糸使い「私は糸を扱うのが得意です」面接官「当社で働く上でのメリットは?」
- 2016年12月21日 23:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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面接官「では……あなたの特技をお答え下さい」
糸使い「はいっ! 私は糸を扱うのが得意です!」
面接官「ふぅ~ん、糸をねえ……」
糸使い(お、好感触!?)
面接官「で、当社で働く上でどういったメリットがありますか?」
糸使い「え……」
糸使い「たとえば、あやとりで……同僚を楽しませることができます」
面接官「はぁ……」
面接官「もう結構です」
糸使い「え」
面接官「私もあなたのような方を相手しているほど暇じゃないんです」
面接官「そもそもうちの会社はイベント企画や運営が主な業務ですから」
面接官「糸を扱う技能なんか全く必要じゃないしねえ」
面接官「席を立ってお帰り下さい」
糸使い「は、はい……失礼します……」
糸使い(またダメだったか……)
男「おや、いかがでしたか?」
糸使い「いやー、全然ダメでしたね」
男「採用面接なんてのは縁ですよ、縁! すぐに切り替えた方がいいですよ!」
糸使い「ありがとうございます……」
糸使い(この人、俺より前に面接受けてた人だよな。なんでまだいるんだろ)
糸使い(もしかして、採用されたのかな……いいなぁ)
妹「お兄ちゃーん!」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「おお、我が愛しき妹と愛しきペットよ!」
妹「面接、どうだった?」
糸使い「いやー……この顔見れば分かるだろ?」
妹「あらら……」
蜘蛛「ダメダッタノネ」
…………
……
妹「ったく、ダメだなー」
妹「そういう時はさ、『糸を扱って培った器用さを生かします』とか」
妹「いくらでも言いようがあるじゃない!」
妹「そこで詰まっちゃうから、いつまでたっても面接で受からないんだよ」
蜘蛛「ソウソウ」
糸使い「そういうもんか……」
妹「ったく、いつまでもくよくよしない! あたしのハサミで切っちゃうよ!?」チョキチョキ
糸使い「あぶねっ!」
妹「お、少し元気出たね。一緒に帰ろ」
糸使い「ああ、ありがとう」
テレビ『昨夜、またしても怪盗が現れ……綿密な計画があったものと……』
糸使い「ええい、テレビうるさい!」ピッ
糸使い「あーあ、やべえよ……」
糸使い「お前と二人暮らしするようになって、糸専門店なんて始めたけど、客全然来ないし」
糸使い「なんとか普通の会社に就職しようとしても、糸使いなんて需要がなさすぎる……」
妹「糸専門店は閑古鳥だけど、もう一つの商売は順調じゃん」
糸使い「俺あれあまりやりたくないんだよ。やっぱり糸って平和的に使うもんだし」
糸使い「はぁ……糸使いなんて時代遅れなのかもな。女にもモテないし」
妹「まあまあいつまでも愚痴ってないで。一緒に納豆食べよ?」
糸使い「お、納豆あるのか! 食う食う!」
蜘蛛「ロサンジンキドリカヨ」
糸使い「うるせえ!」マゼマゼマゼ
糸使い「ほーれ、ネバネバ~」ネバァァァ
糸使い「ネバネバ~」ネバァァァァァ
妹「……お兄ちゃんが女にモテないのって、糸使いだからじゃなくて、性格の問題だと思う」
蜘蛛「ウン」
糸使い「うるせえよ!」
糸使い「あの……カッターナイフが好きな彼氏! あいつとはどうなんだよ?」
妹「んー……ボチボチってとこかな」
糸使い「そういやあいつとは一度会ったけど……」
妹彼氏『こんにちは、お兄さん!』
妹彼氏『ボク、カッターナイフの刃をポキッて折る時に最高にエクスタシーを感じちゃうんです!』
糸使い「……なかなかの好青年だった。あいつならお前を任せられる」
妹「そりゃどうも」
糸使い「さて、納豆食うか!」モグモグ
糸使い「さっそく糸で……」シーハーシーハー
妹「やだ! あっち向いてやってよ!」
蜘蛛「キタナイナー」
糸使い「ほれ、こんなに歯クソが取れたぞ! すげえだろ!」
妹「汚いっての!」ビュオンッ
糸使い「あぶねっ! ハサミ振り回すなよ!」
糸使い「食後のコーヒーでも飲むか」
糸使い「コーヒー出してくれよ」
妹「あ、ごめん。切らしたまま買ってないや」
糸使い「マジで!?」
糸使い「仕方ない。近くのコンビニで一杯やってくるか」
妹「まーたイートイン? お兄ちゃんも好きだねえ」
糸使い「なにしろ俺は糸使いだからな」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「お前も来るか?」
蜘蛛「イクイク」
糸使い「よし、ついてこい!」
店長「お、糸使い君、いらっしゃい。就職活動はどうだい?」
糸使い「いやー、全然ダメですね」
蜘蛛「…………」カサカサ
店長「ま、気長にやるこった」
糸使い「はい……」
店長「蜘蛛君も、ご主人を支えてあげてな」
蜘蛛「モチロン!」
蜘蛛「ガムシロウメー」ペロペロ…
糸使い「――ん?」
女「…………」
糸使い「あそこで買い物してる女の人……おしとやかそうで、すげえ美人じゃないか!?」
蜘蛛「タシカニ」
糸使い「ちょっと声かけてきてくれよ」
蜘蛛「ナンデヤネン」
糸使い「いいじゃんか、頼むよ~」
蜘蛛「ヤダヨ」
糸使い(ゲ、俺の視線に気づいた!?)
女「…………」スタスタ
糸使い(やべえ、こっちに来た! どうしよう!?)
女「あのー……」
糸使い「は、はいっ!」
女「とても素敵な蜘蛛ちゃんですね」ニコッ
糸使い「あ、はいっ! あ、こいつ、俺のペットでして……アハハ……」
女「いえ、そうではなく……」
女「私、ファッションデザイナーをしているんです」
糸使い「へえ、そうなんですか!」
女「自分で裁縫をして、服を仕立てることもするので、よく糸を扱ったりするんです」
女「だから、自分で糸を出す蜘蛛は、怖いというよりむしろ尊敬してるんです」
糸使い「なるほど~(分かるような分からんような)」
糸使い「悩み?」
女「実は今、大きなファッションショーに出展するためのドレスを作っているんです」
糸使い「すごい! 売れっ子なんですね!」
女「ですが、いい布はあるんですけど、いい糸がなくて困ってるんです……」
糸使い「!」
糸使い「あ、あのっ……でしたらっ!」
女「はい?」
糸使い「俺、糸専門店を営んでおりまして、品質には自信があるんです!」
糸使い「ぜひ一度ご覧になって下さい!」
女「本当ですか? ぜひ!」
蜘蛛「オモワヌチャンス」
妹「お帰りー……ってあれ? お兄ちゃん、その女の人は?」
糸使い「ああ、ついさっき知り合ってね。俺の店の糸を見たいっていうんだ」
妹「へえ~、珍しいこともあるもんだ」
女「あなたが妹さんね? こんばんは」
妹「こんばんは!」
妹「お兄ちゃんは糸に関してだけは誰にも負けませんから! 品質は保証しますよ!」
糸使い「あんまハードル上げるなよ」
女「ふふっ、期待してます」
糸使い「店はこちらになります。さ、どうぞ!」
糸使い「自宅の一部を改装して開業したんですけど……」
糸使い「今までに来たお客の数は……ほんの数人といったところでして」
糸使い「……いかがです?」
女「……すごい」
糸使い「え?」
女「一目で分かります! どれもこれもすごい糸ばかりだわ!」
糸使い「ほ、本当ですか!?」
女「もちろんです!」
糸使い(うう……長年の苦労がやっと報われた。生きててよかったぁ~)
糸使い「え、いいんですか!?」
女「はい、この店の糸なら……あなたの糸なら、最高のドレスが作れると思います!」
糸使い「ありがとうございます!」
妹「おお……いい感じだよ」
蜘蛛「ウン」
コメント一覧
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- 2016年12月21日 23:50
- うまく落ちがついたな
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