウカザル「え・・・」

キリキザン「ゆけ!コマタナ!エルレイドは俺が相手をする!お前たちはサーナイトを捕えろ!!モウカザルは殺して構わん!!」

その命令にコマタナが列をなしてサーナイトの元へ向かいます。

エルレイド「ママ!!」

キリキザン「よそ見をしていていいのか?!」

キリキザンの攻撃を防ぐのが手一杯でコマタナたちがエルレイドの脇を通り抜けていきます。

エルレイド「ママ逃げて!!」

サーナイト「リフレクター!」

サーナイトは自分の周りに壁を作り出すと、コマタナ達だけでなく、モウカザルをも吹き飛ばしました。

サーナイト「さあ、行くのです」

モウカザル「で、でも・・・!」

サーナイト「・・・あの子にはまだ私が付いていてあげたいの。でもすぐにキリキザンを倒して必ずあなたの元へ行きます。だからあなたは先へ進んでください」

ぐらっと足場が揺れます。

どんどん地響きも大きくなっています。

得体のしれない計画がすでに始まっているのです。

このままではお母さんを助けることもできないかもしれない。

モウカザル「・・・わかりました。僕もお母さんを助けに行ってきます・・・!」

サーナイト「きっと大丈夫です!自分を信じて・・・!」

モウカザル「はい・・・!!クレッフィ・・・行こう!」

そういうとモウカザルは駆け出しました。

そのあとをクレッフィがついていきます。




174: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:19:21.37 ID:0XoC4lYv0

キリキザン「サルは逃がしたか。まあいい。コマタナども!さっさとサーナイトをとらえるんだ!」

吹き飛ばされたコマタナたちが大勢を立てなおして向かってきます。

サーナイト「ムーンフォース!!」

モウカザルが行ったのを確認すると、サーナイトは体中からまばゆい光を放ち、コマタナたちを吹き飛ばしました。

エルレイド「マ、ママ!どうしてモウカザルと逃げなかったの!?」

サーナイト「あなたは私の可愛い自慢の息子です。おいていけるわけないでしょう」

エルレイド「ママ・・・」

サーナイト「さあ、早くキリキザンを倒し、モウカザルの後を追いましょう」

サーナイトの言葉に、エルレイドは力強くうなずくと、サーナイトと共にキリキザンに構えました。

キリキザン「何もかも、無駄なことだあ!!」

サーナイト「行きますよ!エルレイド!!」

エルレイド「おっけー!ママ!!」






175: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:19:49.42 ID:0XoC4lYv0

――

長い一本道。

それは上へ上へと続き、まるであの分厚い雲まで届きそう。

やがて岩山の天辺が見えてきました。

そこには大きな何か不気味な黒い卵のようなものが見えます。

それが生きているように時たま脈打っているように見えました。

モウカザル「あれは・・・何だろう・・・?」

クレッフィ「わからないっふぃ。でも前にみたときより気持ち悪いっふぃ・・・」

その黒い卵の横の岩場に、最後の牢屋へ続く穴が開いているのが見えました。

クレッフィ「あそこだっふぃ!あそこが最後の牢屋っふぃ!」

モウカザルの胸が高鳴ります。

お母さんがいる!

あそこにお母さんが!!

長かった道のり。

それもこれで―





176: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:20:25.64 ID:0XoC4lYv0

入り口をくぐると中は広く、奥の壁は切り取られてそこから外が見えます。

外にはあの不気味な卵状の物体がすぐ目の前に見えるようになっていました。

更に天井も高く、いたるところに尖った岩がぶら下がっています。

モウカザル「牢屋は・・・!?」

クレッフィ「あそこだっふぃ!」

クレッフィが飛んでいた先の暗がりに、確かに牢屋が見えます。

モウカザルはその牢屋に飛びつきました。

そしてその目に映ったのは、自分が生まれ育った村に住むポケモン達でした。

自分をいじめていたエイパムやマンキー、ヤナップ、バオップ・・・。

ヤナッキーやヒヤッキー、そしてヤルキモノに、話にしか聞いたことのないケッキング。

そのポケモンたちが口々にこちらを見て話し合っています。

「モウカザル・・・?」

「何者だ・・・?」

「なんで外に?!」

モウカザルはそんな言葉は耳に入りません。

目を凝らしてそのポケモンたちは見回し、ついに・・・

モウカザル「お、母さん・・・?」

「え・・・?」

モウカザル「お母さん・・・!」

やっと出会えた。

いつもいっつも見ていた愛しい姿がそこにはありました。




177: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:20:52.32 ID:0XoC4lYv0

「あなたは・・・まさか、ヒコ・・・?」

お母さんはゆっくり他のポケモンをかき分け牢屋の前に歩み出ると向こう側にいる自分と同じ姿のポケモンを見つめます。

モウカザル「そうだよ・・・お母さん・・・」

自分でも気づかぬうちに目から頬を伝い、涙が零れ落ちていました。

お母さん「そんな・・・なんでこんなところに・・・!?」

モウカザル「助けに来たんだ・・・!」

お母さん「うぅ・・・ヒコォ・・・そうかい・・・無事でよかった・・・ありがとうね・・・」

お母さんはその場で膝から泣き崩れました。

こんなお母さん見たことありません。

「まさか、あれがあのヒコザル?!」

「そういえば、あの時からいなかったな・・・」

周りでそんな声が聴こえました。

モウカザル「今、牢屋開けるからね」

モウカザルはクレッフィから鍵を預かると、牢屋の鍵穴に鍵を差し込み―




178: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:21:33.81 ID:0XoC4lYv0

「感動の再開もここまでです」

体が動きません。

差した鍵はひとりでに抜け落ち、モウカザルの体が宙を舞い、壁に叩きつけられました。

モウカザル「ぐはっ!」

お母さん「ヒコ!!」

その声の主はサイコキネシスを使い、モウカザルを更に地面に叩きつけます。

モウカザル「ぐあっ・・・!!」

「クレッフィ、あなたも催眠術が解けてしまったのですね」

クレッフィ「っふぃ?!」

クレッフィは恐ろしくなり、逃げようと来た道を戻っていきます。

しかしそんなクレッフィさえもサイコキネシスにより体をぐちゃぐちゃに捩じられ、地面に叩きつけられ、気を失ってしまいました。

モウカザル「クレッフィ・・・!」

「あなたもこうなるのです。私の邪魔をしたから・・・」

その声の主はそういうとゆっくりとモウカザルの目の前に降り立ちました。

モウカザル「その声・・・あの時の・・・お前は何者なんだ・・・」

「それを知って何になるんです?今から死ぬというのに」

お母さん「ヒコに手を出すなあ!ヒコ、そいつは“カラマネロ”というポケモンだ!そいつはメガシンカエネルギーを使って伝説のポケモンをよみがえらせ、自分の住みやすい環境にこの世界を作り替えるつもりなんだ!!」

カラマネロ「おやおや、随分おしゃべりなおサルさんですね」




179: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:22:10.20 ID:0XoC4lYv0

カラマネロ。

こいつがキリキザンやマニューラ、ヤミカラスたちが言っていたあの方。

ズルズキンを催眠術で操ったやつ。

そして、あの計画。

メガシンカ。

伝説のポケモン。

悪タイプだけの理想郷・・・。

カラマネロ「お仕置きが必要ですね」

カラマネロは触手のような腕を前に出すと、サイコキネシスを放ちました。

お母さん「うぐっ!!」

サイコキネシスによりお母さんは広い檻の中で宙に浮き、苦しんでいます。

モウカザル「やめろ・・・やめろおお!!」

カラマネロの腹部にモウカザルのインファイトがさく裂―

したように見えましたが、どうやらカラマネロは間一髪で避けていたようです。




180: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:22:40.23 ID:0XoC4lYv0

カラマネロ「なぜ邪魔をするのです。何の関係もない子ザルさんが・・・」

モウカザル「お前がやってることは・・・間違ってるからだ・・・!!!」

カラマネロ「・・・まぁ、いいでしょう。もう計画は始まっています。何をやっても何も変わりません」

モウカザル「なんだって・・・?」

カラマネロはそういうとゆっくりと背を向けると、あの不気味な卵の元へ飛んでいきました。

カラマネロ「これを見なさい。これは伝説のポケモン、“イベルタル”の眠る繭です」

モウカザル「イベ・・・ルタル・・・?」

カラマネロ「あなたも見てきたでしょう。
まだ十分とは言えませんが、ここにとらわれたメガシンカの可能性のあるポケモン達。
そしてそれらのポケモンを一斉にメガシンカさせ、その膨大なエネルギーをこの繭に送り込むことでイベルタルを復活させるのです。
イベルタルはかつてこの土地をこのような不毛の土地へ変えた、命を吸い取る破壊のポケモン。
その力を利用し、この世界に住む悪タイプのポケモン以外のすべての命を吸い取り、私の住みよい世界へと作り替えます」




181: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:23:16.93 ID:0XoC4lYv0

イベルタル―

おそらくあのヨルノズクが話していた恐ろしいポケモンです。

カラマネロ「あそこで完全にあのポケモン達を逃がしていればおそらくこの計画を阻止できたかもしれませんが・・・キリキザンのおかげで、もはやそれも意味がない。
すでにメガシンカのエネルギーはこの繭に注がれているのです!!
見なさい!この美しい輝き!!」

不気味な黒い繭は、徐々に赤い光を放ち始めました。

美しくなんかない。

この世界を滅ぼす光です。

モウカザル「絶対に・・・止めないと・・・!」

モウカザルは力を振り絞って立ち上がると、カラマネロに向かって突進しました。

カラマネロ「はぁ・・・。これだからお子様は困りますね・・・」

モウカザルの拳がカラマネロをとらえようとした瞬間、大きな地響きとともに地面から鋭い岩が突出してきました。

モウカザル「こ、これは・・・!?」

アブソルを貫いたり、岩の檻で閉じ込められた時と同じものです。

やがて地面から何かが現れました。

カラマネロ「あなたの相手はこいつです。計画が終わるまで遊んでなさい」

現れたポケモンは全身が固い鎧のような岩で覆われています。

カラマネロ「行きなさいバンギラス」

バンギラスと呼ばれたそのポケモンは大きな咆哮をあげるとモウカザルに襲い掛かりました。


――





182: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:24:10.93 ID:0XoC4lYv0

青い波動と赤い炎がぶつかり合い、それまで戦っていた足場は崩れ落ち、ルカリオは真っ逆さまになって地面へ堕ちていきます。

それをサザンドラが追いかけます。

ルカリオは岩肌を蹴り、落下のスピードを落としながら地面に着地しました。

ルカリオ「波動弾!!」

さっきよりもさらに強い波動を作り出し、サザンドラめがけて放ちます。

しかしサザンドラは素早い動きでそれをかわし大文字でルカリオを攻撃。

ルカリオ「やはりこのままでは当たらないな・・・」

そういうとルカリオは自分の毛皮の中から藍色に輝く球を取り出すとそれを掲げました。

ルカリオ「これを使うか・・・メガシンカを・・・!」

眩い光に包まれ、ルカリオの姿が変わっていきます。

ルカリオはメガルカリオにメガシンカしたのです。

メガルカリオ「これで逃がしはしない。波動弾!!」

さっきとは比べ物にならないスピードでサザンドラへ飛んでいく波動弾。

サザンドラ「!!」

サザンドラは体をひねり、間一髪、それを避けます。

が、避けた波動弾のあとからもう一発の波動弾が飛んできていました。

一発目はおとりだったのです。




183: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:25:01.82 ID:0XoC4lYv0

メガルカリオの波動弾はサザンドラの体を貫き、その巨体は地面に叩きつけられました。

もうサザンドラは動きません。

ルカリオ「一番下まで落ちてしまったか・・・少し時間を使いすぎた。あいつらは大丈夫か・・・」

ルカリオは元の姿に戻ると、眼前にそびえる巨大な岩山を見上げました。

ルカリオ「急ごう」

「待テ」

しかし再び岩山を登ろうとしたルカリオの前に一羽のポケモンが降り立ちます。

ルカリオ「お前は・・・ヤミカラス」

ヤミカラスだけではありません。

バルジーナの群れ、そしてドンカラス。

あの時姿を消していたのはこの時のためだったのです。

ヤミカラス「オ前ノ“メガシンカエネルギー”モ、アノ方ノ為ニ使ッテモラウ!!」

襲い掛かる無数の鳥ポケモン達に、ルカリオは果たして―

――





184: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:26:13.47 ID:0XoC4lYv0

ズルズキン「ぐは・・・ぁ・・・」

氷漬けの岩場に、真っ赤な鮮血が飛び散りました。

マニューラの鋭い爪は、ズルズキンの分厚い皮をも突き破り、その体を貫いていました。

マニューラ「これがあたしの憎しみ、怒り、そして願いだ・・・!誰にも邪魔はさせない!!」

ズルズキン「あぁ・・・ぐ・・・」

痛みを必死にこらえ、マニューラの腕をつかみます。

ズルズキン「こんなことをしても、無駄だ・・・!ニューラは戻ってはこねえんだよ・・・!!こんなことして生き返ったとして、ニューラは喜ぶのか?!氷結の村に戻ってすべての償いをするほうが、ニューラは喜ぶんじゃねえのか?!」

マニューラ「う、うるさい!!」

マニューラは更に爪を深く突き刺します。

その痛みで、ズルズキンは顔をゆがめました。

マニューラ「そんなことできるわけないだろう?!一度裏切ったやつが、また・・・受け入れてもらえるわけが・・・」

ズルズキン「わかるもんか!悪タイプだって、同じポケモンだ!きっとわかってくれる!!」

マニューラ「うるさい・・・黙れ!!!!もう黙れ!!!!」

マニューラは突き刺した爪で更にズルズキンの体を引き裂き、その体は上半身と下半身がほとんど皮一枚でつながる程度です。

ズルズキン(くそ・・・意識が・・・薄れる・・・旦那・・・兄貴・・・ズルッグ・・・)

マニューラ「ハァ・・・ハァ・・・これで、ニューラは戻ってくる・・・。ズルズキン、お前は仲間が死んでもその程度だったってことだ・・・」

ズルズキン(ズルッグ・・・俺は・・・)

ズルッグの頭の中で、これまでの思い出が次々とよみがえってきます。

これが、走馬灯―




185: pppp ◆1V4CaE0ZHE 2016/11/27(日) 02:26:50.53 ID:0XoC4lYv0

ズルッグとズルズキンはいつも一緒でした。

一緒に泣いて笑って、怒って眠って。

やがてズルッグはいなくなり、ズルズキンの隣にはモウカザルとエルレイドが―

マニューラ「さあ、あとはあのモウカザルとエルレイドか・・・痛っ!!」

マニューラは腕に鋭い痛みを感じ、顔をしかめます。

そして腕を見ると、さっきズルズキンに掴まれた腕が、更に強く握られていました。

マニューラ「こいつ・・・体を真っ二つにされて・・・まだ生きていたのか!?放せ!!」

ズルズキン「放さねえよ・・・。あの二匹は・・・俺の・・・大切な・・・仲間だからな・・・!!」

ズルズキンはつかんだマニューラの腕を更に強く握り、マニューラを引っ張ります。

ズルズキン「お前はそうやって逃げてるだけだ・・・。ニューラが死んだということから!逃げるな!立ち向かえ!!一匹じゃ怖くて無理ってんなら俺も一緒にいてやるよ!!!」

マニューラ「しまっ・・・!」

勢いよく引っ張られ、体勢を崩したマニューラはそのままズルズキンの方へ傾きました。

ズルズキン「だから目え覚ましやがれ!諸刃の頭突き!!!」

マニューラ「!!!」

ズルズキンの諸刃の頭突きがマニューラの顔面にさく裂。

マニューラの意識は一瞬でとび、そのまま地面に吹き飛びました。

そしてズルズキンも―

ズルズキン(へっ・・・あんなこと言って、俺はもうダメみたいだな・・・。
ズルッグ・・・俺のお前と同じ上と下がバラバラでいくみたいだ・・・。
仲良い証拠だよな・・・まったく・・・。
旦那・・・兄貴・・・すまねえな・・・俺・・・やっぱりズルッグと一緒のところへ行くよ・・・)

皮一枚でつながった上半身と下半身が、自身の血の海の上で動かなくなりました―






186: pppp ◆1V4