【モバマス】トクベツな一枚
公式の供給が少なすぎて暴発した私の勝手な妄想なので、少し注意。
つい先日、撮った写真を口の端が持ち上がって変な顔になってしまいそうなのを我慢しながら、それを眺めていた。
本当によく撮れている写真だ。ああ、直前にトラブルが起きたせいで現場を見に行くことが出来なかったのが、非常に残念だ。
ゴス口リ風の衣装に身を包んだ雪美ちゃんと、飼い猫のペロがお気に入りの場所に座り込んで写っている写真には、雪美ちゃん独特の雰囲気と可愛らしさ、儚さが上手く表現されていて、どんな言葉も安っぽく聞こえてしまうだろう。
私はその写真を一度封筒に仕舞うと折れてしまわないように、最大限注意しつつとある場所へと向かった。
雪美ちゃんと出会ったのは、事務所のオーディション会場で、
その後の契約もあっという間に進んでいったこともあって、結局どんな家に住んでいるのかも、両親の顔すらも、私は知らない。
例えば、家ではよく喋る女の子かもしれない。なんて……
そんなことを考えている間に、住宅街から少し離れたところにある、大正ロマン風の建築物が見えてきた。
その場所には“佐城写真館”と書かれていて、入り口から店内へと入るとおよそ50代~60代くらいの男性が私を出迎えた。
胸ポケットにいつも閉まっている名刺入れから、名刺を一枚取り出して手渡すとその男性は私の名刺を見て、ああ貴方がと呟いた。
「どうも、私は雪美の祖父です」
確かに、赤い目の色がそっくりで、どことなく雰囲気が似ているような気がする。
「すいません。中々、ごあいさつに伺えなくて…」
「いえいえ、貴方の事は雪美からよく聞いてますよ。とても頼りになる人だと。それに最近の雪美は楽しそうですから、むしろこちらかお伺いしようと考えていたくらいですよ」
確かに、最初に出会ったころは、少し表情と感情の変化が乏しかったと思う。
しかし、最近は笑っているところを見ることが多くなった気がする。
それに、事務所の子たちとも、仲良くできているみたいで、つい先日もLMBGのみんなでカラオケに行ったらしい。
今度は私も来て欲しいと雪美ちゃんから誘いを受けて、次にみんなのオフが重なった時に一緒にカラオケに行こうと約束をした。
「あっ、すいません。本日はこちらを……」
封筒から、雪美ちゃんの写真を見せるとお祖父さんは息を呑むようにその写真を見つめて、「よく撮れているな……」と呟いた。
「ですよね!?」
「えぇ……。実に雪美らしく撮れていますよ。これを撮ったカメラマンはきっと……」
「すいませーん」
玄関の方から、その言葉の先を遮って来訪者の声が聞こえてきた。
お祖父さんは後ろの本棚からアルバムを手に取って、私の前に置いた。
お祖父さんは「よろしければご覧になって下さい」と言い残し、来訪者のほうへと向かって行った。
アルバムの背表紙には“雪美の成長記録”と書かれていて、一ページずつ捲ってみると色んな雪美ちゃんの姿がそこに在った。
お遊戯会で人魚姫を演じている姿や、七五三の様子、クリスマスに小さな黒猫を貰って、その黒猫と遊んでいる様子など、どれもとてもいい写真で、個人的に何枚か貰いたいくらいだ。
夢中になって写真を見ている間に、時計の長針は気が一周半も回っていた。
写真を見ていく中で、気になることが一つだけあった。
雪美ちゃんの両親らしき人物が一枚も写真に写っていないのだ。
産まれてすぐの写真もあったのだから、産まれてすぐに亡くなってしまったなんてことはないだろうし……。
「すいません。お待たせしてしまって」
聞こうか聞かないか、迷ったが結局私は聞くことにした。
雪美ちゃんは時々ふと寂しそうな表情を浮かべることがある。
それは両親がいなくなったことで感じている寂しさならば、どうにかしてあげたいと考えたからだ。
「あぁ、彼は……
お祖父さんは少し言い淀んで、ゆっくりと口を開こうとするとまたも、来訪者によって遮られた。
「まったく、噂をすればというやつか……」
お祖父さんは、頭を抱えて玄関へと向かって行って、一人の青年がお祖父さんに引っ張られてきた。
「どうも、雪美の父です。この間はどうも」
この間……? 思い当たる節が全く持って見当たらない。どこかで会ったことがあっただろうか?
「あー、そういえば直接お会いするのは初めてなんでしたっけ? えっと、僕はカメラマンをやってます」
名刺を手渡されて、私はようやくピンと来た。
まあ、芸能界において本名じゃないなんてことはよくあるけれど……。
この人は例の写真を撮ったカメラマンだ。
雪美ちゃんが今回の撮影を随分と楽しみにしていたのはそういう理由だったのか……。
「そして、今回の衣装を担当したのは~」
「私でーす」
雪美ちゃんのお父さんの後ろから、雪美ちゃんをそのまま+20歳したような女性が姿を現した。
ただ、少し違うのは、雪美ちゃんと比べると明るすぎるという事だろうか……
女性の方はどこかで見た事があると思ったら、世界的に名の知れたデザイナーの一人でよく家に事務所のアイドルの衣装を手がけてくれている人だった。
「えっと、いつもお世話になってます……」
「いいんですよー! 私も好きでやってますから~」
というか、何度か顔を合わせたことがあるのだから教えて欲しかった……。
どうして言ってくれなかったのか? と聞くと、彼らはもう知ってると思っていたからしい。
「すいません……。中々、大きな舞台に立たせてあげられなくて……」
雪美ちゃんが事務所に入ってから、かれこれ長い時間が経つが未だに、CDデビューすらできていないのだ。
アイドルとしての魅力は十分にある筈なのに、中々上手くいかないのはきっと私がまだまだ努力不足だからだ。
「いいんですよ! 貴方が精一杯プロデュースしていることは伝わって来ていますから! だから気にしないでください」
「それに、人気があろうとなかろうと私たちが、雪美ちゃんを応援しているという気持ちに変わりはないですから」
「ありがとうございます……」
いい歳した大人たちが泣きながら、雪美ちゃんの成長エピソードについて語り合った後、ホームビデオを皆で見ました。
かけっこで一位を取ってドヤ顔する雪美ちゃんは最高に可愛かった。
何て事を語り合いながらビデオを見ていると、時間はあっという間に過ぎた。
「ただいま……」
「ああ、雪美おかえりなさい」
「パパママ……、それにPも……」
雪美ちゃんの視線の先には、自身のアルバムとホームビデオがスクリーンに写っている。
「や、やめ……! 見ないでっ……!」
狼狽えている姿は見た事があったものの、照れている姿は見た事がなかったので、雪美ちゃんの事が少し知ることが出来て良かったと思う。
「うう……恥ずかしい……」
机の上に置いてあったアルバムを胸に抱いて、涙目でこちらをジッと見つめてくる
。相当恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤に染まっている。肌が少し色白いから、その紅さはより際立って見える。
「えっち……! Pのえっち……!」
雪美ちゃんは、涙をボロボロ流して地面にへたり込んだ。罪悪感で胸が締め付けられそうになる。時間が巻き戻せるのなら、一時間前の自分を止めに行きたい……。
「ごめん……。この埋め合わせは何でもするから……!」
「本当……?」
「ああ、本当だよ! どんな約束でも守るから!」
所詮は子供のお願いだ。せいぜいパフェが食べたいとかそんなものだろうと、私はたかをくくっていたが、それが裏目に出るとはこの時は思っていなかった。
「じゃあ……、6年後その約束守ってね……」
耳元でボソッと呟いて、妖艶な表情を浮かべる。
その言葉の意味がどんな意味を持つかなんて分からないはずもなく、私の心臓は周りに聞こえてしまうじゃないかというほどにドキドキしていた。
それにしても、随分と演技が上手くなったようで感心した。今度のドラマに推薦してもいいかもしれない。
何て事を考えていると、雪美ちゃんはまた私の耳元まで近づいてきて「さっきの言葉……本当だよ……」と囁いて、私の心臓はまたドキリとさせられた。
これはとんでもない、小悪魔美女の誕生だ……
「じゃあ、その前に皆で写真……撮ろ……?」
家族写真に邪魔してはいけないと立ち去ろうとすると、雪美ちゃんは袖を掴んで「Pも一緒……」と言ったので、私も写ることになった。
「いいんですか? 折角の家族写真なのに……」
「いいんですよ。そのほうがこの子も喜ぶと思いますから」
今日は全員そろっているわけではないらしく、雪美ちゃんのおばあちゃんがいないらしい。
何でも、百人一首の全国大会に出場しているらしい。
そのおばあちゃんに仕込まれた雪美ちゃんがかるたで圧倒的強さを発揮したのにも納得がいった。
「ええ、全員そろった写真はまたその時に撮ればいいですからね。今度はそちらのご家族も一緒に……ね?」
刻々と撮影までの時は迫る。
「1たす1は……?」
「に-!」
私の頬に柔らかい感触があって、その瞬間の空間がファインダー越しに切り取られ、保存された。
私と雪美ちゃんの大切なトクベツな一枚として。
雪美ちゃんは、写真を撮られることに何か特別な意味か何かがあるんじゃないかと思って書きました。(下図参照)
でも、思い通りに書くのってやっぱり難しいですね……
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来年こそ雪美ちゃんのCDが聞きたい……
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コメント一覧
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- 2016年12月26日 23:36
- ペロって男の子?女の子?
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- 2016年12月26日 23:38
- 雪美ちゃん…