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ワコムの「ペンタブ」は、細かなノウハウの塊だった──過去30年の開発史を振り返る - Engadget 日本版

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ワコムの「ペンタブ」は、細かなノウハウの塊だった──過去30年の開発史を振り返る

日本が世界に誇るテクノロジー

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編集者あがりの筆者は昔、某古参漫画家さんに「最近の若い漫画家は最初からコンピューターで描くらしいね」なんて言われたことがありました。もう10年近く前の話です。今や全ての作画をコンピューター上で行う漫画家は珍しくありません。

漫画家のみならずイラストレーター、デザイナーなど、「描画」作業を行うクリエーターの皆さんの多くが現在ではコンピューターと「ペンタブレット」を使っているでしょう。

さて、この「ペンタブレット」。略して「ペンタブ」と呼ばれることが多いですが、ほとんどがワコム製です。ワコム製品の日本国内・世界でのシェアは約86%に達します。多くのクリエーターが同社製のペンタブを愛用しているわけですが、ワコムのペンタブはどのような技術革新を遂げてきたのでしょうか?

ペンタブ初号機は1987年に発売! 世界初の電磁誘導式だった!

ワコムがペンタブレット型デバイスを初めて発売したのは1987年のことです。ちなみに当初は「ペンタブレット」という呼称はなく「デジタイザー」という名称が使われていたそうです。位置データをデジタル化するという意味ですね。


▲1987年に発売された記念すべきワコム製ペンタブレット型デバイスの初号機

このワコム製ペンタブレット(コードなし、バッテリー不要)初号機の登場は業界を驚かせました。

というのは、それまでコンピューターに接続して使うペン型デバイスというのは、別に電池などのパワーソースが必要なため、「有線」が一般的だったからです。しかし、この初号機の電子ペンは別途電源が必要なく、コードによる制約がないために普通のペンのように使えるという画期的なものでした。

仕組みはこうです。板状のタブレットの表面には磁界が発生しています。コイルを内蔵したペンがこの磁界の中で動くとペン内のコイルに電流が生じ、誘導信号を発します。タブレットはこの信号をセンサーで受信してどこにタッチされたのかを検出するのです。検出された場所に点を描画すれば、ペンでパソコンの画面上に点を描けたことになります。これを「電磁誘導式」といいます。




▲磁界の中で動かすとペンに内蔵されたコイルに電気が流れ、誘導信号を発する

さらに「Cスイッチ」という部品により、筆圧の測定ができます。筆圧の変化を線の太さに反映すれば、筆圧によって変わるタッチも再現できるのです。電磁誘導式のペンタブレットは、特殊なペン(電子ペン)のおかげで電池やコードが不要になり、有線の製品よりはるかに使いやすい、利便性が高いデバイスだったのです。

このような電磁誘導式のペンタブレットはワコムが世界で初めて製品化しました。

精度向上への挑戦! 紙に描くのと同じような感覚で描けるか!?


▲1998年発売の『Intuos(インティオス)』シリーズの初代機。プロユースを意識して作られたフラッグシップモデルの初めての機種

1987年に登場した初号機の後、ほぼ30年たちましたが、現在もなおペンタブレットは進化を続けています。その進化は「できるだけ自然に、まるで紙に書く(描く)のと同様の感覚を実現する」ためです。これを実現するためには「入力部分」「表示部分(描画部分)」でのたゆまぬ技術的改善が必要になります。

まず入力部分では、
  • 位置検知
  • 筆圧検知
  • オン加重の検知
の精度を向上させることです。

1998年に登場した『Intuos(インティオス)』シリーズの初代機が同社のペンタブの歴史の中でもエポックとなりました。Intuosはプロユースを意識して開発されたフラッグシップ機の始まりなのです。

まず、1987年に電磁誘導式で始まったシステム(「SDシリーズ」と呼称)ですが、1995年に信号処理の方法をデジタルに変更した「UDシリーズ」が開発されます。これが1998年のIntuosから新たに「GD」という方式を採用しているのです。

ペンのアナログな動きをデジタル変換する際にはストロークの位置を検出しなければなりませんが、その際にタブレット側のセンサーが信号の送受信を繰り返します。この送受信の回数がより多くなればなるほど位置は正確に検出できます。1秒間に何回信号の送受信を行えるかを「スキャンレート」と呼び、これをワコムでは「読取速度」とスペックシートに記載しています。単位は「pps」で「ポイント・パー・セカンド(秒)」の略です。


▲プロユースのフラグシップモデル 『Intuos Pro』は現在では6世代目

「GD」はスキャンレートがそれまでの機種よりも向上しており、現在では「130pps」が一般的な機種ですが、プロユースの『Intuos Pro』シリーズの最新機では「200pps」と、そのスキャンレートは約1.5倍となっています。ちなみにプロ用の『Intuos』は現在の最新モデルですでに6世代を重ねています。

プロモデルは「オン加重」の精度が違う!


▲「オン加重」の検知精度はタッチの再現にとって重要なファクター

オン加重の検知」もまた重要な要素です。

同社のブランドビジネスチャネルマーケティング担当の轟木保弘さんによれば「コンシューマーモデルとプロ用モデルの最大の違いはどこかというと、この『オン加重』の部分です」とのこと。

「オン加重」とは、つまり「どのくらいの重みを加えるとタッチされたと感知するか」です。これが小さくなればなるほど繊細なタッチを再現できることになります。現在の最新のプロ用モデルでは「1グラム」のオン加重を検知するほど鋭敏となっています。



入力部分では「ペンの傾き」を検知し、それを描画に反映できるようになっているのも大きな進化です。ペンをまっすぐ立てて書く人はあまりいませんね。鉛筆でも絵筆でも傾けて使います。また、その傾きが作品の「味」になったりするわけで、技術的進化はその再現も可能としているのです。

追従性を向上させるには......アプリの性能向上も必要

描画の表示(ディスプレーに映し出す)部分で特にクリエーターが気にするのが「追従(ついじゅう)性」とされます。電子ペン動かしてパソコンのモニターに線が引けるまでの「タイムラグ」。これが気になる人も多いのです。

ワコムのペンタブでは追従性の向上が測られてきましたが、残念なことにこの部分はハードとドライバープログラムだけのチューンでは限界があります。ペンの動きにいかに自然に描画が追従できるか、これを実現するにはアプリケーション側での処理の向上も必要です。この要望に対応するべく、ワコムではアライアンスを組んだアプリメーカーと共同開発を重ねています。

ペンとパネルのタッチは試作を繰り返して実験する!


▲「替え芯」の例。自分好みの描き(書き)味が得られるようにペンの芯には各種あります。ちなみに「エラストマー( elastomer )」とは、 「elastic」(弾力のある)「 polymer」(重合体)のふたつの単語を組み合わせた造語で、簡単にいうと「弾力ゴム」のことです。

画材にこだわるクリエーターにとってはペンのタッチフィールも非常に気になるようで、その点の改良は常に続けられています。現在では、ペンの芯用の素材にフェルトなどが採用されていますが、これはさまざまな素材で1本ずつ試作してはクリエーターに試してもらい、最適解と思われるものを採用した結果なのです。


▲ペンとの摩擦計数まで計算して特殊加工されているタブレット表面のパネル

また、タブレット表面に貼られているパネルの素材も描いたときのフィーリングが最適なものになるよう、さまざまな素材でパネルを作り、試用を繰り返した末のものです。クリエーターが納得するペンとパネルの摩擦係数まで計算して作られています。そのために何百枚という紙に線を引いて摩擦係数を計測した、とのことでした。

ペンタブはホイホイ作れる製品ではない!

ペンタブの進化にどのような技術的努力が払われてきたかを駆け足で紹介しましたが、いかがだったでしょうか。


▲12月22日に発売された最新製品『Wacom Cintiq Pro 13』



ペンタブレットはパソコン用デバイスとして、基本的にパソコンに接続して使うものでした。しかし、Windowsタブレットの機能を搭載して、どこへでも持って行って使える『Wacom MobileStudioPro』というシリーズも出ています。これを持ってスケッチ旅行、なんて使い方もできます。

「一つのことを、一生懸命極める」という努力のおかげ

30年近い歴史の中でワコムのペンタブレットは、クリエーターの要望に応え技術的革新を遂げてきたわけです。現在では上記のような最新機種が登場していますが、今回の取材で分かったのは「ペンタブレットは細かなノウハウの塊」だということです。

他社が「うちもできる」とホイホイ造れるような製品ではありません。できたとしてもクリエーターに受け入れられるかは、はなはだ疑問です。ワコムのペンタブは世界シェアがすごいことになっていますが、これは極めて日本的な「一つのことを一生懸命極める」という姿勢とたゆまぬ努力のおかげのように思えます。

『プロジェクトX』みたいな終わり方ですみません。でもワコム製のペンタブはやっぱりよくできてる! と筆者は思います。
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