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主人公が左→右にすすむゲームは『スーパーマリオブラザーズ』(1985※/任天堂)だけではない。ジャンルを問わず同時期の多くのゲームは基本的に進行方向が→だったようだ。
その理由について当時のアーケード筐体が左側に操作レバーがあったからというインターフェイス由来説が古くから唱えられてきた。
※『スーパーマリオブラザーズ』はファミコン版が1985年、アーケード版は1986年に登場した
『ソンソン』(カプコン/1984年)、『魔界村』(カプコン/1985年)
『ハイパーオリンピック』(コナミ/1983年)、『グラディウス』(コナミ/1985年)
しかしながら、最初期のアーケード筐体の操作レバーは中央だったり、右だったり、何なら両方だったりと、実はカオス状態だった。なぜなら最初期のゲームは固定画面だったからである。
世界初のスクロールゲーム『ディフェンダー』(Williams社/1980年)は両スクロールだった。両スクロールでない最初期の横スクロールゲームの出現は『スクランブル』(コナミ/1981年)まで待たなければならない。同ゲームの進行方向は既に、マリオと同じ→だった。
※『スクランブル』広告より
ただし、『スクランブル』の当時の広告を見ると、操作レバーが中央にあり、ボタンが左右についているタイプが確認できる。つまり横スクロールゲームが出たあともカオス状態は続いていたことがわかるのだ。これは「まず左レバーありき」というこの説の根幹を揺るがす事態であるが、ゲームが先かレバーが先かという鶏卵論争の末に答えを求めるよりも、試行錯誤の時代だったと見るほうが現実的であろう。
アーケード筐体の操作パネルはその後、およそ10年間の試みの期間を経て「左レバー右ボタン」に定着している。その過程で、ゲーム&ウオッチに採用された十字キーも左に配置され、ファミコンがそれを踏襲する流れとなったのだ。
現在のアーケード筐体や家庭用ゲーム機のコントローラも、ほとんどこの配置になっているは、皆さんもご存知の通りである。
アーケード筐体の操作パネルが「左レバー右ボタン」に定着した理由については、人間の生物学的な特徴、すなわち“右利きが多い”という性質に起因すると考えられる。
当時のゲームのボタンの多くは“アタック”を意味しており、古来より人間は利き手に武器を持っていたため、生理的にもその配置がフィットしたのは想像に難くない。
『Law of the West』(1987年/ポニーキャニオン)
ただし、十字キーの発明者である横井軍平氏は自身の著書「横井軍平のゲーム館」の中で以下のように語っている。十字方向に動かすジョイスティックとボタン一つというのは、「(スペース)インベーダー」がもとでしょうね。 ただ、ジョイスティックが左にあるというのも変な話で、今のゲームはジョイスティックが全部左でしょう。ジョイスティックっていうのは、右手で使うのが本当じゃないかと思うんだけど。(中略)ファミコンの十字キーだって、最初から右にあったら、ゲームの上達は速いはずですよ。
どうやら彼は右レバー派だったようだ。その証拠に、のちに彼が手がけたバーチャルボーイのコントローラは両方に十字キーが配置されている。
はたして操作レバーは本当に利き手側のほうが良かったのだろうか。その答えは楽器が奏でてくれるかもしれない。
※Copyright: Lobeline PR
たとえばギターは左手でコードを押さえ、右手で弦を弾(はじ)く楽器である。左利きの人間には左利き用のギターがあるので関係性は同じだ。なぜギターはコードを押さえるという複雑な動きを利き手に任せなかったのだろうか。それは“弾く”という動作が我々の想像以上に複雑だからではないだろうか。
同様にボタンを連射するという動作は、レバーを操作するという動作よりもよっぽど複雑なのかもしれない。ゲームの歴史よりもはるかに長いギターの歴史が、そう物語っているのである。(それもたまたまなのか?)
横井軍平といえば『Dr.MARIO(ドクターマリオ)』で面白い話がある。
知人に『Dr.MARIO』が妙に上手い男がいた。私オロチも落ちゲーに関しては相当な腕前だが(自分で言うか)、何度やっても勝てないのだ。なぜ彼はそんなに強かったのだろうか。すると私はあることを思い出したのだ……
そう、彼は「左利き」なのだ!
このゲームの場合、スピードが上がると、カプセルを回転させるA・Bボタンよりも、カプセルを移動させる十字キーの操作のほうが素早い入力を要求される。彼は左利きだったが故に、十字キーの連射が速かったのだ。そこで私は考えた。だったら自分も「右手で十字キーを操作すればいいじゃないか」と……
そこで生み出したのが指をクロスさせる技である。
※指をクロスさせたときの右手親指の動き。この状態から左手の親指でAボタン、或いはBボタンを押すので、指がクロスになる。
ついに私は彼と互角に戦えるようになったのだ。そんな『Dr.MARIO』の開発者が過去に「十字キーは右手で使うのが本当じゃないか」と言っていたなんて、なんとも因果な話である。
なぜ操作レバーが左にあると、自機も左から始まるのか。その根拠について非常にわかりやすい解説がファミコン通信1993年3月5日220号「ゲームアカデミー」に掲載されていたので紹介しよう。
※こちらはオロチ所有ファミコン通信
当時のカプコン担当者の見解によると、たとえば縦スクロールの場合、進行方向が↓だと自分の出した弾が自分に向かってくるのは感覚的におかしいため、自機は下に位置し↑に向かって進むほうがしっくりくるという。
自分が実際に戦闘機に乗り込んだイメージをするとわかりやすい。そのとき進行方向は当然↑である。また、弾は相手のほうへ飛んでいくであろう。この位置関係は、言い換えると「自機と操作レバーは近いほうがいい」ということになる。そのほうが距離的一体感が生まれ、自機に乗り込んでいるイメージがより膨らむのではないだろうか。
したがって横スクロールの場合、進行方向が→のゲームが多いのは、こっちのほうが操作レバーと自機の距離が近いからと言える。
また「レバーとボタン」、「自機と弾」の位置関係に目を向けると、自機が→へ向いているほうが位置的整合性が取れているため、直感的にも操作がしやすいのである。
人間の手は構造的に内向きの動きのほうが得意であり、逆に外向きの動きは苦手なつくりになっている。したがって、左にレバーがある場合は→へ傾ける方が身体的な負担が少ないのだ。
※イメージ図
これと同じことが格闘ゲーム『スト2』にのコマンド入力にも言える。たとえば2Pのほうが昇竜拳が出しにくい理由は1Pのコマンド「→↓↘」が、体の内向きの動きであるのに対して、2Pのコマンド「←↓↙」が体の外向きの動きだからである。
※イメージ図
経験者ならサッカーで考えるとわかりやすい。サッカーの場合、インサイドキックよりアウトサイドキックのほうが圧倒的に難しい。それは体の外向きの動きだからである。(だからこそ決まればかっこいいのだ)
体の構造的な要因もあるが、人はほとんどの情報を視覚から得ていると言われている。外向きの動きは視界から遠ざかるイメージがあるため、精神的にも難しいと思ってしまうのかもしれない。
<スーパーマリオの左右論シリーズ>
(1) インターフェイス由来説
(2) 言語・科学的プローチ
(3)
・小学1年生の息子に「ボンバーマン」で負けました 小学1年生の息子に「ボンバーマン」で負けた夜、ファミコンバカ親父がつづった息子への手紙。 |
・なぜスマホゲームは「時間の無駄」なのか? スマホゲームとその他の趣味・娯楽の圧倒的違いとは何か。オロチ独自の視点から分析した記事。 |
・“懐かしい”という感情の正体について 再考 おそらく人間だけが持っているだろう“懐かしい”という感情の正体に迫る。完結編。 |
・かわいい子にはレトロゲームをさせたほうがいい理由 その5 かわレトシリーズ第5弾。ファミコンのメインターゲットはそもそも小学生だったという話。過去エントリー1~4もお勧めです! |
日本は、英語の影響で左から右に書きかますがそれ影響で物を見るとき左から順番に見てしまうので自販機に売りたい商品を左上に寄せたら売れてしまったという実験結果もあります。 つまり右からスタートすると見る方向が遠くなり難易度が上がるので無意識に見始める左スタートを自然と選んでしまったというのが僕的な説です。