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九大発、PM2.5の越境汚染を予測する『SPRINTARS』。予報精度の向上に向けた新たな取り組み - Engadget 日本版

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九大発、PM2.5の越境汚染を予測する『SPRINTARS』。予報精度の向上に向けた新たな取り組み

スパコン上で動く気候シミュレータ。「冬と春は大気汚染に要注意」

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PM2.5の汚染濃度は冬の方がひどい!

近年、「PM2.5」という言葉が一般にも広く知られるようになりました。「PM2.5」は大気中に存在する粒子状物質(エアロゾルと呼ばれます)の中で、直径が2.5μm(マイクロメートル)以下の微小微粒子のことです。


大気汚染の原因となる物質はだいたいこの大きさのものが多いため、「PM2.5」は「大気汚染の原因となる粒子状物質」の代名詞のように使われているわけです。主に、硫黄酸化物、窒素酸化物、有機炭素化合物のうち粒子になったものは大気汚染物質として知られ、「PM2.5」と呼ぶ際にはこれらを指すことが多いのです。

日本には大陸から「PM2.5」が風に乗って飛来します。主に、大気汚染が深刻な問題になっている中国から、汚染物質が越境してやって来るのです。これを「越境大気汚染」と呼びますが、これは春が最も注意です。大陸の空気が日本の方へ移動しやすいのが春だからです。

一方、中国の深刻な大気汚染のニュースが報道されるのは、主に冬です。理由は、冬は大気が安定していて汚染物質が発生地点にとどまることが多いこと、また、中国では暖房のために石炭を使うことが一般的であるためです。


▲『SPRINTARS』(後述)によるアジア大都市のPM2.5の予報です。赤は「 Unhealty or Hazardous」で、健康に影響を与えるほど濃度が高いことを示します。これを見ると、中国の「北京」「天津」「大連」「上海」といった都市では、1日中絶え間なくPM2.5による大気汚染にさらされていることが分かります。

※ただし日本のPM2.5濃度が高くなるのは飛来物質によるものだけではありません。現在でも日本国内を発生源とするPM2.5濃度の高い場所は存在します。

エアロゾルの流れを探れ! シミュレーションモデルの構築

エアロゾルには国境などありません。空気は地球を還流しており、その流れは誰にも止められません。大陸から飛来するPM2.5にさらされないためには、PM2.5の濃度が高い日は外出しないなどの対策が必要です。そうしたとき、天気予報のような「PM2.5濃度予報」が役に立つのです。


▲『SPRINTARS』(後述)のPM2.5・黄砂の予報は、このように毎日更新されています。

しかし、そのためには地球を巡っている空気の流れをシミュレートできなければなりません。例えば、汚染のひどい中国の某都市で発生したPM2.5がどこにどのように流れていくのかを正確に予測できなければならないのです。

言うのは簡単ですが、これはつまり「地球規模の大気の流れのシミュレーションモデル」が必要で、流体力学の知識と理解から複雑かつ大量の計算を行うためのリソースまで、さまざまなデータと高度な技術が必要になります。

九州大学が運用している『SPRINTARS(スプリンターズ)』は、大気中のエアロゾルによる地球規模の気候変動および大気汚染の状況を、コンピューターによって再現・予測を行っているソフトウェア(正確には数値モデル)です。

SPRINTARSは、『MIROC(ミロク)』(Model for Interdisciplinary Research on Clime)という数値気候シミュレーションプログラムに組み込まれて動くようになっています。そもそも『MIROC』は、地球全体の気候変動を計算する全球大気海洋シミュレーターですが、『SPRINTARS』はその中でエアロゾルの動きを計算するための、いわば特化されたサブルーチンのようなものです。

▲『SPRINTARS』では、このようにエアロゾルのシミュレーションを生成することが可能です。

『SPRINTARS』は『MIROC』だけではなく、他のシミュレータープログラムに組み込んで動作させることもできます。現在は、地球全体の雲の発生・発達・消滅を計算できる『NICAM』(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model)にも『SPRINTARS』は組み込まれて活躍しているのです。

予測精度を向上させている『SPRINTARS』



『SPRINTARS』の開発に取り組んだのは、現・九州大学 応用力学研究所の竹村俊彦教授です。竹村教授は、気候変動に関する研究の第一人者で、エアロゾルのモデルの研究、また汚染物質の越境飛来についての専門家です。

竹村教授は大学院生(東京大学 気候システム研究センター(現在:大気海洋研究所))の時代には、『SPRINTARS』の「エアロゾルがどこから飛来し、どこに到達するのかという部分」はすでに完成させていたそうです。わずか3-4年の間にほぼ独力で成し遂げたというのは驚異的といえるでしょう。

ちなみに「スプリンターズ」という名称は、竹村教授が中学から大学まで陸上部で、短距離選手(スプリンター:こちらは本来は「sprinter」と綴ります)だったことに由来しています。「s」が付いて複数形になっているのは、多くの人々の研究に基づいてこのソフトが作られてるからで、先人たちへの敬意を表してのものです。

『SPRINTARS』は非常に優秀なシミュレートモデルとして世界的にも有名です。特にまだこのように精度の高いモデルの構築途上にあるアジア諸国、また大気汚染のひどい発展途上国にあっては、『SPRINTARS』は一つのお手本となっています。実際、筆者が取材した中では、中国、韓国で『SPRINTARS』のPM2.5予報を参考にしていることが少なくありません。

竹村教授にお話を伺ったところ『SPRINTARS』は予報精度をさらに向上させるべく進化を続けている、とのこと。それは、

●「分解能」の向上への取り組み
●「データ同化」への取り組み


の2点についてです。

「分解能」の向上というのは、予測可能な「水平方向のスケール」を指しています。地図をある間隔ごとにマス目状に切ったものを想像すると分かりやすいでしょう(正確には経度方向は等間隔、緯度方向は不等間隔です)。

開発当初はその間隔がおよそ100kmで、この100km四方のマスの範囲においてエアロゾルの濃度を予測するものでした。それが2004年には50km四方となり、現在では35km四方というところまできています。約8.1倍にも分解能が向上したわけです。

「データ同化」というのは、実際の観測データを取得してモデルに代入し、予測の精度を上げようとする試みです。

『SPRINTARS』は、あくまでも自身の中の計算によってシミュレートを行ってきました。例えば、砂漠の砂は風速が10メートルになるとこのくらい大気中の粒子状物質になる、といった具合です。ただし、森林火災は別で、その発生はNASAの衛星によりほぼリアルタイムに観測されています。竹村教授によれば、例えばシベリアに森林火災が生じると、それ由来のエアロゾルは北海道にまで飛来することがあるそうです。

実測データをモデルに入れて、計算からのずれを修正して、シミュレートの結果がより現実に近づけば、予測精度が向上したということになります。ただし、「より確実性の高い観測データでなければ駄目」とのことです。

例えば、ネットでも話題になりましたが「気温を計測している地点がアスファルトの反射をもろに受けるというのはいかがなものか」みたいな話です。信頼のおける観測データをいかに集めるかというのは、予測システムの精度を上げる上でも重要になるのです。


▲現在『SPRINTARS』による日々の予報は九州大学応用力学研究所にあるスーパーコンピュータ『SX-ACE』(NEC製)で計算されています。ちなみに『MIROC』『SPRINTARS』は両方ともFORTRAN(フォートラン)で書かれています。FORTRANは1954年に考案された古い言語ですが、長い歴史がある分、先人たちが書いた堅牢性の高いコードが多くあり、科学技術計算に向いているのです。

『SPRINTARS』は毎日PM2.5予報を行っていますが、この成果は私たちの健康的な生活に直結するものです。日本の予報精度が高いのは、竹村教授はじめ研究者のたゆまぬ探求心と努力の結果なのです。

驚くべきことに、公式サイトで運営されている『SPRINTARS』の予測は、竹村教授が毎日一人で出していらっしゃるとのこと。こういう点も、非常に日本的でありますが(皮肉です)、日本が世界に誇るテクノロジーの一つとして『MIROC-SPRINTARS』によるPM2.5予測はもっと高く評価されるべきではないでしょうか。

『SPRINTARS』公式サイト
関連キーワード: aerosol, environment, forecast, PM2.5, simulation, technology
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