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【モバマス】GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』|エレファント速報:SSまとめブログ

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【モバマス】GIRLS BE NEXT STEP『ラクダのアイドル』

1: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:22:55.03 ID:5rUQDHft0



     『笑えないラクダと笑えなかったラクダ』






2: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:23:32.14 ID:5rUQDHft0

白菊ほたる(13)

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松尾千鶴(15)

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若林智香(17)

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佐久間まゆ(16)

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3: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:26:12.72 ID:5rUQDHft0

ほたる「白菊ほたる13歳です。あの……よろしくお願いします」

 目の前の少女は、そう言って頭を下げた。
 この状況は、私にとって好ましいものではない。
 なにより予定外だ。
 そして事前情報に誤りがある。
 履歴書から目を上げ、私は言った。

P「アイドル志望の新人の面接、と私は聞いていたんですが」

 少女は一瞬の間を空けて、慌てて頭を下げた。

ほたる「その、自分でも自分の立ち位置といいますか、そういうのをその……なんて言ったらいいのか」

 私は彼女の履歴書に、再度目を落とした。
 白菊ほたる――芸能歴約一年。
 以前の所属は、ペルム・コーポレーション。記憶に新しい、先日倒産した芸能事務所だ。
 いや、その前もある? 石墨プロ……ここも倒産したんじゃなかったか?
 ん? まだその前があるだと?



4: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:27:00.97 ID:5rUQDHft0

P「シルルというのは、確か……」

ほたる「あ、はい、その……倒産しました」

 なんだって?
 それじゃあこの娘は、所属する事務所がことごとく倒産しているわけか。

ほたる「なんていうか、私のせいなんじゃないかと……そ、そんな私ですけど、やっぱりアイドルの夢をあきらめられなくて……!」

P「あなたのせい?」

 その言葉に、私は興味を覚える。
 この少女には、何か秘密があるのか?
 芸能事務所が倒産に追いやられる、そういう事情があるのだろうか。
 もしかして、特別な過去や身分が!?

ほたる「私が所属するたびに事務所が倒産してしまって……きっと私の不幸が、その……それで」

 なんだ。
 それはただの思いこみだ。
 私は興味を失った。
 私は運勢とか、超常的なものを信じてはいない。そういうのは、まやかしだ。
 つまり目の前にいるのは、ただのアイドル志望の女の子にすぎない。
 ならば、通常の手続きをとるまでだ。



5: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:27:44.87 ID:5rUQDHft0

P「では。芸能界経験のある新人アイドル志望者、として扱います」

ほたる「え?」

P「珍しいですが、前例がないわけではありませんから」

ほたる「あの……それはつまり、お話を聞いていただけるんです……か?」

 おかしな事を言う少女だ。
 それが目的ではないのだろうか?
 それにそもそも、既にこうして私は彼女の話を聞いているではないか。

ほたる「前の事務所がなくなってから、いくつも事務所を回ったんですけけど、どこも面接もしてもらえなくて……」

P「お話は伺います。あなたを――先程も言いましたが、芸能経験のあるアイドル志望者として」

ほたる「あ、ありがとうございます!」

P「まだあなたを、ウチの所属にすると言っているわけではありません。そこは間違えないように」

ほたる「わ、わかってます。ありがとうございます!」

 何に対する礼なのだろうか?
 まあいい。こちらとしては、通常の手続きをとるだけだ。



6: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:30:13.80 ID:5rUQDHft0

P「特技は?」

P「趣味は」

P「自己PRをどうぞ」

 少しおどおどはしているが、まあ緊張の為だろう。
 容姿も悪くない。
 ただ気になる点もある。

P「笑ってみてください」

ほたる「え……」

P「? 笑顔です。笑ってみてください」

ほたる「え、あ、はい。その……こ、こう……ですか?」

 彼女の表情は、一般的には『おびえ』と称される類のものだった。

P「なんていいますかその……もっと、こう……」

ほたる「こう……」

 それは……困り顔というのではないか?
 しかしちょっと興味深い。
 悪くない容姿に、笑わない少女。
 事務所がいくつも倒産しても、そして面接を断られても諦めない--根性。
 いや、私は元来そういう熱血とか根性とかいうものの信奉者ではない。それらは時に戦略や判断を誤らせる。
 しかし……
 目の前の不安でたまらない表情の割に、諦めない目をしているこの少女は、ちょっと――悪くないと思った。

 あまり人を試したりするのは好きではないが、ちょっと確かめてみたくなった。



7: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:31:02.62 ID:5rUQDHft0

P「何か歌ってみてもらえますか」

ほたる「え……」

P「アイドル志望なのですから」

 さて、どうだろうか。
 歌えといっても、ここは応接室だ。
 音源などなにもない。
 彼女は――

ほたる「ありがとうございます!」

P「ん?」

ほたる「初めてです。私の歌を聞いてくださる面接は」

P「……そうですか」

ほたる「あの、何を歌ってもいいんですか?」

P「ええ」

ほたる「では、アイドルの歌ではないんですけど……ラクダの歌をうたいます」

P「……ラクダの歌?」



8: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:32:19.37 ID:5rUQDHft0

ほたる「♪
ここは砂漠さ 足下は砂の海
私はラクダ 今日も歩いていこう
砂漠の海に 足が焼けるけど
旅はまだまだ 始まったばかり

ここは砂漠さ 頭上は燃えるお日様
私はラクダ 今日も歩いていこう
お日様が燃えて 汗も涙も
カラカラになるけど 足を止めない

ここは砂漠さ 夜は凍える
私はラクダ 今日も歩いていこう
冷たい夜は みんな寄り添い
朝がくれば また歩きはじめる

ここは砂漠さ 草も木もない
私はラクダ 今日も歩いていこう
体も心も 乾いてしまったけど
背中の中に 夢だけはある♪」



9: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:32:48.52 ID:5rUQDHft0

 初めて聞いた歌だったが、悪くない。
 伸びやかな歌声。おだやかな曲調。
 歌詞も味わいがある。

ほたる「あの……以上です」

P「あなたが作った歌、なんですか?」

ほたる「あ、いえ……母が作った歌みたいです。赤ん坊の頃から、子守歌がわりに聞かせてもらってました」

P「お好きなんですか?」

ほたる「ラクダが……ですか? はい」

P「そうですか」

ほたる「小さい頃から、近所にいましたから……」

P「え?」

ほたる「あの……ラクダが」

 ……動物園でも近くにあるのかな?
 ラクダ、か……確かラクダは……

P「そういえば」

ほたる「え?」

P「中東では、過酷な砂漠を旅するラクダは、忍耐の象徴だそうです」

ほたる「忍耐……」

P「何かで聞いたことが、あります」

ほたる「……ありがとうございます!」

P「え?」



10: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:35:12.23 ID:5rUQDHft0

ほたる「私、負けずにがんばります!」

 えーと……
 あ。
 いやいやいや、俺はなんとなく思い出しただけで、激励とかそういうつもりで言った訳ではない。
 喉までそう出かけたが、少し嬉しそうに両の手のひらを固く握りしめたこの少女に、俺はそうは言えなくなっていた。

P「では結果は後日」

ほたる「は、はい。よろしくお願いします」




11: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:35:46.57 ID:5rUQDHft0

   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   


P「色々と話が違うんじゃないですか?」

ちひろ「え?」

P「そもそも今日は、先日のオーディションに合格した新人アイドル候補生との面談じゃなかったんですか?」

ちひろ「まだ本人が来ていませんから、時間があると思いまして。それで」

P「はあ、遅刻ですか?」

ちひろ「いえ。なにしろ遠いですから」

P「遠い?」

ちひろ「福岡からですから。着いたらとりあえず事務所に来るように、とは伝えてあるんですけど」

P「福岡から!? 一人で上京してくるんですか!?」



12: ◆hhWakiPNok 2017/01/02(月) 22:36:29.10 ID:5rUQDHft0

ちひろ「大丈夫ですよ。中学生とはいえ、しっかりしている娘ですから。場所やアクセス方法も伝えてありますし」

 いくらしっかりしていても、まだ中学生の女の子に迎えもやらずに待っているとは!

P「移動手段は? 飛行機ですか? 新幹線ですか?」

ちひろ「えっと……あ、来たみたいですよ」

松尾千鶴「失礼します。本日よりお世話になります、松尾千鶴と申します。よろしくお願いします」

 ノックの後ドアを開けて現れたのは、色白の肌にショートカットで、意志の固そうな瞳と眉をした少女だった。
 一見して美少女であることは間違いないが、その表情は堅い。
 背筋がピンと張っていて、姿勢もいい。中学生と聞いていたが、その姿勢の良さで背も高く見える。

ちひろ「改めて紹介しますね。福岡支社でのオーディションに補欠合格した、松尾千鶴ちゃんです」

 いや、待て待て。ちひろさんが今言った情報は、俺の事前情報と食い違いがあるぞ。

P「補欠合格?」

ちひろ「ええ。不思議ですよね、千鶴ちゃんこんなに可愛いのに」

 ちひろさんは、千鶴と紹介された少女の肩を抱く。
 彼女はというと、傍目にも大袈裟に映るほど慌てているようだ。

千鶴「可愛い? 可愛いって言われた? 社交辞